崔龍海特使訪露(2)

2014.11.25.

1.ラブロフ外相と崔龍海特使の会談

崔龍海特使は、11月18日にプーチン大統領と会見したほか、同20日にはラブロフ外相とも会見しました(19日付の朝鮮中央通信は「本社特派員発」として、「努光鉄・朝鮮人民軍副総参謀長が19日、アンドレイ・カルタポロフ・ロシア連邦武力総参謀部副総参謀長兼作戦総局長に会った」こと、また、「李光根・対外経済省次官はアレクサンドル・S・ガルシカ極東発展相に会って経済・貿易分野において両国間の協力をよりいっそう深化、発展させて実質的な結果をより多くもたらすための対策的問題を討議した」ことを伝えています)。20日付のロシア外務省WS(英語版)は、ラブロフ外相が崔龍海と会談した後の記者会見で行った発言及び記者との間のQ&Aを詳細に紹介しました。なお崔龍海特使一行は、ハバロフスク及びウラジオストックを訪問した後、24日に帰国しました。
  ラブロフ外相の発言内容に対しては中国側も高い関心を寄せていますが、以下でその内容を紹介します。ちなみに、ラブロフが述べた「朝鮮半島の核問題は、DPRKを含むすべての当事国の正統な安全保障上の関心が例外なしに考慮される場合にのみ解決することができる」という立場は中国のそれと見事に一致していますし、6者協議について「中国と緊密に協調して、我々は積極的な変化を実現することを期待している」と述べていることも、中国を出し抜くような意図はないという中露連携姿勢の強調という意味を持っています。

  本日、朝鮮(DPRK)国防委員会の金正恩第一委員長の特使、朝鮮労働党政治局常務委員であり労働党中央委員会書記である崔龍海氏と会談した。会談は建設的かつ実務的に行われた。
  我々は両国関係の状況を検討し、18日に崔龍海特使とロシア大統領との会見において達成された基本的諸合意を再確認した。崔龍海氏は金正恩からプーチンに対するメッセージを伝達したが、その中では両国関係の包括的発展及び朝鮮半島にいまだに存在する諸問題を解決することに関する協力に焦点があることを確認した。
  我々は、両国の貿易経済関係が質的に新しいレベルに到達したことを確認した。極めて有望な計画が進行中である。その中には、すでに開始された、ロシア鉄道の参加を得て北朝鮮の羅津港にインターモーダルな鉄道ターミナルを建設するプロジェクトが含まれる。南北朝鮮及びロシアの専門家の参加を得て、この港経由でロシアの石炭を韓国に試験的に輸送する事業が進行中だ。この試験的輸送の結果を踏まえ、朝鮮縦断鉄道とシベリア縦断鉄道とを連結する事業を開始するだろう。これは、二国間及び三国間関係を越えた主要なインフラ・プロジェクトだ。これが成功すれば、DPRKのパートナーは、ロシアのガスを北朝鮮経由で南朝鮮に輸送するプロジェクト及び同様のルートを通じて電力を輸送するプロジェクトを含む他の三国間プロジェクトについて考慮する用意があるとしている。南朝鮮、中国及びモンゴルの投資者は、羅津港ターミナル建設を含むこれらのプロジェクトに対する関心を表明している。我々は、多国間の建設的フォーマットで行われるこれらの交渉を継続するだろう。
  このほかにも、開城の自由経済地域へのロシア投資家の参加、極東地域で開始されるその他のプロジェクトなどの可能性がある。今晩、崔龍海氏はウラジオストック及びハバロフスクに向かい、同地で極東地域の政府及びビジネス指導者と会う予定である。
  我々はまた、北朝鮮とロシアの市民の間で大変に人気がある人道的及び文化的結びつきについて討議した。双方は、これらを今後も強化することに強い関心を持っている。
  我々は、朝鮮半島情勢及び朝鮮半島の核問題を解決する6者協議が行き詰まっていることに関連する困難な諸問題を検討した。我々は、DPRKの高級代表から、平壌が2005年9月の6者協議で採択された共同声明に基づき、いかなる前提条件もなしで6者協議を再開する用意があるという確約を受け取った。我々は、この立場を積極的に支持し、推進する。我々は、共通の土俵を見出し、この重要な政治プロセスを再開するため、アメリカ、韓国及び日本を含む6者協議の他の当事国と協働するだろう。これを行うに当たっては、6者協議を主催し、調整している中国と緊密に行動を調整していく。我々は早期に再開したい。
  6者協議の一環としていくつかのワーキング・グループが設置されており、その中にはロシアが主宰する北東アジアの平和と安全に関する合意を促進するグループが含まれる。しばらくストップしていたが、今や安全保障に関する話し合いを再開するときである。朝鮮半島の核問題は、DPRKを含むすべての当事国の正統な安全保障上の関心が例外なしに考慮される場合にのみ解決することができる。
  我々は、6者協議における現状または全体としての危機的な情勢を口実にして、軍事的な備えを構築しあるいは桁外れの軍事演習を行い、ブロック的考え方に基づいて地域の安全保障にアプローチすることに反対する。我々は、このことについてアメリカ、南朝鮮及び日本とオープンに議論するだろう。6者協議のすべての当事国とともに、そして中国と緊密に協調して、我々は積極的な変化を実現することを期待している。これは速やかに、また我々の努力なしには起こることではないが、本日の我々の話し合いから見たボトム・ラインは、平壌が2005年9月に達成された合意に基づいて話し合いを再開する用意があるということだ。我々としては漸進的結果を達成することを期待している。
  質問:数日前の報道によると、アメリカの衛星が得たデータで寧辺の核施設の活動が停止されて、核燃料棒が積み込まれていると結論されている。ロシアはこの点について何か情報があるか。
  ラブロフ:新しい核実験の準備及び核ミサイル分野での活動とかに関しては多くの主張や声明がある。第一に、そういう主張は、メディアの報道ではなく事実関係に立脚するべきだ。そうであるからこそ、我々は朝鮮半島の平和と安全に関するワーキング・グループの作業を再開すること、それにより、政治化したり世論に訴えようとしたりするのではなく、6者協議のすべての当事国の関心について専門的に討議することを提案しているのだ。私は、このグループの仕事を再開するという我々の提案を他の当事国が支持することを希望する。
  質問:金正恩の訪露の可能性は、本日または18日(プーチンの会見)に話し合ったか。
  ラブロフ:双方によって合意され、都合の良いときに、最高レベルを含めたすべてのレベルで接触を保つ用意があることを確認し合った。
  質問:国連は朝鮮における人権状況に関するケースを国際刑事裁判所に送る決議を採択したが、これをどう考えるか。
  ラブロフ:北朝鮮における人権状況に関しては、ロシアは国連総会のセッションでこの決議に反対票を投じた。人権及び基本的自由を扱う国連諸機関は検察的または司法的当局となるべきではないと確信する。DPRKにせよ、シリア、イランその他いかなる国にせよ、国別の決議に盛り込まれている内容は政治化されており、意味ある解決を達成しようということよりも、特定国を公然と処罰し、「特定の状況を「断固非難する」と宣言する」ことを狙っている。国連総会や人権委員会で対決的な決議を通じて声明を行うことは建設的ではないと確信する。

