中国の抗日戦争勝利記念日軍事パレード

2015.01.30.

1.事実関係における「異常」な展開

 1月27日に行われた外交部の華春瑩報道官による定例記者会見において、記者から、「本年、中国が閲兵式を行うという報道があるが、その点を確認したい。その目的と意義は何か」という質問があったのに対し、同報道官は、問いには直接答えず、次のように述べました。

  中国は、第二次大戦の戦勝国であるとともに、大戦の東方の主戦場でもあり、世界の反ファシズム戦争に対して重要な貢献を行うとともに、巨大な犠牲を払った。中国は、関係国とともに関連する記念活動を行うが、その目的は、すべての善良な人々に平和への気持ちと確信を喚起し、世界各国人民の間で歴史に対する記憶と平和に大切さとを喚起し、第二次大戦の勝利の成果と戦後国際秩序を擁護し、世界平和を擁護する確固たる立場を表明することである。この機会に、各国が歴史を総括し、回顧して、歴史の経験と教訓をくみ取り、共同して人類のより良き未来を切りひらく努力を行い、恒久の平和と共同の繁栄という世界を建設することに共同して力を尽くすことを希望する。

 抗日戦争勝利記念日である9月3日に閲兵式即ち軍事パレードを行うという情報に関しては、中国のネット上では様々なニュース・憶測が飛びかい、そのことが上記の中国外交部報道官の発言を引き出すことになったようです。こういう物事の展開自体、中国もご多分に漏れずネット社会であることを如実に示すとともに、「ある事件を大いにはやし立てて、政府の正式な態度表明を「迫る」という中国ネット・メディアの戦術である」と1月28日付環球時報社説がこぼしているように、抗日戦争記念日をどのように迎え、祝うかという中国にとって最高度に重要な問題においても、ネット世論の攻勢に中国政府が対応に追われるという極めて「異常」な形を取っています。
  しかし、同じく1月28日付の環球網記事によれば、すでに1月22日に、中国公安部副部長で北京公安局局長である人物(傅政華)が反ファシズム戦争勝利70周年を記念する軍事パレードを北京で行うという発言を公の場で明らかにしていたといいます。軍事パレードとなれば、多くの関係者を巻き込んで、早い段階から準備しなければなりませんから、様々な関係者から情報が漏れ広がっていったのでしょう。
  とは言え、やはり腑に落ちないのは、9月3日を抗日戦勝利記念日と法律で定め、70周年を祝うために本格的にとり組むことを前々から公にしてきた中国政府が、軍事パレードという重要な行事に関しては、1月末の現在でもなお正式発表できないでモタモタしている感じを与えることです。

2.反ファシズム・抗日戦争勝利という特徴

 すでに触れたように、中国ネット・世論の「先走り」に愚痴をこぼした1月28日付環球時報社説ですが、「今年の軍事パレードの特色は規模に重きをおく以上のものがあるかもしれない」というタイトルが示すように、9月3日の軍事パレードに対する中国政府の取り組み姿勢を理解する手がかりを与えています。社説の要旨は次のとおりです。

(1.で述べたような)状況の下にあるのに、政府がニュースを否定しないとすれば、軍事パレードを行うことはやはり事実だということだろう。軍事パレードまではまだ7ヶ月以上の時間がある。10年に一度の国慶節に際しての軍事パレードは1年以上前から準備を開始するのであり、7ヶ月強という時間は同規模の軍事パレードを行うには明らかに短すぎる。つまり、反ファシズムの軍事パレードの規模は国慶節のそれよりも規模が小さい可能性がある。
  しかし、規模は問題ではないかもしれない。反ファシズム軍事パレードを行うとなれば、必ずや内外の関心と歓迎を受けるだろう。国内的には、中国社会の求心力を高め、勝利の誇りと未来に対しての警戒とを新たにすることができる。対外的には、当時の反ファシズム諸国を団結し、この戦争のプラスの成果をうち固め、今日に至る戦後構造を安定させることができる。
  反ファシズムの軍事パレードは欧州においてもっとも盛んだが、その特徴は目的が非常に明確であり、規模を重視するよりも特徴を重視するということであって、また、国際性を際立たせて外国の指導者の参加を積極的に要請している。また、大国の中で軍事パレードがもっとも多いのはロシアとフランスだが、ロシアについては、ソ連時代から10月革命(ナショナル・デー)と反ファシズム戦争勝利の年2回の軍事パレードを行い、前者は戦力を誇示するのに対して、後者においてはヴェテランの隊伍の参加も得て勝利の歴史的記憶を暖めるという特徴がある。
  中国には10年毎の国慶節に軍事パレードを行う慣例がある。10年毎に反ファシズム戦争即ち抗日戦争勝利の軍事パレードも行うとなれば、10年毎の2度の軍事パレードという仕組みとなる。そうなるかどうかは将来の問題だが、本年の反ファシズムの軍事パレードをして国慶節の軍事パレードとは異なる特色を持たせることは非常に大切であるように思われる。
  即ち、反ファシズム軍事パレードは国慶節軍事パレードと規模を競いあう必要はなく、その特別な意味合いに即して形式と中身を設計し、参加する人員と兵器の陣容を決定するべきだろう。9月3日は法定された全国の記念日ではあるが休日というわけではない。この日の軍事パレードは、抗日勝利という意義と反ファシズムという主題とを突出させ、内外の団結をつくり出すことをより重視するべきだろう。
  国慶節の軍事パレードでは、中国の軍事的実力のオン・パレードという厳かな権威を維持するべきであり、その主たる任務は中国人民及び全世界をして中国の軍事的実力を理解せしめることだ。それに対して反ファシズム軍事パレードでは、中国の軍事力と世界平和防衛との関係を明らかにし、意図及び使命という角度から国際社会が中国の国防を理解し、その因果関係を理解することを可能にすることに努めるべきだろう。

