朝鮮労働党中央委員会及び党中央軍事委員会連合スローガン(中国専門家分析)

2015.03.01.

2月28日付の中国青年報は、中国の朝鮮問題専門家として私がもっとも注目している李敦球署名の「発表された新スローガンから朝鮮の今後の方向性を見る」を掲載しました。この新スローガンとは、2月11日に朝鮮労働党中央委員会及び朝鮮労働党中央軍事委員会が発表した共同スローガンのことです。私もこの膨大な数(李敦球によれば310項目)のスローガンには度肝を抜かれましたし、朝鮮問題専門家にとっては興味深い分析対象なのだろうとは想像しましたが、悲しいかな門外漢である私にとっては「猫に小判」という感じで、取り付く島もないのでした。
  李敦球は、「スローガンの内容は豊富であり、各分野・業種にわたっており、多くのスローガンははじめて提起されたものであり、注目点満載である」と述べた上で、その中の特徴的ポイントとして4点を指摘しています。正に、専門家ならではの分析であり、大いに勉強させてもらいました。翻訳して、皆さんにもお裾分けさせていただきます。

 朝鮮解放70周年及び朝鮮労働党成立70周年に当たって、朝鮮労働党中央委員会及び党中央軍事委員会は、2月11日に共同スローガンを発表した。これは、朝鮮の新指導者である金正恩が政権に就いてからの3年間で初めての大規模な宣伝スローガンの発表であり、金正恩が新年の祝辞において事細かに述べた基礎の上に立って、全党、全軍。全人民に対して具体的任務を下達したものである。スローガンの数は310項目にも達し、内容は豊富であり、各分野・業種にわたっており、多くのスローガンははじめて提起されたものであり、注目点満載である。これらのスローガンは、朝鮮のこれからの内政、外交の新たな変化及び発展方向を客観的に反映するものであり、以下のような顕著な特徴がある。
  第一、伝統を継承し、団結して敵に当たること。スローガンは、「偉大な金日成同志と金正日同志が切り開いた自主の道、先軍の道、社会主義の道に沿ってまっすぐに進もう!」と、白頭山の革命精神を継承することを強調している。このことは、朝鮮が今後も引き続き自主路線を遵奉し、先軍政治を堅持し、社会主義の道を堅守し、国家の発展の基本的方向を変えることはあり得ないということを説明している。
アメリカのオバマ大統領は、1月22日にYouTubeのインタビューを受けた際、軍事的手段が朝鮮問題を解決する手段であるとは限らず、これに代わるべきはネットの浸透を利用し、情報が朝鮮に入り込むようにすることで朝鮮の変化を促し、最終的に朝鮮の「崩壊」を導くことであり、これがアメリカの朝鮮に対する戦略だと述べた。朝鮮外務省スポークスマンは1月25日、この発言に対して、「オバマの最近の発言は、朝鮮との対決過程で袋小路に陥った失敗者が愚痴をこぼしたにすぎない」として反撃した。
  この点に関して、朝鮮のスローガンは、「帝国主義の思想的・文化的浸透策動を革命的な思想文化をもって粉砕せよ!」「一心団結は朝鮮革命の大本であり最強の武器である。」「偉大な金正恩同志を首班とする党中央委員会を生命を賭して守ろう!」と明確に提起している。つまり、アメリカからの軍事圧力及びネットに拠る浸透に如何に対処するかということが朝鮮の直面する長期にわたる困難な課題であることが理解できる。
  第二、核保有の色合いを薄め、真っ先に人権を提起していること。朝鮮は2013年2月に第3回核実験を行った後、3月に開催された朝鮮労働党中央委員会全体会議では、朝鮮が「経済建設と核戦力建設を並行する路線」を実行することを決定した。その後、朝鮮最高人民会議は、朝鮮の「自衛的核保有国としての地位」をさらにうち固めることを決定する法令を制定した。このことは、朝鮮が核保有戦略を国家の長期発展戦略のレベルまで引き上げたこと、及び最高法令の形で確認し、固定したことを明確に説明するものであった。その後も朝鮮は、様々な形で核保有を祝い、宣伝してきた。しかし、今回の大規模に発表されたスローガンに関しては、「わが党の新しい並進路線は帝国主義の侵略脅威が続く限り、恒久的に堅持していくべき戦略的路線である。」「みな党の並進路線の貫徹へ!」の2項目だけが核保有と関連しているだけである。しかもこの2項目のスローガンにおいては、「核保有」「核実験」「核抑止力」といった類のかつて常に表現された言葉を含んでおらず、刺激的でないのみならず、核問題の色合いを薄めようとする意図さえあるようだ。この姿勢は、朝鮮が核問題で外部との対決をエスカレートさせる意図はないことを物語っており、あり得べき対話及び会談の余地を残しておこうという意思を表している可能性がある。

