朴槿恵政権の対朝鮮政策への提言(李敦球文章)

2015.02.01.

最近の中国メディアにおいては、これまで朝鮮問題の常連の専門家だった研究者・専門家の文章がバッタリ途絶え、このコラムでも何度か取り上げてきた李敦球(浙江大学韓国研究所客員研究員で環球時報特約評論員)に代表されるニュー・フェイスの文章をしばしば目にするようになったという変化があります。
李敦球については、すでに紹介したことがあるのですが、検索サイト「百度」によると、国務院発展研究中心世界発展研究所朝鮮半島研究中心主任を務めた経歴の持ち主です。しかし、朝鮮に対して国家の機密を漏らした疑いで告発されたという情報もあり、それが原因かどうかは分かりませんが、私がフォローするようになったこの数年間は一度も見かけなかった名前でした。ところが、昨年後半以後、ふたたび上記の肩書で朝鮮問題について文章を書くようになっています。注目されるのは、人民日報系列の環球時報の特約評論員という肩書がついていることです。仮に朝鮮に国家機密を漏らした疑いがもたれ、告発されたのが事実であるとしても、環球時報が特約評論員として待遇されているということは、その嫌疑も晴れたということなのでしょう。
前置きが長くなりましたが、私の見るところ、朝鮮半島情勢について論じている論客で、読み応えがあると感じるトップ2は、国務院系列の中国網で論陣を張る暁岸と環球時報などで論を張る李敦球です。暁岸は国際問題を広く論じていますが、李敦球は正に朝鮮問題の専門家です。
その李敦球が、1月30日付の環球時報に「朴槿恵 半島和解に功績を残すか」、翌1月31日付の中国青年報には「朴槿恵の'第三の道' 朝韓関係のコチコチの氷を溶かすことができるか」を続けさまに載せました。中国青年報も共産主義青年団の機関紙ですから、両紙が李敦球文章を載せたということ自体、彼の見解が孤立したものではなく、中国政府の対朝鮮アプローチのあり方を窺わせる材料であることを示していると思います。
しかも興味深いことに、中国青年報に載った文章は、環球時報に載った文章を部分的にはコピペしているのです。このようなことは、同じ筆者によるものであるとしても、滅多にみられない現象です。
しかし、それにもかかわらず、李敦球があえて中国青年報で見解を発表したのには十分な理由がありました。即ち、中国青年報に載った文章は、朴槿恵政権の対朝鮮政策に対する提言として、①アメリカの圧力が朴槿恵政権の対朝鮮アプローチに対する足かせとなっており、朴槿恵が対米自主性を発揮することが必要だとはっきり指摘していること、②特に、南北関係改善を朝鮮の核問題解決とリンクさせる政策ではダメだと明確に指摘していること、そして、③朴槿恵政権が積極的な対朝鮮政策を進めるならば、中国政府は積極的に支持するだろうとこれまた極めて明確に指摘しているのです。3つとも極めて機微な問題ですが、これほど明確な、しかも重要な内容の見解をストレートに表明したものを、私は今まで見たことがありません。熟読の価値があると思い、紹介します。

<環球時報所掲文章>
最近、朝韓間の雰囲気が温かく変化していることが大いに注目されている。朴槿恵は最近、「現在はまず、朝鮮が対話提案に応じるために条件を作るべきであり、朝韓協力はまずやさしいことから手をつけて難しいことは後回しにするようにし、一日も早く統一の準備のために実質的な対話を行うように努力する」と強調した。この発言は、今年になって3回目の韓国が行った朝韓対話に対する対応である。第1回目は金正恩が朝韓首脳会談を提案した後に、韓国が直ちに積極的に応えたことだ。第2回は、朴槿恵が1月12日の記者会見で、朝鮮が望みさえすれば、朴槿恵としては前提条件を設けずに朝鮮側と首脳会談を行う用意があると述べたことだ。
