朝鮮核問題(李敦球文章)

2015.10.01.

 9月29日付の中国青年報は、李敦球署名文章「朝鮮核問題の新動向に触発された新思考」を掲載しました。この文章は、朝鮮が朝鮮労働党成立70周年に際して人工衛星を打ち上げる計画があることに関して、韓米などが安保理決議違反の弾道ミサイル発射に当たるとして、朝鮮が打ち上げれば更に厳しい制裁措置を発動する構えを見せていることに対して、朝鮮の核ミサイル問題の原因・発端は米韓にあることを史実に基づいて明らかにするとともに、今回の事態がどういう結末をもたらすかについて3つの可能性を指摘し、そのいずれもが米韓にとって望ましくないものであるからして、6者協議という対話の途によって解決を図るほかないと論じています。
また、中国の対応に関しては、9月20日付のコラムで紹介した環球時報社説の「韓米日の対朝鮮政策は極めて単純で、一つの方向に向かってまっしぐらということだ。朝鮮の核に関する態度もまた非常に単純にして明確であり、融通を利かせる余地は極めて小さい。したがって、いちばん難しいのは中国だ。中国は、一方では朝鮮の核保有に反対しつつ、もう一方では各国が交渉に臨み、朝鮮核問題が ソフト・ランディングするように力を尽くしている」というくだりを引用しつつ、「この分析はまことに然りだ。そのとおり、中国は極めて難しい立場であり、したがって新しい考え方が必要だ」と指摘しています。「新しい考え方」の中身は何であるかが正に問題であり、李敦球にはそこまで突っ込んで論じてもらいたいのですが、その点に関しては今後の彼の文章に期待したいところです。
文章の大要を紹介します。