3.70周年記念行事としての性格

 軍事パレードに関して、反ファシズム戦争・抗日戦争勝利70周年の意味合いを強調する2つの文章も紹介しておきます。

<中露共同事業>

 1月28日付の中国網は、薛宝生署名文章「中国の軍事パレードは軍威と平和の発揚する」を掲載しています。検索サイト「百度」によれば、薛宝生は中共中央政策研究室機関誌『学習及び研究』編集長とありますので、その見解は党中央の立場を反映していることは間違いないでしょう。この文章は、中露の共同事業としての性格を強調する、次のような内容です。

  中国とロシアは、共同で反ファシズム戦争及び中国抗日戦争勝利70周年を祝う活動を行うことを決定した。中国は9月3日の抗日戦争勝利記念日に軍事パレードを行い、各国元首の出席を要請している。ロシアはすでに、プーチン大統領がこのパレードに出席することを確認している。第二次大戦の主戦場となった中露両国は、戦争勝利の主要な力であったのみならず、大戦後の平和な秩序を擁護し、世界の平和及び発展を推進し、人類の福祉を追求する核心的な力でもある。中露が共同で慶祝活動を提起し、挙行することは、第二次大戦勝利の果実を確固として守る強力な力の存在を示している。
また、中国がこの軍事パレードを行い、ロシアその他の外国指導者の出席を要請するということは、中国が戦争に反対し、平和を重視し、国辱を忘れず、歴史を記憶し、歴史を鑑とし、未来と向き合い、発展を強化し、国力を向上させる確固とした決意と行動にはいささかの動揺もないことを物語るものだ。
  また、中国が10年毎の国慶節に際してのみ軍事パレードを行うという慣例を破り、この抗日戦争勝利記念日に軍事パレードを決定し、かつ、ロシアと共に第二次大戦勝利70周年を慶祝するということも歴史の前例がない壮挙である。第二次大戦に勝利した国々は、日本が第二次大戦の勝利の果実と戦後平和秩序を転覆することを絶対に許さず、安倍晋三政権が平和憲法を改定し、集団的自衛権を解禁して平和に歯向かうことをも絶対に許容しない。

<安倍首相に対する出席要請>

 1月28日付の環球網は、王徳華署名文章「抵抗戦争軍事パレードへの安倍招待は良いアイデアだ」を掲載しています。王徳華は環球網特約評論員です。同日付の環球網は、「86%のネット・ユーザーが安倍を招待することを支持する調査結果」という記事も掲載しており、この問題に対するネット世論の関心の高さを伝えています。ちなみに、上記薛宝生署名文章には、「中国は9月3日の抗日戦争勝利記念日に軍事パレードを行い、各国元首の出席を要請している」というくだりがありますから、その中に安倍首相が含まれているかという具体的問題でもあります。

  戦争勝利記念日に軍事パレードを行うことは国際的慣例であり、ロシア、フランスもやっている。しかし、中国が抗日戦争勝利記念日に軍事パレードを行うのは「慣例を破る」ものであり、外国首脳を招待することはなおさら前例がないことだ。そのために、国際的メディアやネット・ユーザーの高い関心を呼んでいる。
  この軍事パレードにどの国の首脳を呼ぶのか。ネット・ユーザーからは、ロシアのプーチン、アメリカのオバマ、イギリスのキャメロン、フランスのオランドに加え、日本の安倍も招待すべきだとの声が少なくない。これは良いアイデアだ。ノルマンディ上陸作戦70周年の軍事パレードには、フランスはドイツのメルケルを呼んだ。
  独仏が和解し、独英が和解し、米日が和解し、米独も和解したのに、中日と中韓が和解できないのはなぜか。現在のドイツはナチス・ドイツではないが、日本は相変わらず軍国主義の髑髏を死んでも放そうとしていないからだ。
  第二次大戦勝利70年に際して安倍は何を言うのか、思いは千々に乱れているようだ。安倍と呼応するかの如く、大阪の国際平和センターの戦争博物館は最近、第二次大戦における中韓に対する「侵略」という表現を削除した。
  我々は恨みを傍らに置くことはできるが、日本は心の底から悔いなければならない。我々は未来に向きあうことはできるが、歴史を改ざんすることがあってはならない。中日は友好であることはできるが、日本は災いをなす心があってはならない。
  日本のメディアは、「2015年は日本外交にとっての鬼門だ」とし、「安倍は早くから心の準備をしている。70周年というこの区切りにいかなる外交的枠組みを構築するかについて、首相側近を含めてひそかに準備検討が始まっている」と述べている。中国の一連の抗日戦争勝利記念日行事に如何に対応するかということは、間違いなく準備検討の中の最重要テーマだろう。

<語られていない問題>

 すでにロシア政府特局舎が明らかにしているように、ロシアが行う反ファシズム戦争勝利記念の軍事パレードには、朝鮮の金正恩にも出席要請を行い、朝鮮からは積極的な回答に接しているという事実関係があります。また、習近平は訪韓した際に、朴槿恵に70周年記念行事を共同で行うことを持ちかけた経緯もあります(朴槿恵は口を濁してようですが)。したがって、筋からいえば、中国が金正恩にも出席要請を行うのが当然だと思うのですが、9月29日現在の時点では、この点に関する中国側報道はありません。すでに紹介した薛宝生文章の「中国は9月3日の抗日戦争勝利記念日に軍事パレードを行い、各国元首の出席を要請している」というくだりに鑑み、金正恩が含まれているかどうか(含まれていないとしたら、それこそ問題ですが)、これからの中国側報道に注目していく必要があるでしょう。