ヴェトナム共産党書記長訪中とその国際的含意

2015.04.12.

4月7日から10日にかけて、ヴェトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長が習近平総書記・国家主席の招請に応じて中国を正式訪問しました。同書記長は近い将来に訪米が予定されており、その前に訪中したことで、米中越3国関係及び地域情勢に対して持つ意味合いが注目されることになりました。しかも、同書記長の訪中には3人の同党政治局委員が同行しました。つまり、ヴェトナム共産党のトップである政治局16人の実に1/3が一時に訪中したということで、ヴェトナム側が今回の訪中を如何に重視しているかを物語るものでした。4月8日に発表された中越共同コミュニケの内容も、中越間の係争問題である南海(南シナ海)問題をはじめとして成果に富むものでした。4月9日付環球時報が「「ヴェトナム共産党政治局の1/3」が中国を訪問 暖かい空気を吹き込む」と題する社説を掲げたのも頷けます。中国側論評を含め、中越関係の到達点とその国際的含意を見ておきます。

1.中越共同コミュニケの主要な内容

◯双方は、訪問が円満な成功を収め、中越関係の安定的かつ健康的な発展を推進し、両国人民の根本的利益を維持するために重要な貢献を行い、地域及び世界の平和、安定、協力及び発展を促進する上でも積極的な影響を生みだすと一致して認めた(第1項)。
◯双方は、共産党の指導及び自国の特色を持った社会主義発展の道を堅持することが両国人民の根本的な利益に合致する正確な選択であると強調した(第2項)。
◯中越は重要な隣国同士として、両国の政治システムは同じであり、発展の道は似通っており、将来に向けた命運も関係し合っており、両国の発展は互いにとって重要なチャンスであると一致して認めた。
双方は、中越関係発展の重要な経験及び方向性を以下のように総括する。
-中越の伝統的友好は、毛沢東主席及びホー・チ・ミン主席など双方の先輩指導者が手塩にかけて作り上げたものであり、両党両国及び両国人民の貴重な財産であり、大切にし、守り、発展させるべきである。
-中越両国は広範囲の共通の利益を有し、これが両国関係の大局の所在であり、双方は一貫して、相互尊重、坦誠協商(率直かつ誠意ある協議)、求同存異、管控分岐(立場の不一致の管理コントロール)を堅持するべきである。
-中越間の政治的相互信頼は、二国間関係の健康的で安定した発展の基礎であり、双方は、ハイレベルの交流と意思疎通を強化し、両国関係が前向きに発展するよう大局的に指導するべきである。
-中越の互恵的協力は、両国人民に実利をもたらし、地域の平和、発展及び繁栄を促進するものであり、全面的に深化させ、強化させるべきである。(以上、第3項)
◯中越は、以下の領域において重点的に協力を深めることについて同意した。
-国際地域情勢及び二国関係の重大問題について随時意見を交換し、戦略的意思疎通を深め、政治的相互信頼を強固にし、中越関係発展に対するリーダーシップと指導を強化する。
-中越協力指導委員会などの二国間協力メカニズムの役割を発揮させて、協力推進を束ね、問題解決に協調し、両国人民の利益に尽くす。
-(両党協力計画)
-双方は、インフラ協力ワーキング・グループ(WG)及び金融通貨協力WGの正式成立を宣言する。両WGが海上共同開発協議WGとの協調協力を強化し、各領域における協力の全面的発展を共同で推進することに合意する。
-外交、国防、司法及び安全等の領域における交流と協力を強化する。年度毎の外交協議を引き続き行い、両国外交部門間の交流と協力を展開する。両軍のハイレベル接触と防衛安全協議を維持し、両軍の国境地帯での友好交流を強化し、立場の違いを妥当に管理コントロールし、軍隊間の経験交流を深め、人員育成協力を強化し、北部湾における海軍の連合巡邏及び軍艦相互訪問活動を継続する。(以上、第4項)
◯双方は、海上問題で率直に意見を交換し、両党両国の指導者が達成した重要な共通認識を遵守することを強調し、「中越海上問題の解決を指導する基本原則に関する協定」を真剣に実行し、中越政府間の国境交渉メカニズムを利用し、友好的な協議交渉を通じて、双方が受け入れ可能な基本的かつ長期的な解決方法を探究し、共同開発問題を積極的に研究し及び協議することを含め、それぞれの立場主張に影響を及ぼさない過渡的な解決方法を積極的に探究する。海上における立場の違いを共同で管理コントロールし、「南海行動宣言」(DOC)を全面的かつ効果的に実行し、協議で一致するという基礎の上で「南海行動準則」(COC)を早期に達成し、紛争を複雑化し、拡大化する行動を取らず、問題が生じたときはタイミング良く妥当に処理し、中越関係の大局及び南シナ海の平和と安定を守る。
双方は、海上共同開発協議WGの任務を推進し、緊張度の低い領域での協力を強化し、北部湾湾外海域の境界画定交渉を着実に推進し、当該海域における共同開発を積極的に推進し、年内に可及的速やかに北部湾湾外海域における共同調査を起動させることに同意した。(以上、第5項全訳)
◯(一つの中国 第6項)
◯(国連における協力 第7項)
◯(今回の合意文書 第8項)
◯グエン・フー・チョン書記長は、習近平総書記・国家主席が可及的速やかにヴェトナムを正式訪問することを招請した。習近平は感謝し、快くその招請を受諾した。(第9項)

