安倍訪米の「成果」と問題点
-変質する日米軍事同盟の政治軍事的意味-

2015.05.06.

4月26日から5月3日までアメリカを訪問した安倍首相は、4月27日の日米安全保障協議委員会(「2+2」)による共同発表「変化する安全保障環境のためのより力強い同盟―新たな日米防衛協力のための指針―」による日米新ガイドラインの決定を踏まえて日米首脳会談に臨み、その後の共同記者会見では、「今日、我々は米日同盟の歴史に新しいページを開いた。それは、世界における日米同盟である」と、新ガイドラインの本質を自ら誇示しました。これほどアケスケに日米軍事同盟の変質を語った首相はこれまでにいません。
昨年8月に集団的自衛権行使を「合憲」とする閣議決定を強行した安倍政権は、今や公然と、アメリカの軍事戦略に緊密に寄り添う(浅井注:終戦詔書史観に染まった安倍首相にとってはおそらく唯一不本意な、しかしこの方法以外に自らが目指す日本の軍事大国への道は現実的にあり得ないと見極めた上での妥協)という形で、軍事大国への道を邁進することを宣言したのです。この高ぶった表現からは、日米安保条約改定を「成し遂げた」祖父・岸信介に匹敵する「偉業」を成し遂げたという自負、昂揚感すら漂います。
世界的に影響力低下が進む中で、今や経済財政的に身の丈に余ることが明らかなアジア・リバランス戦略にあくまでしがみつこうとするオバマ大統領にとっても、日本を全面的に自らの戦略の中に取り込むことができることは、2期にわたる政権運営を通じて最大の成果の一つであることは間違いなく、安倍首相訪米を手放しで歓迎したのも無理はありません。
アメリカ国内では、安倍訪米を前にして、議会、メディア、専門家を中心にして、いわゆる従軍慰安婦問題ひいては安倍首相の歴史修正主義に対する批判の声が高まっていましたし、TPP問題では打開の糸口が見つからなかったにもかかわらず、オバマ大統領がひたすら歓迎ムードに徹したのは、新ガイドライン成立による日米軍事同盟の「NATO並み化」実現を獲得したことに満足したからにほかなりません。新ガイドラインを具体化するための日本国内の「法整備」が実現した暁には、「世界の日米軍事同盟実現」がオバマ政権の最大の歴史的「成果」の一つとしてカウントされるという読みがあるはずです。
しかし、日本にとり、また、21世紀の国際社会にとっては、安倍及びオバマにとっての「成果」は、極めて深刻な問題を提起するものにほかなりません。新ガイドラインに基づいて変質する日米軍事同盟の政治軍事的意味及び歴史認識にかかわる日米両首脳のアプローチの2点を中心にして、2回に分けて安倍訪米の「成果」と問題点を整理します。今回は「変質する日米軍事同盟の政治軍事的意味」を検討します。

<新ガイドラインの本質>
  外務省WSの紹介するところによりますと、日米首脳会談の冒頭発言において、オバマ大統領は、「様々な国際場裡やグローバルな課題への取組において、日本ほど心強いパートナーは存在しない。安倍総理の勇気と強さは、米国にとっても世界にとっても重要である」と手放しで安倍首相を賞讃したと紹介されています。その上で両首脳は、「4月27日に行われた日米「2+2」の成功を評価し、そこで発表された新ガイドラインの下、同盟の抑止力・対処力が一層強化されることを確認した」のです。
日米首脳会談後の共同記者会見においても、オバマは次のように安倍を讃え、新ガイドラインの意義を極めてストレートな表現で強調しました。

「彼(安倍)は、日本が…地域及び世界の安全と平和により大きな貢献を行うというビジョンを追求している。我々が今日成し遂げた成果は、今後数十年間にわたる米日パートナーシップを導くことになるだろう。特に我々は、我々の安全保障同盟を変質させること(transforming)について話し合った。この20年間ではじめて、我々は両国の防衛ガイドラインを更新した。両国軍隊は、海洋安全保障から災害対応に至る様々な挑戦についてより弾力的、より迅速に協力できるようになるだろう。両国軍隊は、より緊密に計画、訓練、作戦を行うことになるだろう。我々は、サイバーの脅威及び宇宙を含め協力を拡大するだろう。そして日本は、アジア太平洋及び世界において、より大きな役割と責任を担うことになるだろう。」
