中朝関係のあり方(暁岸文章)

2015.02.02.

昨日(2月1日)のコラムで、朝鮮関連の中国専門家の文章で私が最近注目しているのは、李敦球と暁岸だと指摘し、李敦球の文章を紹介しました。興味深いことに、2月1日付の中国網は、暁岸署名文章「中朝が正常な国家関係を作ることは双方の根本的利益に合致している」を掲載しました。李敦球が朴槿恵政権に対して対朝積極アプローチを提言したのに対して、暁岸は中朝関係のあり方を論じています。
暁岸文章の注目点は、①朝鮮の核実験によってこじれた中朝関係が、習近平が朝鮮ではなく韓国を先に訪問したこと、中国が安保理決議に基づく対朝制裁措置を厳格に講じていることによって相変わらず冷え込んだままであることを率直に指摘しつつ、②朝鮮の中国にとっての戦略的重要性はなんら変わっていないことを強調して、これまでのように「過去の特殊な歴史状況に基づいて、無原則、無条件に情理にあわない責任を背負い込まない」、「平等、尊重、互恵、ウィン・ウィン」に基づく正常な中朝関係を築いていくことが重要だと冷静に指摘している点にあると思います。また、金正恩が5月に訪露、またその前に、4月にバンドン会議60周年記念行事に参加する可能性が取りざたされていることに関して、中国の指導者も出席するのだから、その機会に中朝首脳会談の実現を考慮する価値があるのではないかと提案しているのも注目されます。
もう一つつけ加えると、「朝鮮の核計画だけが朝鮮半島問題のすべてというわけではない」とさらっと述べているくだりも実は重要です。これは、昨日のコラムで紹介した李敦球文章の指摘(「南北関係改善を朝鮮の核問題解決とリンクさせる政策ではダメだ」)とも相通じているからです。つまり、米韓日が核問題解決が先決条件であるとしているのに対して、李敦球も暁岸も明らかに異なる考え方を示しており、これは中国政府の立場を反映している可能性が高いのではないかと考えられるのです。
以下にその要旨を紹介します。

重要なことは、金正恩が初の外交を通じて対外関係の局面を打開しようと布石を盛んに打っていることだ。金正恩が友好国主催のマルチの活動の際に自らの「国際デビュー」を行おうとしていることは意味深長であり、歓迎に値することだが、極めてリスクを伴ってもおり、主催者の接遇に対するテクニックも試練となるだろう。
金正恩の外交デビューが中国を目的地としていないことについては、中国国内で議論を引き起こしている。仮にそうだとしても、中国としてはあれこれと詮索する必要はない。なぜならば、それは主権国家の正常な決定なのだから。畢竟するに、中国の最高指導者が最初に朝鮮半島を訪れるに当たって韓国に行ったということに対して、朝鮮が中国に対して今なお腹に一物があることは理解できることだ。
過去一年、中国と周辺の伝統的友好国との関係はめざましいものがあったのに、朝鮮に対しては極めて冷淡であり、中朝関係は朝鮮の核実験による影響からまだ抜け出しておらず、双方の対立はまだ埋められていないことは誰の眼にも明らかである。このことは、過去1年間の中国のやり方がまずく、果たすべき責任を果たしていないということなのだろうか。答は「否」である。
中朝関係におけるオペレーションが相変わらず神秘なベールに覆われているにせよ、過去1年の間、中国が朝鮮との間で核問題にかかわる対話を回復するべく意思疎通を行ってきたことは多くの人が見て取ることができる。中国が厳格に安保理制裁決議を履行し、朝鮮に対して圧力を加えていることについても、外部世界が注意しているところだ。
アメリカの学界の中には、朝鮮半島問題に糸口が見つからないのは中国の「不作為」のせいだとし、中国が「アメリカの意向に沿わない」のはオバマの「APRリバランス」戦略に対する不満があるからだとするものが一貫して存在する。このような論調は中国を侮辱するものだ。核問題を含む朝鮮半島問題に対処する中国の唯一の拠りどころは国家としての戦略的利益プラス歴史及び道義を考慮することであって、他国の顔色を見て事を行うことはあり得ない。
「中国は朝鮮を見捨てた」とか、「朝鮮は中国を離れて西側に向かっている」というような説が過去1年間いろいろ取りざたされたが、これらはその実、偽りの命題である。好きか嫌いか、賛成するか反対するかに関係なく、中朝は互いに隣国であり、互いにとっての地縁関係、利益上の結びつき、戦略的重要性は選ぶ余地がないものだ。対立によって一時的に疎遠になったからといって、関係は断絶したと見なすのは誇張以外の何ものでもない。
中国の新外交が一再ならず強調する「正確な義利観」に基づいて解読するならば、中国にとって特殊な地位にある朝鮮ということには変化はないし、そんな可能性もあり得ない。変化したのは、中国が朝鮮に対して、過去においては「義」のために「利」を軽んじたが、これからは「利」と「義」をともに重視するように調整したという点にある。これは実際上、中朝関係が正常な国家関係に転化する際の主軸をなすものだ。
朝鮮が頑固に核計画を推進していることは、朝鮮半島情勢が緊張し、朝鮮の外部環境が悪化していることの直接の原因であることは疑いの余地はなく、中国はこれに断固反対だ。朝鮮がどのような道を堅持するかは朝鮮が決めることだが、仮に、中国の戦略的な安全保障と利益を犯すことをあえてするという前提であるときは、中国としてはそれを座視することはできない。 しかし、朝鮮の核計画だけが朝鮮半島問題のすべてというわけではない。アメリカの半島における軍事プレゼンス、米日韓軍事同盟が潮流に抗して強化されていること、朝韓間の間歇的な武力衝突、これらは朝鮮が民生に専念するために必要な、朝鮮の安全保障に対する外部のコミットが欠けていることを意味しており、中国が半島問題に対処する上ではこれらすべてを考慮しなければならないのだ。
朝鮮は核計画を中止して6者協議に戻るべきであり、それができなければ、国際社会からの圧力を引き続き受けるのであって、一度の「外交デビュー」がこの圧力を取り除くことはない。また、中朝関係が調整されることは、双方の根本的利益に合致するし、朝鮮の核問題に関する交渉が進展し、半島情勢が実質的な改善を獲得するためのもっとも大きな先決条件である。中朝関係が地域の新しい情勢及び両国の内政局面における新たな変化に適応して正常な国家関係の状態に入ることは、双方にとって長期的かつ戦略的な積極的意義があり、両国それぞれが自らの外交活動を行う上で、より広いスペースと自由度とを与えるものである。
正常な国家関係における一つの基本的な要件は、双方が平等、尊重、互恵、双贏を念頭におき、行動に移すことだ。もう一つの基本的な要件は、双方が、過去の特殊な歴史状況に基づいて、無原則、無条件に情理にあわない責任を背負い込まないということだ。
中国の指導者は、4月のバンドン及び5月のモスクワに姿を現すだろう。中朝が核問題及び発展の道筋に関する対立について簡単には解決が難しい状況の下、中朝の最高指導者が国際的舞台で最初に相まみえることができるとすれば、膠着状態を解消する上での壮挙であろうし、両国関係が「血盟」から正常な国家関係に向かって着実な歩みを遂げ、多くの気まずさや面倒事を避けることにつながるから、双方が真剣に考慮するに値するのではないか。