国連成立70周年公開討論会(中露外相発言)

2015.03.01.

中国が提唱し、中国が国連安保理議長国である2月(23日)に、王毅外交部長自らが議長を務めて、「国際の平和と安全の維持:歴史を振り返り、国連憲章の目的と原則に対する強い誓約を再確認する」(Maintaining International Peace and Security: Reflect on History, Reaffirm the Strong Commitment to the Purposes and the Principles of the Charter of the United Nations)を主題とする公開討論会が、80ヵ国の参加を得て開催されました。中国は、反ファシズム戦争勝利及び抗日戦争勝利70周年に当たる本年に様々な国際的行事を行うことにより、カイロ宣言及びポツダム宣言に基づく国際秩序を擁護することの重要性を国際的認識として再確認することを目指しています。その国際秩序には、1945年に制定された国連憲章及び国連が重要かつ不可分の一部として含まれるわけで、そういう問題意識に基づいて今回の安保理公開討論会が開催されたというわけです。
  中国が70周年をことのほか重視するに至った背景には、両宣言に基づいて軍国主義・日本の武装解除を行い、日本を非軍事化し、平和憲法を日本に「押しつけた」いわゆる戦後レジームに対して異議申し立てを行い、いわゆる「積極平和主義」の名のもとに強力な軍事大国として復権を図ろうとする安倍政権に対する警戒感の強まりがあることは否めない事実です。そういう意味からすれば、国連成立70周年を記念する諸行事も、安倍政権に対する国際的警戒網を張り巡らす中国の戦略の一環を構成しています。
  しかし、中国が今回の公開討論会開催を推進した目的を対日平和攻勢という点にだけあると考えることは妥当ではないと思います。中国としては、国連成立70周年の機会を捉え、習近平指導部が打ち出した協力共嬴の新型国際関係が、国際関係の民主化を打ち出した国連憲章の今日的発展であるという位置づけのもと、21世紀の国際関係のあり方について考え直そうという意図が読み取れます。それは取りも直さず、アメリカ主導の20世紀型パワー・ポリティックスに基づく国際関係のあり方を根本から改めさせようということです。しかも、中国の主張は国連憲章の継承であり、その21世紀的展開という位置づけであり、アメリカのパワー・ポリティックスこそが見直されなければならないという、国際的正統性は中国にこそあるという自負に裏づけられています。
王毅外交部長は、以上の基本的立場に基づいて、「国連憲章の趣旨と原則を大いに発揚し、協力共嬴の新型国際関係を構築しよう」と題する基調演説を行いました。王毅が示した「平和が必要であり、衝突は要らない」「協力が必要であり、対立は要らない」「公平が必要であり、強権は要らない」「共嬴が必要であり、ゼロサムは要らない」とする内容は、平和憲法に基づくあるべき日本の平和外交の目指す方向性として私が繰り返し述べてきたものと大筋において一致します。日本国内では、いわゆる良心的な人々を含め、中国に対する見方は総じて批判的です(これは、私が様々な集会に伺って実感していることです)。しかし、王毅演説の内容を虚心坦懐に読めば、その種の対中国観には重大な問題があることは理解せざるを得ないと思います。そういう願いを込めて、同演説を紹介します。
また、2月23日付のロシア外務省WSは、この公開討論会でラブロフ外相が行った演説を紹介しています。ラブロフ演説は、名指しこそ避けているものの、全面的な対米批判の展開です。中露外相の演説は、一見するところ、何の脈絡もないように見えますが、そうではありません。王毅演説が、これまでのアメリカ主導の国際関係のあり方に対して、理論的、政策的に21世紀の国際関係のあるべき姿を正面から提起したのに対し、ラブロフ演説は、如何にアメリカの対外政策が21世紀のあるべき国際関係のあり方から背馳するものであるかを具体的に指摘しているのです。あえて言うならば、ラブロフは「汚れ役」を買って出たということもできるでしょう。ラブロフ演説の大要も紹介したいと思います。