また、オバマは尖閣、南シナ海、朝鮮、多国間協力についても次のように言及し、安倍の心をくすぐりました。
「我々の日本の安全に対する条約上のコミットは絶対であり、第5条は尖閣諸島を含む日本の施政下にあるすべての領域をカバーすることを繰り返したい。我々は、南シナ海における中国の埋め立てと建設活動に対する関心を共有しており、米日は、航行の自由、国際法の尊重、圧力のない下での紛争の平和的解決にコミットする点で団結している。 我々はまた、朝鮮半島の平和的非核化を求め、北朝鮮の挑発に対処する点でも団結している。我々は、日本市民に対する北朝鮮の拉致という悲劇を解決しようとする日本の努力も全面的に支持する。…韓国及び豪州との三国間協力が増大していることは、地域の安全保障を高めることに新たな可能性を付与している。」
  ちなみに、オバマの以上の発言は、首脳会談に伴って発表された「日米共同ビジョン声明」の次のくだりの内容をあらましなぞったものであることが分かります。
  「新たな日米防衛協力のための指針は、同盟を変革し、抑止力を強化し、日米両国が新旧の安全保障上の課題に長期にわたり対応していくことを確実なものとする。新たな指針は、同盟内の各々の役割及び任務を更新するとともに、日本が地域の及びグローバルな安全への貢献を拡大することを可能にする。新たな指針は、この地域及びそれを越えた地域において、日米両国が海洋安全保障を含む事項についてより緊密な形で取り組み、我々が希求するところを共有する他 の国々と連携することを可能にする。日米両国がグローバルな射程を有するようになった同盟を強化する中で、米国は、日本における安定的で長期的な米軍のプ レゼンスを基礎として、日米安全保障条約に基づく自らのコミットメントの全てについて固い決意を持っており、揺らぐことはない。」
その後に発言した安倍首相も、次のように新ガイドラインの本質を赤裸々に表明しました(ホワイトハウスWSの英文から翻訳。強調は浅井)。
  「今日、我々は半世紀を超える米日同盟の歴史に新しいページを開いた。それは、世界における日米同盟である。…絆の固さを特徴とする米日同盟は、アジア太平洋のみならず世界の平和と安定にとって今や不可欠である。両国は、現状を一方的に変更しようとするいかなる試みにも反対する決意において団結している。いかなる紛争も、強制または恫喝を通じてではなく、国際法に基づいて平和的に解決されるべきだ。日本はアジア太平洋に力点を置くアメリカのリバランス政策を歓迎する。オバマ大統領は日本の積極平和主義の原則に対する支持を表明した。この二つの政策を協調することを通じて、日米同盟の抑止力がさらに強化されることは疑いない。」
  新ガイドラインに基づく日米軍事同盟の変質は、1990年を起点としてちょうど四半世紀をかけたアメリカの執拗な対日働きかけの所産です。
湾岸危機・戦争以来、アメリカは世界中に軍事網を張り巡らせる戦略を追求してきました。アメリカは、ソ連という脅威が消滅した後の1991年にNATOの新戦略概念を定め、その後の実践を踏まえて1999年及び2010年に改定を行ってきました。こうして形成された戦略の根本に座るのが、平時から戦時に至る、あらゆる事態に切れ目なく対処できる軍事同盟の構築です。アメリカは、日米同盟についても、米ソ冷戦終結に適応して役割を転換させ、アメリカの世界軍事戦略に適応させることを追求してきました。
ただし、アメリカの対日アプローチは次のような段階を経ました。まずアメリカは、湾岸危機・戦争(1990-1年)に際して、日本に対して「カネだけではなく血も流せ」という要求を突きつけました。これをきっかけに、日本国内では「軍事的国際貢献」が議論されることになり、PKO法に基づく自衛隊の海外派遣への道がこじ開けられました。