(浅井注)核に関連するスローガンは2項目だけという李敦球の指摘に関しては、「祖国解放70周年と党創立70周年を軍事力強化の誇るべき成果をもって輝かせよ!」「軍事力強化の4大戦略的路線と3大課題を貫徹せよ!」「国防工業は先軍革命の頼もしい兵器廠である。」「君子里精神を強く発揮して国防工業の発展に新たな転換をもたらせよ!」「朝鮮式の強力な最先端武力装備を積極的に開発し、さらに完成せよ!」「国防工業の主体性と自立性をさらに強化し、近代化、科学化を力強く推進せよ!」などのスローガンも核関連として捉える必要があるのではないかと個人的には思いますが、これらのスローガンも明示的に「核」に言及していない点で、李敦球の指摘の本質的重要性は損なわれていないと思います。

  昨年以来、国際社会特にアメリカは、人権問題で朝鮮に大いに圧力をかけてきた。朝鮮は、今回のスローガンの中でこのことに対して明確に反応している。「アメリカとその追随勢力の反共和国「人権」策動を断固粉砕しよう!」というスローガンにおいて「人権」に言及しているが、これは初めてのことだ。しかもこれと対応して、人民を熱愛し、尊敬し、服務するというスローガンが大量に出現しており、「人民に奉仕する!」「全党に人民を尊重し、人民を愛し、人民に依拠する気風があふれるようにしよう!」「党活動全般に人民大衆第一主義を徹底的に具現しよう!」「党活動の主な力を人民生活の向上へ!」など、さらには軍隊に対しても「祖国と人民に奉仕する!」「人民を助けよう!」と要求している。これらのスローガンのほとんどは初めて提起されたものであり、その力の入れ方も際立っている。この顕著な変化は、朝鮮が「人権」問題に対する批判に対処する姿勢を反映するとともに、朝鮮労働党の政策重点が徐々に調整されつつあることを物語っている。
  第三、民生を強調し、経済を振興すること。経済発展及び民生改善と関係するスローガンは103項目に達し、スローガン総数の1/3に及ぶ。このことは、経済政策が朝鮮の党及び政府の重点となっていることを物語るものである。例えば、「農業と畜産業、水産業を3本の柱として人民の食の問題を解決し、食生活の水準を一段と高めるのは、今日わが党が提起している重要な課題である。」という。朝鮮労働党中央委員会政治局拡大会議が2月18日に平壌で開催され、席上金正恩は、朝鮮労働党が直面する最重要かつ切迫した任務は決定的に人民の生活水準を高め、二度と人民に生活を切り詰めるようなことをさせないことだと表明した。
  朝鮮は、「自力更生こそが道を切りひらく」という立場に基づき、元山-金剛山国際旅遊区及び経済開発区の開発政策と対外貿易の多角化及び多様化の実現とを積極的に推進しており、そのことを通じて「軽工業の巨大な成果によって帝国主義の制裁活動を断固粉砕する」ことを達成しようとしている。とりわけ注目されるのは、「経済活動において内閣責任制、内閣中心制を強化しよう!」というスローガンが初めて提起されたことであり、このことは、内閣が朝鮮の経済政策を担う権力中枢になり、これまでのような受け身的状況を転換することを意味している。経済振興は、金正恩が政権に就いてから長らく温めてきた重要政策の一つである。韓国中央銀行の統計によれば、朝鮮経済は2006年の第1回核実験以来一貫してマイナス成長だったが、2011年以来プラス成長に転じ、特に金正恩が政権に就いてからは、3年連続でプラス成長が続いている。年平均成長率は2%以内にとどまっているとは言え、一連の改革措置の推進により、朝鮮経済に新しい刺激が注入されている。
