衆議院総選挙:世論調査の怪(?)と本当の問題の所在

2014.12.6.

1.世論調査の怪(?)

近ごろのマス・メディア各社の世論調査の結果を見ていると、一見理解不能の現象が現れています。それは、安倍政権に対する支持は軒並み低下している一方で、今回の総選挙の結果に関しては自民党の一人勝ちを許す有権者の投票行動になりそうだというものです。
  例えば、共同通信が11月30日に明らかにした世論調査によれば、安倍政権に対する支持率は43.6%であるのに対して不支持は47.3%であり、2012年末に安倍政権が登場して以来はじめて不支持が支持を上回ったと指摘されました。しかも、アベノミックスに対する評価に関しても、回答者のなんと84.2%もの人が経済回復の効果を実感していないと答えたというのです。それだけではありません。集団的自衛権の行使に関しても、回答者の53.3%が反対、安倍政権が推進しようとしている原子力発電再開に対しても過半数の国民が反対です。ほかの世論調査の結果もほぼ同じ結果です。
  なぜこのような一見理解不能の現象が現れているのでしょうか。明らかなことは、安倍政権ひいては自公政治に対して主権者・国民が期待をつないでいるということではあり得ません。原因としては、主権者・国民が野党に対して「自民党以上に期待が持てない」と判断しているということ以外にありません。いったんは政権をとった民主党の惨憺たる結果の後遺症は、ひとり民主党の党勢挽回を不可能にしているだけではなく、民主党に対する期待を込めて投票した主権者・国民を幻滅させ、今日なお深い傷跡を残しているということです。
  しかも、その後の野党乱立現象も多くの主権者・国民にとっては、「分けのわからないコップの中の嵐」以外の何ものでもなく、ますます「野党」勢力に対する幻滅感を深める方向に働いていると思われます。そこにおけるカギとなるポイントは、主権者・国民が「なるほど、そうか」と頷けるだけの、政治の逼塞状況を本当に打破し、打開できるに足る政策を多くの野党が示し得ていないことにあります。安倍政治に対する反対、政権交代の必要性を叫ぶだけでは、主権者・国民の投票を引きつける力はもはやないのです。

2.本当の問題の所在

 しかし、本当にすべての野党がだらしなく、ダメなのでしょうか。そうではなく、主権者・国民が「野党は全部ダメだ」と考えてしまうところに本当の問題があるのではないでしょうか。端的に言えば、民主党、維新、次世代、改革などは「目くそ鼻くそ」だとは私も思いますが、共産党は違うと思うのです。
  正直言って、私は共産党のすべての政策に同意し、納得しているわけではありません。特に領土問題、朝鮮問題、中国問題、ロシア問題などの外交問題に関しては、共産党の認識・主張・政策について基本的に強い意見があります。それらの点については、このコラムでも指摘してきました。しかし、憲法をはじめとする内政問題の多くと平和・安全保障問題に関しては、共産党の主張・政策は説得力のある内容があります。端的に言えば、自民党政治・自公政治に対する主権者・国民の批判の受け皿は共産党であるということです。
  これも各種の世論調査が一様に示しているように、今回の総選挙に当たって、共産党に対する支持は広がっているようです。比例で共産党の議席が倍増する可能性も指摘されるようになりました。それは一つの肯定的変化です。しかし、さらに厳粛な事実は、圧倒的により多くの主権者・国民が「共産党及びその候補に投票する」という態度決定に踏み切れていない、もっと率直に言えば、そのような可能性は考慮の中に入っていないことです。
  その原因はもちろん共産党自身にもあると思います。共産党を「毛嫌い」し、批判する人々の多くから私がよく耳にしてきたことは、「共産党は独善的だ」とか、「代々木の言いなりに動く末端も排他的」という言葉です。歴史的な社共対立の歴史が今日まで影を落としている面も否定できません。それらの根底にあるのは歴史的にすり込まれてきた「アカ意識」であり、「既成事実という現実に弱い」私たちの国民性です。
  しかし、安倍政治に代表される今日の保守政治(私は民主、維新、次世代、改革も含めています)の危険性はいまや、日本の進路を決定的に誤らせ、日本を世界的孤立に追いやる段階に来ていることは間違いありません。私たち主権者・国民が今度の総選挙でまなじりを決した投票行動に踏み切ること、即ち大挙して共産党(比例)及びその候補(小選挙区)に日本の進路を託してみるという意思決定のみが保守政治の暴走をチェックできると確信します。
  共産党は信用できないという人も少なくありませんが、共産党が大躍進して主権者・国民の信託を裏切ることがあれば、その時は私たちが改めて共産党を懲らしめれば済むだけの話です。共産党自身は、議席が倍増すればそれだけで有頂天に喜ぶのだろうとは思いますが、それだけでは日本の政治の流れを変えることはできません。自民党が目の色を変えるだけの共産党の大躍進が日本政治をこれ以上誤らせないためには不可欠です。

3.(補足)ニューヨーク・タイムズ紙社説の安倍政治批判

 12月3日付のニューヨーク・タイムズ紙は、「日本における歴史のごまかし」と題する社説を掲げ、第二次大戦における不名誉な歴史をごまかそうとする、安倍政権に代表される日本の右翼勢力の動きを強く批判しました。社説は衆議院の総選挙については何も触れていませんが、この時期にこのような内容の社説を発表することは、同紙が安倍政治に代表される日本政治の危険性に対する警告の意味を込めていることは明らかだと思います。短いので、全文を紹介しておきます。

  安倍政権に力づけられている日本の右翼政治勢力は、日本軍部が数千人の女性を戦時売春宿で働かせた第二次大戦の不名誉な記録を否定するべく、脅迫キャンペーンを行っている。
  多くの主流の日本の学者及び日本人以外のほとんどの研究者は、「従軍慰安婦」からの広範な証言に基づき、この計画がアジアの戦線において日本の軍人たちによる女性に対する性的暴行を許したという歴史的事実を確証している。
  ところが今や、これらのことは戦時の日本の敵によってでっちあげられたまったくのウソだとする政治的な動きが力を得つつある。修正主義者は女性たちに売春を強要したことに対する政府の1993年の謝罪をひっくり返そうとしている。ナショナリスト的な熱気をたきつけることに余念がない安倍政権は本年はじめ、日本が性的奴隷になることを強要した女性たちに関する1996年の国連の人権報告に修正を加えさせようとして斥けられた。しかし国内では、右翼は、朝日新聞が1980年代及び1990年代に発表した文章の内容の一部について撤回したことをつかまえ、「従軍慰安婦」計画にかかわるより大きな歴史的な真実を否定しようと朝日新聞を叩きのめしている。
  安倍政権は、戦争中の歴史の書き換えを要求する連中に迎合して火遊びしている。かつて朝日新聞の記者だった植村隆は、極右勢力が彼とその家族に対して脅迫を行っているとして、「彼らは我々を沈黙させようと脅している」と述べた。
  中国と韓国の批判を受け、また、アメリカの不満のもと、安倍氏は3月に(1993年の)謝罪を守ると述べた。この謝罪においては、日本は数万人の韓国その他の女性が性的奴隷となることを強要されたことを認めた。修正主義者たちは変えたがっているが、これこそが歴史的真実である。