次に、アメリカは「北朝鮮核疑惑」(1993-4年)を口実にして朝鮮に対する本格的軍事力行使を画策しましたが、出撃・兵站拠点となるべき日本がまったく対応できないことを思い知らされました。そこでアメリカは、いわゆるナイ・イニシアティヴのもと、日本を「戦争できる国」に変えるための働きかけを強め、1978年のガイドラインを改定(1997年)させて、周辺事態法を作らせ、いわゆる有事法制への突破口としました。
さらにアーミテージ報告(2000年)以後は、アメリカは日本が集団的自衛権行使に踏み込むことを要求してきたのです。いわゆる9.11事件を受けたアメリカの対テロ戦争に協力するべく、小泉政権は大車輪で有事法制を仕上げ、「戦争できる国」へ邁進しました。しかし、小泉政権は、「集団的自衛権行使は第9条下で認められない」とする法制局の憲法解釈を強行突破する一歩前でとどまり、したがってその有事法制は日米両政府にとって「欠缺」のあるものでした。
小泉政権で官房副長官を務めた安倍首相にとっては、集団的自衛権行使に踏み込むことは、有事法制の「欠缺」を埋め、アメリカの対日軍事要求を100%満足させる上で不可欠であり、待ったなしの課題と捉えられたであろうことは想像に難くありません。第一次安倍政権は短命に終わりましたが、満を持して2012年に再登場した第二次安倍政権は、2010年のNATOの戦略概念に体現されている、「平時から戦時に至る、あらゆる事態に切れ目なく対処できる」日米軍事同盟の構築を目標に据えたのです。その成果が新ガイドラインであり、それゆえに、上記安倍及びオバマの最大級の自画自賛の言葉となったわけです。

<新ガイドラインと中国>
  以上に紹介した日米両首脳の共同記者会見の発言にも明らかなとおり、新ガイドラインが中国という存在を強く意識していることは間違いありません。日米首脳会談においては、地域情勢としてアジア情勢、ウクライナ情勢及びイランが取り上げられたとありますが、外務省WSの紹介によれば、アジア情勢が中心を占めたことは明らかです。中国関係では、バンドンでの日中首脳会談に関する安倍による紹介、アジアインフラ開発銀行に対する意見交換とともに、次の紹介があります。

  「両首脳は、日米が中核となり、法の支配に基づく自由で開かれたアジア太平洋地域を維持・発展させ、そこに 中国を取り込むよう連携していくことで一致した。また、中国のいかなる一方的な現状変更の試みにも反対することを確認した。オバマ大統領からは、日米安保 条約第5条が尖閣諸島を含む日本の施政下にある全ての領域に適用される旨改めて発言があった。」
  また、すでに紹介した「日米共同ビジョン声明」にも次のくだりがあります。
  「今日、国際的な秩序は、暴力的過激主義からサイバー攻撃に及ぶ新たな課題に直面している。力や強制により一方的に現状変更を試みることにより主権及び領土一体性の尊重を損なう国家の行動は、国際的な秩序に対する挑戦となっている。そのような脅威は、日米両国が構築してきた多くのものを危険にさらす。日米両国は、他の同盟国及びパートナーと協調して、再び順応しなければならず、また、実際にそうするだろう。」
外務省WSによりますと、日米首脳会談に伴い、「より繁栄し安定した世界のための日米協力に関するファクトシート」なる性格のはっきりしない文書も作られたようですが、その中の「地域及びグローバルな安定を促進するための協力」という項目においても、「海洋安全保障」としてあげられている次の2点は、明らかに中国を念頭においています。
「航行及び上空飛行の自由並びに海洋紛争の平和的解決を含む国際法の尊重を促進」
「アジア太平洋地域における海上保安及び海洋安全保障のための能力構築支援を調整」
また、安倍首相は米議会演説の中で次のように述べましたが、中国を念頭においていることは誰の眼にも明らかです。
「アジアの海について、私がいう3つの原則をここで強調させてください。   第一に、国家が何か主張をするときは、国際法にもとづいてなすこと。第二に、武力や威嚇は、自己の主張のため用いないこと。そして第三に、紛争の解決は、あくまで平和的手段によること。   太平洋から、インド洋にかけての広い海を、自由で、法の支配が貫徹する平和の海にしなければなりません。   そのためにこそ、日米同盟を強くしなくてはなりません。私達には、その責任があります。」
