ウクライナ情勢と米欧露関係(中国専門家分析)

2015.06.11.

 ウクライナ情勢を扱う2つの興味深い内容の文章に接しました。一つは、6月9日付環球時報所掲の国務院発展研究中心欧亜社会発展研究所研究員である王憲挙署名文章「ロシアと西側の関係改善にはなお時間が必要」です。もう一つは、人民日報WS所掲の中国国際問題研究院欧亜研究所所長である陳玉栄署名文章「ケリーのソチ訪問からウクライナ危機の方向性を見る」です。中国はウクライナ情勢の先行きを深い関心を持って観察していますが、この2つの文章は、前者がドイツで開催されたG7サミットを受けて当面の情勢分析を行っているのに対して、後者はより本質的にウクライナ危機の問題を掘り下げて分析しているという違いがあります。

<王憲挙文章>

  ウクライナ衝突は今回のドイツにおけるG7サミットの主要議題だった。宣言は名指しでロシアを批判し、停戦協定が徹底して履行されない限り、ロシアに対する制裁を継続すると述べた。この宣言から受ける印象は、ミンスク停戦に関する新協定の実行とウクライナ危機解決は促進されないだけではなく、関係各国間の矛盾はさらに激化するということだ。
  最近、ウクライナ東部情勢は急激に悪化している。ウクライナのポロシェンコ大統領は4日に発表した国情報告の中で、ロシアがすでにウクライナ国内に9000人の部隊を派遣したと非難し、ウクライナ軍はロシア軍の「全面侵入」に対して対処する準備をしなければならないと述べた。プーチンの報道秘書官は、ウクライナ当局が協定をぶちこわしていると皮肉たっぷりに言い返した。ウクライナはどうして再び砲煙が立ちこめる事態に陥ってしまったのか。
  まず、ウクライナ東部のステータス問題が解決されていないことだ。ミンスク新協定の規定によれば、ウクライナは憲法を改正し、ウクライナ東部のドネツク及びルガンスクは特殊な地位の自治州となることになっている。しかし、ウクライナ議会が3月17日に成立させた3つの法律では、これらの地域を「被占領地域」とし、地方選挙を行った後にのみ特殊な地位を得ることができるとし、かつ、この選挙は「不法な武装及びその軍事装備のすべてがウクライナ領土から撤去」された後にのみ実施するとしている。ウクライナ東部の武装勢力の指導者は、ウクライナ議会のこのようなやり方は「ウクライナ東部の和平プロセスを破壊する。特殊な地位に関する修正案は軍事対決を推し進めるだけだ」としている。
  次に、ウクライナ軍も武装勢力も現状にはともに満足していない。ウクライナ政府軍は度重なる敗戦を根に持っており、失地奪回だけを考えている。武装勢力は、ロシアの支持のもとにおける軍事的優勢を頼りに、クリミア半島とウクライナ東部にまたがる港湾都市マリウポリを支配し、クリミアとドンバスを一体にしようとしている。
  第三に、EU内部には、対露制裁を取り消すか否かに関して分裂があり、独、仏、伊などはウクライナの戦火が拡大して、欧州の安全保障にも累が及ぶことを望んでいないのに対して、ポーランドやバルト三国などは対露圧力を堅持しようとしている。特に大西洋彼岸のアメリカは他に企むところがあって、ウクライナ政府に対する軍事支援を不断に増加している。6月5日にポロシェンコ大統領はオバマ大統領に電話し、「アメリカがウクライナの国防を強化することに提供した援助に感謝」し、ドイツで開催されるG7サミットで対露圧力を継続するよう要請した。5月にケリー国務長官が訪露して、米露関係が改善するというニュースも流れたが、アメリカ国務省がドンバス地域の情勢複雑化の責任はロシアにあると批判し、ロシアがEUの89人の政治家の入国を禁止し、EUがロシア外交官の欧州議会の建物に入ることを許さないなどの事件が次々と起こることにより、ロシアと米欧との齟齬は絶えることがない。NATOはバルト海でしきりに軍事演習を行っている。これらから見ると、ロシアと西側との関係膠着状態が短期間で改善するのは難しいようだ。
