「朝鮮の核」と「イランの核」との違いは何か(李敦球文章)

2015.08.01.

7月29日付の中国青年報は、「「朝鮮の核」と「イランの核」との違いは何か」と題する朝鮮問題専門家の李敦球の文章を掲載しました。アメリカと韓国は、イランの核合意成立後、朝鮮に対する外交圧力を強めようとしています。7月26日付の中国新聞蒙は、韓中日3国を訪問するアメリカ国務省の朝鮮問題担当シドニー・セイラー特使が、27日には韓国外交部の朝鮮半島平和交渉本部の黃浚局本部長及び朝鮮核外交企画団の金健団長と会見し、その後中国と日本を訪問することを報道しました(その後の報道をまとめると、セイラー特使は28日に中国を訪問しました。しかし、中国外交部WSは、セイラー特使訪中に関するなんの紹介もしていません。ちなみに後で紹介しますように、同じ日に中国駐在の朝鮮の池在龍大使が異例の記者会見を行い、朝鮮の核政策の不変性を強調しました。31日には、東京で米日韓の協議が行われています)。
この中国新聞網の記事で私が特に注目したのは、「黃浚局本部長が19日から24日にかけて上海と北京を訪問し、中国代表と朝鮮半島問題専門家と会見し、韓中両国が朝鮮核問題を解決するために意思疎通を強化することを提案した」というくだりでした。韓国外交部の担当局長が上海をわざわざ訪問して朝鮮半島問題専門家と会見したことを紹介する報道は、寡聞のせいかもしれませんが、私としては初見です。黃局長が李敦球と会ったとしても不思議ではありません。というより、中国青年報が李敦球の特設コラム「寰球東隅」を設け、李敦球にノビノビと自説を開陳させていることに対して、韓国が注意を払わないとしたら、むしろその方が異常でしょう。
その李敦球が、「朝鮮の核」問題と「イランの核」問題を同日に論じることはできないとする文章を29日付の中国青年報に載せたということは、彼が黃局長との会見を踏まえて書いたものと見るのが自然ですから、その韓国に対するメッセージ性は強烈なものがあると判断するべきでしょう。また、中国青年報がセイラー特使の訪中時にこの文章を掲載したということの対米メッセージ性も同様に強烈であると言うべきです。
以上を踏まえながら、李敦球文章を紹介しておきます。

イラン核交渉が合意を達成してから、国際世論の関心は朝鮮核問題に向かいつつある。イラン核交渉を見本として朝鮮核問題の出口を探そうとするものもいる。7月21日付朝鮮中央通信は、朝鮮外務省報道官が同日、アメリカがイラン核合意の成立と朝鮮とを関連づけたことを非難したことを報じた。最近、米韓の朝鮮核問題を担当する当局者の動きはめざましく、外交攻勢をかけているかのようだ。

(浅井注) 李敦球が言及している朝鮮外務省報道官の発言内容に関する朝鮮中央通信の報道は次のとおりです。
「朝鮮外務省のスポークスマンは米国がイラン核協議の妥結を共和国と結び付けていることに関連して21日、朝鮮中央通信社記者の質問に次のように答えた。
最近、イランの核問題に関連する合意が遂げられたことをきっかけに、米国がわれわれの核問題についてどうのこうのと言っている。
14日、米国務省の報道官は、「北朝鮮の核計画問題を討議し、核軍縮の具体的かつ本格的な段階に入るようにするなら」、そのような対話に臨む準備ができているとし、16日、米国務省の次官もイランの核合意が推進されてわれわれが考え直すようになることを願うなどと言った。
イランの核合意は、自主的な核活動の権利を認めてもらい、制裁を解除するための長期間の努力によってイランが収めた成果である。
しかし、われわれは実情が完全に異なる。
われわれは名実ともに核保有国であり、核保有国には核保有国としての利害関係がある。
われわれは一方的に先に核を凍結したり、放棄することを論じる対話には全く関心がない。
われわれの核抑止力は、半世紀以上持続している米国の核脅威と敵視政策から国の自主権と生存権を守るための必須の手段として、協議のテーブルの上にあげる駆け引き物ではない。
