日中首脳会談と日中関係

2015.05.01.

 私は、インドネシアのバンドン会議60周年に出席する安倍首相と中国の習近平主席が会談する方向で調整を進めているという報道に関してあるメディアの取材を受けたとき、①多くの国々の首脳が出席するこの会議の性格上、安倍首相が求めれば、習近平主席としてもむげに断ることはできないだろう、しかし、②会議における安倍首相の歴史認識に関する発言が中国として肯定できるものであるならばともかく、そうでなければ、習近平としては通り一遍の挨拶でお茶を濁すのがせいぜいではないか、と答えました。私がそのように述べた背景には、昨年の日中4点「合意」及びAPEC首脳会議に際しての日中首脳会談以後の安倍政権の言動に対して、中国メディアは対日批判のトーンを強めていることが中国政府の意向を反映しているだろうという判断が働いていました。
  しかし、4月22日に実現した日中首脳会談は、正直に言って、私の予想を超えた実質的な会談でした。しかも、バンドン会議における安倍首相の歴史認識にかかわる発言は、私が予想したとおりのひどい内容だったのです。4月24日付の新華社評論「安倍 バンドンで表面を取り繕い、歴史を正視する好機を失う」も、「この表明は表面を取り繕ったに過ぎない。…表面的には安倍は「反省」と言っているが、何を「反省」したのかについては語っていない。…日本という国家のイメージのトップ・セールスマンである日本の指導者が国際舞台で歴史を正視する好機を再び失った。安倍の「反省」の言葉の直後に、安倍政権の3名の女性閣僚が靖国神社を参拝した。これは、「正義を尊重する」バンドン精神に対する赤裸々な挑戦である」と酷評したのです。
  また、中国国内においても、「(ジャカルタでの日中首脳会談実現に関して)一部の人々はネット上で今回の会談実現に対して理解できないと表明し、安倍がバンドンで発表した演説において歴史を真剣に反省していないとしている」(後で紹介する4月27日付中国網所掲の暁岸署名文章)という紹介があるように、今回行われた日中首脳会談に対しては、中国国内にもとまどいがあることは間違いありません。
  私は、自らの判断が間違った原因はどこにあるのかを考えています。その原因を突き止めなければ、これからも同じような誤りを犯す可能性があるわけですから。そのためのプロセスとして、まず、日中首脳会談における双方の発言内容を、中国外交部WSに発表された文章によって確認します。次に、今回の日中首脳会談を肯定的に評価した4月24日付環球時報社説と4月27日付中国網所掲の暁岸署名文章が、どのように肯定的に評価しているかを見ます。その上で、この二つの文章に対するコメントを含め、私自身の判断の誤りの原因がどこにあったかを再検討してみようと思います。

1.日中首脳会談における双方の発言内容

 4月22日の中国外交部WSは、「習近平、日本の安倍首相と会見」という見出しで、日中首脳会談の中身を次のように紹介しました(強調は浅井)。
ちなみに、習近平は22日には、インドネシアのジョコ大統領、ミャンマーのテイン・セイン大統領、また23日にはジンバブエのムガベ大統領、イランのロウハニ大統領、カンボジアのフンセン首相とも会談しましたが、中国外交部WSは、安倍首相との会談を含めておおむね同じ分量で扱っています。
大きな違いがあるとすれば、これら諸国指導者との会談に際しては、王濾寧(中央政治局委員、中央政策研究室主任)、栗戦書(中央政治局委員、中央書記処書記、中央弁公庁主任)及び楊潔篪(国務委員)などが参加したとありますが、安倍首相との会談に際しては楊潔篪だけの名前がある点です。この違いは、APEC首脳会議の際に習近平が諸国指導者と会見した際と同じです。また、写真で確認できる限りでは、諸国指導者との会見・会談に際しての冒頭写真では両国の「国旗」が背景に写っていますが、安倍首相との会見・会談に際しての冒頭写真は背景に「国旗」がないことも前回と今回で同じです。

