ASEAN外相会議と南シナ海をめぐる中国・ASEAN関係

2015.08.15.

1.中国のアプローチ

 8月4日から開催されたASEAN外相会議はでは、米日の援護射撃を受けてフィリピンが提起した南シナ海問題が大きな焦点とされました。5日に開催されたASEAN・中国外相会議で発言した中国の王毅外交部長は、中国とASEANとの協力関係を深化させるための10項目の提案を行って、中国とASEANとの関係を対立ではなく協力の方向に向けるよう努力するとともに、南シナ海の平和と安定を守るための3項目の提案も行い、南シナ海における対立を緩和・解消するための誠意を示しました。
  ちなみに、3項目の提案とは次のとおりです。

①  南シナ海域内諸国は、「南シナ海行動宣言」(DOC)を効果的かつ完全に実行に移し、「南シナ海行動規範」(COC)の協議を加速し、「海上におけるリスクを管理制御し予防する措置」を積極的に探究する。
②  域外諸国は、地域諸国の以上の努力を支持し、地域情勢の緊張及び複雑化をもたらす行動を取らないことを約束する。
③  各国は、国際法に基づき、南シナ海で享受している航行及び飛行の自由を行使し及び守ることを約束する。

 最初の提案のポイントは、海上におけるリスクの管理予防措置について中国が公式に提案したことであり、第二の提案ポイントは、域外諸国である米日に対して首を突っ込んで事を荒だてるなという警告であり、第三の提案ポイントは、国際法に基づく航行及び飛行の自由を擁護すると述べることにより、国連海洋法条約に加盟せず、航行及び飛行の自由の中身を勝手に解釈する(と中国が見なす)アメリカを牽制することにあることは明らかです。
  同時に王毅外交部長は、ASEAN外相会議及びASEAN地域フォーラム(ARF)においてフィリピン外相が中国の南シナ海における行動を攻撃し、岸田外相がフィリピンを支持するとともに、人工島礁は合法的権益を発生させることはできないと主張したことに対して、8月6日に即席で中国政府の立場を全面的に展開し、各国の理解と支持を求めました。その発言内容は、同日付の中国外交部WSによれば次のとおりです。南シナ海問題にかかわる中国の認識と基本政策をまとまった形で表明したものとしては恐らく初めてのものとして貴重ですので、紹介します。ちなみに、沖ノ鳥島という岩を後生大事に補強工事して排他的経済水域の主張を行っている日本に、中国の島礁埋め立て工事についてとやかく言われる筋合いはないとする反駁は、日本政府にとっては極めて痛い指摘だと思います。