新年に入ってすぐ、双方が朝韓関係の門を開ける意思があるという積極的なシグナルを打ち出したことで、年内に膠着状態を打ち砕く行動の可能性があるだけでなく、歴史的な第3回朝韓首脳会談が行われる希望もある。朴槿恵が政権について以後、朝鮮は韓国に善意を示し、双方の関係を緩和するための一連の措置も講じてきた。その中には、4項目の提案を行った「共和国政府声明」、仁川・アジア大会を利用した体操外交などがあるが、収穫はほとんどゼロだった。しかし、本年になって朴槿恵の対朝鮮政策には重大な変化が現れており、朝韓関係は新たな転換点を迎えるかもしれない。
朴槿恵の対朝鮮政策は、李明博の対朝強硬政策とは異なるし、金大中の太陽政策及び盧武鉉の平和繁栄政策とも違っており、いわば'第三の道'とも言うべき、朝鮮に対する包括的抑止力を高めるという前提の下で、朝鮮に対する信頼政治プロセスを推進するというもので、かつてのような軟でなければ即ち硬というアプローチを改めている。ということは、韓米軍事同盟を強固にし、強化するという前提の下で、着実に韓朝の和解及び信頼のプロセスを推進するということだ。
朴槿恵は間違いなく韓朝関係改善において功績を作りたいと考えている。5年の任期はすでに3年目に入り、志を行動に移すときに入っている。報道によれば、昨年末、韓国の民間団体は朝鮮の新義州に20トンのサツマイモを送った。韓国統一部関係者は、「本年、民間団体に対して韓朝協力基金として30.3億ウオンを支援する」と表明した。これらの行動は、朴槿恵政権の誠意を表すものだが、さらに大きい援助及び協力計画が後に控えている。韓国メディアがスクープしたところによれば、韓国政府は「第2開城」工業団地を作る具体的な計画があるという。これには、朝鮮が労働力を負担し、韓国は団地開発と企業誘致を行うという。韓国議会は、そのために23.5億ウオンの起動資金を予算化した。
朴槿恵は一貫して自らを「愛国愛族」と称し、朝鮮に対する感情は熱い。2002年に平壌を訪問し、金正日の出迎えを受け、単独で会談し、板門店経由で帰国するという特別待遇を受け、朝鮮訪問期間中しばしば「鼻がつまり、涙で目がかすむ」思いを味わった。このような個人的体験もまた、朴槿恵が韓朝関係で功績をあげることを促す重要な原因である。
1月13日にアメリカ政府は、あらゆる手段を動員して対朝鮮制裁を拡大すると表明したが、最近の朴槿恵の度重なる発言及び韓国政府の対朝姿勢からみると、全面的にアメリカに付き従って行動するということはないだろう。韓国の学者の分析によれば、アメリカは、韓朝関係が接近しすぎることを戦略的に望んでおらず、このことは韓国政府が直面する難題だということだ。
ある分析によれば、金正恩と朴槿恵がロシアの招待で記念活動に参加すれば、朝韓首脳会談が5月にモスクワで行われる可能性があると言う。朝韓首脳がいつどこで、またどのような方法で会談するかはともかく、朝韓の境が実現すれば、半島及びこの地域にとっての幸せであるし、東北アジアの安定と繁栄にとっての重要な基礎となるだろう。

<中国青年報所掲文章>
最近、朝鮮は板門店を通じて韓国に対して「全民族に呼びかける書」を送り届け、金正恩が年頭の辞において提起した「統一という任務」を貫徹することを求め、韓国が体制間の対決を追求しないことを呼びかけた。新年になってから、首脳会談及び朝韓対話に関して、韓国はすでに3回にわたって応えており、双方が積極的なシグナルを送り、朝韓関係がどのように発展するかについて再び注目されている。
新年に入ってから、韓国の対朝姿勢には変化がみられるようだ(環球時報で挙げた3回の対応をコピペ)。
様々な事象でみると、朴槿恵は韓米同盟を強固にし、強化しようとしているが、対朝政策においてはアメリカと一定の距離を保とうとしている可能性がある。オバマは1月2日に署名した行政命令で朝鮮に対する制裁を追加した。アメリカ政府は1月13日、あらゆる可能な手段を使って朝鮮に対する制裁を拡大すると表明した。オバマは1月22日、YouTubeで、軍事手段だけが朝鮮問題を解決する手段ではなく、ネットを利用して浸透し、情報を朝鮮に伝え、朝鮮に変化を起こし、最終的に朝鮮を「崩壊」させるとして、これがアメリカの対朝鮮戦略だと述べた。韓国政府はこれに対して沈黙を守っている。最近の朴槿恵の度重なる発言からみて、韓国政府が対朝姿勢において完全にアメリカに付き従うわけではないと見られる。
