中韓関係(THAAD配備問題)

2015.02.11.

冷え込んだ中朝関係とは裏腹に、中韓関係は上り調子であり、中国メディアにおいての韓国の扱いにおいて批判的なものは見かけない状態が続いてきました。韓国の朴槿恵大統領の支持率が30%を切る落ち込みを示すようになったことに関しても、淡々と事実関係を報道することに終始しています。しかし、アメリカが韓国にTHAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)を持ちこんで配備しようとしているという報道が米韓両国において現れていることは、中韓関係にも波紋を呼んでいるようです。
  2月9日付の環球時報は、上海社会科学院国際関係研究所副研究員である李開盛署名文章「THHAD配備は中韓関係のボトム・ラインを損なうだろう」を掲載しました。突然に現れた、しかし内容的には極めて厳しいものであり、今後の中韓関係ひいては朝鮮半島情勢について考える上で見落とせない文章だと思いますので、内容を紹介しておきます。
環球時報という人民日報系列のメディアに掲載されたということは、中国政府のそれなりの意向を反映していると思います。ただし、筆者の肩書きから判断すれば、今後の弾力的な対応の余地を十分に残したものとも思われます。要するに、韓国政府(及びアメリカ政府)に対して、この問題について政策決定する上では、中国の断固反対の意思を無視することはあり得ないし、許されもしないという高度な牽制球を投げるという性格のものだと判断して良いのではないでしょうか。

  習近平と朴槿恵が中国及び韓国の元首に就任して以来、中韓関係は経済貿易面でますます緊密になっているだけでなく、政治及び安全保障面での協力する意思もますます強まっている。2013年に発表された共同声明では、安全保障分野での戦略的意思疎通を強化することが戦略パートナーシップを充実する上での主要な内容とされた。これは、両指導者の認識に基づいているのみならず、両国の共通した政治的及び安全保障上の利益が生みだした果実でもある。中韓はともに朝鮮の核兵器保有に断固反対しているし、日本の歴史問題に関する無責任な行動にも不満を表明している。将来に向けた東北アジアの政治安全保障の秩序構築にとって、両国は、相手の重要性をますます認識するに至っている。
  しかし、中韓関係はしばしば第三国特にアメリカ・ファクターによる邪魔に遭遇している。現在、もっとも突出した問題はアメリカが韓国に配備しようと企んでいるTHAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)システムである。このシステムは、口実としては朝鮮に対処するためとされているが、専門家はすべて知っているように、その能力は200キロ前後に及び、朝鮮の弾道ミサイルに対処する必要を大幅に超えており、仮に韓国に配備されるとするのであれば、中国は当然反対を表明するだろう。
  いかなる事情があるにせよ、また、中米関係がどのように発展するかに関係なく、韓国は中米の一方に肩入れすべきではなく、一方が他方に対して対処することを手助けすることがあってはならない。中米間に直接衝突が起こった場合、その最大の被害を受ける可能性があるのは周辺国であることは容易に想像できることだ。
  韓国メディアの報道によれば、数日前に韓国を訪問した常万全国防部長は、直接、韓国国防部長に対して、この問題に対する関心を表明した。韓国側の説明によれば、アメリカは韓国政府にTHHAD配備を要求してはおらず、韓米間でこの問題についていかなる協議も達成していないという。しかし、韓国国内には、「必要があるならば、大胆に配備を推進するべきだ」という声も上がっており、韓国側の公の解釈も「配備を受け入れない」という意味は込められていない。筆者としては、韓国の曖昧な姿勢の下でTHHADが配備されてしまい、中韓関係及び地域の安定に危険が及ぶことが現実のものとなることを、中国は防止するべきだと考える。
  疑問の余地がないことは、中韓関係は戦略的互恵の基礎の上に作られるべきだということだ。韓国の安全保障に密接に関係する朝鮮の核問題に関しては、中国は朝鮮半島に核兵器が出現することに断固として反対しており、この面で行っている努力はアメリカよりもはるかに多いことを、韓国人は理解するべきである。朝鮮の核問題で中国がやっていることはまだ足りないと見なす韓国人もいるが、それは、中国の朝鮮に対する影響力を過大評価しているか、中国にも自国の戦略的利益があって、完全に韓国の言いなりになるわけにはいかないということを無視しているかのどちらかである。朝鮮が核保有の意図を放棄し、6者協議に戻ることを促すため、中国は最大限の努力をしているし、これからも引き続きさらなる努力を行うであろう。
  韓国としても、中国の戦略上、安全保障上の利益を考慮するべきである。THHADシステムはアメリカのためのものであって、韓国の利益になるものではなく、隣り合わせの「朝鮮脅威」を防ぐ上では、このシステムは韓国の安全に役立つものではない。韓国が自国の安全を守るために米韓同盟を維持することを戦略的外交的基礎に据えることは、中国としては理解できることだ。しかし、仮に中国の安全保障上の利益を犠牲にしてアメリカの要求に従うというのであれば、それは即ち中韓戦略パートナーシップのボトム・ラインを破壊するものであり、中国としては、この重大な問題について自らの態度を宣明することは極めて必要なことである。友人の間では話をはっきりさせる方が良い。中国が立場を明確にすることは、韓国が妥当な政策決定を行うことにも資するはずだ。