ウクライナ危機解決のカギ

2015.02.04.

ウクライナ情勢は、一向に解決の兆しが見えないどころか、内戦は激化する一方です。私は素人ながら、この1年間情勢の展開を観察する中で、問題解決の糸口すら見えない重要な原因は二つあると思うようになりました。
一つは、ポロシェンコ大統領、ヤツェニュク首相をはじめとするウクライナの指導部の政治的無能力です。要するに、ウクライナの現在の指導者のほとんどは政治に関してアマチュア出身なのです。しかもポピュリズム志向が強く、大衆迎合的です。
もう一つは、米欧諸国がロシアを孤立させる「東方拡大」路線の仕上げとしてウクライナをロシアから切り離すことに照準を合わせていることです。もちろん、米欧諸国のタテマエは、ウクライにおける「カラー革命」そして民主化路線を支持するということですが、ホンネはどう見てもそんなきれいごとではありません。
しかし、いかんせん素人ですので、立ち入って分析するだけの蓄積もあるわけではありません。そういう私にとっては、中国専門家の分析は非常に参考になるし、学ぶことが多いのです。1月26日付の環球網所掲の尹承徳署名文章「ウクライナ危機解決のカギはどこにあるか」は、私の以上の素人的な岡目八目が的外れではないことを裏づけています。尹承徳は中国国際問題研究基金会研究員で、ロシア問題に限らず、広く中国の対外政策を含めて戦略的に分析する能力に長けた、国際問題の論客の一人です。
日本国内では、アメリカのプリズムを通した見方しか紹介されない嫌いがありますので、以下に尹承徳の文章を紹介します。

2013年末に動乱が発生してから1年、ウクライナは災難のどん底に陥り、クリミアを失い、東部2州は「主権国家」を作って「国の中の国」となり、戦火は連綿と続き、果てしのない人道的悲劇を引き起こしている。これは、ウクライナ史上に類のない惨禍である。
ウクライナの惨禍とウクライナにおけるひっきりなしの政権交代劇を支持し、策動する米欧の動きとは直接結びついているが、「ウジ虫が湧くのはモノが腐ってからである」というように、ウクライナの悲劇の根本的な原因は、極端に親欧米のウクライナ当局がNATO加入を目的とする対西側一辺倒の政策を一途に推進していることにある。
1991年末にソ連が解体を宣言し、ウクライナが独立を宣言してから今日の動乱に至る22年間、ウクライナには4人の大統領が就任し、西側とロシアとの間で、あるいは中立、あるいは一方よりながら中立の立場を取り、ウクライナは政権と社会の相対的安定を維持し、正常な政権交代を行ってきた。ところが、2013年11月にヤヌコビッチ大統領がEUとの連携協定の署名を暫時中止してから重大な争乱が起こり、情勢が急転直下した。反対派は混乱に乗じてヤヌコビッチ政権を打倒し、全面的に親西側の政権を樹立し、ロシアを敵視し、ウクライナ東部のロシア系住民を差別し、その結果強烈な反抗を引き起こし、最終的には収拾不可能な危機の局面を迎えることとなった。
  ウクライナの独立以後の歴史は、西側とロシアとにはさまれたウクライナがこの2強に対して取る政策如何がその前途及び命運に対して決定的な影響を及ぼすことを証明している。中立でバランスある政策を実行して双方と等距離を取ることが、双方から利益が獲得できる上策である。双方のいずれかに対して傾くとなると、プロとコンとがでてくる中策だ。いずれか一方に一方的に傾き、他方に対しては非友好的となると、弊害が多くして利益が少ない下策となる。完全に一方に頼ってこれと同盟を結び、他の一方と対立すれば、災いを一身に背負うこととなる下の下の策だ。現在のウクライナ政権が行っているのは完全に西側の一員になり、これと同盟を結んでロシアを敵視するという政策であり、下の下の策に近く、したがって自らの歴史を一変させる深刻な代償を支払うことになっているのだ。
  ウクライナがこのような耐えられない状況にまで陥った原因は、ウクライナ当局の自国の基本的国情に対する認識に盲点があり、そのために政策決定において致命的な誤りを犯したことにある。彼らは、ウクライナは独立主権国家であり、他の国々と同じく自らの意思に基づいて対外政策を決定できるのは当然だと考えている。しかしいかんせん、ウクライナ独自の国情及び地縁関係は他の国々と比べものにならないのだ。
 まず、ウクライナとロシアとは切り裂くことのできない親しい縁で結ばれている関係だ。両国は同族同種であり、ウクライナの首都キエフはロシア民族の発祥地であり、ウクライナが独立する以前の200年以上にわたってロシア及びソ連の領土の一部だった。次に、ウクライナ国内には1000万人以上のロシア系住民がおり、人口比の1/4を占め、主にウクライナ東部地域に住んで、濃密な親露感情を持っている。第三に、両国は隣国同士であり、2000キロ以上の国境を共有している。しかもウクライナはロシアの後背地という位置を占め、一貫してロシアにとっての戦略的壁と見なされてきたし、ロシアと西欧・NATOとの間の戦略的緩衝地帯であり続けてきた。第四に、ウクライナとロシアとの間には緊密な経済的文化的な紐帯がある。
  以上のことは、ウクライナとロシアとの関係の特殊性とロシアにとってのウクライナの比類のない戦略的重要性とを物語っている。ウクライナ当局がこれらを無視し、親西側感情に立ち、ウクライナ人民の根本的利益から出発せず、かつての兄弟との関係を断ち切って西側に身を投じ、事実上の西側の同盟国となるということは、ロシアにとってはとうてい受け入れられないことだ。ウクライナ当局がそうすることは、ロシアにとって完全にウクライナを失うことであり、ウクライナがロシアの勢力範囲から西側の勢力範囲となることを意味し、ロシアの安全保障の拠りどころからアメリカ及びNATOの対ロシア防衛抑止の前哨となることを意味する。このことは、ロシアの大国としての地位、国家安全保障及び国家としての核心的利益に対する空前の脅威、チャレンジであり、このことは、ロシア及びウクライナの親露勢力がウクライナ当局の想定を超えた空前の強硬な反応を示す根本原因でもある。
  ウクライナ危機の本質は、アメリカをリーダーとする西側とロシアとの、ウクライナの帰属をめぐる激烈な角逐及び駆け引きの結果であり、欧州における戦略的対峙の膠着状態を反映している。しかし、危機を解決するカギを握るのは、当事国であり被害者であるウクライナ自身である。ウクライナは、西側が火中の栗を拾おうとして、ウクライナを対ロシア抑止戦略上のコマと見なしているという本質を正確に認識し、対西側一辺倒の政策を見直し、非同盟という正道に戻り、ウクライナ東部のロシア系住民に対する扱いを改めれば、難局を打開することができる。