ちなみに、本日(2月25日)付の朝日新聞は、「中国外相、国連でかけひき 「侵略ごまかし、試みる者がいる」」という見出しでこの討論会について報道しています。しかし、王毅演説の内容についてはまったく触れておらず、極めて皮相的な報道にとどまっています。

1.王毅外交部長演説

今年、我々は世界反ファシズム戦争勝利及び国連成立70周年を迎える。世界各国にとって、共同で記念する価値のある重要な年であり、過去を受け継いで未来を導き開き、先人の跡を引き継ぎ、将来の道を開く歴史的な時期でもある。安保理議長国として、今回の公開討論会の開催を提案したのは、各国とともに、歴史を鑑と為し、将来を切りひらくためである。
歴史を鑑と為すとは、国連憲章に対する厳粛なコミットメントを再確認し、後世が「二度まで言語に絶する戦争の惨害」を味わったことを二度と繰り返さないようにするということである。
将来を切りひらくとは、手を携えて協力共嬴を核心とする新型国際関係を構築し、「相互に善隣の道を以て仲むつまじく共存する」という崇高な理想を実現するということである。
70年前、世界の反ファシズム戦争は偉大な勝利を獲得した。困難を極めた闘争を経て、正義はついに邪悪に勝利し、平和が再び人間世界に戻った。この人類にとって空前の大災難において、世界反ファシズム同盟の重要な力であり、東方における主戦場であった中国は、各国とともに戦争の勝利を勝ち取るために巨大な民族的犠牲を払い、重大な歴史的貢献を行った。
70年前のこの勝利は世界を大きく変えた。歴史を反省し、将来について考える過程の中で、国連は誕生し、人類の団結及び国際関係の進歩にとっての新しいページを開いた。1945年6月25日、サンフランシスコ会議が一致して採択した国連憲章は、「われら連合国の人民は」心を合わせ、協力してうるわしい世界をともに築くという壮大な青写真を描き出したことを、我々は永遠に記憶する。
-憲章は、戦火を取り除き、永久に平和を守るという確固たる信念を宣言した。国際の平和と安全を擁護することを国連の趣旨とし、その中から2度にわたる世界大戦に対する深刻な反省を体現し、戦争、恐怖及び欠乏を免れることに対する各国の懇ろな期待を託し、この70年間、憲章は、世代を継ぐ人々が世界の平和を擁護する崇高な事業のために奮闘して止まないことを激励してきた。
-憲章は、現代国際関係の基本原則を確立した。各国の主権の平等を明確にし、内政干渉を許さず、領土保全は必ず守らなければならず、紛争の平和的解決を唱え、武力の使用または武力の威嚇を禁止し、協力して安全に対する脅威を取り除く。これらの基本原則は、世界各国人民の根本的及び全体的な利益に合致し、70年後の今日においても相変わらず重要な現実的な意義を備えており、世界の安定と安寧を擁護する上で欠かすことのできない役割を発揮している。
-憲章は、戦いをやめ、平和を維持する保障メカニズムを打ち立てた。国連諸機関及び加盟国の権利、責任及び義務を規定し、安保理に対して国際の平和と安全を担当する主要な権限を担わせ、強制行動は安保理の授権によることと定め、集団安全保障メカニズムを以て伝統的軍事同盟に変え、かつてのジャングル法則に置き換えた。 歴史の歯車は前進し、永久に止まることはない。またたく間に70年が過ぎ、人類の平和及び発展の事業は長足の進歩を遂げたが、憲章が描いたうるわしい青写真はまだ完全には実現していない。世界大戦は免れてきたが、局地的戦争と様々な紛争は途切れることがなく、テロリズムなどの安全保障に対する非伝統的脅威は至るところで発生している。グローバル経済は大いに発展したが、貧富の格差は依然として顕著であり、気候変動などのグローバル規模の挑戦も引きも切らない。多国間主義は大勢の赴くところであるが、国際関係における非民主的で不平等な現象は相変わらず存在し、国際関係の原則に背馳する行動がしばしば発生している。往時の反ファシズム戦争という歴史的事実についての評価は早々と定まっているが、これを承認しようとせず、甚だしきに至っては侵略について議論を蒸し返し、罪行を免れようとする者もいる。
