イラン核問題に関する正式合意(JCPOA)の成立

2015.07.23.

1.正式合意の成立及びその内容

7月14日、EUのモゲリーニ上級代表とイランのザリーフ外相は共同声明を発表し、イランの核問題に関して正式合意を達成したことを明らかにしました。その合意とは「合同包括行動計画」(Joint Comprehensive Plan of Action 略してJCPOA)であり、18頁の本文と核関連措置、制裁関連約束、民生用核協力、合同委員会及び実施計画に関する5の付属書とから構成されています。付属書の中身は専門的すぎて私には荷が重すぎますので、ここでは、JCPOA本文に基づいて合意内容を見ておきたいと思います。

<前文・一般規定>
JCPOAは、イランが一貫して主張してきたNPTに基づく核平和利用の全面的な権利をイランに対して認めました(前文・一般規定第3項)。同時に、イランは、いかなる状況のもとでも核兵器の開発・取得をしないという立場を再確認して、アメリカ等の要求に応えました(同第2項)。また、イランの要求どおり、イランの核計画に関連するすべての安保理制裁並びに多国間及び国毎の制裁も全面的に解除されることになりました(同第5項)。原子力エネルギーその他の平和利用に関するイランと6ヵ国との間の協力についても定めています(同第13項)。さらにまた、JCPOAを承認する安保理決議では従前の対イラン制裁規定の終了についても定めることが明記されています(同第14項)。
核兵器の開発・取得を禁止する規定が入ったことはイランの大きな譲歩のように見えるかもしれません。しかし、核兵器については、最高指導者のハメネイ師がイスラムのもとでは禁じられているという判断を示していますから、イランとしてはJCPOAにその旨を規定することには何の問題もありません。したがって、JCPOAの前文及び一般規定に関する限り、ほぼイランの主張が全面的に反映されているという印象を強く受けます。

<核>
「核」と題する項目のもとでは「濃縮、濃縮R&D、備蓄」、「アラク、重水、再処理」、「透明性及び信頼醸成措置」の3項目が扱われています。
濃縮及び濃縮関連活動に関して、イランの長期計画は、特定のR&A活動に対する制限を含め、すべてのウラン濃縮及び濃縮関連活動に対して当初の8年間一定の制限を行うこととし、その後の段階における濃縮活動に関しては付属書1の定めに従うとしています(A-1)。
具体的には、イランは、ウラン濃縮関連活動を15年間ナタンズ濃縮施設においてのみ行い、かつ、濃縮レベルは3.67%を上限とするとし、フォルドウについてはウラン濃縮及び濃縮R&Dをせず、核物質の保存もしないとしました(A-5)。イランは、フォルドウを研究施設とします(A-6)。また、この15年間、イランは、ウランの備蓄に関して、3.67%の濃度を上限とする濃縮ウラン(UF6)の備蓄量の上限を300kgとするとしています(A-7)。300kgを超える分については海外に売却されます(同)。
アラクの重水実験炉施設に関しては、イランは、国際協力に基づいて決められる最終デザインによって再設計及び再建設を行い、アラクでは兵器レベルのプルトニウムの生産は行わず、そこで生まれた使用済み燃料はイランから持ち出すとしました(B-8)。イランはまたこの15年間、重水炉を追加的に所有せず(B-10)、15年間及びその後にわたって使用済み燃料再処理またはそのための施設の建設を行わないとしました(B-12)。
透明性及び信頼醸成措置に関しては、イランは、IAEAとの間で合意された、2011年11月8日付IAEA報告の付属に提起されているイランの核計画に関する問題を扱った取り決めを含む「過去及び現在の主要問題の明確化に関するロードマップ」を2015年10月15日までに完全に完了します。それを受けてIAEA事務局長は、同年12月15日までに以上の問題すべての解決に関する最終評価を提出します(C-14)。ちなみに、上記IAEA報告はイランの核計画の中に軍事的次元のものが含まれている可能性を指摘し、同付属は軍事的次元の問題を集中的に扱うものです。