  第四、外交を多元化し、孤立を打破すること。本年の朝鮮外交には3つの特徴がある。一つは自主性の原則を堅持することで、スローガンでは「自主・平和・親善の対外政策理念を確固と堅持しよう!」「対外関係で革命的原則と自主的立場を強く堅持しよう!」とある。二つ目は、積極的主動的に多元外交を繰り広げることであり、スローガンとしては「国の尊厳と利益を最優先させ、対外関係を多角的に、主動的に拡大、発展させよう!」がある。三つ目は、善隣友好関係を強化することであり、スローガンとしては「わが国の自主権を尊重し、われわれに友好的なすべての国との友好・協力関係を発展させよう!」がある。これは、朝鮮が周辺諸国に示した善意の気持ちである。2015年の朝鮮外交については見どころが多く、世界の注目を引き寄せるだろう。金正恩は2つの重要な活動に参加する可能性がある。即ち、4月にバンドンで開催されるアジアアフリカ会議60周年の記念活動と5月9日にモスクワで開催される第二次大戦勝利70周年慶祝行事であり、これらの行事において金正恩が習近平及び朴槿恵と改憲する可能性も取りざたされている。
  朝韓関係は一貫して朝鮮の党及び政府の政策的重点であり、今回のスローガンにも明確な表現がある。「70年の長きにわたって続いてきた民族分裂の悲劇を終わらせるのは全民族の悲願であり、民族最大の差し迫った課題である。」「6・15共同宣言発表15周年に当たる今年に北南関係で大転換、大変革をもたらそう!」などがそれである。新年になってから、朝韓双方が互いに言葉をあげ、善意を示し、オリーブの枝を差し伸べるまでになっていて、首脳会談に向けた熱が上がっている。この情勢に対して、アメリカはしきりに高官を韓国に送っている。1月末には、2名の国務次官補が前後して韓国を訪問し、朝韓関係はさらに複雑化している。これに対してスローガンは、「「わが民族同士」の旗のもとに外部勢力の干渉に終止符を打ち、祖国の自主的統一を実現しよう!」「民族の不幸と戦争の根源であるアメリカ帝国主義侵略軍を南朝鮮から追い出すための民族あげての戦いに総決起しよう!」と提起している。北南関係を如何にうまく解決するかということは、朝韓両政府及び朝鮮半島の人民の意思と知恵とに対する試練であることは確かである。
  2月19日は中国の春節元旦である。その後メディアでは、「朝鮮は平壌で2015年を慶祝する演目の上演が行われた」というニュースが流れた。筆者は写真の中に、「春節慶祝」というハングルの文字が舞台に掲げられているのをはっきりと確認した。正に朝鮮版の「春節聯関パーティ」である。演出されたプログラムは春節であることを突出させるもので、朝鮮中央テレビ局もこのパーティの模様を放送した。以前にはこの種の報道はなく、今回は朝鮮が初めて行った規模の大きな「春節聯関パーティ」ということになる。朝鮮が変化と新しさを求めていることは疑いの余地がない。そのことは、スローガンが「図式と硬直から抜け出し、引き続き新しいものを!」と表している。このことに対しては、国際社会も発展という視点で朝鮮を見つめるべきである。なぜならば、朝鮮が社会的転換を成功裏に実現できるかどうかは、自らの努力及びその国際環境によって決まるからである。