朝鮮半島問題:中国青年報特設コラム「寰球東隅」開設と李敦球文章

2015.06.04.

中国共産主義青年団の機関紙である中国青年報は、5月28日付で、李敦球署名文章「朝鮮半島核問題 新たな変数が加わる可能性も」を掲載しました。このコラムでもしばしば紹介しているように、李敦球は私がもっとも注目している中国の朝鮮問題専門家の一人です。私がこの文章に注目したのはもちろんですが、それに加えてもう一つ注目したのは、この文章の後に、中国青年報から読者への、次のような告知があったことでした。

  (附)コラム「寰球東隅」開設のお知らせ:東北アジア地域は一貫して大国の力が相交わり、衝突する地域であり、特に冷戦後は、ソ連が解体し、中国が台頭し、日本が「普通の国」になるためにありとあらゆる手を尽くし、これらに加え、この地域で広範な利益を持つアメリカの存在もあり、東北アジア地域における大国関係は錯綜し、複雑であり、その変化は測るべくもない。東北アジア情勢の変化は、アジアひいては世界全体の政治経済構造に対して非常に重要な影響を及ぼすと言えるだろう。そのため、コラム「寰球東隅」は、朝鮮半島問題の専門家で、浙江大学韓国研究所の客員研究員である李敦球氏を特約評論員に招き、東北アジア地域の焦点の問題について大いに論じてもらい、読者に供することにした。

 中国共産党に直結しているといっても過言ではない、極めて影響力のある中国青年報が東北アジア情勢を専門に扱う特設コラムを新設したことだけでもすこぶる注目を要することだと思います。しかも、中国青年報がその新設コラムのいわば専属の執筆者として、あまたいる朝鮮問題専門家の中から特に李敦球を招いたということは、李敦球の朝鮮半島に関する分析・見方が重視されていることを示すものでしょう。
朝鮮が第1回の核実験を行った2006年以後、中朝関係は微妙さと複雑さを増してきました。特に2012年12月の朝鮮の人工衛星打ち上げ以後は、中国が安保理決議に基づく対朝鮮制裁に踏み切るなど、習近平体制の中国と金正恩体制の朝鮮との関係は明らかに冷却しています。そういう中朝関係のもとで、2013年から14年にかけては、中国メディアにおいては朝鮮に対する批判的論調が目立って増えてきたというのが私の実感でした。そういう中で極めて異彩を放つ(もっと言えば、朝鮮の立場について公正な見方を心掛ける)分析・見方を示す専門家として、私は李敦球に注目したのです。
あまり憶測を逞しくすることは控えるべきですが、すでにこのコラムでも紹介したように、在朝鮮中国大使が朝鮮側に「一帯一路」構想を紹介するなど、中国が中朝関係の改善を目指す模索を行っていることも窺えます。そして、朝鮮半島情勢の最大の争点は朝鮮の核問題です。「寰球東隅」の最初の文章として李敦球が取り上げたのがまさにその核問題であるということは極めて注目すべきでしょう。
そして、この文章の強調点は、朝鮮だけを論難するのはおかしいこと、米韓こそが朝鮮半島核問題を作り出したのであり、問題解決に対して自らが率先垂範するべきであること、特に韓国は問題解決に逆行する行動は現に慎むべきであることなどの諸点を指摘するものであることもまた極めて注目する価値のあるものであると思います。
習近平・中国は、朴槿恵・韓国との関係を極めて重視していますが、こと朝鮮半島の核問題に関しては、朴槿恵政権がアメリカに対する傾斜を深めていることに対して違和感を強めていると思われます。そういう背景のもとで発表された李敦球の文章であるということを踏まえて一読してください。

最近、朝鮮の核問題にかかわる2つのニュースがメディアで大いに注目されている。一つは、韓米両国が4月にソウルで韓米原子力協定の改正に署名したことであり、このことは、アメリカが韓国の原子力開発の手綱を弛めたことを意味している。もう一つは、5月にアメリカ科学者連名(FAS)が編集した「韓国は如何にして核兵器を獲得し配備するか」という報告が、「韓国が核武装を決意すれば、5年以内に数十発の核弾頭を製造できる」と指摘したことである。この報道が事実であるとすれば、朝鮮半島の核問題に新たな変数が加わるかもしれない。
朝鮮半島の核問題は一貫して東北アジアを悩ませてきたが、これまで人々の関心は朝鮮に向けられてきた。しかし事実としては、朝鮮半島の核問題は米韓に起因するのであり、早くも冷戦時代には、アメリカは韓国に1000に上る戦術核兵器を実戦配備していたことがある。1975年、アメリカのシュレジンジャー国防長官はメディアとのインタビューに際して、「我々は韓国に戦術核兵器を配備していることを周知せしめる必要がある」と公式に承認した。これは、アメリカが朝鮮に対して核の脅迫を行った最初である。
1978年、米韓は「米韓共同防衛条約」を締結し、アメリカは韓国に対して「核の傘」を提供した。それと時を同じくして、韓国は秘密裏に核武装の研究開発を行った。2004年8月1日、韓国アジア大学名誉教授の金哲は次のように公開の席で述べた。
20世紀の70年代に朴正煕大統領(当時)が核兵器を開発するように秘密で指示し、金哲は当時原子力研究所で核燃料再処理業務を担当していて、当時、当該研究所がフランスの会社Saint Gobain Techniques Nouvellesに委託して1974年10月1日に作成した核燃料再処理施設コンセプト設計書及び付属設計書の2冊を保管し、さらに1975年1月10日に作成した再処理施設基本設計書があり、これらが韓国の核兵器開発計画の核心となった。