<制裁>
JCPOAを承認する安保理決議は、イランの核問題に関するこれまでの安保理決議のすべての規定を終了させます(第18項)。具体的には、1696(2006)、1737(2006)、1747(2007)、1803(2008)、1835(2008)、1929(2010)、2224(2015)の7決議が対象です(同)。EUはイランに対する核関連及び核拡散関連のすべての経済的財政的制裁の規定を終了する(terminate)こと(第19&20項)、また、アメリカは付属書2に特定した制裁の適用を停止する(cease the application)ことになりました(第21項)。第19項及び第21項は、終了または適用停止になるEU及びアメリカの制裁の内容を詳しく列記しています。
アメリカはまた、商業用旅客機及び関連のパーツ・サービスのイラン向け売却を許可します(第22項)。アメリカはさらに、8年後にイランの核物質がすべて平和活動の範囲内であることをIAEAが確認することを条件として、制裁を終了または修正する立法措置を講じるとしています(第23項)。

<紛争解決メカニズム>
私がもっとも問題があると感じたのは、紛争解決メカニズムに関するJCPOAの規定ぶりでした。即ち、次のように規定されています。
イランまたは6ヵ国(1ヵ国でも可)は、相手側がJCPOAに基づく約束を守っていないと信じる場合には、6ヵ国+EU及びイランの8者で構成する合同委員会に対して問題解決を付託することができます。合同委員会は原則として15日以内に問題を解決します。問題が解決されないと見なすいかなる国も、問題を外務大臣(8者)に付託することができ、外務大臣はやはり原則15日以内に問題を解決します。それでもなお問題があるとするいかなる国も、3ヵ国で構成される勧告委員会(紛争当事者である2ヵ国及び第三者の3ヵ国で構成)で審議することを要請できます。勧告委員会は、15日以内に拘束力のない意見を提出します。それでも問題が解決しない時は、合同委員会は、勧告委員会の意見について5日間以内に検討します。それでも問題が解決せず、重大な約束不履行があると見なす国家は、JCPOAに基づく当該約束にかかわる自らの約束の履行を停止し、及び/または安保理に対して重大な不履行を構成すると通告することができます(第36項)。
以上の通告を受けた安保理は、制裁解除の継続に関する決議について投票を行います。30日以内に決議が採択されない場合は、安保理が別段の決定を行わない限り、従前の安保理決議の規定が再び適用されます(第37項)。
以上から明らかなとおり、JCPOAが設けた紛争解決メカニズムはこの正式合意の安定した存続を担保するものにはなっていません。アメリカ及びその意向を体して行動する傾向の強いIAEAがイランの約束不履行(特に軍事的次元関連の約束不履行)について随時問題を提起し、最長50日間の紛争解決メカニズムによる問題解決に至らない場合は、JCPOAの存続自体が危殆に瀕する可能性をはらんでいます。最悪の場合、本年12月15日までにIAEAが最終評価を提出することになっていますから、その時が直近の山場となる可能性があります。