2.両国関係及び国際関係にとっての含意

 今回のグエン・フー・チョン書記長訪中の成果とその国際的含意については、すでに紹介した4月9日付環球時報社説に加え、4月10日付人民日報海外版所掲の蘇暁暉(中国国際戦略研究所副所長)署名文章「中国と南海争議国は立場の違いを管理コントロールする能力がある」、同日付中国網所掲の王冲(チャハル学会研究員)署名文章「ヴェトナムの態度は日本にとってのモデル」、11日付環球時報社説「アメリカがかき乱さなければ、南海ははるかに平穏だ」があります。

<環球時報社説「「ヴェトナム共産党政治局の1/3」が中国を訪問 暖かい空気を吹き込む」>

   この文章は中越関係にとっての今回の首脳会談の成果と意義を説いています。

  (今回ヴェトナム共産党政治局の1/3が訪中という)暖かい空気の背景は複雑であるとしても、この種の温かさは極めて貴重なものだ。両国には海上の紛争はあるが、(両党関係という特殊な紐帯を含め)互いを見る目は、普通の国と比べれば、視角及び次元においてより多いのであり、そのことは両国が立場の違いを管理コントロールする上で有利な条件となっている。
  中越関係がいずれの方向に向かうとしてもそれなりの理由はあるだろうが、全面的な戦略パートナーシップが双方にとって最善の選択である。中国にとっては、「一帯一路」を推進するのに有利な戦略的大局を守り、周辺の平和な大環境を保持することが極めて重要であり、ヴェトナムはそこでのカギである。ハノイは「大局」よりも具体的利益をより重視しているかもしれないが、中越関係の性格は、他の重大な国家利益が取って代わることのできない出発点である。
  ヴェトナムは、中国の発展を一貫して好意的に見ており、中国経済の急発展に乗り遅れることを望んでいない。過去10年間、中国は一貫してヴェトナムにとっての最大の貿易相手国であり、中国にとってヴェトナムは東南アジア地域における第2位の貿易パートナーであって、2014年の貿易額は580億ドルを超えている。
  アメリカは、APRリバランス戦略を通じて南海に影響を及ぼし、ヴェトナムを同戦略の一つの柱として自国の利益を実現しようとしているが、ハノイからすれば、アメリカというバランサーは諸刃の刃であり、ワシントンは一貫してヴェトナム国内の政治的異端の動きを支持しており、この点において相互に支持し合う中越両党とは明らかに異なる。
  中越の「共同利益」とは中身のこもった豊富な内容がある。両国の経済改革路線は極めて似ており、いずれも経済社会発展という緊迫した任務があり、平和を重視し、現代化に向かう道筋において邪魔が入ることを望んでいない。両国の主要なチャレンジは国内的なものである。
  海上の紛争は中越両国の国民感情を刺激し、両国世論はしばしば両国関係が良好であることの巨大なメリットを見失うことがある。しかし、両国の実際の利益はそうした紛争を管理コントロールすることを必要とし、情緒に走ることを抑制することを必要としている。海上における立場の違いは、両国の緊密な関係の全体には遠く及ばないのだ。
  南海は中越が互いを見る際の起点または終点となってはならない。外部勢力は中越関係が南海で釘付けになることを希望しているが、仮に中越がそのように行動したならば、そのことでほくそ笑むのは外部だけだ。中越は引っ張られて動くことがないようにする必要があるし、外部の戦略的意向によって制約されないようにする必要がある。
  「一帯一路」及びAIIBは、中越が協力を強化する上でさらに多くの現実的チャンスを提供し、両国世論が海上紛争の位置づけを正す手助けとなるだろう。中越両国世論は、両国関係におけるこの新しい牽引力と歩調を合わせるべきであり、そうすることが歴史という潮流に従うということである。

