THAADと中韓関係

2015.03.21.

2015年3月18日付の韓国・聯合ニュースは、韓国と米国は4月中旬にワシントンで開かれる第7回米韓統合国防協議体(KIDD)会議で、アメリカの高高度防衛ミサイル(THAAD)システムを駐韓米軍に配置する問題について協議すると報じました。KIDDとは、米韓安保政策構想(SPI)会議、拡大抑止政策委員会(EDPC)、戦略同盟 (SA)2015共同実務団会議(SAWG)など、多様な米韓国防会議を調整、統合する次官補級会議で、年に2回開催されることになっているそうです。
  3月18日付の中国新聞網は、THAADについて、次のように説明を加えています。

  THAADシステムは全部で7組、アメリカはすでに3組をアメリカ本土に、1組をグアムに配備している。残る3組については配備先が未定であるが、東京と韓国の平澤がもっとも有力な候補地と見なされている。5組目のシステムは2015年後半に、第6及び第7組は2016年に米軍に引き渡される予定となっており、したがってアメリカ政府としては近い将来に配備先を確定すると予想されている。
  米韓両国は「朝鮮の核ミサイルの脅威」に有効に対処するためには、THAADシステムを韓国に配備する必要があるという認識で一致しているが、韓国側は配備に必要なコストを分担する考えはない。ただし、韓国国内には韓国に配備することに対する反対が大きく、この問題に関する米韓間の交渉はスムーズに進むとは見られていない。
  また、THAADシステムの迎撃高度は40~150キロであり、アメリカは、韓国のパトリオットPAC-2の迎撃高度が20キロにすぎないので、THAADを配備することによって朝鮮の弾道ミサイルをより効果的に迎撃できると主張している。

 THAADの韓国への配備に関しては、中国及びロシアは、朝鮮に対するものとするアメリカの主張を疑問視し、中国及びロシアに対抗するものであると判断して、韓国への配備に対する反対姿勢を早くから明確にしています。このため、韓国への配備に積極的な韓国国防部に対して、韓国外交部はより慎重な姿勢を取っています。即ち、韓国の尹炳世外交部長は3月17日、韓国政府は問題の本質を総合的に判断した上で自主的に決定を行うと表明しました。
  また韓国メディアの報道を紹介した中国新聞網によれば、韓国外交部の魯光鎰報道官は翌19日の定例記者会見の席上、韓国としては国家利益を確保するという立場に基づき、一貫して確固としたかつ確信ある態度で問題に臨んでいると述べました。さらに同報道官は、尹炳世外交部長がメディアのインタビューに答えた際の発言として、妊婦が健康な子どもを産みたいのであれば自然分娩が一番良いとし、何ごとに関してももっともふさわしい時期というものがあり、外交部としては人工分娩のような人為的に時間を調整するというような外交は行わないと述べたことを紹介しました。その上で同報道官は、国家利益を確保する上でももっともふさわしいタイミングがあり、外交部としては適当なときに決定を行い、これを明らかにする、不十分な資料及び分析に基づいて見解を表明することは国民をミスリードする可能性があり、そうすることは国家利益を損なうのみならず、韓国の戦略的配置にも影響を与えることになる、とも述べました。
  このような状況を背景にして、3月18日付の環球網は、私がもっとも注目する朝鮮問題専門家の李敦球署名文章「ソウルは伝統的な地縁的安全保障を選択するべきであり、アメリカの軍事的野心に従うべきではない」を掲載しました。この文章は元々、3月17日付の環球時報英文版に掲載されたものだそうです。中韓関係が良好に推移している中で、韓国に対する中国国内の扱いは温和なものが多いのですが、李敦球署名文章はTHAAD配備問題に関して、韓国政府がTHAAD導入に応じるような決定を行わないよう、極めて率直な物言いをしていることが注目されます。その内容を紹介します。