  まず、南海(南シナ海)情勢は総じて安定しており、重大な衝突が発生する可能性は存在しない。したがって、中国としては、違いを誇張し、対立をはやし立て、緊張を作り出す非建設的な言動に反対する。こういうことは現実の状況とまったくそぐわない。
  中国は、南海の航行の自由に等しく関心を持っている。中国の大部分の貨物の輸送は南海経由であり、南海の航行の自由は中国にとっても等しく非常に重要である。中国は一貫して、各国が国際法に基づき南海において航行及び飛行の自由を享受することを主張してきた。今日に至るまで、南海の航行の自由が影響を受ける状況は一度も起こっていない。中国は、各国とともに、南海の航行及び飛行の自由を引き続き擁護することを願っている。
  南沙島礁紛争に関しては、これは古くからの問題である。南海諸島は中国の領土だ。中国が南海諸島を発見し、命名したのはすでに2000年の歴史がある。本年は第二次大戦勝利70周年だ。70年前、中国は、カイロ宣言及びポツダム宣言に基づき、日本によって不法に侵略占領された南沙及び西沙諸島を法的に回収し、主権行使を回復した。当時の回収に使用した軍艦はアメリカが提供したものである。この歴史的事実については、あなた方各国の文献に記載があるはずだ。1970年代に至り、南海に石油の埋蔵があると報道され、いくつかの国々が陸続として島礁への侵入占領を開始し、中国の合法的権利が侵害されるに至った。国際法に基づき、中国は自らの主権及び権益を守る権利があり、中国の合法的権益を蚕食する不法行為がさらに出現することを許さない権利がある。
  フィリピン代表は南海問題を提起したが、真相を語ってはいない。例えば、フィリピンは黃岩島及び南沙の関係島礁がフィリピンに属すると言い張っている。しかし事実はといえば、フィリピンの領土の範囲を確定した1898年のパリ条約、1900年のワシントン条約、1930年の英米条約により、フィリピンの領土の西限は東経118度である。黃岩島及び南沙諸島は東経118度以西にあり、フィリピンの領土ではない。ところが1970年代以後、フィリピンは4度にわたる軍事行動により、中国の南沙諸島の8島礁に不法に侵入し、占領した。以上が中比領土紛争の真の起源である。
  さらに例えば、中国の南沙諸島の一部である仁愛礁に関しては、フィリピンは1999年に1艘の古い軍艦を不法に「座礁」させた。中国が抗議すると、フィリピンは「部品がない」のでしばらく動かせないと答えた。その後フィリピンは、フィリピンは南シナ海行動宣言に違反する最初の国家にはならないとまで中国側に述べた。しかし15年が過ぎ、この軍艦はさびまみれになったが、フィリピンは運び出すという約束を履行しないばかりか、セメントその他の建築資材を持ちこみ、強化する工事を行ったと公然と言う始末だ。フィリピン外交部は3月14日、当時「座礁」させた目的は仁愛礁を占領するためだったと宣言した。フィリピンは自ら15年にわたってウソをでっちあげたことを明らかにし、自分が行った約束を違えており、一体どこに国際信義があるというのか。
  たった今、日本代表も南海問題に言及し、人工島礁は合法的な権利を生みださないと述べ立てた。しかし、まず日本が何をしたかを見てみよう。ここ数年、日本は100億円をかけて鉄筋コンクリートで海上の猫の額ほどのちっぽけな土地である沖ノ鳥島を人工島に作りあげ、それに依拠して国連に対して200カイリの排他的経済水域の要求を提出した。国連の多くの国々は日本の主張は理解できないとし、日本の主張を受け入れていない。日本は他国を批判する前に、まずは自らの言動をよくよく検討するが良かろう。中国は日本とは違う。南海の権利に関する中国の主張はつとに存在するものであり、海を埋め立てて陸地を作ることによって言い分を補強する必要はない。
  実際のところ、中国は南海問題の被害者だが、南海の平和と安定を守るために最大限の自制を保ってきた。中国の基本的主張は、歴史的事実を尊重する基礎の上で、国連海洋法条約を含む国際法に基づき、協議と交渉を通じて平和的に紛争を解決するというものだ。この立場は今後も変わることはあり得ない。中国とASEAN諸国は、友好的な協議を通じて、南海問題を適切に処理することについてまとまったメカニズムをすでに作りあげている。 一つは「ダブル・トラック思考」で南海問題を処理するということだ。即ち、具体的な紛争は直接当事国が交渉と協議を通じて平和的に解決するということであり、それは南シナ海行動宣言第4条の規定でもあり、中国とASEAN10ヵ国はすでにこのことを約束している。また、南海の平和と安定に関しては中国とASEAN諸国が共同で守るということだ。私が各位に言いたいのは、中国とASEANはこの海域の平和を守る完全な能力を持っているということだ。
