安保法制(中国側論評)

2015.09.14.

 9月13日付新華社WSは、包爾文記者署名記事「「安保法案」:百年に一度の悪法」を掲載しています。短い文章ですが、この法案の本質を正確に捉えていますので、その内容を紹介します。

  参議院は来る18日前後に「安保法案」について表決を行うだろう。政権を握っている自公両党が衆参両院を握っているので、民主党の枝野幹事長が「百年に一度の悪法」と称したこの法案が通過する確率は極めて高い。
  「安保法案」が一旦通過してしまうと、日本自身及びアジア地域には実に厄災がもたらされるだろう。正にそうであるが故に、この法案をめぐり、日本ではまれに見る規模の抗議、デモさらには断食行動が爆発したのだ。世論調査では、この法案に対して大多数の国民が反対意見を表明しており、ほとんどの野党が全力で法案成立阻止に動いている。
  国会が「安保法案」を強行成立させた場合、いかなる結果が引き起こされるのだろうか。
  最初に、大部分の国民及びほとんどの野党が反対している状況のもとで「安保法案」を強行成立させれば、日本政治に深刻な傷が刻まれるだろう。なぜならば、本来国民の意思を反映するべき国会が民意に背くということは、日本の政治が今や安倍を筆頭とする右翼勢力によって支配され、民衆の政治的権利は奪われたということを意味するからだ。
  次に、「安保法案」は日本の今後の進む方向を根本から変えるだろう。安保法案は、平和憲法の前文及び第9条の平和主義及び武力不行使という内容に違反しており、事実上、平和憲法を「空っぽ」にする。ということは即ち、平和憲法は名存実亡となるということだ。日本がそれでも戦後の平和主義の道を歩むことができるか否かは今や重大な政治問題となっている。
  第三に、「安保法案」によって、日本は海外で軍事力を行使する衝動に駆られるだろう。この法案は集団的自衛権を解禁して合法化するものであり、専守防衛を主とした戦後日本の安保政策に重大な変化を招き、明確な「先制攻撃」という特徴を持っているので、戦後国際秩序に対して衝撃を与え、また、これを踏みにじるものであり、アジアのこれからの安全に対しても潜在的な脅威をもたらすだろう。
  第四に、「安保法案」は日本国民の生命に対しても予期せぬ災害をもたらす可能性がある。「安保法案」は日米新ガイドラインをエスコートすることになっている。新ガイドラインは、日米軍事協力を空間、時間、領域及びメカニズムにおいてシームレスに結び合わせることを実現している。問題は、日本が今後、イラク戦争のようなアメリカが発動する不正義の戦争に参与するならば、日本が不必要な流血さらには軍事的報復を蒙る可能性は極めて高くなるだろうということだ。
  「安保法案」がかくも多くの悪い結果を生みだす可能性があるというのに、安倍及び彼が指導する右翼勢力は何故に全力でその成立を推進するのか。安倍にとっては、「安保法案」は個人的な政治的宿願の実現であり、もっとも象徴的な個人的な政治遺産となる可能性があるということだ。日本の右翼勢力全体からすれば、日本が国際地縁政治に関与し、大国主義の野心を実現する最良の手段だということだ。

 なお、同日付の新華社WSは、安倍晋三が自民党総裁の再選された背後事情を分析する謝琳記者署名の記事も載せていますが、その内容は私の見方とほぼ等しいので、さわりの部分を紹介しておきます。

  安倍再任という結果は、自民党内部が結束しているということを意味するものではなく、各派閥が緻密にそろばんをはじいた後の産物だということを意味している。
  今のところ、安倍は党内でなお一定の声望があり、他の派閥の連中が無謀に挑戦しても勝ち目があるわけではなく、党内における政治的立場にも影響し、政治的資産を傷つけ、消耗してしまうだろう。
  タイミングから言えば、安倍は全力で安保法案を推進しており、それが成功するか否かによって執政党である自民党の国会及び政界での立場に影響が生まれるだろう。したがって、自民党の各派閥としては、全体の情勢を考慮し、今のところは現状維持を選択した可能性がある。
  更に重要なポイントは、安保法制を推進している自民党は現在行きがかり上引くに引けない状況に陥っているということがある。安保法案を通過させたい右翼勢力を含めた各派閥にとって、今の時点で安保法案という「厄介物」を引き受けて人々の怨嗟の対象になり、政治的お荷物を背負うことは望んでいない。
  現在、安保法案に関する世論の攻撃は安倍個人に集中しており、「悪人」という帽子は彼に固く掛かっており、将来仮に日本人が安保法に基づいて海外で軍事行動に参加して落命すれば、その責任はすべて安倍が負うことになり、他の派閥の責任は問われない。こういう損得勘定は各派閥にとっては明々白々なことだ。