  第四に、ウクライナ国内の過激な行動が軍事衝突に油を注いでいる。2月以来、ウクライナはロシアと決裂する途をひた走っている。第二次大戦勝利70周年を前にして、ウクライナ当局は、ソ連及びナチ・ドイツがともにウクライナに対して「犯罪を行った」と非難し、第二次大戦勝利の日にちを5月8日に改めた。ポロシェンコ大統領はモスクワの赤の広場における軍事パレードに参加することを拒否した。5月15日にポロシェンコは、ウクライナにおいてナチと共産党のシンボル及び思想を禁止するという法案に署名した。これらにより、ウクライナ東部危機を解決するための環境は悪化する一方となった。
  ミンスク新協定は風前の灯である。対決する双方及びそれぞれの支持者は再度決戦するという計画を放棄し、速やかに交渉する用意を示すべきだ。戦火がますます燃えさかれば、第3のミンスク協定のための交渉はさらに行うことが難しくなるだろう。

<陳玉栄文章>

  2015年5月中旬にケリー国務長官及びニューランド国務次官補が相次いでロシアを訪問した。2年の時を隔てて、ケリーはラブロフ外相と最初の外相公式会談を行ったほか、ソチにおいてプーチン大統領とも4時間に達する会談を行った。ウクライナ危機以来、アメリカの高官が訪露したことは、露米が緊張した関係を緩和しようとしているというシグナルを外部に向けて発信した。しかし、長期にわたって蓄積されてきた根の深い問題とウクライナ危機がもたらした新しい問題により、露米関係が短期間でブレークスルー的進展を実現することは難しい情勢だ。露米関係の調整がウクライナ危機打開に対して持つ影響は限られており、ウクライナ危機の長期化の傾向は明らかだ。
<ウクライナ危機は露米地縁政治上の駆け引きの軌跡を刻印している>
  プーチンがケリーとソチで会談した際、ウクライナ危機勃発の根本的原因に関して再び双方の意見が対立した。ウクライナ危機以来、ロシアは一貫してアメリカがウクライナの「カラー革命」を画策し、ロシアを押さえ込もうとしていると非難してきた。アメリカ及び西側大国は、ロシアがクリミアを併合する「侵略活動」を行ったと非難し、必ず厳しく罰しなければならないとしてきた。
  実際には、ウクライナ危機の勃発には必然性があった。ウクライナ危機の本質は、露米欧がユーラシア大陸で繰り広げる空前に激しい地縁政治上の大がかりな駆け引きである。ウクライナ危機の導火線は、表面的には、ウクライナ国家経済の発展モデルの選択、即ち、「東向き」でロシア主導の関税同盟に頼るか、「西向き」でEUに加盟するかをめぐってウクライナの人々の間で爆発した衝突であるが、深層原因は、ウクライナ争奪をめぐったロシアと西側との利益の衝突である。ウクライナの脱露入欧という選択はユーラシア大陸の地縁政治の核心問題にかかわるものであり、経済領域においてはロシア主導のユーラシア経済連合とEUとの間の角逐を反映しているし、安全保障領域ではアメリカ主導のNATOとロシアを盟主とするCIS集団安全保障条約機構との間の旧ソ連地域における競争を反映している。経済及び安全保障の分野におけるロシアと西側との競争は、双方の根本的利益にかかわっており、長期的及び複雑な性格を持つ。
  まず、ウクライナ危機は、大国間の抑止及び反抑止という妥協なき闘争の反映である。冷戦終結後、アメリカを筆頭とする西側大国は、冷戦的思考に基づき、ロシアの再興を防止するためにロシアを抑止し弱体化させる政策をとり、CIS諸国を分断させる政策を採用した。ワルシャワ条約は解体し、ソ連陣営は存在しなくなったにもかかわらず、西側はNATOを解散しないどころか、東方拡大を通じてNATOの境界をバルト3国にまで東進させた。アメリカを筆頭とする西側大国は、NATO及びEUの東方拡大を通じて、ロシアの戦略的安全保障及び経済発展のスペースを圧迫してきた。2003年以後は、西側はさらにCIS諸国において「カラー革命」を画策し、親西側政府を扶植し、ロシアと旧ソ連諸国との関係を離間させ、これらの国家の脱露入欧を極力推進した。
  早くも十数年前、ロシアと西側はウクライナをめぐって手合わせしたことがある。2004年、ウクライナの反露親西勢力であるユーシェンコなどは西側の背景がある「オレンジ革命」で台頭した。2010年の親露的なヤヌコヴィッチの大統領当選はロシアの蔭での援助なしではあり得なかった。しかし、2014年のウクライナ危機において、アメリカが直接介入するもとで、ヤヌコヴィッチ政権はひっくり返された。