  最近、朴槿恵大統領は予想外の人事として陸軍大将だった金章洙を中国大使に任命し、中韓両国ひいては世界世論の注目を招いた。これまでの韓国の中国大使は文官で中国を知る専門家が当たるのが一般的であり、金章洙はかつて国防部長や安全保障室長などの要職を歴任した人物で、中韓国交樹立以来初めての軍人出身の中国大使である。韓国政府がかかる人事を行ったことには深い戦略的考慮が働いているとみられる。
  中国は韓国にとって最大の輸出市場であり、両国間の貿易額は年間3000億ドルにも上り、韓国のGDPに対する貢献度は約2%に達し、中韓の貿易額は数年前に韓米、韓日及び韓欧の貿易総額を超えた。韓国観光公社が2月16日に公表した資料によれば、2014年に韓国を訪れた中国の観光客は対前年比41.6%増で、612.7万人であり、韓国を訪れた外国人旅行客の43.1%を占め、韓国にもたらした経済効果は18.6兆ウォン(人民元で1055億元)、一人当たり平均で303万ウォン、34万の就業機会を造出した。また、2015年に韓国を訪れる中国人旅行客は720万人に達し、経済効果は22兆ウォンに達すると見込まれている。中韓は最近自由貿易協定を締結したばかりであり、両国経済貿易関係にとってさらなる可能性を切りひらいている。韓国は、経済的に中国に切り離しがたく依存している。
  しかし、韓国は軍事面及び安全保障面ではアメリカに緊密に付き従っており、アメリカのAPRリバランス戦略の橋頭堡の役割を担っている。アメリカの駐韓大使であるリッパートは2月5日、アメリカのAPRリバランス戦略の重点は、アメリカ及び太平洋諸国の軍事同盟の現代化を進め、持続性を備えさせることであり、その核心は米韓同盟であると述べた。アメリカは、APRにおける覇権的地位を維持し、中国、ロシア等を牽制するために、日本、韓国、オーストラリア、フィリピン等の伝統的な同盟国との二国間安全保障関係を強化するだけにとどまらず、日豪、日韓、日比さらには米日豪、米日韓などの安全保障関係の強化も積極的に推進し、APR同盟システムのネット化の実現を図ることで、アメリカの戦略的中心がAPRに移ることにマッチさせ、APRに対する影響力と支配力を強化しようとしている。
  昨年末、米日韓3国は「朝鮮の核ミサイルの脅威にかかわる米日間情報交流」に関するメモランダムを締結し、直ちに効力を発生させた。韓国当局はこのメモランダムが「朝鮮からの脅威」に対処するものであると繰り返し強調しているが、韓国世論は、このメモランダムの締結は、アメリカの仲介のもとで韓日間の軍事情報交換を実現するためのものであると見なしている。アメリカがこれほどに力を入れるのは意味深長である。
  韓国にTHAADシステムを配備するべきか否かをめぐって議論が沸騰しているが、THAADを韓国に配備しようとするアメリカの狙いは中国を抑止しようとする「リバランス」戦略の具体化であり、韓国がこれに同意することはアメリカの側に立つということだ。中国の国務委員兼国防部長である常万全及び駐韓大使である邱国洪は、アメリカが韓国にTHAADを配備することに明確に反対することを表明したが、韓国当局はこれまでのところ同システム配備を拒否するという態度を明らかにしていない。
  韓国は今新たな戦略的苦境に陥っている。中国の台頭及び韓国の対中経済関係がアメリカをはるかに凌駕しており、大陸強国と海洋強国が再び韓国において相まみえ、ある意味において120年以上前に清朝勢力と日本勢力が韓国で闘いを交えたのと同じく、韓国は再び新た外交的難題に直面している。中韓両国の安全保障分野における衝突、軋轢がますます頻繁になっている状況のもと、韓国が軍人出身の大使を中国に派遣することを決定したわけだが、金章洙は安全保障領域で習熟しており、中国の軍関係の重要人物とも交流がある人物である。この人事が吉と出るか凶と出るかについては、金章洙ひいては韓国政府が韓米同盟関係と中韓戦略協力パートナーシップに関していかにバランスをとらせるかを見る必要がある。
  韓国は、近代以後に朝鮮半島が植民地化され、分裂させられたプロセスは正に中国が衰退に向かうプロセスでもあったことを忘れるべきではない。海洋勢力である日米両国が前後して朝鮮半島に手を出した100年以上にわたって、半島及び東北アジアでは戦争と衝突が絶え間なく続き、激動は今日まで続いている。歴史が証明するように、強大な中国は朝鮮半島の安定と平和の基礎であり、海洋勢力の介入は朝鮮半島の分裂と危機の根源である。仮に韓国が歴史の法則を正視せず、中国の安全保障を最大限に損なうと同時に、相変わらず中国から巨大な経済的利益を得ようとするのであれば、それは明らかに妄想である。韓国は徐々にアメリカの戦車から身を引き、本来の地縁政治に戻るべきであり、そうしてのみ韓国及び半島の長期的利益に合致するのである。歴史は今もう一度韓国に選択の試練を課している。