このように見てきますと、日米両首脳が対中強硬姿勢で完全に一致しているかのような印象を受けます。しかし、首脳会談後の共同記者会見における、AFP記者の質問に答えたオバマ大統領の次の発言を見ますと、安倍首相が強硬一本槍なのに対して、オバマ大統領は安倍首相と一線を画そうとする姿勢が明らかに読み取れます。この点に関して中国側がどのように受けとめたかについては、また改めて紹介するつもりです。
(AFP記者の質問)「より積極的になった米日の安全保障上の立場はリスクがあると考えるか。北京、平壌が挑発だと見なす、あるいは南シナ海や東シナ海での緊張を高めるリスクがあると思うか。」 (オバマ)「米日同盟が挑発と見なされるとは考えていない。…我々は、中国の平和的な台頭を歓迎している。… (米日同盟が)新しい挑戦(浅井注:サイバーを例示)に適応し続けていくことは重要だと思う。海洋関連の論争によって起こりうる紛争の可能性にも速やかに対応する。しかし、そうするに当たっては、中国その他の国々が地域の秩序と平和を維持する共通の努力に参与するようにしなければならないと思う。 また、同盟を強化すると同時に、中国との軍同士の協力を強化しようとしている。… 中国の海洋問題に対するアプローチ及びその主張をめぐって中国との間に緊張があるという事実を過小視するつもりはないが、この問題は米日同盟の結果として起こっているわけではない。この問題は、中国と東アジア及び東南アジアの様々な相手(claimants)との間の紛争であり、当事者たちは、通常の国際紛争解決よりも、力を誇示しようとしている。そして、アメリカは、中国にも他のいかなる国に対しても、「そういうやり方は間違っている」と言ってきた。我々はこれからも、まずは条約上の同盟国からはじめて、地域のすべての国々と協力し、基本的な国際規範が遵守されるようにしたい。」
なお、アジアインフラ開発銀行(AIIB)に関する記者の質問に対するオバマ大統領と安倍首相の発言にも明らかにニュアンスの差が見られました。比較的好意的にAIIB問題を受けとめる発言を心掛けるオバマ大統領に対して、安倍首相はひたすらケチをつける発言に終始したのです。

<安倍訪米における朝鮮問題の扱い>
  新ガイドラインの内容及び中国の扱いの陰に隠れた観がありますが、今回の安倍訪米においては、朝鮮問題がどのように取り扱われたかについても見ておく必要があります。
まず首脳会談においては、次のように紹介されています(外務省WS)。

「北朝鮮に関し、安倍総理より、日本は、核、ミサイル、拉致といった諸懸案の包括的解決を目指すとの方針で一貫していることを説明した。両首脳は、北朝鮮の核・ミサイル問題への対応で日米韓の連携を改めて確認した。また、安倍総理から、拉致問題の早期解決に向けた決意を述べ、オバマ大統領からは、改めて理解と支持の表明があった。」
「日米共同ビジョン声明」では次のように述べています。
「日米両国は、…北朝鮮の核及びミサイルの脅威並びに人権侵害及び拉致に立ち向かい…協力してきた。」
今回の訪米に際しては、「NPTに関する日米共同声明」と題する文書も発表されました(外務省WS)が、そこには、次のくだりがあります。
「我々は、北朝鮮による完全で検証可能かつ不可逆的な非核化を達成するための外交的プロセスにコミットし続ける。我々は北朝鮮に対し、2005年六者会合共同声明におけるコミットメントを守るための具体的な行動をとり、関連する国連安全保障理事会決議の義務を完全に遵守し、核実験や弾道ミサイル発射を含めた更なる挑発を自制し、NPT及びIAEA保障措置に復帰し、自らの不拡散義務を完全に遵守するよう求める。」
