中東難民問題の根本原因

2015.09.13.

 中東諸国からの大量の難民をどのように処遇するかという問題は、欧米諸国にとってもっとも深刻な課題となっています。現実に難民化した人々が尊厳ある生活を過ごせるようにすることは待ったなしの緊急課題です。しかし、シリア、リビア、アフガニスタン、イラクなどにおける内戦、政情不安が続く限り、今後も更に多くの人々が難民化を余儀なくされることは目に見えています。そして、これらの国々が内戦、政情不安に陥った原因は、アメリカを先頭とする米欧諸国が、対テロ作戦(アフガニスタン及びイラクの場合)、あるいは「アラブの春」をきっかけとした「民主化」への動きを助長するとして起こした軍事干渉(リビアの場合)や反政府勢力に対するテコ入れ(シリアの場合)にあることは明らかです。
  中東難民問題の発生は、米欧諸国による「民主化」の押し付けがまったく成果を挙げないのみならず、逆に中東諸国の政情不安を生みだす結果に終わっていることを示しています。私がしばしば指摘するように、デモクラシーは普遍的価値である。しかし、デモクラシーは国毎の多様な顔をもつのです。それぞれの国情に合致したデモクラシーのありようは、れぞれの国家の人民自身によって試行錯誤を繰り返す中で成熟させる以外にないのです。
  したがって、中東難民問題を根本的に解決するためには、アメリカ主導の米欧諸国特にNATOの軍事介入政策の誤りを米欧諸国に徹底的に認識させ、この政策を清算させることが不可欠です。ところが、この明々白々な点が米欧諸国においては、一部のメディアを除き、ことさらに回避されている状況があります。この事態が続く限り、中東難民問題の根本的解決はあり得ないと言わなければなりません。
  そして、この問題は、私たち日本人にとっても決して「対岸の火事」ではないのです。と言いますのは、私がこのコラムでしばしば指摘してきたように、安倍政権が強行しようとしている安保法制すなわち戦争法は、日米軍事同盟をNATO並みに機能することを可能にすることを目指すものだからです。中東難民問題から教訓を学ぶことを極力回避するアメリカは、今後も世界各地で軍事介入をしようとするでしょうし、戦争法成立後の日本は、アメリカからNATO並みの働きを要求されることは目に見えているのです。
  日本国内における戦争法反対の運動の高まりに、私は力づけられています。しかし、この反対運動がともすれば、「日本が戦争に巻き込まれる」ことに反対するという次元に認識レベルが留まっていることに対しては、正直言って不満があります。私たちはより深く問題の所在を見つめることが必要だと思うのです。その問題とは、アメリカの軍事力行使に偏る対外政策は世界の平和と安定をもたらさないどころか、正に世界を更に不安定化する元凶となっているということです。そして、安倍政治が強行しようとしているのは、日本をアメリカの片割れ、もっと言えば傭兵化し、世界のさらなる不安定化に加担させることだということなのです。そこに戦争法の問題の国際的な本質があるのです。
私は、中東難民問題が客観的に提起している問題の所在を認識するまでに、現在の国内の反対運動における認識のレベルが高まらないと、結局、運動は「戦争法反対」だけの一過性のものに終わってしまう危険があると感じています。戦争法反対の意識から出発して、更に日本政治及び国際政治の本質的問題にまで認識を高める時、はじめて「安倍政治を許さない」から「アメリカベッタリの日本政治を許さない」へと歩を進めることが可能になると思うのです。
米欧諸国では中東難民問題を作り出した元凶が自分自身であるという本質を直視することが回避されると言いました。しかし、米欧諸国以外ではこの明々白々な本質を率直に指摘する声が上がっています。私が毎日チェックしているWSに限定しても、プーチン大統領、中国メディア、イラン放送はすべて米欧諸国特にアメリカの責任を厳しく批判しています。以下では、私の目にとまったいくつかを紹介しておきます。

