安保法制と朝鮮半島有事

2015.09.22.

安保法制という国内法上の受け皿を基にした日米軍事同盟は、今やNATO並みの軍事力行使を行うことが可能になってしまいました。アメリカが行おうとするあらゆる武力行使に際して、日米同盟に基づいて日本がかり出されるための「法的基盤」を提供するのが安保法制(戦争法)です。防衛省は早速「駆けつけ支援」について着手したと報道されていますが、「朝鮮半島有事」についても動きが始まっています。
「朝鮮半島有事」に関しては、10月10日の朝鮮労働党成立70周年に際して、朝鮮が人工衛星を打ち上げるとなれば、過去の事例に徴しても、米韓日が再びきな臭さをもり立てることは目に見えています。以下で紹介する韓米日防衛三者協議も当然そういうことも念頭においた動きでしょう。
安保法制及び集団的自衛権行使が一人歩きすることを絶対に許さない私たちの決意を再確認するために、アメリカ主導の米韓日軍事関係の危険な動きを紹介しておきます。

1.朝鮮半島有事に対する日本の軍事介入:韓国国防相発言

安保法制(戦争法)の本質については、「多くの規定は、日本自身が攻撃を受けない状況のもとでも、戦争に介入できるものとなっており、大幅に自衛の範囲を超えており、戦争発動の敷居を低くしている。日本は、第二次大戦当時と同じく、東アジアにおける戦争震源地になり、アジアの平和と安定に対する新たな脅威となる可能性がある」(9月21日付環球時報所掲記事における中国海軍軍事学術研究所の張軍社研究員発言)という的確な指摘が行われています。そういう可能性の一つが朝鮮半島有事であり、韓国の関心も当然に極めて高いものがあります。
  9月21日付中新網は、韓国メディアの報道に基づき、韓国の韓民求国防相が同日、朝鮮半島情勢が突然に変化し、作戦指揮権を握っているアメリカが日本に対して朝鮮半島の派兵による支援を要請した場合には、韓国はこれを拒絶することができると発言したと伝えました。韓民求は、韓国及びアメリカの大統領が命令を出した場合においてのみ、駐韓米軍司令官は戦時作戦指揮権を行使できるのであり、したがって、韓国大統領の同意がない状況のもとでは日本の自衛隊が朝鮮半島に進出することはできないと指摘しました。韓民求はさらに、韓国の立場は明確であり、集団的自衛権行使などの朝鮮半島の安全保障にかかわるすべての問題について韓国の同意を得なければならないとも述べたそうです。

2.ウィキリークス文書が示唆すること

 しかし、果たして韓国のこの立場がアメリカの了承を得たものであるのかどうかについては大きな疑問があります。
韓国政府消息筋は同じ9月21日、韓米日が10月に「韓米日防衛三者協議」(Defense Trilateral Talks, DTT)を開催し、日本の国会が成立させた安保法制及び今後の措置について協議を行う予定であると述べました。
  私が韓民求国防相の上記発言を額面どおりに受けとめられないのは、最近読んだ"THE WIKILEAKS FILES"の第14章(東アジア)で、米国務省の極秘電が、米韓日軍事関係の実態(アメリカは日本が朝鮮半島有事に積極的に加担することを要求しており、また、李明博及び朴槿恵両政権下の韓国はアメリカとの緊密な軍事関係を維持することに腐心してきたという事実)を明らかにしているからです。
  即ち、「オバマ政権は就任直後から、韓国及び日本の好戦的右翼を支持するためにできる限りのことを行ってきたし、日韓が従属的同盟国としての役割から逸脱しないことを確保するために強力な経済的政治的手段を行使してきた。もっとも重要なことは、オバマ政権は、ペンタゴンが長年にわたって温めてきた目標(即ち、日本が軍事的役割を強化し、韓国との更に緊密な戦略的結びつきを確立し、その上で中国と対抗する三国間同盟を作りあげる)を実現する上で邪魔になるいかなる障害をも除去しようとしてきた」(p.401)のです。
  そして、2009年4月に駐日米大使館が送った極秘電は、「韓国国内には防衛問題で日本と協力することを支持するものは皆無であったにもかかわらず、アメリカ政府の強い圧力により、2008年11月にワシントンで韓米日防衛三者協議(DTT)が開催されたこと」、つまり、「韓国では日本との軍事協力に対する拒否反応が明らかであったにもかかわらず、三国間の軍事的結びつきを深めることはアメリカの絶対的な要求だった」(p.407)ということを明らかにしているのです。
  この経緯を踏まえれば、10月に開催されるDTTも、アメリカ政府の強い働きかけに韓国政府が渋々応じたものであることが容易に想像つきます。また、韓民求国防相の発言は、あくまでも公式論・建前論を述べたに過ぎず、10月のDTTの本質は、安保法制成立を受けた今後の米日韓軍事協力の進め方を突っ込んで議論する場となることも容易に理解されます。