<蘇暁暉「中国と南海争議国は立場の違いを管理コントロールする能力がある」>

 蘇暁暉の文章は、中越関係にとって最大の試練となっている南海問題に焦点を当てています。

  南海問題は中越が避けて通ることができないテーマである。グエン・フー・チョンの今回の訪中において、中越が南海の紛争を如何に扱うかに関心が集まった。事実が証明するように、両国は正にこの難題に関して建設的な共通認識を達成した。双方は、共同して海上の立場の違いを管理コントロールし、「南海行動宣言」を全面的かつ効果的に実行に移し、速やかに「南海行動準則」を達成し、紛争を複雑化、拡大化せず、出現する問題をタイミング良く、妥当に処理することに同意した。
  中越が立場の違いを管理コントロールするということは空約束ではなく、その背後には双方が大局を顧みるという考慮がある。中国は一貫して対越関係を重視している。紆余曲折を経た後、ヴェトナムは南海紛争が短期間で解決できないこと、しかしだからといって両国関係におけるより重要な中身を無視して、両国人民の根本的利益を損なうようなことがあってはいけないことを明確に認識するに至った。
  中越が立場の違いを管理コントロールする能力は、両国間の特殊な紐帯に基づいている。今回の共同コミュニケでは、「両国の政治システムは同じであり、発展の道は似通っており、将来に向けた命運も関係し合っており、両国の発展は互いにとって重要なチャンスであると一致して認めた」とある。このような表現は、2011年にグエン・フー・チョンが訪中した際に発表した共同声明にはなかったもので、このことは、中越の交流過程で、相互間の密接な関係についての認識が一歩前進したことを意味している。
  しかし、中越が共同して南海の平和と安定を守る努力は現実的な挑戦に遭遇している。アメリカ第7艦隊のトーマス司令官は、ASEAN諸国が南海を巡航する海軍力を建設することを提案し、第7艦隊はそのために支持を提供するとコミットした。彼はさらに、日本が空中パトロールの範囲を南海にまで拡大することを歓迎し、日本がフィリピンなどに装備、訓練及び作戦面で援助を提供することを勧奨した。カーター国防長官はアジアを歴訪した際、南海問題ででたらめまかせなことを言い、中国が南沙の駐屯している島々に施設を建設したことを「軍事化の行動」と決めつけた。アメリカが事態をかき乱すのは、矛盾を激化しようとする意図からである。中国は他の当事国とともに、干渉を排除し、立場の違いを管理コントロールし、友好的な協議交渉で平和的に紛争を解決するべきである。

<王冲「ヴェトナムの態度は日本にとってのモデル」>

 王冲の文章は、南海問題の取り扱いに関する共同コミュニケの内容を取り上げたもので、そこで示されたヴェトナムの柔軟姿勢は日本が見習うべきモデルであると指摘するものです。

  共同コミュニケの内容から見ると、南海問題が解決を見たとは言えないが、少なくとも双方は基本的な共通認識及び姿勢を得たと言える。
共同コミュニケには、双方が「海上問題で率直に意見を交換し、…中越政府間の国境交渉メカニズムを利用し、…双方が受け入れ可能な基本的かつ長期的な解決方法を探究し、共同開発問題を積極的に研究し及び協議することを含め、それぞれの立場主張に影響を及ぼさない過渡的な解決方法を積極的に探究する」という文章がある。この文章を解読すると、次の3点を指摘できる。第一、双方は主権問題で意見が異なるし、争いすら発生したということ。外交表現において「率直な意見交換」というときは立場の違いがあり、しかも違いが少なくないことを意味している。第二、南海問題は今回の会談では解決できず、短期的にも解決できず、じっくり座って長期的に議論する必要があること。第三、長年言ってきた共同開発がとうとう議事日程に上ったということ。
コミュニケの上記段落が双方の立場と姿勢を述べたものであるとすれば、「双方は、海上共同開発協議WGの任務を推進し、緊張度の低い領域での協力を強化し、北部湾湾外海域の境界画定交渉を着実に推進し、当該海域における共同開発を積極的に推進し、年内に可及的速やかに北部湾湾外海域における共同調査を起動させることに同意した」とする部分は危機管理に関する具体的な道筋と手段を提起したものである。
つまり、協力の過程で問題は起こりうるが、大きな方向性は確認されたのであり、大規模な危機が勃発することはなく、漁民をつかまえるというようなことが起こっても、WGにおける協議で速やかに解決できるということだ。
もちろん、最善の結果とは言えないが、双方が受け入れられる結果ではある。外交紛争では、一方が完勝で他方が完敗ということは滅多になく、積極的に問題を解決する姿勢が求められる。この点で、ヴェトナムの示した態度は肯定に値する。
ひるがえって日本を見ると、中日間に紛争が存在することすら認めようとせず、こういう態度は問題の解決に無益である。中日間の釣魚島問題の紛争はもともと複雑である上に、日本の優越感及び日米同盟という要素も加わって、短期的に解決不能であるだけでなく、戦端が開かれる危険すら存在する。
したがって、中日間においても、中越間と同じく、基本的共通認識を達成するべきである。昨年11月に4点の共通認識が達成された。その第3点に関する協議は期待に値する。危機管理メカニズムを打ち立てることは、釣魚島をめぐる争いにかかわるセイフティ・ネットとなる。それは問題を徹底的に解決することはできないが、中日間に衝突が爆発することを回避させることはできる。
今回、ヴェトナムの政治局メンバーの1/3が訪中したということは、ヴェトナム側の問題重視の姿勢とともに、問題解決に対する誠意をも示している。このことは、日本に対するモデルを提供している。日本の首相である安倍晋三氏が実事求是の原則に基づき、歴史問題と領土問題で勝手に動かず、大局、中日関係及びAPRの安定から出発し、現実的態度で速やかに問題を解決することを望むものである。