朝鮮半島は新たな核危機及びミサイル危機が引き起こされるのであろうか。朝鮮は寧辺の核施設が全面的に元の状態になったと宣言し、新しい衛星を打ち上げることをほのめかしており、米韓はあらゆる偵察能力を動員して朝鮮の動きを探っている。今のところ、アメリカをはじめとする国際社会は、朝鮮核問題について新しい解決の考え方を出しておらず、朝鮮が新たな核実験または衛星打ち上げを行えば、核実験と制裁という悪循環に陥ることは必至の成り行きだ。
<朝鮮核問題とは一体如何なる問題なのか>
朝鮮核問題自体、一体如何なる問題であるのか。換言すれば、朝鮮核問題はいかなる背景で形成され、生まれたかについて、多くの人は関心を寄せないし、米日韓などの国々はことさらに極力回避しており、米日韓などの西側メディアはもっぱら朝鮮が核問題にどのような新しい動きを示すかだに関心が集中し、しかも朝鮮を悪魔扱いして、核不拡散などの高邁な理由をつけて朝鮮に対して経済制裁と政治的孤立を加えている。
朝鮮半島が非核化を実現すべきは当然だが、半島の非核化という目標を追求すると同時に、朝鮮核問題を単純化することがあってはならず、ましてや乱暴に対処することがあってはなおさらいけない。米日韓などが誠意をもって朝鮮核問題を解決しようとするのであれば、朝鮮の合理的な安全保障上の要求を直視し、問題形成の原因を直視し、それに見合った責任を負うべきである。そうしないと、朝鮮核問題が解決しえないだけではなく、半島及び地域の情勢に危機と挑戦をもたらす可能性がある。
朝鮮核問題の本質的原因は冷戦によってつくり出されたものである。即ち、冷戦期にアメリカが韓国に1000以上の戦術核兵器を配備したことに原因がある。特に、1975年にアメリカのシュレジンジャー国防長官(当時)は、メディアのインタビューに答えて以上の事実を公然と認め、はじめて朝鮮に対して核恫喝を行った。1989年11月には、朝鮮が提起した朝鮮半島非核化の提案をアメリカは拒否し、朝鮮は米韓の核恫喝に見舞われた。ある研究によれば、朝鮮の核武装開発計画はこの時期に形成された。朝鮮当局は、その核計画が「核を以て核にお返しする」ものだと称しているし、朝鮮の核保有はアメリカの朝鮮敵視政策の産物だとも述べている。換言すれば、それは、アメリカの極端な朝鮮敵視政策及び核恫喝に対する自衛措置なのだ。
以上から分かるように、冷戦期に朝鮮が核兵器を開発した目的は、非常に受け身的な情勢のもとで、南側による軍事的威嚇、なかんずく核の威嚇に対処することであり、その性格は強いられた対応であって挑発ではない。対応とは自衛的性格のものであり、挑発というのは攻撃的なものであって、両者の間には本質的な違いがある。しかし、米日韓などの西側メディアは強大な世論という手段を利用して朝鮮を挑発者と描き出し、真相が分からない人々をだまし込んでいるのだ。
<朝鮮核問題がもたらす可能性のある3つの結末>
アメリカの対朝鮮政策を総合的に見ると、アメリカは朝鮮核問題について急いでおらず、問題解決の誠意もないことが見て取れる。現在のゲームが不断に悪循環していくことをそのまま放置すれば、矛盾が蓄積してある段階で爆発し、その結果として以下の3種類の結末が出現する可能性がある。
一つは、アメリカがいわゆる「戦略的忍耐」つまり引き延ばし戦術により、不断に朝鮮に対する経済制裁の度合いを強め、政治的に朝鮮をますます孤立に追い込むことにより、「ゆで蛙」状態にさせ、朝鮮が崩壊することを見届けたいというものだ。しかし、長期にわたる経済制裁のもとでも、朝鮮の自力更生能力は高まっている。韓国メディアの報道によれば、金正恩が政権に就いてから、朝鮮経済は毎年小幅な成長を遂げており、朝鮮各都市の建設及びインフラ整備も速まっているのであって、アメリカが望むような結果にはなり得ない。
二つ目の可能性は、軍事演習、核実験、制裁、対決という悪循環の中で、軍事衝突から戦争が爆発することだ。この可能性もないではないが、その確率は非常に低い。なぜならば、戦争で誰が最終的に勝つとしても、双方が支払う戦争の代償は巨大であり、そのような結果はとても耐えられるものではなく、したがって戦争回避は双方が自覚しているところだからだ。
三つ目の可能性は、アメリカの「戦略的忍耐」のもとで朝鮮が時間稼ぎをし、核ミサイル技術で不断にブレークスルーと向上を遂げ、相当な軍事的実力を備える国家になるということだ。現在の時点で見ると、この可能性は前二つの可能性より大きい。
以上の3つの状況が起こらないようにするためには、米朝双方が実務的な態度で交渉のテーブルに座り、客観的かつ公正に双方の関心ある問題を解決するために交渉するべきであり、したがって、6者協議を復活する必要がある。王毅外交部長が言ったように、「朝鮮が長年にわたって直面してきた巨大な軍事圧力を重視し、朝鮮の合理的な安全保障上の関心を適切に解決する必要がある」のだ。朝鮮の合理的な安全保障上の関心と要求を直視できるのであれば、朝鮮の核放棄は必ずしも不可能ではない。朝鮮の根本的な要求とは、朝鮮停戦メカニズムを恒久的な平和メカニズムに変え、70年の長きに及ぶ朝鮮半島の冷戦構造を終結させ、朝鮮を冷戦の呪縛から徹底的に解き放つことである。そうなれば、半島及び東北アジアの平和と安定に根本的な転機が訪れ、中国の戦略的な利益にとっても非常に利益となる。この問題の解決のカギはアメリカが握っており、今後の方向性はアメリカの意思如何に大きくかかっている。
9月16日付の環球時報社説は、「韓米日の対朝鮮政策は極めて単純で、一つの方向に向かってまっしぐらということだ。朝鮮の核に関する態度もまた非常に単純にして明確であり、融通を利かせる余地は極めて小さい。したがって、いちばん難しいのは中国だ。中国は、一方では朝鮮の核保有に反対しつつ、もう一方では各国が交渉に臨み、朝鮮核問題が ソフト・ランディングするように力を尽くしている」と述べているが、この分析はまことに然りだ。そのとおり、中国は極めて難しい立場であり、したがって新しい考え方が必要だ。