あるアメリカ高官は2004年に、「我々の知っているところによれば、韓国は20年前に少量のプルトニウムを使って濃縮実験を行った」と述べたことがある。高度に濃縮したウラン及びプルトニウムは核兵器を製造する原料とすることができるのであり、韓国は1985年当時には核兵器を製造する能力を持っていたということだ。韓国政府は、韓国原子力研究所の科学者が、2000年にレーザー技術を利用して非軍事用核燃料の科学実験を行ったこと、その実験過程で「偶然に」0.2グラムの濃縮ウランを抽出したが、その後関連設備を廃棄したことを公式に認めた。このことに関して朝日新聞社説は、韓国のこの実験は1992年に朝鮮半島の南北双方が締結した「南北非核化宣言」に違反したものであると指摘した。
朝鮮半島の核問題は極めて複雑であり、韓国もまた核の敷居のすれすれにいる。4月30日付の朝鮮の『労働新聞』は、朝鮮祖国平和統一委員会書記局が29日、米韓が署名した韓米原子力協定改定を非難し、朝鮮はさらに自らの核抑止力を強化すると述べる声明を発表した。朝鮮半島の非核化は東北アジア各国の要求及び共通認識であり、以上に述べた事実から明らかなとおり、アメリカ、朝鮮及び韓国は相応の責任を担うべきである。
筆者は、冷戦こそが朝鮮半島問題の真の原因であると認識する。戦後初期に米ソは「38度線」を作りあげて朝鮮半島の分裂を招致し、南北分裂と対峙が朝鮮戦争及び韓米軍事同盟をもたらし、アメリカ軍の韓国駐留と大量の核兵器の配備をももたらし、そのことが同時に、朝鮮の「核を以て核に応える」という核兵器開発戦略を導き、朝鮮の核危機を引き起こした。韓国は、調停者の役割を担わず、南北間の軍事競争の中で競争を加速する役割を演じてきた。
5月中旬、韓国の尹炳世外相とアメリカのケリー国務長官は、会談の中で、朝鮮に対する連合した抑止力をさらに強化し、朝鮮に対する圧力を強め、朝鮮に変化を迫ると述べた。朝鮮半島が非核化を実現するべきであることはそのとおりだ。しかし、米韓の思考ロジックと行動方式が合理的で妥当であるかに関しては検討する価値がある。中国は一貫して平和的に対話の方式で朝鮮半島の核問題を解決することを主張している。
米韓が本当に朝鮮をして核武装を放棄させることに誠意があるのならば、自らの責任を回避するべきではない。アメリカは世界No.1の核兵器大国として、米韓同盟と朝鮮の軍事力との対比において絶対的優位にあり、その責任は免れることができない。米韓は、「頭ごなし」に「命令する」傲慢な態度を放棄し、朝鮮と対等に話し合うべきであり、実際に垂範するべきである。米韓がひたすら制裁と軍事的威嚇によって朝鮮に核の放棄を迫り、自らは吾関せずということであれば、その結果は望むようなものにならず、むしろ逆の結果を招く可能性が大きい。
朝鮮半島の非核化を実現するプロセスにおいて、米韓は、朝鮮の安全保障に対する合理的かつ切実な関心と冷戦から抜け出したいという切実な願いとを真剣に考慮するべきである。朝鮮は一貫して冷戦の束縛を抜け出したいと希望しており、その根本的な要求は2点である。第一は、停戦協定を平和協定に変えるという要求である。第二は、朝米関係の正常化を実現するという要求である。段階的に朝鮮半島の冷戦メカニズムを除去するのと同時に朝鮮が核を放棄するということこそが、朝鮮半島の核問題を解決する根本的方法ではないか。
朝鮮半島の非核化が困難に直面している時、韓国は自らの核開発問題には慎重に対処するべきであり、新たな変数を加えるようなことは絶対にあってはならない。