70年後の今日、国連憲章は時代遅れとはなっていない。我々は、憲章の精神を学び直すだけではなく、現代の時代的潮流と実際の必要と結び合わせて、憲章の内容を不断に豊富にし、それに新しい生命力と活力を与えるべきである。
この70年来、中国は国連創始国及び安保理常任理事国として、一貫して憲章の精神を断固として擁護し、一貫して国連の役割を断固として支持し、一貫して世界の平和と安定を断固として擁護してきた。最近、習近平主席は協力共嬴を核心とする新型国際関係の構築を提起した。この提起は、憲章の趣旨及び原則の継承であるとともに、さらには重要な革新及び発展である。21世紀の国際関係に関して、我々は次のことを主張する。
第一に、平和が必要であり、衝突は要らない。現在、世界の一部地域においてなおも激動及び衝突が起こっているが、問題解決の根本的な出口はやはり、憲章の趣旨と原則を遵守し、国連及び安保理の権威を擁護することである。中国は、安保理を迂回するいかなる一方的な行動も合法性及び正当性を欠くと考える。安保理は、早め早めに衝突予防の策を講じ、適時に戦乱を制止し、速やかに平和と再建とを回復するべきである。
第二に、協力が必要であり、対立は要らない。我々は、日増しにグローバル化し、情報化する世界に住んでおり、直面する地球規模の挑戦はますます多く、お互いに協力しあって困難を乗り切り、手を携えて協力することが唯一の選択肢である。中国は、世界各国なかんずく主要大国が協力する意識を強め、対抗的考え方を放棄し、協議協力を通じて世界及び地域の発展を困難にしている重大問題を解決することを呼びかける。
第三に、公平が必要であり、強権は要らない。国際関係の民主化と法治化は時代の要求である。いかなる国家も自らの意思を他国に押しつけることはできず、いかなる国家も他国の合法な政権を転覆させる権利はない。中国は、国家は大小貧富を問わず一律に平等であり、各国の主権、独立及び領土保全を尊重し、それぞれが選択する発展の道筋及び社会制度を尊重し、国際法及び国際関係の原則を尊重し、文明の多様性を尊重しなければならないと主張する。
第四に、共嬴が必要であり、ゼロサムは要らない。今日の世界においては、各国は日増しに相互に依存しあい、利益は溶け合っており、冷戦イデオロギー、ゼロサム的駆け引きなどの時代遅れな考え方はキッパリと歴史の屑箱に捨て去るべきである。中国は、双贏、多贏、共嬴という新しい理念を提唱し、利益及び運命の共同体という新しい観念を樹立し、権利と責任とをともに担い、正義と利益とをともに活かすという新しいやり方を実行し、それぞれが自らの長所を追求し、他国の長所を長所として認め、長所と長所とが共存するという新しい将来を追求することを提唱する。
今日は中国の春節に当たり、一年の計は元旦にありという。今日の討論会を通じて、我々がともに世界反ファシズム戦争勝利及び国連成立70周年を記念する幕を開け、国連憲章の精神をして世界を照らし輝かせ、協力共嬴という理念をして全世界にあまねく広がらせることを希望する。

2.ラブロフ外相演説

私は、王毅外交部長がこの公開討論会を組織したことにまず感謝の意を表する。この議題は非常に重要である。この会議は、国連70周年を前に、国際関係を批判的に評価し、蓄積されてきた組織的問題を克服する方途を議論することを可能にするものである。 ナチズムに対する偉大な勝利の果実である国連憲章は、国際関係システムの礎石であり続けてきた。憲章に盛り込まれた目標、原則及びルールは、国際法の重要な源、国際場裡における行動規範の基礎及び蓄積されてきた国際条約の支柱である。もちろん、国連は理想的な機関というわけではない。しかし、ハマーショルドが述べたように、「国連は我々を天国に導くために創立されたのではなく、我々を地獄行きから免れるようにするために創立された」。
国連憲章は、史上初めて、主要国の立場を調整することによって世界を統治するための機能的なメカニズムを創造するための原則を組み立てた。即ち、憲章は多中心的世界秩序の主要な要素を組み立てたのである。創立以来の40年間、国連は厳しい二極対立という条件の下で機能した。しかし、冷戦終結により、国連安保理が国際共同体の集合的意思を綜合する効果的な枠組みとして機能する上での障害が取り除かれた。
