中露関係の戦略性を踏まえて行動する中国
-日中関係を考える素材-

2015.02.05.

私は昨日(2月4日)のコラムで、ウクライナ危機の解決の危機に関する中国側の見方を紹介しました。西側諸国とロシアとにはさまれたウクライナにとって、「中立でバランスある政策を実行して双方と等距離を取ることが、双方から利益が獲得できる上策である。双方のいずれかに対して傾くとなると、プロとコンとがでてくる中策だ。いずれか一方に一方的に傾き、他方に対しては非友好的となると、弊害が多くして利益が少ない下策となる。完全に一方に頼ってこれと同盟を結び、他の一方と対立すれば、災いを一身に背負うこととなる下の下の策だ」という指摘は、アメリカと中国とにはさまれた日本にとってもそのまま当てはまることは見やすい道理です。そして、ウクライナ政権が今下の下の策を追求しているのと同じく、安倍政権も下の下の策をひたすら追求しているのです。
しかも、その仕掛け人はアメリカであり、ウクライナも日本もアメリカの対露(中)戦略上のコマでしかないというところまで同じです。唯一の違いがあるとすれば、アメリカはロシアに対してむきだしの敵対姿勢で向かっているのに対し、中国との間では中国の存在をとうてい無視できず、軍事的には日本を巻き込んで対中抑止力の構築に余念ないけれども、国家関係全体としては中国の呼びかける「新型大国関係」の構築に応じているということです。したがって、ウクライナ以上に、日本はアメリカの使い捨てのコマという性格はいっそう強いのです。
  私は、私たち日本人はもう少し歴史的、長期的、戦略的に国際関係を考える能力を養うべきだと思います。日中友好が対APR戦略遂行上最大の障害となるアメリカを別にすれば、日中が善隣友好関係を構築することがいかなる観点からいっても最上策であることは誰の眼にも明らかなはずです。百歩退いて、パワー・ポリティックス的にしか物事を考えられない人たちの視点に立って考えても、私は日中を対立的に考えることのメリットは何一つとして思い浮かばないのです.「そうすることはアメリカの怒りを買うだけだ」という議論はあるでしょうが、自らは対中関係を重視しているアメリカには、日本に怒る資格はありませんし、そういうアメリカに対してははっきりもの申せば良いのです。
  2月4日付の環球時報は、中国国際戦略学界高級顧問の王海運署名文章「中露関係を「誹謗」するのは戦略的過ちを犯している」を掲載しています。日中関係を戦略的に考える視座を提供するものとして紹介します。文章の終盤にある、中露間の領土問題に関する王海運の指摘は、「北方領土」問題に関する日本に対する客観的戒めにもなっています。ポツダム宣言第8項によって、日本は、本州、北海道、九州及び四国以外の「諸小島」の帰属については米英中露の決定に拠ることを受諾して敗戦を受け入れたのですから、今更何をか言わんやなのです。そういう「敗戦受諾」という厳粛な国際法的審判の歴史をしっかりと受けとめる基礎の上でのみ、日露関係の実りある将来を切りひらくことができるということを、私たちは王海運の指摘から学びとるべきでしょう。