  次に、ウクライナ危機はユーラシア経済同盟とEUという一体化をめぐる競争の反映である。2015年1月1日、ロシア、白ロシアおよびカザフスタンの3国関税同盟の基礎の上にユーラシア経済同盟が正式に発足し、高度に一体化した共同市場を作ることを最終目標に掲げた。ユーラシア経済同盟は、プーチンが2011年に提起したユーラシア同盟構想におけるもっともカギとなる部分である。ロシアが目指すのは、ユーラシア経済同盟をしてアジア太平洋地域と欧州とをつなぐ橋とさせ、多極化した世界における一極となり、ロシアが強国としてのドリームを実現する上での戦略的よすがとすることである。
プーチンが提起したユーラシア同盟という考え方について、西側世論は広くロシアがソ連を復活させようとする動きだと看做している。アメリカのヒラリー・クリントン前国務長官はかつて、ロシアが経済一体化に名を借りて新版・ソ連を復活させることを阻止すると誓ったことがある。西側がCIS経済一体化を阻止する重要な手段の一つは、EUが早々と推進した「東方パートナーシップ」計画である。
ロシアの政治家はこの計画に対して、CISパートナー国とEUが自由貿易区を作ることでロシアに対抗し、CISを分裂させることによって、形を変えた「東方拡大」を行うことだと主張した。ロシアのラブロフ外相は、EUのこの動きは、白ロシア、ウクライナなどの国々に対して、ロシアと西側との間で「敵、しからざれば即ち友」という選択を行うことを脅迫するものだと非難した。ロシアは、ウクライナをユーラシア経済同盟に引き込むため、2013年にEUと激しく争い、極めて大きな経済的代価を払うことになった。即ち、2013年11月、ヤヌコヴィッチ政権はEUとの連携協定を締結する直前になって、それを延期する決定を行ったのだが、この決定がウクライナ危機の導火線となったのだ。
<ウクライナ危機は露米間の構造的矛盾を激化した>
  ウクライナ危機の勃発以来、アメリカは西側同盟国と手を組んでロシアを全面的に封鎖した。即ち、国際的孤立、経済的制裁、安全保障における武力の威嚇がそれである。露欧関係は急速に冷え切り、露米関係は冷戦の瀬戸際となった。ウクライナをめぐって露米は白熱した駆け引きを行い、CIS地域をめぐる双方の構造的矛盾は空前に高まった。アメリカは、ウクライナ危機を利用して一石多鳥の目的を実現した。
  まず、ウクライナの脱露入欧はロシアが苦心して多年にわたって進めてきたCIS一体化プロセスを大きく挫折させ、旧ソ連地域におけるロシアの影響力を大きく弱め、ロシアと伝統的な盟友との関係をかつてなく離間させた。危機以前と比較した場合の最大の違いは、現在のウクライナはすでに基本的に脱露入欧プロセスを完成したということだ。ウクライナ危機勃発以来の1年余で、ロシアとウクライナの関係は全面的に悪化し、ウクライナは、EU加盟とCIS一体化参加という問題で、もはやためらうことなくEU及びNATOに対する傾斜を加速させている。
  次にアメリカは、NATOを活性化し、欧州における軍事プレゼンスを強化している。2014年9月、NATOは東欧地域における軍事プレゼンスを強化し、数千人規模の緊急対応部隊を組織することを決定した。アメリカ主導のNATOは、ウクライナ、グルジア及びモルドヴァをNATO外の特別の「盟友」として受け入れただけではなく、2014年からは不断にウクライナに重型の武器・装備を不断に送り、軍事指導官を派遣してウクライナ軍を訓練してきた。ということは、ウクライナ危機に名を借りて、アメリカ配下のNATOはウクライナにおいて軍事プレゼンスというブレークスルーを実現し、それによってロシアとウクライナの国境においてロシアに対する新たな地縁戦略上の圧力を形成したということだ。さらに、ウクライナ危機という背景のもと、東欧のポーランドとバルト諸国の安全保障上の警戒が増大し、NATOの東欧における軍事的配置は不断にエスカレートしている。
  これに対し、プーチンは2014年に行った記者会見の席上、ベルリンの壁が崩壊して25年が過ぎたのに、西側は一貫して勝利者としてロシアに向き合い、冷戦思考でロシアに相対しているという不満を表明した。彼は、西側が東欧にミサイル防衛システムを配備するということは新たな壁を築くことだと述べた。