朴槿恵政権は、過去の対朝鮮政策を分析して、①過去における大規模な対朝支援及び南北経済交流協力の拡大は半島の緊張情勢を一時的に緩和させたけれども、持続的な平和を保障することはできなかった、②朝鮮に対して強硬に圧力をかけることは核問題解決及び南北関係改善になんら役に立たなかっただけでなく、国民の不安感を増大した、③李明博政権がアメリカと一緒になって朝鮮に圧力をかけたことは、半島情勢を危機に陥れたのみならず、朝鮮をしてさらなる核保有の道に押しやったと指摘した。したがって、朴槿恵の対朝政策は、李明博の対朝「強硬政策」と異なり、また、金大中の「太陽政策」及び盧武鉉の「平和繁栄政策」とも異なっており、「第三の道」を取るとしている。それは即ち、朝鮮に対する包括的な「抑止力」を高める前提の下で、朝鮮に対する「信頼政治」プロセスを推進し、かつてのような「軟」にあらざれば即「硬」というアプローチを変更するというものだ。
しかし、韓国の学者の分析によれば、アメリカはそのAPR戦略の角度から韓朝関係が過度に接近することを望んでおらず、韓朝関係が実質的に改善することはなおさら望んでいない。これこそが歴代韓国政府にとっての難題であり、朴槿恵が「第三の道」を取る上での最大の障碍でもある。つまり、韓米軍事同盟を強固にし、強化する必要もあれば、着実に韓朝和解及び信頼のプロセスをも推進するということは矛盾にほかならず、この矛盾をいかに打ち破るかということは朴槿恵政権の能力を試すものとなるだろう。
アメリカというファクターは、韓国の対朝政策に対して一貫して巨大な影響を及ぼしてきたのであって、韓国政府の韓米同盟に対する依存度如何はその対朝政策の実効性の大小を直接的に決定してきた。即ち、世界の二極冷戦構造が崩壊してから、韓国政府がアメリカにピッタリ寄り添う戦略を選択したときは、朝韓関係は高度に緊張したのであって、金泳三政権及び李明博政権の時、なかんずく李明博政権が過度に韓米同盟に依拠して朝鮮に対して圧力をかける政策をとったときは、統一及び安全の双方で失点した。李明博はその回顧録で、金正日が少なくとも5回首脳会談を提起してきたこと、しかしすべて拒絶したことを明らかにしている。他方で、韓国政府が対朝政策における自主性を相対的に確保した下では、朝韓関係はある程度緩和した。例えば、金大中及び盧武鉉政権の時は、対朝政策で高度な自主性を堅持し、朝韓和解協力を唱道すると同時に、朝米関係改善を推進し、半島情勢には和解と協力という良好な局面が現れた。
このような歴史的法則に鑑み、朴槿恵政権としてはまず、朝鮮半島の平和と統一が民族にとっての根本的利益であるという認識の基礎に立ち、自らが設計する道筋及び方式に基づいて朝韓相互信頼プロセスを推進し、アメリカ・ファクターが朝韓関係に及ぼすマイナスの影響を最大限に減らし、対朝政策が李明博政権時代のそれに回帰しないようにする必要がある。
次に、朝鮮の核問題に対処する点に関しては、韓国政府は半島の非核化を積極的に推進すると同時に、朝鮮の核問題の本質を見極め、非核化プロセスと韓朝関係改善とをひたすら一括りにするべきではなく、さらには、李明博政権の時のように、朝韓関係を犠牲にしてでも朝鮮の核問題を解決しようなどと考えるべきではない。まずは朝韓関係の改善を先行させるべきであり、朝韓関係の改善を推進することは直接的には朝鮮の核問題を解決することはできないが、朝韓関係改善は必ずや朝鮮の核問題を解決するためのプラスのエネルギーを提供するだろう。
さらに、韓中及び韓米間でバランス外交を行うと同時に、対朝鮮政策においては中国の十分な支持を取り付けることだ。ハイ・レベルな地縁政治的環境からみても、また、現実的な地域的経済建設の観点からみても、半島の和解及び融合は中国にとって重要な戦略的な意義があり、中国は、朝韓関係の改善及び自主平和統一を支持するだろうし、そのことはまた朝鮮半島が最終的に冷戦から抜け出すために必ず通らなければならない道である。