もう一つは宣言を実行に移し及び規範を協議することだ。現在、宣言を実行に移すことは順調に進んでいる。規範に関する協議も進展があり、協議開始以来現在までの2年足らずにすでに2つの共通認識の文件を通し、今は「重要かつ複雑な問題」の協議に入っており、2つのホット・ライン・プラットホームの成立に同意し、間もなく稼働することになっている。
三つ目は、中国が提案している「海上におけるリスクを管理制御し予防する措置」制定の探究だ。この新しいプラットホームにおいては、各国が提出する提案や構想を討議することができ、共通認識が達成されれば実行に移すことができる。
提案と言えば、アメリカが最近提案した「3つのしない」があるが、中国としてはフィージビリティに欠けると考える。例えば、ストップする中身は何かについて各国の主張は必ずしも一致しておらいない。また、ストップする基準は何なのか。誰が具体的に制定するのか。これらの問題は実際上解決の仕様がない。中国は引き続き、各国が南海の平和と安定を維持することについて建設的な意見を提起することを歓迎するが、そういう提案はオペラブルであるべきであり、なかんずくダブル・スタンダードであってはならない。
(浅井注)アメリカの「3つのしない」提案とは、「海の埋め立てで土地造成・拠点建設をしない、相手側が2002年の南海行動宣言署名前に占領した島嶼を奪うことをしない、他国に対する一方的な行動をとることをしない」というもので、2014年9月8日付のコラムで紹介したことがあります。
関係国が関心を持っている南海における埋め立てと造成に関しては、今に始まったことではなく、中国が始めたものでもない。換言すれば、南海の「現状」はここ数年来一貫して変更されてきた。最近、中国は始めて南沙諸島の一部の軍が駐留する島礁で建設を行ったが、その目的は駐留にかかわる仕事及び生活条件を改善し、厳格な環境保全基準を執行するためである。6月末に干拓を完了したことを中国は宣言しており、今後は公益目的の施設を順次建設していくことになっている。それらの施設とは、総合的灯台、海上応急救援施設、気象観測ステーション、海洋科学研究センター、医療救急施設等である。これらの施設が完成した後は、中国は域内諸国に開放する考えだ。最大の南海沿岸国として、中国には域内諸国に対してこれらの公共施設を提供する能力と義務がある。 フィリピンは、東アジアサミット外相会議及びARF外相会議で2度にわたって南海仲裁案を提起し、それに基づいて中国を中傷した。私は、事実によって答えよう。まず、当事国が直接交渉及び協議を通じて紛争を解決することは国連憲章が示している指針であり、普遍的な国際的プラクティスである。さらに重要なことは、「南シナ海行動宣言」中にも明確な規定があるということだ。したがって、中国は一貫してフィリピンと二国間対話を行うことを提案しており、この提案は現在も有効である。ところが今日に至るまで、フィリピンは頑なにこれを拒んでおり、極めて異常なことである。
国際仲裁手続を起動させることに関して言えば、正常なやり方はまず当事国が合意を達成することだ。しかし、フィリピンは事前に中国に通知せず、中国の同意も求めずに、一方的に仲裁を提案した。中国としては、このようなやり方については理解しようがなく、フィリピンは他人に言えない目的を隠しているとしか考えられない。
フィリピンは、中国がすでに2006年に国連海洋法条約第298条に基づき、仲裁を受け入れないことに関する声明を発出しており、これは中国が法に基づいて行使した正当な権利であることを認識しているはずだ。フィリピンが、かかる状況のもとでは中国が如何なる仲裁結果も受け入れ不可能であることを明確に知った上でなお、宣言第4条を無視し、中国との間で達成した二国間で解決するという共通認識をも無視して、ひたすら所謂仲裁を進めようとするのは、一つの解釈しかあり得ない。つまり、中国と対抗するということだ。フィリピンのこのようなやり方で本当に問題を解決することができるだろうか。フィリピンの国家及び人民の根本的利益に合致するだろうか。私は、答はノーだと考える。
フィリピン人民は事柄の真相を知るべきであり、フィリピンの前途はごく少数の人間によって拉致されてはならない。中国は、フィリピンが先のない道を歩まないよう勧告する。中国は対話のゲートを相変わらず広く開けている。中国とフィリピンは引っ越しすることのできない隣人関係だ。あなた方に対しては、正しい軌道に戻ってくることをお薦めする。双方がテーブルについて真剣に話し合えば、問題を解決する方法は見つかるはずである。