2.正式合意における双方の歩み寄りと隔たり

私は、4月17日付コラムで、アメリカとイランとの間で主張の隔たりがもっとも大きい制裁解除時期と態様及び査察範囲としての軍事関連疑惑の2つの問題が交渉妥結にとって最大の難関になるだろうと指摘しました(ただし、交渉の最終段階では、イランに対する武器禁輸問題も浮上しました)。
正にこの2点に関して、最終交渉最中の6月24日、イランの最高指導者ハメネイ師は、立法司法行政3権の長及び高官との会見の席上、イランが絶対に譲れないレッド・ラインを示しました(最高指導者WS)。
制裁解除の時期及び態様という点に関して示されたレッド・ラインは次の4点です。
第1点は、「10乃至12年という長期の制限は受け入れられず、受け入れられる年数についてアメリカ側に伝えた」ということです。
第2点は、制限が課せられる期間中においても、調査研究及び製造工程の継続が満たされることです。
第3点は、「協定が署名された後、安保理、米議会米政府による経済金融銀行の制裁は直ちに解除され、残される制裁は適当な時間の間隔において解除されるべきだ」ということです。
第4点は、制裁解除はイランによる義務履行に結びつけられるべきではなく、まずイランが義務を履行し、IAEAがそれを検証したら制裁が解除されるということであってはならず、制裁解除の態様はイランの義務遵守の態様に対応しなければならないということです。
また、査察範囲という点に関しては、ハメネイ師は、「通常ではない査察、イラン関係者に対する訊問及び軍事施設に対する査察」に対する断固たる反対ということもレッド・ラインに含まれると明言しました。
したがって、今回の正式合意が以上の5点についてどのような規定を置いているかがもっとも注目されるわけです。ハメネイ師が明示したレッド・ラインと正式合意の内容を比較すると、次のような処理が行われていることが分かります。
まずウラン濃縮及び濃縮関連活動の第1点に関しては、JCPOAでは「8年」と「15年」という期間が設定されています。「15年」という期間は明らかにハメネイ師のレッド・ラインをはみ出しているように見えます。しかし、JCPOAの規定ぶりを注意深く見ると、これらの期間設定はアメリカによる制限要求を受け入れたということではなく、イランの長期計画に基づいてイランが自主的に設定したものとなっていることが分かります。巧妙な外交的処理が行われたと言えます。第2点から第4点までに関しては、JCPOAはおおむねハメネイ師のレッド・ラインの範囲内に収まっています。
問題は5番目の査察範囲に関するレッド・ラインです。以上に紹介したJCPOAに即して見れば、透明性及び信頼醸成措置における軍事的次元の問題が紛争解決メカニズムによって解決されない場合に、制裁措置が復活させられる可能性があるという問題です。
ハメネイ師のレッド・ラインは非常に明確で、「通常ではない査察、イラン関係者に対する訊問及び軍事施設に対する査察」は受け入れないというものでした。
JCPOAは、「イランの核計画は、NPTの他の非核兵器加盟国と同じ扱いを受ける」(前文及び一般規定第4項)と定めています。したがって、イランだけを狙い撃ちにする査察(「通常ではない査察」)は行わないということが原則としては確保されたことになります。
他方で、明文の指摘はないものの、イランの核計画の軍事的次元の問題を扱ったIAEA文書が明確にJCPOAにおいて言及されていること、そして、紛争解決メカニズムとしてすでに紹介したような詳細な規定が置かれていることから判断すれば、「イラン関係者に対する訊問」については不明ですが、「軍事施設に対する査察」という問題は常に時限爆弾となる可能性が残されていると判断せざるを得ないでしょう。
以上は、私がJCPOAの内容に即して読み取ることができる合意内容を整理したものです。7月15日付の新華社WSに掲載された「妥協とウィン・ウィンがイラン核協議の最大のハイライト」と題する新華社記者の署名記事、及び同日付の北京日報が新華社報道を総合したものとして掲載した「6ヵ国及びイランが歴史的な包括協議を達成」と題する記事は、妥結されたJCPOAに関するより突っ込んだ分析・指摘を行っていますので、その内容をまとめて紹介しておきます(軍事的次元の問題に対する査察に関する評価部分は強調しておきます)。