習近平は次のように指摘した。中日関係を扱う大原則は、中日間の4つの政治文書の精神に厳格に従い、両国関係を正しい方向に沿って発展させることである。昨年、双方が達成した4点の原則の共通認識はそういう思想を集中的に体現している。歴史問題は、中日関係の政治的基礎にかかわる重大な原則問題である。日本がアジア隣国の関心に真剣に向きあい、対外的に歴史を正視する積極的な発信を行うことを希望する
習近平は次のように強調した。中日双方は、積極的な政策を互いに行うべきである。我々は、日本側と対話及び意思疎通を強化し、信頼を増加して疑いを解き、中日間の4つの政治文書の中にある、「中日は互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない」ことに関する共通認識を広範な社会的認識に転化させることを願っている。双方は、様々な領域での交流を引き続き行い、両国人民の相互理解と認識を増進するべきである。中国が提起した「一帯一路」及びアジアインフラ開発銀行の提案は、国際社会の普遍的な歓迎を受けている。
習近平は次のように指摘した。平和、発展、協力及び共嬴は、もはや不可逆的な時代の潮流である。中国は平和発展の道を確固として歩んでおり、日本に対しては、中国とともに平和発展の道を歩み、共同して国際及び地域の平和、安定、繁栄のためにさらなる貢献を行うことを希望する。両国の指導者は、このために果たすべき責任を担うべきである。
安倍晋三は次のように表明した。再び習近平主席に会えて非常に嬉しく、私は日中関係を改善することを希望している。日中関係の発展は、両国人民及び世界の平和と発展にとって有利である。私は、日中両国の発展が互いに脅威とならないということに完全に同意する。日本は、双方が昨年達成した4点の原則の共通認識を実行に移し、両国の様々な分野における交流と対話を積極的に推進し、両国人民の相互理解を増進することを願っている。私及び内閣は、「村山談話」を含むこれまでの歴代政権の歴史問題に関する認識を多くの機会に誓約してきたし、今後も継続して堅持したいと思っている。この立場が変わることはあり得ない。日本は、引き続き平和発展の道を歩む決心である。日本は、アジア地域のインフラ投資に対する巨大な需要を認識しており、この認識に基づき、アジアインフラ投資銀行問題について中国と検討したい。 楊潔篪等が会談に参加した。

2.日中首脳会談を肯定的に評価した二つの文章

 日中首脳会談を取り上げた文章は、私がチェックした限りでは多くありません。4月24日付の環球時報社説「中日関係は平穏でない中で改善に向かっている」及び4月27日付中国網所掲の暁岸署名文章「中日関係 より多くの善意の政治空間解放」の2つしかありませんでした。これは、後日紹介しようと思っている安倍首相訪米に関する論評が数多く出ているのとは対照的です。しかし、この2つの文章は、習近平主席が安倍首相と会談に踏み切った背景を理解する上で貴重な材料を提供しています。環球時報社説については、人民日報日本語WSが大要を訳出していますが、それをベースに適宜私の訳を交え、全文を紹介します。暁岸文章は長いので、要旨を紹介します。強調は浅井です。