2.南シナ海に関するASEAN外相会議共同声明

今回のASEAN外相会議の共同声明は、8月4日付のものが8月6日に発表されました。この声明では、「地域及び国際問題」という項目の中で「南シナ海」を独立小項目として取り上げ、次のように述べています。

150.我々は、南シナ海に関する問題を幅広く討議し、同地域における最近の進行中の展開に対して重大な関心を持っている。我々は、南シナ海における陸地造成について数人の外相から表明された重大な懸念に留意した。この陸地造成は、信用と確信を損ない、緊張を増大させたし、南シナ海の平和、安全及び安定を損なう可能性がある。
151.我々は、南シナ海における平和、安全、安定並びに航行及び飛行の自由の重要性を再確認した。我々は、すべての当事者が次のことを行う必要性を強調した。即ち、南シナ海行動宣言(DOC)を完全かつ効果的な実施を保障すること。相互の信用及び確信を築き、維持し及び高めること。紛争を複雑化させ、エスカレートさせる活動を自制すること。武力の威嚇又は行使に訴えないこと。紛争当事国は違い及び紛争を平和的手段で、かつ、国際法(国連海洋法条約を含む)の普遍的に承認された原則に従って解決すること。
152.我々は、相互の信用と確信を高め、また、地域の平和、安瀬の呼び安定を維持するためにふさわしい環境を醸成するため、合意されたアーリー・ハーヴェスト(早期実施)措置の効果的な実施を希望した。我々は、関係当局に対し、これらの目標のため、この問題に関する作業を継続し、他のイニシアティヴを探究することを命じた。
153.南シナ海行動規範(COC)に関する協議でなされた進展に留意しつつ、我々は、効果的なCOCを迅速に設定することの重要性を繰り返し述べた。その点に関し、DOC実施に関する第9回ASEAN・中国高級官僚会合(SOM)の最近の成果を歓迎した。その成果とは、協議の次の段階に進むこと、並びに枠組み、構造、諸要素及び提案されているCOCにかかわる重要、困難、複雑な問題を交渉することにSOMが合意したことである。したがって、我々は関係当局に対し、この問題についてフォロー・アップを行い、中国と緊密に協議することを命じた。
154.DOCの完全かつ効果的な実行に基づき、かつ、COCの設立に向けての作業が行われているもとで、我々は、関係国の間の信用と確信を高めるために、南シナ海における事態に対する予防的措置が取られるべきであることに合意した。
155.緊張を速やかに低めるための迅速な介入を要する緊急事態に対処するため、ASEANと中国とのハイ・レベルの意思疎通のホット・ラインを設置するというインドネシアの提案に留意した。
156.我々は、COCの進展にかかわる諸問題を幅広く議論した。フィリピンは、国連海洋法条約に関する問題を含む最近の展開について説明した。