イランにとってもっとも重要な目標は西側による経済制裁の解除である。イランの最高指導者ハメネイ師は、対イラン経済制裁解除は協定達成後直ちに実現しなければならず、義務をつけ加えるものであってはならないということをレッド・ラインとして打ち出していた。それに対してアメリカは、制裁解除はイランが関係する核に関する措置を履行した後で、しかも段階的に進めると主張していた。
今回の合意では、IAEAがイランの措置履行を確認した後、アメリカは、金融及び石油・天然ガスの輸出を含む大部分の経済制裁を凍結すると明記している。大方の予想では、これらの制裁解除は年内に実現する可能性がある。ということは、イランの希望により合致しているということだ。ただし同時に、イランが合意に悖る行動があることが分かった場合には、西側は制裁を復活させる権利を有することになっている。イランが約束違反をしたか否かに関しては、イラン及び6ヵ国+EUで構成する8者委員会で裁定する。
アメリカ以下の西側にとっての最重要目標はイランの核活動能力を制限することだ。合意によれば、イランは現在の濃縮ウラン保有量を98%減らして300kgにし、残りの部分は国際市場で売却するか化学的転換処理を行うことになった。イランは以前において濃縮ウランの持ち出しに強く反対していたので、大幅な譲歩を行ったことになる。また、イランの現有遠心分離機の数量も2/3減らし、ナタンズでの運転のみが認められる。濃縮ウラン貯蔵に関する制限は15年間、遠心分離機の数量に対する制限は10年間それぞれ維持される。アメリカが行った譲歩は、イランは8年後に核技術の研究開発能力を回復できるという点である。
西側が提起したイランの核計画に対する査察の範囲及び態様に関しても合意が達成された。イランは以前の立場から譲歩し、本年10月15日以前にIAEAに対してこれまでの核活動における「軍事用途の可能性」に関する疑問について説明することになった。IAEAはイランの濃縮関連活動に対して20年乃至25年間監視できるし、一定の活動に対する監視は永久とされる。
イランの軍事施設に関する査察問題では双方が明確な譲歩を行った。ハメネイは、軍事施設に対する査察は不可とするレッド・ラインを示したが、合意によれば、IAEAは、イランが異議を提起しないことを条件として、軍事施設を含む疑惑のある地点を訪問することができるとされ、その場合、イランは24日以内に必要なアレンジを行うことになっている。他方、イランが異議を提起した場合には、イラン、p5+1及びEUから構成される8者委員会に付託され、裁定されることとされた。また、合意によれば、イランの疑惑地点に対する査察に関してはイランの主権を尊重すべきとされ、かつ、その査察は確実に必要がある範囲に限定し、イランの正常な軍事活動に干渉するものであってはならないともされた。つまり、イランは絶対に査察を受け入れないとしていた点について明確に譲歩し、アメリカもまた査察が「制限されうる」ことを認めるという譲歩を行ったのだ。
交渉の最後の段階でイランに対する武器禁輸問題が争点となり、交渉は危うく空中分解になりかけた。イランは禁輸の即時解除を要求したが、アメリカは禁輸解除がイランの中東における勢力増大につながることを恐れた。最終的には双方が妥協し合った。合意によれば、イランに対するミサイル禁輸は最長8年を超えることはできず、通常兵器の禁輸については5年を超えないこととされた。ただし、IAEAがイランの核計画には核兵器製造の可能性はないとした場合には、武器禁輸は繰り上げで解除されうる。

以上の新華社文章でも「イランが合意に悖る行動があることが分かった場合には、西側は制裁を復活させる権利を有することになっている」と指摘しているように、今回の正式合意は査察問題をめぐって常にひっくり返る可能性があるわけです。7月20日に国連安保理は決議2231によってJCPOAを承認しましたが、決議第11項及び第12項の規定内容はその点をさらに明確にするもので、イランにおいては早くも判が起きています(7月21日付イランラジオWSが報道したアミーンザーデ解説員の「国連安保理の対イラン制裁解除決議」と題する文章)。これらの2項の規定内容は次のとおりです。

11.(安保理は)国連憲章第41条のもとで行動し、JCPOA参加国がJCPOAに基づく約束の重大な不履行を構成すると信じる問題に関する当該参加国からの通告を受領してから30日以内に、安保理は、決議第7項(a)の終了を継続する決議案について投票することを決定し、さらに、上記通告から10日以内に安保理のいずれの理事国も投票のための決議案を提出しない場合には、安保理議長は決議案を提出し、上記通報から30日以内に投票に付することを決定し、また、当該問題に関与する国家の見解及びJCPOAで設立される勧告委員会の当該問題に関するいかなる意見をも考慮するという意向を表明する。
12.(安保理は) 国連憲章第41条のもとで行動し、安保理が決議第7項(a)の終了を継続する第11項に基づく決議を採択しない場合には、第11項にいう安保理に対する通告の後の30日後のグリニッチ標準時の真夜中に、第7項(a)に基づいて終了された決議1696 (2006),1737(2006), 1747(2007), 1803(2008), 1835(2008)及び1929(2010)のすべての規定はこの決議の採択前に適用された時と同じ形で適用されるものとし、並びにこの決議の第7項、第8項及び第16項から第20項までに含まれる措置は、安保理が別段の決定を行わない限り、終了するものとする。