  第三に、西側の制裁はロシア経済を大きく傷つけ、ロシアの大国復興戦略の実現を阻害している。2014年にアメリカと西側諸国は、エネルギー、金融、軍事工業などの分野において幾重にもわたる経済制裁を実行し、ロシアの経済発展に重大な影響を与えた。経済制裁と国際的原油価格の大幅な下落という二重の打撃のもと、2014年末にはロシアのルーブルが大幅に下落し、経済は深刻な状況に陥った。ルーブルの下落と企業債務に対応するため、ロシアが長年にわたって蓄積してきた外貨準備は急激に減少した。資金の海外への流出も加速し、2014年には1250億ドルに達した。
  第四は、ロシアは孤立によって国際的イメージを傷つけられた。2014年初めには、ロシアが巨費を投じて開催したソチ冬季オリンピックを妨害し、その後はロシアが主催したG8サミットへの出席を拒否したのに加え、ロシアをG8から追い出し、G20会議においてもロシアを冷遇しようとした。2015年においては、ロシアが行った赤の広場での軍事パレードに対して、アメリカ以下の西側諸国はこぞってプーチンの出席要請を拒否した。
<露米関係改善は双方の必要するところだが、短期的にはブレークスルーは難しい>
  ケリー訪露により、アメリカが自らロシアとの緊張した関係を緩和しようとしたのには複数の考慮がある。アメリカが示したプラグマティズムはまず、米欧間の意見の違いを埋めようとすることだ。ケリー訪露は欧州の大国のメンツを立てると同時に、自らもチャンスを窺うという意図も働いていた。仏独指導者が膠着状態を打破し、率先して訪露するという圧力のもと、アメリカとしてもプーチンに向きあわざるを得ない。
さらに重要なことは、クリミアのロシア帰属はすでに動かしがたく、アメリカとしてはどうすることもできないということだ。さらに、ロシアを押さえ込むという目標を実現した後では、ウクライナはもはや差し迫った関心の対象ではなくなり、アメリカが直面するもっとも手に負えない問題は中東の「イスラム国」さらにはイランの核問題や朝鮮の核問題などの地域的問題であり、これらの問題に対処する上ではロシアの協力が欠かせない。
  モスクワがワシントンの差し出したオリーブの枝に積極的に呼応したのも予想範囲内のことである。ロシアは国際的孤立から抜け出すことを急いでおり、露米関係の膠着から早く脱したいと希望している。ロシア経済が引き続き下降しているという背景のもと、対露経済制裁を速やかに取り消させ、EUとの間の様々な経済協力を回復し、有利な国際環境を獲得することは、ロシアにとってもっとも重要な意義がある。近年、ロシアの経済発展戦略は東に傾斜しつつあるとは言え、西側の資金、技術及び市場はロシアにとって代替不能である。
さらに言えば、2014年末以来、仏独指導者は相互制裁が双方にもたらしている損害について再考するようになっている。即ち、経済制裁という諸刃の刃で傷ついた仏独等諸国は、長期にわたってウクライナ危機に縛り付けられることをますます不本意とするようになり、ウクライナ東部の戦火による累が自らの安全保障に及ぶようなことはさらに望んでいない。これら諸国は、アメリカがNATOの東方拡大等の問題においてロシアの気持ちをも考慮し、ミンスク協定締結を積極的に推進することを要求し始めている。
  ケリーが訪露する前、プーチンはすでに露米関係緩和に関する明確なシグナルを送っていた。2015年4月16日、プーチンは名指しで、アメリカが世界を取り仕切ろうとしていると批判した。しかし2日後の4月18日、プーチンは露米両国が共通の利益にかかわることで協力することを強調した。この二つの発言は、ロシアの西側に対する複雑な心理状態を十分に反映している。即ち、一方では極めて大きな不満があるが、他方では、ウクライナ危機委等の西側による様々な困難から脱却するために、ロシアとしてはアメリカと協力する必要があるという冷めた気持ちが働いている。