3.ASAN外相会議に関する中国側評価

今回のASEAN外相会議についての中国国内の反応としては、8月7日付人民日報所掲の鐘声署名文章「宣伝は南海問題解決に資さない」、同日付人民日報海外版所掲の蘇暁暉(中国国際問題研究所国際戦略研究部副主任)署名文章「中国外交部長南海を語る 簡にして意は深い」、8月8日付人民日報海外版所掲の胡波(北京大学海洋戦略研究中心研究員)署名文章「中国 南海で抑制も報復も」、8月8日付中国網所掲の薜宝生(中国網時事評論員)署名文章「力強い反論 突出する正義」、8月11日付環球時報所掲の呉士存(中国南海研究員院長)署名文章「南海紛争は中国・ASEAN関係を拉致することはできない」などが主なものです。タイトルから容易に察しがつくと思いますが、今回の王毅外交部長の発言を高く評価し、中国とASEANとの関係に対する確信を再確認する内容のものです。
これらの論調と一線を画したのは、8月11日付の中国網所掲の暁岸署名文章「ASEAN外相会議 南海関連声明の発した複雑なシグナル」です。このコラムでもしばしば暁岸署名文章を紹介してきましたし、私がもっとも注目している人物でもあります。これまでの暁岸文章は、総じて言えば、中国政府の立場・政策・考え方に関する理解を深める上で示唆に富む見解を示すものというのが私の勝手な受け止めでした。しかし、今回の文章は、上記2.で紹介したASEAN外相会議共同声明の南シナ海問題部分を詳細に分析し、中国として今後の政策を考える上で熟考するべき内容があると指摘するものです。中国とASEANとの関係を考える上で重要なヒントを数多く与えていますので、大要を紹介します。