3.主要国の立場

今回のJCPOAの成立、特に査察問題にかかわるアメリカ、イラン、ロシア及び中国の反応を見ておきます。

<アメリカ>
オバマ大統領は、7月14日に声明を発表しましたが、査察問題については次のように述べました。軍事施設に対するIAEAによる査察がIAEAとイランとの間で合意されていると主張するオバマの発言は、後述するように、イラン側の立場と真っ向から衝突します。

今回の取引により、査察官は疑いがあるいかなる場所にもアクセスすることができる。簡単に言えば、査察を担当する機関であるIAEAは必要な場所、必要な時にアクセスする。この取り決めは恒久的だ。また、IAEAは、イランの過去の核研究で軍事的次元の可能性のあるものに対する調査を完了するために必要なアクセスについてもイランと合意がある。

他方で、イラン核問題における合意実現がウクライナ問題で厳しい緊張状態にある米露関係及び南シナ海で対立と緊張が目立つ米中関係に対して一定の緊張緩和の役割を果たした効果も忘れることはできないでしょう。オバマ大統領の発言が印象的です。
ロシアの貢献に対するオバマの高い評価については、著名なコラムニストであるトーマス・フリードマンが7月14日付ニューヨーク・タイムズ紙で掲載したオバマ大統領とのインタビュー記事の中で、オバマの次の発言を引用しています。

「(イランとの取引において)ロシアは助けになった。正直に言う。ウクライナをめぐってロシアとの間で現在抱えている大きな違いを前にして、しのぐことができるかどうか確信がなかった。プーチン及びロシア政府は、私を驚かせるやり方で(イラン問題を)区別した。ロシアが我々及び他の国々とともに強力な取引をすることに協力的でなかったならば、我々は今回の合意を達成できなかっただろう。」

また、中国の貢献については、7月21日付で中国外交部WSが、この日に行われた習近平とオバマとの間の電話会談で、オバマが次のように述べたことを伝えています。

オバマは次のように表明した。イラン核問題の交渉が全面的な合意を達成したことについて、中国が発揮した役割は極めて重要だった。アメリカは、この歴史的な合意の達成のために中国が行った貢献に感謝する。アメリカは、中国との協調協力を継続し、共に努力して全面的な合意の実施実現を確保することを希望している。米中のイラン核問題における協力は、双方が協力して努力する限り、共同して気候変動、経済発展、公共衛生等のグロー閥な挑戦に共同して対処できることを表している。

<ロシア>
7月14日付のロシア大統領府WSは、イラン核計画に関する交渉の完成を受けたプーチン大統領の声明を掲載しています。査察問題に関しては、プーチンは、次のような慎重な言いまわしをしています。しかし、「関係するすべての当事国、主として交渉当事者である6ヵ国が取引を全面的に遵守することを期待する」という表現は、JCPOA遵守の責任がイランよりも6ヵ国側にあるというロシア(プーチン)の認識を色濃くにじませています。

IAEAは、イランの核計画が完全に平和的性格であることを証明するべく、合意されたステップの実施を慎重にモニターするだろう。イランは、IAEAの監視の下で、及びイランに対して課せられた制裁の段階的解除により、ウラン濃縮を含む核計画を発展させる機会を得る。このことは、本日承認された文書(JCPOA)で支持を受けた、ロシア及びイランの間の大規模な核平和利用計画の実施にとっても重要である。
我々は、関係するすべての当事国、主として交渉当事者である6ヵ国が取引を全面的に遵守することを期待する。これらの交渉過程でこれら6ヵ国及びイランが証明した政治的意思は、長期にわたる行動計画の実施の成功の保証である。ロシアとイランの二国間関係は新しいモメンタムを獲得し、もはや外部的要因によって影響を受けないだろう。
ロシアは、ウィーンの諸合意の完全な実施を確保するため、自らの権限内においてあらゆる事を行うだろう。