<プーチン大統領>
9月4日に記者の質問に答える形で、プーチンは次のように発言しています。

(質問)過去数日間で、欧州における難民危機は危機的状況に達している。状況は非常に緊張している。この状況に対する評価如何。何故このようなことが起こっていると考えるか。次の段階では何が起こると思うか。
(回答)私は、これは完全に予想された危機であると確信している。西側諸国が誤った対外政策を続けるならば、大規模な問題に陥るだろうと数年前に言ったことがある。その政策とは何か。即ち、中東地域の歴史、宗教、文化あるいは国民性を考慮せずに自らのスタンダードを押しつけることである。この政策は主にアメリカによって行われ、欧州は、いわゆる同盟としての誓約を守るとして、アメリカの指導に従ってきた。その結果がこれなのだ。

<中国専門家>
中国メディアでは、中東難民問題の根本原因がアメリカの政策にあると指摘するものは少なくありません。9月7日付環球時報社説「米欧はカラー革命を引き起こした以上後始末に責任を負うべし」、同日付人民日報WS所掲の田文林(中国現代国際関係研究院副研究員)署名文章「米欧は難民ウェーブの根源について反省すべし」、9月8日付新華社WS所掲の紀時平記者評論「欧州難民危機 西側は歴史的責任を免れることはできない」、同日付環球時報WS所掲の労木署名文章「欧州難民危機 問題の主犯者はアメリカ」などがあります。以下では労木署名文章の要旨を紹介します。

最近欧州を襲っている難民ウェーブは完全に人災であり、アメリカを頭とする西側諸国が一手に引き起こしたものだ。このことによって引き起こされた人道的危機は格別に人々の注目を集めており、見るものをして悲憤慷慨させずにはおかない。
今回の難民ウェーブは戦乱総合後遺症とも名付けるべく、いくつかの要因が複合した結果である。10年前にアメリカがイラク、続いてリビアに侵攻して生まれた混乱した情勢がその後引き続き発酵し、数年前に中東北アフリカで横行したカラー革命の後遺症が次々と現れ、更にシリア内戦、機に乗じたイスラム国のかき乱しがあった。そのため、今回の難民ウェーブには、人数が多く、勢いがすさまじく、解決が難しいという特徴がある。
国連難民高等弁務官事務所が6月18日に発表した報告では、現在の地球上の難民数は6000万人に近づいており、第二次大戦後の最高を記録しており、シリア、イラク、リビア等諸国の大量の難民により、中東地域に難民が集中している。シリアを例に取れば、すでにアフガニスタンに代わって難民の最大輸出国になっており、その数はすでに1160万人、去年だけでも390万人の難民が世界107ヵ国に流れている。戦乱が止まなければ、この数字は更に上方修正されるだろう。レバノンは、面積が1万平方キロの小国であり、人口わずか460万人であるが、人口の3人中1人が難民である。また、トルコはシリア内戦以来すでに180万人のシリア難民を引き受けている。
難民が生まれた根本的原因及びこの悲劇について誰が責任を負うべきかについては、欧州の反省は浅くかつお座なりである。環球時報WSはこの問題に関して、「アメリカはこの難民危機に対して主要な責任を負うべきだと考えますか」という質問を行ったところ、96%のウェブ・ユーザーが「そう思う」と答えた。これこそが岡目八目ということであり、事柄の本質を突いている。
欧州が本気で反省するのであれば、以上の点が第一であるべきだ。欧州は、アメリカに対して大胆にこの点を指摘するとともに、今後は同じようなことをさせてはならず、また、難民を安住させることの責任も分担するようにさせるべきだ。
欧州は反省するに当たって、難民の悲劇の発生について欧州に責任がないかどうかを自問しなければならない。目をそむけることのできない事実は、アメリカが軽々に他国に対して武力行使するたび、欧州の大国はほとんど毎回程度の差はあれ参与し、派兵し、カネを出し、悪人を助けて悪事を働いてきた。難民が生まれる根本原因を除去しようとするのであれば、欧州諸国は、アメリカのこの種行動に対して、ひたすら付き従うということであってはならない。反対に、アメリカの盟友として、アメリカのこうした行動に対して忠告してやめさせ、チェックするべきである。