  ウクライナ危機発生以来、中国との協力を深めようとするロシアの意欲は空前に高まっており、中国政府もこのチャンスを捉えて対露関係を積極的に推進している。このような中露関係の発展について、中国の主流の民意は広く歓迎しているが、特にネット上では疑いひいては誹謗する声が少なからず現れている。こういう声の多くは若いネット・ユーザーであり、彼らの認識のあり方は国家の未来にかかわることであるので、高度に重視せざるを得ない。したがって、中国の戦略の全局に占めるロシア・ファクターの重要な価値について語っておく必要がある。
  まず、ロシアは、中国の安全保障及び発展環境に対して影響がもっとも大きい大国である隣国である。両国は4300キロの国境で接しており、両国の国家的安全保障にとって「天の半分」を占めている。歴史的には、中露が善隣友好であった貴重な経験もあれば、相互に敵対した深刻な教訓もある。考えてみよう。仮に中露の善隣友好協力関係がないとしたならば、中国の30年来の改革開放は恐らくなかっただろう。対露戦略協力関係がなかったならば、中国が今後台頭する過程における制約は累々たるものがあろう。互いに最大の隣国であるという地縁政治の現実は、「世代的友好、永遠に敵にならず」ということが両国の戦略的必要及び利益にもっとも合致しているということを決定づけているのだ。
  次に、ロシアは、我が国との戦略的利益がもっとも接近している世界大国である。中露はともに新興の非西側大国であり、計画経済から市場経済に移行しようとしている国家であり、アメリカの戦略的抑止の対象国である。このように似通った戦略的立場こそが両国の戦略的利益が広範囲にわたって接近することを決定づけている。世界及び地域の平和と安定を維持し、国際的な戦略バランスを作り、新国際秩序を営むという問題において、両国は共通する戦略的立場を有している。自国の国情に即した発展の道を探究し、移行プロセスの中で遭遇する様々なリスクを回避するという問題においても、両国は互いに学び合う必要がある。覇権国が同盟を結び、抑止と包囲を行うという問題に対しても、両国は力を合わせる必要がある。
  第三に、ロシアと中国は戦略理念がもっとも相通じる世界大国である。ロシアの「主権的デモクラシー」と「コントロール可能な市場経済」というアプローチは、中国の「社会主義デモクラシー」と「中国の特色ある社会主義市場経済」との間で多くの相通じるものがある。政治経済における発展モデルの自主的選択、西側のイデオロギー的圧力への対処という問題において、両国の戦略理念は高度に一致している。アメリカ以下の西側諸国は、イデオロギーを基準にして国家関係の親密度を確定するというスタンダードを取っており、それに名を借りて主権国家に対して内政干渉し、「カラー革命」を策動し、「デモクラシーの輸出」をしでかし、その矛先は中露に向けられており、両国としては手をつないで協力せざるを得ない。
  第四に、ロシアと中国は、戦略的補完性がもっとも大きい国家同士である。中露は、地縁戦略上、独特の相互補完性という有利性をもっているだけではなく、外交戦略上も、ロシアはボクシングに秀で、中国は太極拳に秀でるという、剛と柔で助け合い、力を合わせあっている。経済発展という点でも、資源、市場、資金、技術等々において相互補完関係が強く、両国が様々な分野で「利益共同体」を構築する上での重要な基礎となっている。
  以上の簡単な分析からすぐさま分かることは、ロシアが中国の戦略的全局に占める価値は唯一無比であるということだ。このような大国が自ら中国に歩み寄ってきて、両国間の各分野における協力を深めることを希望しているのであるから、中国がこれに喜んで応じないわけはないではないか。中には、ロシアのこういう行動は、西側の制裁を受けた状況下における便宜的行動であり、持続性はないと懸念するものもいる。仮にそうであるとしても、中国はそれと向きあって行動し、それによってロシアをして両国関係の戦略的価値に関する戦略的認識を強化させ、対中関係を発展させることに関する決意をうち固めさせるべきだ。
  人によっては、ロシア帝国時代の中国に対する侵略という歴史的なツケを持ち出し、「領土を返したら協力について話し合うべきだ」などと言うものもいる。このようなやり口は、たとえ下心がないとしても、戦略上の誤りを犯していることは間違いない。両国国境はすでに確定しており、両国の「善隣友好協力条約」という形でさらに確認されており、現在改めて領土問題を提起することは両国関係を悪化させるだけで、何のメリットもない。中露協力を深める中で遭遇するかもしれない様々なリスクに関して言えば、慎重に回避するようにすべきだが、小さなことにこだわって大事を失うようなことがあってはならない。
  以上をまとめれば、国家関係を議論するに当たっては、まずは国家利益特に戦略的利益をはっきり見極め、それに基づいて親しさを確定する根拠とすることだ。愛国的な中国人はすべからく、外部の非友好的勢力が中国外交に邪魔立てすることに旗幟鮮明に抵抗し、国家の外交的決定を自覚的に支持するべきである。そうすることによってのみ、中国は国際関係において政策を縦横無尽に謀りめぐらすことができるようになり、「大国としての行動」にますます磨きがかかることとなり、国家の戦略的利益をますます守ることができるようになって、中華民族のスピードある台頭を保障することができるのだ。