南海に関する共同声明の扱い方の大きさはまれに見るものだ。声明は、この問題について「幅広く討議した」とし、最近の情勢の発展に対して「重大な関心を持っている」と述べている。また、「この陸地造成は、信用と確信を損ない、緊張を増大させたし、南シナ海の平和、安全及び安定を損なう可能性がある」とも指摘している。今年の共同声明の南海に関する動きは、中国が今後南海問題に対処する上で注意し、熟慮するべきものがある。
まず、声明は明示的に誰が南海地域で造成行動を取ったかを述べているわけではないが、中国を指していることは誰の眼にも明らかだ。問題は、昨年末のASEAN首脳会議における共同声明と比較するとき、表現により強く焦燥感がにじみ出ており、「信用を損ない、緊張を増大させ、平和、安全及び安定を破壊した」という記述は外交的表現としては重いものがあり、彼らの見方からすると、南海情勢において元気づけられる好転が現れていないということを示している。ということは、信頼を増進し、疑いを解く上で、中国としてさらなる努力が必要だということだ。
次に、ASEAN側の南海問題に対する核心的な関心は、中国が南海で急速に圧倒的かつ総合的な優勢を強めており、中国の力によって南海で所謂「軍事化」が起こっているという問題である。そこから生まれるのは、小国及び小国の集団が大国の勢いの前になすすべがないという心理の働きであり、そのような状況は、中国・ASEAN関係の全体的あり方を変えてしまい、ASEANが中国とアメリカという両大国の間で保っている親疎分布にも影響を与える可能性がある。
2009年に南海問題が熱を帯びてからの累次にわたる中国とASEANのハイ・レベルの接触において、双方が互いの違いによって関係のあり方が左右されることを回避することができてきていたとすれば、今次外相会議を起点として、変化への流れが現れ始めた。つまり、外部の目がほぼ完全に南海問題及びその後の強国弱国関係、大国関係に移ってしまったということは、情勢がかなり深刻であることを物語っている。
ASEANの少数の国々の不信及び米日による強力な対抗と攪乱に対して、中国は多くの難題を克服するべくさらなる努力が必要だ。今回のASEAN外相会議は、物事が必ずしも中国の意思だけでは動かないこと、南海問題は中国とASEANとの間の難題中の難題であり、しかも中国は情勢がどのような方向に向かって進むかを決定することができるということについて中国に注意喚起している。
第三に、今回のASEAN外相会議の南海問題に関する共同声明のキー・ワードは「予防的措置」である。ASEANにおける最大国家であるインドネシアが提出したこの考え方は外相会議で正式に議論された。具体的な状況はまだ明らかになっていないが、ASEANが南海問題の発展と変化に対処するための実際的行動を強化する決心であることは明らかだ。
ASEANは長期にわたって一貫して「予防外交」のファンであり、小国の主体性により、重大な危険となりうることをASEANから遠ざけて安全を実現することに力を尽くしてきており、「大国間でバランスを取る術」はまさに予防外交と直接関連するものである。南海問題においては、「外交」という言葉が「措置」という言葉に置き換えられることとなり、その含意は大きく拡大し、無限の広がりを持つこととなった。
ということは即ち、南海問題が重大な衝突となることを防止するため、ASEANとして軍事、法執行を含む外交手段以外の如何なる措置をも取ることを準備しているということだ。然れば、以前賑やかに議論されていた南海連合巡航行動などの措置をASEANが真剣に考えることはあり得ないだろうか。中国としては真剣に観察する必要がある。
第四に、ASEANの共同声明が提起した「ホット・ライン」問題に関しては、王毅外交部長が2つのホット・ラインのプラットホームについて明確に紹介した。
外交分野における一般論としては、「ホット・ライン」は主に大国間で作られ、重大な問題について適時に意思疎通を行い、緊急に対応し、適切に解消し、誤った判断を防止することを目的としている。ASEANは、違いをコントロールし、矛盾を緩和する以外に、この措置を通じて中国とやりとりするステータスと効率を向上させ、中国に対する直接的影響力を高め、中国の南海における動きを牽制したいのだ。
「ホット・ライン」を設けるという提案は易しいし、原則に関する共通認識も達成しやすいが、それを実行に移すとなると、多くの具体的問題が派生してくる。例えば、元首、首相レベルで設けるのか、それとも外交・防衛・法執行部門の間で運用するのか。中国対ASEAN輪番主席国との間にするのか、1(中国)対10(ASEAN全構成国)という複雑なものにするのか。要すれば、「ホット・ライン」というのは、設計をうまく行えば中国・ASEAN関係における大きな進歩となるが、十分な考慮が払われないと、双方の負担及び厄介者になりうる。
第五、国連海洋法条約の関連規定に基づいて中国に対してさらに法理的な圧力を加えようとしている。共同声明はフィリピンがどのような具体的な内容を紹介したかは明らかにしていないが、国連海洋法条約の紛争解決メカニズムを新たに発展させたものであり、フィリピンがCOCを協議した際に利用しようとしたものであろうことは推測できる。中国からすると、島嶼紛争は慣習国際法の事項であり、国連海洋法条約は沿岸国が海洋管轄権を行使する際の唯一の法理的根拠ではなく、同条約が重視していない歴史的権利も援用できるし、国際法廷の裁決というような第三者による強制方式は南海問題には適用するべきではないということだ。しかし、フィリピン等は、国連海洋法条約という、小国の海洋権益を保護する傾向のある国際法上の武器を十分に利用して中国に対抗しようとしており、仮にCOC協議が多国間の法理闘争の場と化すならば、最終的着地ははるか彼方ということとなり、中国に対する圧力はますます強まることになるだろう。
以上をまとめれば、今回のASEAN外相会議共同声明の内容は空虚な、お決まり文句の官僚文章ではなく、真剣で実質的な立場を反映しており、中国が警戒し、重視する必要がある。中国は長期にわたり、貿易及び経済協力という手段を用いてASEANを自分に近づけることに成功してきたが、南海問題の複雑化、中米関係の緊張及びグローバルな産業配置のさらなる調整に伴い、この手段は過去ほどには有効ではなくなっており、ASEANの中国に対する恐怖感が現実政策においてさらに反映されるようになっている。
情勢の展開は楽観を許さない。中国が「ダブル・トラック政策」を実行に移し、南海情勢を安定化させ、ASEANとの互利協力関係を深める努力は弛めることができない。習近平政権就任以来の南海政策に対しては、段階的に整理し、総括して、その基礎の上に段階的な展望、調整及び改善を図り、さらに系統的で相互に関連した対応を行うように努め、せっかく獲得した積極的な海洋権益保持態勢を継続し、南海海上協力における実質的な突破を図るべきだ。しからざれば、中国・ASEAN関係全体の成果と蓄積及び「一帯一路」建設に対するマイナス的影響はますます明らかになっていくこととなるだろう。