<環球時報社説「アメリカがかき乱さなければ、南海ははるかに平穏だ」>

 この文章は、南海問題に対するアメリカのアプローチを厳しく批判するものです。

  オバマ大統領は4月9日、中国の南沙諸島での行動についてでたらめを言い、ヴェトナム、フィリピンを「壁際に追い詰める」べきではないと要求した。アメリカ国務省のスポークスマンはさらに大げさに、中国が南沙で「海を埋め立てることは「南海の紛争のある島嶼の前線を軍事化する」ものだと述べ立てた。アメリカ当局が一斉に中国を非難することは、(グエン・フ-・チョン訪中がもたらした)暖流に逆らうものである。
  ヴェトナム、フィリピンがこれまでに南海島嶼でどれだけの建設を行い、どれほどの移民を行ったかについて、アメリカは未だかつて一言もない。ところが、中国が建設するとなると、アメリカは直ちに「深刻な事態」として懸念を示す。アメリカが「一方の肩を持つ」サマは世界中に知れ渡っており、アメリカですら自分は「中立」で「公正」だとは言えなくなっている。しかもアメリカは、ますます公然と不公正な形で南海における「リバランス」を実現しようとしている。
  南海の当事国間に一定の相互疑惑が存在するのは当たり前なことで、地域情勢のレジリエンスが強まるに伴い、域内諸国が相互の疑惑及び立場の違いを管理する能力は不断に高まっている。時とともに複雑さに対する理解力が生まれ、南海情勢はでこぼこはあるが安定的な方向に向かって歩むという流れが現れている。
  アメリカは流れを乱す外部の力であり、そのなすことはすべて紛争をつくり出し、強めることであり、ヴェトナムとフィリピンを中国と対抗する道へと誘っている。ワシントンが企んでいるのは、域内諸国の総負け、アメリカの一人勝ちである。
  しかし、アメリカが南海で得た得点は、当初予期したほどのものではない。東南アジアのほとんどの国々はAIIBに参加したし、「一帯一路」はますます南海周辺諸国に歓迎されており、これらのことは地縁政治が南海で圧倒的ではないということを証明している。南海は問題があるが、同時に多元、楽観及び理性といった要素も働いている。アメリカは越比などと互いに利用し合うことはできても、南海問題を主導することはできないのであり、南海の将来について政治的路線図及びタイム・スケジュールを設計するなどとは考えないことだ。
  アメリカは、懐には何もないくせに、大風呂敷を広げて艦隊を遊弋させ、不断に対立をつくり出して自分の利益のために関係国を弄ぶというのでは、遅かれ早かれ嫌われることになるということを肝に銘じるべきである。尖鋭な安全保障上の競争を行うことは誰の利益にもならないし、多くの国々は経済社会発展などやるべきことがたくさんあるのだ。経済社会発展を安全保障と対立させたいものはないのであって、アメリカがひたすら挑発する結果は我が身にふり返ってくるということは、AIIBが一つの教訓を提供している。
  南海は平和であり続けるだろう。なぜならば、中国には南海の平和を維持するだけの実力と知恵があるからだ。南海における島嶼建設と中国の平和に対する願望は何代にもわたって受け継がれてきたものであり、そのことは時間が証明するだろう。アメリカの衛星写真及び役人の難癖は、最終的にバブルであることが証明されるだろう。