  ケリーのソチ訪問に関しては、ロシアの著名な評論家であるルキヤノフは、短期内の露米関係のブレークスルーは困難であると言っている。そういう判断の根拠を分析することは難しいことではない。一つは20年以上にわたって露米間に蓄積された矛盾はあまりにも多く、またあまりにも深刻だということだ。第二は、ウクライナ危機の中でアメリカと西側がロシアに与えた傷はあまりにも深いということだ。オバマがロシアとエボラ及び「イスラム国」を今日の世界における3大脅威だと述べたことは今なお耳に生々しく、プーチンとしてはこの恨みを一笑に付すことがどうしてできるだろうか。第三に、ウクライナ危機がもたらした露米の相互不信は深刻なものがあるということだ。どうしようもなくなったとはいえ、アメリカは現在もなおクリミア問題を諦めてはいない。第四、ウクライナ危機はなお継続しており、露米ともに休戦宣言をしていない。米欧は、2015年2月のミンスク協定が完全に履行されるまでは、ロシアに対する制裁を継続すると表明している。
<露米関係調整がウクライナ危機に及ぼす影響は制限的である>
  露米関係の改善傾向は、ウクライナが危機を抜け出すことに対して一定の影響はあるだろうが、決定的な意味は持たないだろう。ウクライナ危機の勃発には根の深い地縁政治的背景があるとともに、ウクライナ国内の政治的及び経済的要因も働いている。現在、ウクライナ危機における経済状況は社会の安定に対する深刻な挑戦であるとともに、危機の徹底した解決にとっても難題をもたらしている。
  一つは、ウクライナは様々な危機に陥っているということだ。
  まず、ウクライナ経済は崩壊の瀬戸際に陥っており、社会の安定に対して極めて大きな病根となっている。2015年3月の国連統計によれば、ウクライナ東部の戦火によって6000人以上の人命が奪われ、14000人以上が傷ついた。持続する激動情勢により、ウクライナ経済は深刻な打撃を受け、2013年にはゼロ成長で、インフレ率は1%だったのが、2014年にはGDP成長率は-7%、インフレ率は24%に達した。現在までにウクライナ通貨グリブナは300%以上下落している。2013年末現在の対外債務総額は1400億ドルに達し、これはGDPの80%を占める。IMFの予測によれば、2015年における同国の対外債務はGDPの158%に達するという。
  次に、ウクライナ危機は相変わらず先が見えないことだ。2014年9月にウクライナ、ロシア、ドイツ及びフランスが締結したミンスク協定から2015年2月に締結した新ミンスク協定において、その中心的内容はウクライナ東部の衝突を双方が停止するということだ。新ミンスク協定締結以後も武力衝突は相変わらず起こっており、協定は完全に履行されてはいない。
  第二、大国間のウクライナにおける駆け引きも収まっていないことだ。
  ロシアの学者の見るところでは、アメリカはウクライナが最終的に危機から抜け出すことに関心を持っていない。ウクライナが無秩序状態にあることがアメリカにとってもっとも利益になるというのだ。というのは、ウクライナを「統御可能な混乱」状態で維持することは、アメリカにとっては、ロシアを押さえられるし、欧州をも牽制できるということだ。EU諸国は、全体としてはアメリカと歩調を合わせており、ロシアに対する経済制裁を継続している。
  ロシアは、地縁政治上の考慮から、ウクライナが西側に行くという現実を望まないし、ウクライナがNATOに加盟することはなおさら受け入れられない。東でもなく西でもない中立のウクライナがロシアにとって受け入れ可能なボトム・ラインだ。ウクライナの将来の動向が把握できるようにするため、ロシアは、一貫して、ウクライナ政府が憲政上の改革を行い、地方に多くの権限を付与する連邦制を取り、それによってウクライナ東部のロシア人の利益が保護されるという目的を達成することを要求している。
  ミンスク協定は停戦のみを強調しており、関係当事者が平和的な方法で紛争を解決するという意図を示しているが、ウクライナ危機を引き起こした一連の問題の解決方法には触れていないし、また、それは不可能なことだ。というのは、ウクライナ東部のドネツク及ぶルガンスクは自治権を要求しているが、ウクライナ政府はいかなる譲歩も行う用意がない。
  以上から分かるとおり、ウクライナ危機はあまりにも多くの複雑な要素が錯綜しており、かつまた余りにも多くの利益当事者を抱えている。結論として、ウクライナ危機の長期化は避けることができない。