<4月24日付環球時報社説>
 中国の習近平国家主席は22日、求めに応じ、バンドン会議出席のためインドネシアを訪問した日本の安倍晋三首相とジャカルタで会見した。両首脳の会談は昨年11月の 北京APEC会議以来2回目だ。世論は、中日指導者の今回の会見の雰囲気が前回よりも良く、そしてこのことは双方共に中日関係の継続的改善を望んでいることを示したということに注目している。
 中日間の問題は依然存在し、両国関係改善の基礎も脆弱なままであり、今後しばらくの間は、中日両国上層部の接触が次第に増えるとともに、歴史及び領土紛争も折につけ現れるという複雑な入り組んだ局面が出現するだろう
ジャカルタ会見の発言内容から見ると、中国指導者の戦略的な視野及び構造がはるかに優れており、発言の仕方も主に相手に対して道理を説くものだった。安倍の発言はむしろ釈明をしている感じであり、いささか受け身的だった。これもまた、中日関係の全体的な状況のありのままを描写するものだ。
 中日は相互信頼が足りず、常識的に言えば、歴史上の被害国である中国が日本に対してよりいっそう強い「うっぷん」を抱くだけの理由がある。だが実際には、日本の中国に対する「うっぷん」の方がより深刻である。日本が歴史問題で挑発するのは、中国の急速な台頭に対する不快感の歪んだ発散にほかならない。中国は、一方で日本の動きに対応せざるを得ないが、他の一方では日本を超越して、自らの視線を世界に向けている。
 中日友好は双方にとってプラスだ。この共通認識は、両国関係がもっとも困難な時期にも存在している。しかし、この共通認識を妨害する一時的な要素が余りにも多く、中日関係を極めて不安定にさせている。
 アメリカは、中日関係に影響を及ぼす重要な外的な力である。アメリカのホンネは、中日は喧嘩すべきだが、戦ってはならないということであると多くの人が見ている。アメリカは、日本における軍事的プレゼンスによって日本の姿勢に対して微調整を行うテコを握っており、そのことを通じて中日関係に深々と介入することができる。
中国の全体的な戦略能力は不断に高まっており、そのことは、中国の対日関係に対する戦略的主動性を強めている。これは大きな趨勢だ。日本はアジア最大の経済国の地位から転落し、頂点にいた時の影響力を取り戻すことは望めず、戦術的に動きをとることしかできない。日本は「大胆」かつ「柔軟」に、具体的目的のために時々中国を刺激しようとするが、これらの動きは逆に、アジア太平洋の大きな構造において、東京が小さな役回りしかできないように見られてしまうだけである。
 現在全世界が熱烈に注目する「1ベルト1ロード」(原注:シルクロード経済ベルト、21世紀海上シルクロード)とアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、中国が世界との関係を構築する大きな方向性を代表している。中国のもっとも肝要なこうしたステップが中日関係の困難によって妨げられることはなかった。このことは、日本が中国に対してどれほどの影響を及ぼすことができるのか、または妨害することができるのかを改めて評価することを、日本に促すきっかけになるかも知れない。
 どのように議論するかにかかわりなく、中国の平和的台頭のプロセスに日本を取り込むことは中国の根本的利益に合致する。日本にとっても、中国との関係修復は根本的利益に合致する。中日両国の関係が21世紀に悪化することは、戦略的ロジックとしていささか奇怪なことであり、中国のパワーが世界のトップ・レベルに近づいていくに伴い、これら(浅井注:中日関係悪化)の原因は、中国にとってはますます戦術的なものとなっていき、それらに対処することも次第に簡単になっていくだろう。
中日国交正常化以降、両国関係の緊張は小泉政権の時期に始まる。それから10数年が過ぎた。振り返ってみると、中国は経済発展の速度を勝ち取るとともに、国際的な地位の高まり及び戦略空間の拡大をも勝ち取った。中国が中日関係のいざこざに没頭することはなかったが、このいざこざは日本外交の主要テーマとなったかの如くである。歴史問題は中 国を刺激はしたが、それに縛り付けられているのは日本自身だ
 将来の中日関係はやや有望視するに値する。中国の日本に対する重視及び迷いのなさは確固としたものであり、日本のごたごたとした動きもいい加減出尽くしたから、関係改善が中日間の今後の主要な関心となる可能性がある。もしこれを趨勢に変え、継続することができるならば、中国社会にとって、様々な選択肢のうちの比較的「良い」選択であることは間違いない。
<4月27日塚中国網所掲暁岸署名文章>
 (ジャカルタでの日中首脳会談実現に関して)一部の人々はネット上で今回の会談実現に対して理解できないと表明し、安倍がバンドンで発表した演説において歴史を真剣に反省していないとしている…が、歴史問題は、領土問題と同じく、中日関係における長期にわたる難問であり、解決には長期にわたる辛抱が必要である。日本の右翼勢力が猖獗を極め、対外的な冒険的行動がもっとも激しいときには、中日首脳会談を中断することが真っ向から政治闘争を行う上での必要な手段である。しかし、首脳会談を行うか否かを中日関係の風向きを測る唯一の手段とし、中日首脳会談の中断によって日本に圧力をかけ、領土及び歴史という2大問題の徹底解決を図るというのは、現実的でないのみならず、闘争手段の手詰まりということをも意味する
