アメリカの対中東政策(中国メディアの解説報道)

2015.02.08.

「イスラム国」の残酷さには、怒りを通り越してうちひしがれてしまいますが、2月5日付の環球時報は、昨年12月17日付のワシントン・ポストWSの文章が、「イスラム国」トップのバグダディが米軍捕虜となったときに受けた虐待がその原因となっていると指摘したとする記事を掲載しています。
その文章に拠れば、バグダディはもともとイスラム学の研究者であり、1989年から2004年にかけては静かに勉学に励み、サッカーに天賦の才があったということですが、その後米軍の捕虜となり、イラク南部で4年間捕虜生活を過ごしたといいます。2004年にその収容所を訪れたアメリカの記者によれば、収容所の男たちは女兵士の前を裸で歩くことを強要され、食事を取る前には「ジョージ・ブッシュを愛する」と唱えなければならず、酷寒の時も地べたで毛布1枚であったといいます。2003年の対イラク侵略がバグダディを過激主義に追いやり、収容所での恥ずかしめが彼をしてさらに極端に走らせたことは広く認められているというのです。 また、「イスラム国」を討伐するためには、本格的な地上軍の投入が不可欠とする判断からの提案もあります。一つは、安保理決定に基づくアラブ連盟主体の多国籍軍投入を提案するもの(2月7日付の北京テレビ局WS所掲の馬暁霖署名文章「「イスラム国」討伐 アラブ連盟の地上戦が必要」)です。
もう一つは、シリア軍の参加を必要とするものです。即ち、ヨルダンは「イスラム国」に対して全面報復するといきり立っているが、ヨルダンの地上部隊派遣は非現実的(シリア通過はシリア政府が許可するはずはなく、イラクから入るとすれば、イラク軍の後方支援を受けなければならないが、ヨルダン軍はイラク軍を信頼できない)であるから、結局その任に堪えうるのはシリア軍しかいないと指摘する文章(2月6日付の環球時報所掲の国務院発展研究所副研究員・楊俊署名文章「シリアが「イスラム国」解決のカギ」)です。ただし、シリア軍の参加にはアメリカが難色を示すだろうとしています。
2月5日付環球時報社説「アメリカは「イスラム国」一掃に主要な責任がある」は、とどのつまりは、アメリカの利己主義な中東政策がすべての問題の根っこにあるのであって、その政策を根本的に改めることができるか否かに中東の将来はかかっているとする、極めて本質を突いた指摘を行っています。それは、2月3日付のコラムでの私の指摘を詳細に敷衍してくれるものです。日本国内のジャーナリスティックで興味本位な「評論」には飽き飽きしている私にとってすこぶる納得がいく文章です。皆さんにも「お裾分け」します。

  アメリカの「イスラム国」に対する対応は、過去にアメリカが発動した対テロ戦争と比べると、上っ面だけのものにすぎない。アメリカはあたかも世論の圧力のもとで数機の戦闘機を派遣して格好をつけているだけのようだ。しかし、アメリカには「イスラム国」の氾濫に対して主要な責任があるということは、世界の戦略を扱うもの及び圧倒的な世論の共通の認識である。アメリカは、軽々しくイラク戦争を起こし、シリアで反対派がアサド政権と戦争することを支持し、中東諸国及び政治諸勢力の間で保たれていたバランスをかき乱し、とりわけイラク及びシリアの広範囲の地域で政治的真空を生みださせ、「イスラム国」が想像できない勢いで勢力を拡大することを可能にした。
  中東の激動はますます深刻となり、人々の西側に対する憎しみ、教派間及び部族間の憎しみを含む様々な憎しみはますます膨らみ、今やかつてない複雑な状況を呈している。アメリカ政府が現状に「腰を抜かし」、どこから、またどのように手をつけたら良いか分からなくなっているのも宜なるかなである。
  12年前の3月24日に米英連合軍が大挙してイラク国境を突破し、一気にフセイン政権を打倒したときのおごり、自信に溢れた状況を思い起こし、そしてまた今のオバマ政権の何をしたら良いか分からず、立ちすくんでいる状況を見ると、まるでまったく別のアメリカがいるかのようだ。
  アメリカの中東政策は徹底して間違ったものだったが、アメリカが「誤りを正す」やり方といえば、米軍を撤退させるというだけのことで、それ以後はアメリカがかき乱した巨大な地域に対してリモコンしようというのだ。事実が証明するとおり、このリモコンも効果がない。その原因は、アメリカ政府の出発点は相変わらずアメリカ及び西側の利益ということにあって、中東の現実に即していないことにある。
  アメリカは現在、中東において2つの直接的な敵がいる。即ち、「イスラム国」とアサド政権だ。しかも、アメリカ政府のアサド政権に対する憎しみは「イスラム国」に対する憎しみに劣らないようだ。さらにアメリカは、イランに対しても高度に身構えており、そうしたことが「イスラム国」が活動する余地を与える根本的な原因の一つとなっている。
  アメリカが本当に「イスラム国」除去を第一の目標とするのであれば、オバマ政権はシリアのアサド政権に対する態度を改め、反「イスラム国」勢力として連合に加えるべきである。アメリカはまた、イランに対する制裁も緩和し、「イスラム国」を抹殺しうる真の統一戦線を結成するべきだ。そうすれば、「イスラム国」も絶体絶命となるだろう。
  もしもアメリカがそうしようとはせず、しかも地上部隊を送り込もうとしないのであれば、オバマが「イスラム国」に対してどのように大言壮語しようとも、それは「空念仏」でしかない。
  中東には、パレスチナ・イスラエル紛争のほかにもイスラム国家間にも様々な矛盾があり、このことは反テロ勢力が力を合わせることを難しくしている。アメリカは、これらの矛盾を和らげることについて能力があるにもかかわらず、まったくなすことはなく、逆に矛盾が拡大することに力を尽くしており、しかもそうすることを中東支配の手段と見なしている始末だ。
  「イスラム国」は、今年に入ってから日本人とヨルダン人を殺したが、過去においてはもっと多くの人を殺している。アメリカはその都度タイミング良く「イスラム国」を非難するが、実際は傍観しているにすぎないというのが大方の見方だ。アメリカはまるで、もっと多くの国家が人質の殺害に対する憤激から反「イスラム国」の側に立つことにより、自らは「陣中で謀をめぐらす」ことを望んでいるかのようだ。
  もっとも重要な事実は、反テロ戦争はこれまでアメリカの利益を中心に回ってきており、アメリカの利己主義が反テロ戦争の効率の悪さと漂流という結果を生んでいるということだ。アメリカは、中東の人民のために考えることを学び、中東の真の平和を推進することを通じて自国の利益を実現することを学びとる必要がある。