また、ラブロフ外相も7月14日に声明を出しました。ロシア外務省WSは、執筆時点で7月10日以来更新がなく、したがって同外相の声明の内容については中国新聞網の報道によっているのですが、2009年4月5日のプラハ演説でオバマが、イランの核問題が解決した後は欧州におけるミサイル防衛システムは現実的根拠を失うと表明したことに注意喚起し、アメリカに対して、この問題についてアメリカと対話を行う用意があると提起しました。イランの核問題が国際関係と複雑に絡み合っていることを示すものです。
ちなみに、やはり中国新聞網の報道ですが、イランのザリーフ外相は、イランにとって困難な時期に、ロシアは一貫してイランの友人であり、イランは自らの友人のことを忘れない、制裁が撤廃された後は、ロシアとのパートナーシップに基づく協力を重点的に発展させると述べたそうです。

<中国>
査察問題に関する中国側の態度表明としては、7月21日の習近平・オバマ電話会談における習近平発言、7月14日に交渉妥結後に王毅外交部長が記者会見で行った発言(同日付中国外交部WS)、及び7月20日に安保理決議が採択された後に中国国連代表部の劉結一大使が行った解釈発言(同日付中国外交部WS)があります。習近平発言は、「中国は、アメリカを含む関係諸国と建設的な協力を保ち、JCPOA及び安保理決議が実施されることを確保していきたい」という抽象的な内容ですので、あまり参考にはなりません。
王毅外交部長の発言も抽象的であり、中国の問題意識の所在は分かりませんが、査察問題がカギであると中国が認識していることを窺わせるには十分なものがあります。ただし、上記プーチンの声明と比較すると、王毅発言はいずれの側に与することをも慎重に避けていることが見て取れます。

JCPOAが直面する主要な挑戦は確実に執行し、遂行することができるか否かにある。合意の達成は物事の始まりであり、実現にはなお10年間のプロセスがある。このプロセスにおいては、各国はまずは信頼を築き、強固にするべきであり、これが合意を執行するための基礎である。同時に各国は、自らが行った約束を確実に履行し、合意した規定を実現に移す必要がある。

劉結一大使の発言内容もいずれかの側に傾斜するものではありません。しかし、次の原理原則の開陳は、ゼロ・サムのパワー・ポリティックスに固執するアメリカに対する強烈なメッセージであることは間違いありません。

「JCPOAの達成は今日の国際関係に対して深甚な啓示を与えている。第一、互恵共嬴を核心とする新型国際関係を打ち立てることは強大な生命力を持っているということだ。イランの核問題は各国の切実な利害さらには核心的利益にかかわっている。ウィン・ウィンの精神なくしては合意の実現は難しく、合意を達成したとしても持続することは難しい。第二、重大問題を政治解決するという大方向を堅持しなければならないということだ。プロセスが如何に困難なものだとしても、政治解決は終始、唯一フィージブルな道筋である。JCPOAは、政治外交手段で他の国際的にホットな問題を処理することに成功モデルを創造した。第三、政治解決プロセスの中で確信を維持し、政治的意思を体現し、努力を怠らなければ、成功を収めることができる。」

劉結一大使は、査察問題をも念頭において次のように発言しました。

今後10年間は合意を現実のものにすることがさらに重要であり、以下の原則を堅持するべきである。第一、バランスを取り、正確かつ全面的に安保理決議及びJCPOAを実行に移すため、各国は、自らが行った約束を確実に履行し、合意された各規定を実現する必要がある。第二、相互尊重及び平等互恵の原則に基づき、執行過程で生まれる違いを妥当に解決し、誠意を示し、合意を実行するという大方向をしっかり捉える必要がある。第三、執行過程で取得した経験及び有益なやり方を不断に総括し、関連するメカニズムの有効性を守り、世界平和の擁護、地域の安定促進、各国間の関係改善のためにプラスのエネルギーを発揮することだ。