 長期にわたって首脳会談の門戸を閉ざすことは、いたずらに日本政治の右傾化を助け、中国に対する国際的理解を消耗するだけであり、逆に、中国自身の外交的に動きうる空間を狭め、中国国内の社会的政治的動向にもマイナスの影響を与えるだろう。中日関係における敏感な問題に対しては、やはり接触する中で徐々に影響を加え、交渉する中で闘争を行い、情勢を中国の利益になる方向に発展するように誘導する必要がある。長期的にみるとき、中日関係では、紛争があるとなると長期にわたって首脳会談を中止し、会談再開を持ってそれぞれの交渉の値踏みとするパターンから抜け出す必要がある。このようなパターンは、一種の「両負けモデル」となることの方が多い。
 もっと大きな問題は、あまり好きではない日本とアジアにおいて共存することを試す必要があるということだ
 現在の日本の右傾化の根っこは、100年以上前の明治維新の不徹底さ並びに70年前の戦後の清算及び改造の不徹底さにあり、この二つの不徹底さが相乗して今日の日本の国民性における欠陥とねじれとを生みだしている。1990年代以後、日本経済が長期にわたる低迷に陥り、人口構成が国家の長期的な健康な発展にとって不利な段階に移るに従い、政経官体制の硬直化の病、外的戦略安全環境の新たな変化も加わって、日本は明確な社会的保守化傾向を現出し、そのことが政治の右傾化傾向を生みだすに至っている。
 日本は、戦争の罪名を洗い流して完全に普通の国家になろうと急いでいるが、同時に、周辺の事態の変化、特に中国の台頭と朝鮮の「敵意」を、過度に敏感にかつ極めて落ち着きのない気持ちで受けとめている。このような強烈な復興本能と濃密な自意識とがない交ぜになって、今日における日本社会の主流の意識のあり方を形成し、安倍政権を生みだしているのだこれは、戦後日本社会、政治環境及び戦略形態の重大な変化であり、今後10ないし20年にわたる日本の基本的発展方向を固定している可能性がある
 日本が再び軍国主義国家になる可能性は大きくないと信じるべき理由がある。戦後形成された民主政治、国民の平和主義的価値観による制約のほか、極めて重要な原因として、他のアジア諸国が致命的な誤りを犯せば別だが、今日の日本が100年以上前のように、自らの成果に依拠してアジアで独り立ちし、暴力でアジアを主導し、世界を改造しようとする熱を膨らませることはあり得ないことだからだ。
 ただし、日本が軍国主義の道を再び歩むことがないということは、日本が再び必要でもない戦争に自らを巻き込む衝動を消し去ったということと同義ではない。なぜならば、歴史認識、領土紛争、ナショナリズムなどにおける日本と隣国との矛盾は根本的な解決を見るに至っていないからだ。
最大のリスクは日本の対中政策の中に潜んでいることは公認の事実であり、中日関係は戦略的競争へと突き進んでいる。中日双方は、政治関係が全体として良好ではない下でもハイレベルでの意思疎通を保ち、最近では違いをコントロールし、リスク管理の事務レベル協議を復活したとは言え、戦略的ライバル意識、領土海洋紛争、歴史認識の違いなどが並存し、互いに影響し合っているために、中日関係の前途に対しては確信を持つことができない。
両国が目指す解決方法の重点は、何を回避するかではなく、何を積極的に獲得するかに置かれるべきである。中日関係が徐々に改善し、戦略互恵の軌道に戻ることは、中日両国の戦略的な利益並びに現実的及び長期的な必要に合致する。
仏独の経験が最小限証明するのは、何度も戦争を経た宿敵と言えども、相互に和解することは可能だということである。中日関係の前途は、人々が考えるほど悲観的ではないかもしれない。
まず、アジア地域における協力は明らかに趨勢となっており、「東アジア共同体」も夢ではなく、中日が如何に互いを面倒に思っても、相手を排除したり、自分とは無関係としたりすることは不可能であって、いずれ形成されるであろうアジア地域の協力システムの中で如何に共存するかを模索せざるを得ない。 次に、中日両国は、意志、抱負、決断力を持ったリーダーになろうとしており、このことは空前のチャレンジであると同時に、得がたいチャンスでもある。
第三に、中日両国には中日の平和共存、共栄を主張する人々が常におり、その声を再び挙げつつあって、これは、必ずしも有利な雰囲気とは言えない中で、貴重な考え方である。
第四、アメリカは中日関係を調和させる主観的意図はない(アメリカを動かしているのは「アジア太平洋のリーダーシップ」を維持するということだ)が、アメリカはある程度矛盾をコントロールする役割を演じている。将来的には、中米新型大国関係が望みどおり確立し、アメリカがアジアにおいて中国と利益を分かち合わなければならないと認識するに至るときには、中日間で積極的な役割を発揮する可能性も排除できない。
要するに、中日関係にはもっと多くの善意の要素を注入するべきである。中日関係は必ずしもがちがちに凝り固まったわけではなく、中日双方は、戦後70年というチャンスを捉え、善意の政治というボタンを起動するべきである
隣国の諒解を得る前に、日本としては二つのことを避けて通るわけにはいかない。一つは本当の反省をすることである。もう一つは、恐怖感を克服して「アジアの日本」になり、西側の利益に立つのではなく、アジアのスポークスマンとなり、自らの貢献によってアジアの融合を促進することである。

