朝鮮の核武装(中国の立場)

2015.03.16.

今回、村山首相談話の会の訪中を受け入れた窓口は平和軍縮協会というところでしたが、同協会は中国共産党対外聯絡部の外郭団体です。したがって、私たちは対外聯絡部(中聯部)の要人とも話し合いを行う機会がありました。多くのテーマについて中聯部の考え方を聞くことができたのですが、私は特に朝鮮問題について関心があったので、その点についても先方の考え方を尋ねてみました。
  中国の習近平指導部は、中朝関係を国家関係として扱う姿勢を明確にしていますので、今や中朝関係は中国外交部が主管しています。しかし、前政権時代までは国家関係である以前に党関係という位置づけが行われ、したがって対朝関係を主管していたのは中聯部でした。ですから、中朝関係について中聯部は豊富な蓄積があるのです。
  時間が限られていたので、私は問題点を一つに絞って聞きました。私が質問したのは次のことです。即ち、中国は朝鮮の核武装に反対している(もちろん朝鮮半島の非核化という枠組みを前提にしています)が、朝鮮が核武装したのはアメリカの脅威に備えるためであり、その点に関しては、1964年に中国が核武装した時の状況と変わるところはないと判断される。それにもかかわらず、中国が朝鮮の核武装に反対するのはいかなる根拠に基づいているのか、ということでした。
  この質問に対する中聯部側の回答は次のようなものでした。即ち、1964年当時と現在とでは、2つの点で決定的な違いがある。一つは国際環境の変化(要するに、この50年間に国際的相互依存が進んで、戦争の危険性は大幅に遠のいたという判断)であり、もう一つはNPT体制の成立である。したがって、1964年と今日とを同日に論じることはできない。
  時間の制約があったため、それ以上突っ込んで聞くことはできませんでしたが、以上の中国側発言に接して、中国の対朝鮮政策の中心に朝鮮の非核化実現が座っていることを確認しました。上記の党関係から国家関係への移行もそういう政策に基づくものであるし、朝鮮の非核化を実現するためには、中国が賛成して成立した国連安保理決議に基づく対朝鮮制裁も実行する(その結果、中朝関係が後退することも止むを得ない)という政策を行うということになるわけです。
  しかし、2つの要因において1964年と今日とを同日に論じることはできないとする中聯部側の説明については、私はまったく納得できませんでした。
  国際環境の変化という点に関しては、全体としては冷戦が終結したことは事実ですが、朝鮮半島に関して言えば、冷戦構造がそのまま継続しているということは中国も認識していることです。そして、アメリカの対朝鮮敵視政策が朝鮮をしてハリネズミの心境に追い込んでいることも中国は理解し、認識しています。1964年に中国が核実験に踏み切ったのは正にアメリカ(及び当時のソ連)の軍事的脅威に対抗するためであったわけですから、1964年当時の中国と今日の朝鮮とを決定的に隔てる「国際環境の変化」はないのです。
  NPT体制の成立の有無という点に関して言いますと、確かにNPT条約が効力を発生したのは1970年であり、中国が最初の核実験を行った1964年には存在していなかったことはそのとおりです。しかし、一般国際法(慣習国際法)と違い、NPTを含む条約に基づく国際法は締約国に対してのみ効力があります。朝鮮は確かにNPTに加盟したことはあります(1985年)が、1993年(及び2003年)には脱退を宣言しています。したがって、NPTの存在によって朝鮮が核武装を行うことは禁止されているとする中国側の立論は説得力を持ちません(核保有に走ったインド、パキスタン、イスラエルもNPT非加盟)。
  ちなみに、中国が安保理決議に基づいて対朝鮮制裁を行っていることに関しても、私がこのコラムで度々指摘してきたように、宇宙条約上の権利として人工衛星を打ち上げた朝鮮には非はなく、それをとがめて制裁決議を行った安保理(及びそれに賛成した中国)に非があります。
  このように、朝鮮の核武装に対する中国の反対の立場関する中聯部側の説明は、私を納得させるものではまったくありませんでした。幸い、久しぶりに中国を訪問し、何人かの中国の研究者とも久闊を叙する機会に恵まれましたので、彼らとの交流を再開し、朝鮮問題に関する私の疑問の数々を彼らにぶつけてみたいと考えています。
   最後に、全国人民代表大会の開会期間中に、王毅外交部長が記者会見を行い、朝鮮半島問題については次の発言を行った(3月8日)ことを紹介しておきます。

朝鮮半島情勢は、総体として安定を保っている。中国はそのために建設的な役割を果たしてきた。朝鮮半島の平和と安定を維持し、半島の非核化を実現することは関係諸国の共同の利益と合致する。現在、半島情勢は再び敏感な時期に入っており、我々は関係諸国が冷静と自制を維持し、プラスになる発言を多くし、積極的なことを多くなし、6者協議を再起動させるために引き続き雰囲気を醸成し、条件を積み重ねることを呼びかける。