中国の対朝鮮政策:「朝鮮放棄論」批判文章

2014.11.28.

朝鮮の崔龍海特使の訪露で示された朝露関係の進展という新しい国際的要因の登場を受け、中国の対朝鮮及び朝鮮半島政策が今後どのような展開を示すかは極めて注目に値するところだと、私は考えています。崔龍海特使訪露に関する中国側報道に関して私が関心を持つ一つのポイントは、朝鮮問題に関するいわゆる「常連」の学者・専門家の発言がこれまでのところ見られないことです。このコラムではすでに2回にわたって崔龍海特使の訪露問題を取り上げましたが、そこで私が紹介した中国側論者は、私にとっては「ニュー・フェイス」でした。
  中国国内における対朝鮮・朝鮮半島政策にかかわる認識状況を窺う上での一つの材料と思われる文章が、11月27日付の環球時報所掲の李敦球署名文章「65年間のパートナーである朝鮮を「放棄」することはできない」です。この文章は冒頭で、ここ数年来、中国国内に「朝鮮放棄論」が現れていること、戦略関係の学者の中にはこれを提案しているものすらいるということを指摘し、「中朝国交樹立65年を経た今日、中朝関係に如何に対処するかについては、意見の隔たりが極めて大きいだけではなく、問題は異常に深刻である」として、「朝鮮放棄論」に対して反駁を試みています。
  私がこれまで目にした限りでは、「朝鮮放棄論」の文章に接したことはありません。問題の敏感性故にオープンに議論することが押さえられているのであろうということは容易に推察することができます。しかし、李敦球署名文章は、中国国内で深刻な論争が行われていることを窺わせるに十分なものがありますので、その内容を紹介します。なお、李敦球は11月25日付のコラムでもその文章を紹介した人物で、環球時報の紹介においては浙江大学韓国研究所客員研究員兼環球WS特約評論員という肩書です。
ちなみに、検索サイト「百度」が2005年9月20日付で紹介しているところによると、李敦球は浙江大学韓国研究所で博士号を取得しており、「現在は国務院発展研究中心世界発展研究所朝鮮半島研究中心主任、中国朝鮮(半島)史研究会副会長兼秘書長」とありました。しかし「百度」には、2009年2月23日付で「鉄血WS」の「環球風雲」ページが香港の雑誌『鳳凰週刊』掲載記事に基づいて「中国社会科学院が再び専門家の機密漏洩事件を暴露」と題する記事が掲載されていますが、この中では、陳輝(2005年)、金熙徳(2009年)が機密漏洩の疑いで逮捕されたことと並べて、「社会科学院から最近再び対外的に機密漏洩という消息がつたわったのは韓国研究中心研究員の李敦球だ」と述べています。そこでは、李敦球が「賄賂をもらって朝鮮に国家機密を漏洩したという疑いが持たれている」としつつ、「その後の内情及び結末は分かっていない」としています。
以上に基づけば、李敦球は2005年当時国務院における朝鮮半島研究における中心的地位にいた人物であり、その後機密漏洩の疑いで解職されたけれども、今は出身校、古巣の浙江大学韓国研究所の客員研究員となっており、環球時報特約評論員という肩書から判断すると、機密漏洩の嫌疑は晴れたのだろうと推察できます。それより重要だと思われるポイントは、李敦球の経歴から判断しても、その署名文章の内容は注目するに値するということだと思います。

「朝鮮放棄論」を主張する人々の理由としては主に2点ある。一つは、伝統的な地縁政治の考え方はすでに時代遅れであり、現代戦争はもはや地縁的な障壁を必要とせず、朝鮮は中国の戦略的障壁を担う役割を失ったというものだ。仮にこの理論が成り立つとするのであれば、アメリカはなぜ韓国及び日本から軍隊を撤退させないだけではなく、逆にその軍事プレゼンスを強めているのだろうか。朝鮮半島の地縁的価値が依然としてあることは疑いの余地がない。二つ目は、中朝間には多くの矛盾、摩擦、意見の対立があり、国際関係において朝鮮は時に中国の言うことを聞かず、中国にとってマイナスのアセットになっているから、中国は朝鮮を「放棄」すべきだというものだ。この理由づけは煽動的性格がさらに強い。しかしこれらは表面的現象に過ぎないのであって、まともに考慮するにも値しない。
第一に、中朝は二つの独立した主権国家であり、国家の利益が完全に同じということはあり得ないし、あらゆる問題で協調一致するということもあり得ない。同盟国の間でも矛盾や意見の違いということは多かれ少なかれ存在する。問題は、矛盾の性質(浅井注:中国では、毛沢東以来の主要矛盾とそうでない矛盾という区別の仕方が広く受け入れられています)を区分し、矛盾を巧みにコントロールするということだ。
第二に、今日における中朝間の矛盾は中日間の矛盾とは性格が異なる。中日間の矛盾は領土領海、歴史認識、東アジア地縁政治などにわたる問題であり、戦略的次元のもので、妥協できない矛盾だ。中朝関係に関しては、かつての中ソ関係決裂の轍を踏むことはあり得ない。なぜならば、今の中国はかつてのソ連ではなく、朝鮮を支配するということは考えてもいないし、可能でもない。朝鮮はといえば、当時ソ連に対抗した中国の力量はまったく備えていないし、社会主義制度を取っている朝鮮は中国の地縁政治において他に代わるもののない存在だ。中朝の友好は双方にとって共通の必要であり、中国が一方的に願うという性格のものではない。
第三に、朝鮮問題というのは本質的に冷戦が残した問題であり、朝鮮半島冷戦の礎石である停戦協定及び米韓同盟と結びついている。朝鮮は、自らの生存と安全保障のために「孤立無援の中で闘う」ことを余儀なくされている。停戦協定と米韓同盟という二つの礎石を取り除かない限り、朝鮮問題も長期にわたって存在し続けるのであり、中朝関係がその影響を蒙らざるを得ないことは間違いない。中朝両国は地縁政治上の根本的な利益において一致しており、東北アジアの地戦政治構造に根本的な変化が生まれない限り、中朝両国の根本的利益もまた変わりようがない。
一歩下がって、仮に中国が本当に「朝鮮を放棄する」ならば、次の三つのいずれかの結果が出現するだろう。第一、朝鮮が中国以外の第三国の懐に飛び込む可能性だ。第二、敵対国の政治、経済及び軍事上の共同包囲及び圧力のもとで朝鮮が崩壊する可能性だ。第三、朝鮮が孤立無援のもとで決死の闘いを挑み、朝鮮半島が再び戦火に見舞われる可能性だ。以上のいずれの結果であってもすべて中国にとって不利であり、しかも再び海洋勢力による朝鮮半島支配を招く可能性があり、それは即ち歴史的な過ちを犯すということだ。甲午戦争(日清戦争)は日本と清朝が朝鮮半島支配を争って起こったもので、その影響は今日に至るも残っている。現在は、アメリカが日本に取って代わって海洋勢力として朝鮮半島の秩序を仕切っているが、仮に中国が「朝鮮を放棄する」となれば、アメリカは朝鮮戦争当時でも手に入れられなかった戦略的利益を獲得することになるだろう。戦略的な判断を誤ることによってアメリカに極上のプレゼントをすることは絶対に避けなければならない。「朝鮮放棄」を主張する人々は、「傷口が癒えていないのにその痛みを簡単に忘れる」ものと言うべきである。