南シナ海問題と東北アジア情勢との連関性(李敦球文章)

2015.07.10.

私はかねがね、アメリカはアジア太平洋地域(APR)での軍事プレゼンスを正当化するために、「北朝鮮脅威論」を口実としている(ホンネは増大する中国の影響力を封じ込めることにあるけれども、それは公然とは言えないので、朝鮮をダミーとしている)し、近年では南シナ海の領土問題をも利用するようになっているという基本的判断をこのコラムでも紹介してきました。7月8日付の中国青年報が掲載した李敦球署名文章「南海問題解決は東北アジアから着手すべし」は、李敦球も基本的判断において私と大差ないことを示していますが、彼はそこからさらに進んで、朝鮮半島の和解を実現すれば、アメリカのAPRにおける軍事プレゼンスを正当化する根拠を失わせ、そのことは南シナ海問題の解決にもつながっていくという主張を行っています。
  中国の公式的な立場は、アメリカのAPRにおける軍事プレゼンスに対しては異議を唱えない(アメリカ主導のステータス・クオにチャレンジする意図はない)というものですから、李敦球の主張は一見中国の公式的立場からは逸脱する内容です。しかし中国は同時に、アメリカが固執するゼロ・サム的なパワー・ポリティックスはもはや時代遅れであり、21世紀の国際関係は共存共嬴(ウィン・ウィン)を基調とする方向に向かわなければならないとも主張しているわけで、その主張からすれば、李敦球の主張は決して異端に属するというわけではありません。何より、中国青年報の専属コラムニストとして書いている文章ですから、無視することはむしろ失礼でしょう。
  ということで、この文章の大要を紹介しておきます。

  甲午戦争(日清戦争)以前の歴史が証明するのは、大陸勢力と朝鮮半島とが緊密に結びつき、海洋勢力に対して対抗する時は半島が安定し、東北アジア各国は平和裡に共存するということだ。甲午戦争以後の歴史はまた、海洋勢力が手出しをし、朝鮮半島を支配する時は、半島が独立と領土保全を失うだけではなく、大陸勢力と海洋勢力が不可避的に直接対峙し、矛を交えるということをも証明している。そして後者こそが東北アジアにおける100年以上にわたる情勢不安の根源であり、またこの原因によって東北アジアの混乱が南海にも波及するのである。
  イギリスの政治学者マッキンダーは、「東北アジアを統治するものは西太平洋を掌握し、アジア全体の命運を手中にする」と述べたことがあるが、東北アジアのカギは朝鮮半島である。世界が多極化に向かうにつれて、朝鮮半島の戦略的地位は日増しに突出しつつある。
  中国の台頭とアメリカのリバランス戦略という背景のもと、韓国は未曾有の戦略的困難に陥っており、いかなる選択を行うかについて韓国国内の論争は止むことがなく、一致を達成することは不可能な状況だ。韓国の経済的命脈は中国という大船にかたく縛り付けられているが、韓国の国家安全保障はアメリカという戦車にこれまたかたく縛り付けられている。韓米同盟関係は不断にエスカレートしているが、経済と安全保障という2大分野において大陸大国と海洋大国とに別々に依存するということはバランスさせようのない構造的矛盾であり、衝突が起こることは必然である。このような局面は長期にわたって維持できないばかりでなく、中韓両国の利益をも損なうものであり、韓国は、戦略的困難に陥ってもはやにっちもさっちもいかない状況にある。
  韓国のこの戦略的困難を打ち破り、韓国の国家安全保障戦略を大陸に向くようにさせるため、中韓経済協力のレベルを上げるという方法で解決することができないだろうか。キッシンジャーはかつて、「朝鮮半島の南北間の緊張した情勢が大幅に緩和すれば、アメリカの軍事プレゼンスは韓国国内の非常な論議の対象となるだろう。さらに、米軍が撤退するとなれば、在日米軍基地の将来もまた問題となる。米軍がアジア周辺を去れば、アジアにはまったく新しい安全保障さらには政治的構造が現れるだろう」と述べたことがある。韓国の金大中及び盧武鉉大統領が執政していた時期の事実が証明するように、朝韓がある程度和解し、経済的に融合への姿勢を作り出すと、統一はしなくとも、アメリカはパニックになる。もちろん、パニックになるのは日本もである。
  アメリカのAPRにおける軍事プレゼンスあるいはリバランス戦略は米韓同盟及び米日同盟という2つの柱に依存している。キッシンジャーの言ったことが正しいとすれば、中国は、朝韓に対する影響を通じて朝韓の和解を促し、米軍が韓国に駐留する基礎を突き崩し、まずは米韓同盟という支柱を根こそぎにし、さらに進んで第2の柱である日米同盟を動揺させ、瓦解させることができる。同時に、中国と朝鮮半島の連盟及び運命共同体を建設し、同時に東北アジア共同体の形成を促すのだ。そうなれば、アメリカのリバランス戦略は自壊するだろう。
  事実として、日本が近年釣魚島、東海及び南海で絶え間なく紛争を挑発し、面倒を引き起こすのも、本質的には、米日同盟、米韓同盟及びアメリカのリバランス戦略が日本の支えとなっているからだ。日本が頼りとしている基礎を壊していけば、釣魚島問題及び東海問題の解決は新たな転機を迎える可能性がある。米日が南海問題に関与する十分な実力がなくなれば、南海問題に摩擦があるとしても制御可能な範囲に収めることができ、そうなれば、南海問題を根本的に緩和することができよう。
  以上に反して、仮にアメリカの東北アジアにおける2大同盟をぶちこわすことから入手しないで、アメリカにとっての2つの戦略的支柱が長期にわたって存在することを許すならば、アメリカのリバランス戦略はさらに縦深的に拡張する可能性が大きく、そうなれば、アメリカは東海及び南海で面倒を作り出す十分な実力と能力を持つこととなり、南海の問題と矛盾は長期にわたって存在するだけではなく、不断にエスカレートする可能性もある。アメリカのAPR担当だったクリステンセン元国務次官補は、最近新書発表会の席で、「中国の東アジアにおける挑戦に対処するため、アメリカはAPRにおける軍事プレゼンスを強化しなければならず、同時にアメリカの同盟国及び中国の周辺諸国を援助しなければならない。(そうすることで)アメリカはより高みに位置することができ、アメリカの盟友は多く、中国は少ないから、中国の選択に対して影響を及ぼすことができる」と述べた。彼の発言は筆者の判断を裏づけているようである。歴史は螺旋的に前進する。しかし歴史法則の本質的部分は変化することが難しいのだ。