3.私が判断を誤った原因

 私が上記2つの文章を読んでもっとも強く感じたことは、中国は、尖閣問題に起因して起こった日中間の一触即発の危機状態は峠を越したという基本的判断に立って、危機対処が中心だった過去2~3年の対日政策から、今後の中日関係を中国にとって望ましい方向に誘導することに中国の対日外交の力点を移そうとしているということでした。そして、このことこそ、私が見て取ることができなかったことであり、したがって判断を誤った最大の原因でした。正直に言って、私の基本判断は、中国の対日政策はまだ危機対処を中心にして営まれているということでした。
  中国の対日政策・外交のそうした基本判断を示すのは、環球時報社説及び暁岸文章の次の箇所です。
  「両国関係改善の基礎も脆弱なままであり、今後しばらくの間は、中日両国上層部の接触が次第に増えるとともに、歴史及び領土紛争も折につけ現れるという複雑な入り組んだ局面が出現するだろう。」(環球時報)
  「中国の日本に対する重視及び迷いのなさは確固としたものであり、日本のごたごたとした動きもいい加減出尽くしたから、関係改善が中日間の今後の主要な関心となる可能性がある。」(環球時報)
  「日本の右翼勢力が猖獗を極め、対外的な冒険的行動がもっとも激しいときには、中日首脳会談を中断することが真っ向から政治闘争を行う上での必要な手段である。しかし、首脳会談を行うか否かを中日関係の風向きを測る唯一の手段とし、中日首脳会談の中断によって日本に圧力をかけ、領土及び歴史という2大問題の徹底解決を図るというのは、現実的でないのみならず、闘争手段の手詰まりということをも意味する。」(暁岸文章)
  さらに私が見落としていたのは、「中国の平和的台頭のプロセスに日本を取り込むことは中国の根本的利益に合致する」(環球時報)という大局観をもっているということでした。危機対処の段階を乗り越えた後には、中国として大局観に立った対日アプローチが模索することは、中国からすれば、いわば当然かつ自然な成り行きです。
  もちろん、中国が安倍政権の危険性について深刻な問題意識を持っていることにはなんら変わりはありません。その点については、安倍訪米に関してコラムを書く際に改めて確認します。ここでは、暁岸文章の次の箇所を挙げておきます。
  「日本は、戦争の罪名を洗い流して完全に普通の国家になろうと急いでいるが、同時に、周辺の事態の変化、特に中国の台頭と朝鮮の「敵意」を、過度に敏感にかつ極めて落ち着きのない気持ちで受けとめている。このような強烈な復興本能と濃密な自意識とがない交ぜになって、今日における日本社会の主流の意識のあり方を形成し、安倍政権を生みだしているのだ。これは、戦後日本社会、政治環境及び戦略形態の重大な変化であり、今後10ないし20年にわたる日本の基本的発展方向を固定している可能性がある。」
  しかし、中国としては、「中日が如何に互いを面倒に思っても、相手を排除したり、自分とは無関係としたりすることは不可能であって、いずれ形成されるであろうアジア地域の協力システムの中で如何に共存するかを模索せざるを得ない」(暁岸文章)のであり、「あまり好きではない日本とアジアにおいて共存することを試す必要がある」(同)という醒めた対日認識に基づいて、日本をなんとか中国にとって好ましい(より悪くない)方向に取り込んでいこうとしているということでしょう。日中首脳会談において、習近平がアジアインフラ投資銀行をわざわざ取り上げたのも、そういうメッセージとして受けとめることができると思います。
  また、尖閣問題という敏感な問題に関しては、「接触する中で徐々に影響を加え、交渉する中で闘争を行い、情勢を中国の利益になる方向に発展するように誘導する必要がある」(暁岸文章)という指摘のように、長期戦の構えに入っていることも見ておく必要があると思いました。