イランの核合意を、絶え間ない大規模の合同軍事演習をはじめとする米国の挑発的な軍事的敵対行為、最大の核脅威が恒常的に加えられているわが国の実情と比べようとすること自体が理に合わない。
米国の敵視政策が残っている限り、われわれの核武力の使命は絶対に変わらない。」
 ちなみに、朝鮮の核政策について述べると予告して、7月28日に中国駐在の朝鮮の池在龍大使が記者会見を行い(そのこと自体極めて稀なこと)、米日韓を含む大勢の北京駐在記者を前にして、次のように述べました(7月29日付環球時報)。
  「池在龍は次のように述べた。イランの核交渉の達成は、イランが自国の自主的な核活動の権利について国際社会の承認を獲得し、イランに対する制裁を解除させるための長期にわたる努力の結果であり、このことは朝鮮の事情とはまったく異なっており、朝鮮はイラン式の核交渉には興味はない。彼は、「朝鮮は名実共に核保有国である。我々はすでに核保有を憲法に明文で規定しており、しかも我々の核打撃手段はとっくの昔に小型化、多様化の段階に入っている」と述べた。池在龍は記者会見でくり返し次のように強調した。朝鮮半島の緊張した情勢はアメリカの対朝鮮敵視政策が作り出したものであり、「朝鮮の核抑止力は、半世紀以上にわたって続いてきたアメリカの核威嚇及び敵視政策に対抗し、国家の主権及び生存権を守るために欠くべからざる手段であって、交渉のテーブルで価格交渉する材料ではない。」
筆者の見るところ、問題が形成された原因が異なり、アメリカが朝鮮の核問題に付与している戦略目的も異なるのであるから、朝鮮核問題を解決する道筋及び見通しが同じであるとは言えない。
朝鮮半島の核問題の起源は、冷戦時代にアメリカが韓国に大量の戦術核兵器を配備したことに始まる。当時アメリカは、冷戦の戦略的必要から、韓国に大量の戦術核兵器を配備、貯蔵したが、その主なものは核地雷、核砲弾、地上発射戦術核兵器、空中発射戦術核兵器など総数1000以上に上った。それだけではなく、1975年にシュレジンジャー国防長官は、メディアのインタビューを受けた際、「我々が戦術核兵器を韓国に配備していることは公知の事実である」と公然と述べ、「戦術核兵器を使用することが必要な状況があれば、真剣にそのことを考慮する必要がある」と宣言した。これは、アメリカが朝鮮に対して核威嚇を発した最初のケースであった。1989年11月には、アメリカは朝鮮が提起した朝鮮半島非核地帯設置の提案を拒否した。以上のことは、朝鮮が核兵器開発戦略を育むことに対して巨大な影響を及ぼした。
朝鮮は一貫して、アメリカが韓国に米軍を駐留させ、朝鮮を標的にする大規模な合同軍事演習を行い、朝鮮に対して威嚇と脅迫を絶え間なく行い、不断に対朝鮮敵視政策を行っていることが、朝鮮をして核抑止力を含む軍事力を増強せざるを得なくしていると考えている。2014年10月16日、朝鮮の在中国大使館は環球網だけに「朝鮮人権報告」を明らかにした際、アメリカの極端な核威嚇が朝鮮をして「核を以て核に応える」対抗策の採用を余儀なくさせていると指摘した。
アメリカは自らの責任がどこにあるかを理解していないかのようであり、相変わらず朝鮮の核とイランの核とを区別して扱うことを堅持している。アメリカは、朝鮮が行動で非核化の誠意を示さない限り、朝鮮といかなる交渉も行う用意はないとしている。アメリカとしては、本気で朝鮮核問題を解決する気持ちはなく、朝鮮核問題を長期にわたって存続させることによって一つの標的を作り出し、アメリカが進めているアジア太平洋リバランス戦略を正当化しようとしているのかもしれない。