日米首脳の共同記者会見におけるオバマ大統領の冒頭発言中の朝鮮への言及はすでに紹介しました。注目されるのは、安倍首相は共同記者会見ではもっぱら中国批判に終始し、朝鮮に対する批判の発言はなかったことです。いわゆるストックホルム合意に基づいて日朝交渉が再開されて以後、安倍政権が朝鮮を脅威呼ばわりすることもめっきり減り、「中国脅威論」が前面に押し出されましたが、そういう認識が部首相の共同記者会見にも反映されています。
また、1997年ガイドラインが「朝鮮有事」を口実にして作られたのに対して、今回の新ガイドラインは、世界規模の日米軍事同盟実現を目指しています。したがって、「北朝鮮脅威論」は付け足しの動機づけに留まるのです。したがって、今回の日米首脳会談の内容、発表された「NPTに関する日米共同声明」、共同記者会見でのオバマ大統領の発言において、朝鮮は核・ミサイル問題及び「拉致」問題との関連で取り上げられているに過ぎないというわけです。しかもこれらの文書・発言のいずれにおいても、朝鮮を「脅威」と名指しする言及は一度もありませんでした。この事実ほど、日米両政府が喧伝してきた「北朝鮮脅威論」が虚構でしかないことを証明するものはないでしょう。
  ただし、新ガイドラインにおいては、2つのケースが明らかに朝鮮を念頭においた規定になっています。
一つは弾道ミサイル対処です。新ガイドラインは3段階に分けて「切れ目のない」対処を定めています。即ち、「平時」には「挑発的なミサイル発射…に対処」、「日本に対する武力攻撃」には「弾道ミサイル攻撃の兆候…に対して防衛」、「日本以外の国に対する武力攻撃」には「弾道ミサイルの迎撃において協力」としています。
平時の「挑発的なミサイル発射」とは、朝鮮の人工衛星打ち上げを念頭においたものであることは明らかです。日本に対する武力攻撃における「弾道ミサイル攻撃の兆候に対して防衛」とあるのは、「兆候」に対して「防衛」ということであり、「先制的自衛権の行使」が含意されていることを読みとる必要があります。「日本以外の国に対する武力攻撃」とは、米韓に対する「攻撃」を想定して、日本が集団的自衛権を行使して協力するということです。具体的には、今後のTHAAD配備を含めた日米協力が念頭にあることは想像に難くありません。
ちなみに、朝鮮メディアの報道(私が毎日チェックしている朝鮮中央通信社の日本語版及び英語版では5月5日現在報道されていません)として5月3日付の中国新聞網が伝えたところによりますと、金正恩が新しく建設中の国家宇宙開発局衛星コントロール総合指揮所を視察し、宇宙の平和的開発は朝鮮の労働党及び人民が選択した道であり、朝鮮の合法的権利であるとし、今後も今までどおり、党が決定する時間及び地点で次々と打ち上げると強調したとのことです。今年(2015年)は朝鮮半島解放70周年及び朝鮮労働党成立70周年に当たりますので、朝鮮が人工衛星を打ち上げる可能性は十分あります。その時には、新ガイドラインに基づく日米の軍事的対応が行われることは明らかであり、朝鮮半島情勢が緊張することになるでしょう。
もう一つのケースは臨検です。新ガイドラインは「国際連合安全保障理事会決議その他の国際法上の根拠に基づく船舶の検査」に関する日米協力を明記しています。安保理決議とは、2009年5月25日の朝鮮の核実験に対する同年6月12日の決議1874を指します。
臨検は、戦時国際法の下で認められた権利ですが、国連憲章が戦争を違法化したことで、この権利そのものが認められなくなりました。ところが安保理決議は、すべての国々に対し、朝鮮に出入りする朝鮮船舶に対する領域内での臨検及び、安保理決議1718(2006)または決議1874で禁止された品目を積み込んでいると信じるに足る船舶については、旗国の同意を条件として公海上での臨検を要求するとして、本来違法の臨検を「認めた」のです。この決議に対して朝鮮は猛烈に反発し、臨検に対して軍事報復することを明言した経緯があります。
新ガイドラインにより、今後、日米両国は率先して臨検に踏みだすわけで、朝鮮との軍事的緊張のケースが増えることになります。このように新ガイドラインは、朝鮮に対する強硬な軍事対決姿勢を打ち出しています。