不幸なことに、このゴールに向けた道のりは、我々が25年前に想像したよりも困難で、紆余曲折を経るものとなった。我々は、国家の独立と主権の平等性、内政不干渉及び紛争の平和的解決といった国連憲章の基本的な原則が度々破られるのを見てきた。セルビアに対する爆撃、根拠のない主張に基づくイラク占領、国連安保理の授権範囲を悪用したことが招来したリビアの破壊と混迷などがそれである。
これらのすべては、国際問題を支配し、利己的な利益のために一方的に武力行使をしようとした試みの結果である。これらの行動は、国連の諸原則及び世界経済政治の非中央集権化に矛盾している。これらの国々は、世界支配という幻想的な目標を追求して、主権国に対する強圧、政治的経済的イデオロギー的解決押し付けなど、広範囲にわたる不快な手段を行使してきた。「不作法に振る舞う」国家に対しては、国内不安をそそのかし、政権交代を促進する技術を使っている。その一例は、昨年のウクライナにおける憲法違反のクーデターの公然たるそそのかしである。
安保理を「指導者」の決定にめくら印を押す機関にしようとする試みも常であり、そういう試みが失敗するときは、国際の平和と安全を維持するという安保理の権限を取り除こうとする。同時にこれらの国々は、中東及び北アフリカを不安定と混迷に陥れ、過激主義が成長する温床となった自分たちの一方的な武力行使については無視を決め込んでいる。
国連憲章のもとでは、安保理のみが国家に対する強制措置を取る権限を有している。国内法規を域外適用する一方的な制裁の試みは、古くさいブロック主義のメンタリティであり、国際関係に対立を生み、問題を協力して解決することを複雑化するだけである。
国際環境は、グローバル・メディア、インターネット、及びソーシャル・メディアの利用による情報戦争によって深刻に悪化させられている。言論及び表現の自由は、他国の制度及び政策に対する情報操作、洗脳、破壊活動を正当化し、あるいは宗教的紛争を煽るために利用されてはならないと確信する。
今は、次の質問に答えるべき時である。我々は、国連安保理が国際の平和と安全を維持するための有効かつ影響力ある機関であることを望むのか、それとも、安保理がプロパガンダの応酬の場となり、国際的問題の解決から安保理を除外することを望むのか。 我々は、世界政治における二重基準を止めるための断固とした行動を即刻取らなければならない。また、国連安保理が、世界における文化的文明的多様性に基づく集団的アプローチを調整し、国際関係を民主化するための主要な機関としての役割を回復するための断固とした行動を即刻取らなければならない。
人民には外からの干渉を受けずに自らの将来を選択する権利があるという事実を受け入れなければならない。この点に関しては、諸国間の友好関係と協力に関する国際法の原則に関する1970年宣言の関連規定を再確認し、強化することを提案する。その際の焦点は、憲法違反の政権交代を支持することは受け入れられないということだ。複雑さを増す国際関係において、国連憲章を危機管理に役立てることに合意するべきである。1990年代の初めに、国連事務局は、国家間の紛争の平和的解決に関するハンドブックを作成した。その時以後に蓄積された経験を織り込んで、このハンドブックをアップデートする必要があるかもしれない。
安保理理事国がそれぞれの立場を調整して解決を見つけるために協力する場合にのみ、積極的結果が得られるだろう。我々がシリアの化学兵器の破棄問題を処理し、外国のテロリストに抵抗する手段を講じたのはそういう基盤の上でのことだった。先日には、安保理は、ロシアのイニシアティヴで、テロリストが石油取引でうまい汁を吸うことを防止するための決議2199を採択した。最近における今一つの例は、マリ及び中央アフリカ共和国に新たな平和維持部隊を派遣したことである。我々はまた、ボコ・ハラムのテロの脅威に対処することを計画している。
私は、この公開討論の場において、国際関係を規制する死活的なメカニズムである国連の将来を真剣に議論することを希望する。