何故そう考えるのか。仮にアメリカが本気で朝鮮核問題を解決しようとするのであれば、朝鮮のまっとうな安全保障上の関心を解決し、朝鮮を冷戦メカニズムのくびきから脱却させなければならないが、その点に関しては、朝鮮は2点のもっとも基本的要求がある。第1点は現在の停戦協定を平和協定に変えることだ。第2点は朝米関係の正常化だ。アメリカが仮に朝鮮のこの2点の要求に応じるならば、それは朝鮮半島の冷戦メカニズムの崩壊を意味し、米韓同盟及び在韓米軍は存在の基礎と正当性を失うし、さらには米日同盟にも波及するのであって、以上のことは明らかにアメリカのアジア太平洋における戦略的利益に合致せず、ましてやリバランス戦略と相容れない。したがって、アメリカとしては朝鮮のこの2点の基本的要求を満足させることはできないだけではなく、対朝鮮強硬政策を引き続き堅持し、朝鮮を引き続き悪魔扱いするだろう。
韓米同盟は韓国にとっては諸刃の刃であり、朝鮮の「脅威」から韓国を「守る」とは言え、朝韓の和解及び統一への歩みに対する障害物でもある。韓国の見識のある人々はこのことをすでに認識しているようであり、近年、韓国国内の反米感情は不断に蓄積されているように見える。メディアの報道によると、韓国社会にはときおり反米の激越な言論や行動が発生しており、それには駐韓米大使に対する襲撃事件が含まれる。
韓国統一部の丁世鉉元長官は最近、対朝鮮政策のモデルを変え、韓朝関係改善から始める必要があると述べた。韓国全国経済人聯合会は、ソウルと平壌に経済団体連絡事務所を設置するなどの画期的な韓朝経済連合構想を提起し、同時に、朝鮮核問題は簡単には解決できず、韓国としてはこの問題ではダブル・トラック戦略を採用することが不可避であり、米中等の国際社会とともに朝鮮核問題解決のために努力すると同時に、経済の交流協力を通じて韓朝関係を改善しなければならないとしている。即ち、何も手を着けないでおくと、韓朝関係はさらに悪化するだけではなく、70年間の分裂によるわだかまりがさらに根深いものになっていくだろうということだ。
以上の分析は道理あるものであり、韓国の今や少なくない人々が、朝鮮核問題及び朝韓関係に関して、アメリカと韓国との利害は必ずしも一致していないということを認識するに至っていることを説明している。問題は、この認識を韓国政府の政策にまで高める上ではなお多くの変数が存在していることであり、それは長期にわたるプロセスである可能性があるし、同時にまた、アメリカ、韓国政府及び韓国社会の新しい力との間の長期にわたる駆け引きの過程でもあるだろう。
韓国統一部の洪容杓長官は7月14日に、イランの核合意が朝鮮核問題にもたらす影響という問題に関して、韓国は朝鮮の非核化を韓朝間の問題を解決する上での前提条件とはせず、半島の非核化が実現しないとしても、統一の基礎、民族的アイデンティティの認識を築くために韓朝間の交流と協力を拡大する必要があると述べた。韓国当局は以前にも似たような認識表明を度々しているが、朴槿恵大統領の任期がすでに半分を過ぎ、現在までに韓朝関係改善に関して実質的な成果を挙げていない以上、時間は朴槿恵政権の誠意をテストしている。
王毅外交部長は、イラン核合意達成後、いかなる国際紛争も交渉と対話を通じてのみ徹底的な解決が得られることを再び事実で証明したと述べた。筆者の見るところ、制裁と圧力では目的を達成することはできないということを事実が証明している。確かに、朝鮮半島非核化は速やかに実現すべきではあるが、この問題を作り出した原因及びアメリカが負うべき責任も正視するべきである。つまり、本気で朝鮮に核を放棄させるためには問題の根っこを解決する必要がある。即ち、アメリカは誠意を示し、朝鮮に対して脅迫、打撃を行わず、朝鮮に対する制裁を解除し、朝韓の民族的和解を促進し、前提条件なしに朝鮮と対話し、朝鮮が本当に安全保障の実感を得られるようにすることによって、はじめて朝鮮が核を放棄する可能性があるということだ。アメリカが以上のことをできるかどうか、あるいは現在のアジア太平洋戦略の目的を調整する用意があるか否かについては、時間によって検証させようではないか。