「一帯一路」と朝鮮(李敦球文章)

2015.05.28.

5月27日付の中国青年報は、中国の朝鮮問題専門家として私がもっとも注目する一人である李敦球署名の「東北アジア大陸橋を通す意義はとりわけ大きい」と題する文章を掲載しました。この文章は、中国の「一帯一路」構想を東北アジアにおいて実現する上で朝鮮が占める重要性を指摘するとともに、この面での建設的発展を展望する上では、朝鮮に対して核放棄を前提条件として要求することは「最善の選択」ではないと指摘している点で注目されます。李敦球の文章の多くは、人民日報系列の環球時報とともに中国共産主義青年団直系の中国青年報に掲載される点にも要注目だと思います。短い文章ですが、訳出して紹介しておきます。

  中国の駐朝鮮新任大使である李進軍は、先月平壌で朝鮮の李龍男貿易相を表敬訪問し、「一帯一路」構想を紹介し、双方が協力してチャンスをつかみ、中朝経済協力を新しい時代・情勢の下で新しい段階に進め、両国人民に利益をもたらすことを希望した。韓国メディアは、これをもって中国が朝鮮に対して「一帯一路」に加わることを要請したものと見なしている。韓国メディアの解説が正しいかどうかはここでは論じない。駐朝中国大使館WSの報道から見れば、李大使の今回の李龍男表敬訪問は、彼が信任状を提出してからの最初の外交活動であり、中国が中朝経済協力を重視していることの最新のシグナルと理解することも可能である。
  朝鮮は東北アジアの中心に位置し、中露日韓という4つの経済強国の隣国である。「背に中露をよりどころにして、日韓と向きあう」朝鮮は、中露を日韓とつなげる一大陸橋である。朝韓関係などの要因もあってこの橋は今のところ通っておらず、朝鮮の後進性と貧困との重要な原因の一つともなっているが、このことはこの大陸橋の価値がないということを表すものではない。中国は現在「一帯一路」建設計画を実施し、東北三省はすでにこの計画に組み込まれており、この大陸橋を推進して通すとともに、「中朝韓経済走廊」を建設することは大いに必要である。(中国)東北地方の経済を振興するためには、中朝韓経済協力及び東北アジアの地域協力を切り離すことはできず、そのことは経済上の多国間のウィン・ウィンを実現することを可能にするだけでなく、地縁戦略的意義も極めて大きい。
  東北アジア大陸橋を通すことは、必要であるだけではなく、可能性をも備えている。朝鮮は嘗て日本に占領され、その占領期には、中国に植民するため、日本は朝鮮の開発を東北地方に対する植民政策と連結させることを非常に重視した。朝鮮の鉄道を例に取れば、朝鮮の鉄道はあまり先進的ではないが、その鉄道網は中国東北地方の鉄道網と高度につながっている。朝鮮の羅津を経由して図門及び敦化経由で長春に至ることができ、北京・ハルピン路線とつながっている。朝鮮の南浦駅から鉄道によって吉林省の集安市に至ることができ、さらに梅河口、四平などを経由して内蒙古地域にまで延伸することが可能だ。羅津鉄道経由で図門市に至ってからは、鉄道で牡丹江市に直行できるし、牡丹江経由で佳木斯さらには松花江流域まで通じることができる。
  日本は、朝鮮を植民地としていた時に、京義線(当時はソウルから新義州に至るものだった)などの鉄道幹線を敷設し、丹東市から新義州経由でソウルまでは数時間で着けた。また、朝鮮の南浦及び元山は、中国と日本を結ぶ最高の港湾であり、中国の貨物を元山経由で日本に運ぶ場合は、大連や青島経由である場合より、コストを約1/3ほど節約できる。貨物を陸路で韓国に運ぶ場合には、コストは海路の1/5で済む。ロシアが韓国、日本に石油や天然ガスを輸出する上でも朝鮮を経由する必要がある。韓国及び日本の貨物も、釜山で汽車に積んで欧州に運ぶことができる。
  以上から明らかなように、東北アジア大陸橋を通すことは、中露日韓朝蒙という東北アジア6ヵ国の経済貿易開発に巨大なチャンスと利益をもたらすのであり、域内のすべての国々が支持し参加する可能性がある。まったく関係がないのはアメリカだけだ。したがって、東北アジアの地域協力を発展させるためには、朝鮮が参加することがカギとなる。朝鮮の参加なしには東北アジアの地域協力は最低限として不完全であり、ひいては本当の意味での東北アジア地域協力を語る余地もなくなる。
  金正恩は、政権について以来非常に経済建設を重視し、朝鮮に適した経済発展の道筋を探してたゆまぬ努力を払ってきた。韓国メディアの報道によれば、2012年以来、朝鮮は一貫して緩やかな経済成長を続けており、1月14日付の朝鮮中央通信は、朝鮮が13の経済特区を発展させるブルー・プリント計画を制定し、この計画はすでに朝鮮最高人民会議を通って全国に及び、工業、ツアリズム、農業及び輸出製造などの分野をカバーし、国際経済協力を増進することを目指している。周知の原因により、朝鮮の外資導入は必ずしも順調ではないが、朝鮮は対外開放を希望しており、朝鮮経済が世界に向かう足取りも停滞することはないだろう。したがって、条件さえ熟せば、朝鮮は東北アジア大陸橋を通すことに自ら参加するだろう。
  東北アジア大陸橋を通すためには、さらに次の3つの問題を解決しなければならないことに留意するべきである。
  第一に、朝韓は必ず和解を実現しなければならない。朝韓が和解できない状況のもとでは、朝韓を連結する鉄道及び道路は38度線を跨ぐことは不可能であり、これが隘路になる。朝韓和解(統一ということではない)が東北アジア地域協力にとって非常に重要な意義があることを東北アジア各国は理解するべきであり、朝韓双方が努力する以外に、国際社会も朝韓が和解を実現するために大いに働くべきである。
  第二に、朝鮮の核問題に如何に対処するかである。朝鮮半島の非核化を追求すると同時に、半島を中心にした東北アジア地域経済協力を排斥するべきではない。仮に半島の経済開発及び協力に対して核廃棄という前提条件を設定するならば、局面を悪循環に陥らせるだろうから、核問題解決にとっての最善の選択ではないだろうし、東北アジア大陸橋を通すことはさらに不可能になるだろう。朝鮮を東北アジア経済協力の大潮流の中に溶け込ますことができれば、最終的に朝鮮の核問題を解決することに対してプラスのエネルギーを提供することもできるかもしれない。
  第三に、如何にアメリカと東北アジア地域協力との矛盾に対処するかである。アメリカは、東北アジアひいてはアジア太平洋地域の秩序を規制するため、朝韓の和解を望んでいないし、朝鮮半島を中心とする東北アジアの地域経済協力にも参加しないだろう。したがって、各国共同の経済的利益のためには、アメリカによる干渉を如何に排除するかということも、東北アジア6ヵ国が共同で対処する必要がある問題である。