<イラン>
最高指導者ハメネイ師は、正式合意の成立を受けて、ロウハニ大統領が同師に送った書簡に対する返書で次のように述べました(7月15日付大統領府WS)。JCPOAの成立を成し遂げたロウハニ大統領及び核交渉チームに対して感謝することで、イラン国内にあり得る批判の声を未然に押さえ込む(7月14日付のイラン放送WSはイラン国会国家安全保障外交政策委員会のブルージェルディ委員長の発言、翌18日付の同WSはイラン国会のラーリージャーニー議長関の発言を紹介していますが、両者ともJCPOAに対して肯定的な発言を行いました)とともに、「6ヵ国の中のいくつかの国はまったく信用できない」として、アメリカなどに対する不信感を表明し、「他の当事国による約束違反の可能性」に言及しています。

あなたの偉大な努力に対する感謝を込めて、私はまず、核交渉チームの一貫した、疲れを知らない努力に対する私の心からの感謝を捧げる。交渉を締結にもたらしたことは一つの画期的な事柄である。
しかし、用意されたテキストについては慎重な精査が必要であり、定められた法的手続に付さねばならず、承認された暁には、他の当事国による約束違反の可能性について考えなければならない。あなたは、交渉に参加した6ヵ国の中のいくつかの国はまったく信用できないことをよく知っている。 私は、我が国が団結と尊厳を維持し、平和的かつ賢明な雰囲気の中で国益が実現されることを期待する。

ロウハニ大統領は、7月15日に行われた閣議の席上、次のように交渉妥結のイランにとっての意義を強調しました(同日付大統領府WS)。

ロウハニ大統領は、イランの6大国との核の交渉は世界の外交史において先例のないものであり、イランの将来の世代は核合意を誇りに思うだろうと述べた。私の判断では、この出来事は歴史に記録されるだろう。この協定の署名はイランの歴史に刻まれるだろう。西側におけるイランの悪いイメージは今日変えられた。イランの将来の世代は核合意を誇りとし、それを守るだろう。西側は常にイランを脅威と見なし、地域ないし世界の大国とは見なしてこなかった。しかし、今やイランが交渉で屈したと考える国はなく、むしろイランは世界との間で問題を解決するレベルにあることをハッキリ見て取っている。今回の取引の最小限の成果は、イランが巨大な交渉能力を持った国であることを証明したことであり、そのことは、間違いなく政治的、技術的及び法的な成功である。

JCPOAの査察メカニズムの問題点については、7月21日付のイラン放送WSが掲載したアミーンザーデ解説員の「国連安保理の対イラン制裁解除決議」が次のように正確に理解していることを示しました。

「国連安保理が採択した決議と承認された共同行動計画に基づき、イランに対する安保理の制裁決議は、新たな決議の中で条件付で解除されましたが、比較的シンプルなメカニズムにより、制裁が戻される可能性があります。この決議では解除された制裁が戻される場合の詳細、武器制裁、さらには対決解消の流れが説明されています。 ここ数日、この決議がイランの政界で新たな批判を引き起こしています。この決議草案の、制裁の復活に関する11条と12条がこの批判の中心となっています。」
「現在、新たな安保理決議は、包括的共同行動計画の内容の実施において一歩を踏み出し、イランの核問題における12年間の危機を終わらせ、それによる圧制的な制裁を解除させるものです。しかしながら、こうした道の継続もまたそれほど容易ではありません。イランの体制責任者は協議の相手側の口実探しや約束違反を忘れてはならないということをよく知っています。これは一つの終わりの後の始まりであり、合意の完全な実行後、確実な終わりを迎えるべきです。このことから過去を振り返りながら将来を見ていくべきでしょう。」