2.中国側評価

ラブロフ外相が、朝鮮は無条件で6者協議を再開する用意があると述べた点についてコメントを求められた中国外交部の洪磊報道官は、11月21日、「朝鮮半島の非核化を推進し、半島の平和と安定を維持することは関係国共同の利益であり、各国の共同の責任でもある。現在の情勢の下では、関係国は共に努力し、知恵を発揮して、可及的速やかに対話協議の軌道に戻り、6者協議再開のための条件をつくるべきだ」という抽象的内容の発言を行うにとどまりました。
  ラブロフ外相の上記発言が行われる以前の段階においては、崔龍海特使訪露が大きな成果を挙げるかどうかに関する中国側の見方は総じて慎重でした。私の目にとまったいくつかの文章に共通していたのは、本年に入ってから朝鮮は外交的孤立を打開するために韓国、日本、アメリカに対して積極的なアプローチを試みてきたがほとんど成果がなかった、中国との関係は膠着している、そういう中でウクライナ情勢をめぐって西側との関係が悪化し、朝鮮と同じく外交的困難に陥っているロシアとの関係は急速に進んでおり、崔龍海特使の訪露はそういう状況のもとで行われた、という認識と指摘です。
しかし、朝鮮の核問題が硬直し、6者協議再開について各国の立場が一致していない状況のもとでは、朝露関係改善がこの状況を変えることはあり得ないだろう(17日付国際在線所掲の高望署名文章)、露朝韓の協力がどれほどの実質的果実を挙げられるかについては多くの不確定要素があるし、金正恩訪露の予想についても慎重に見る必要がある(18日付の環球時報所掲の呂超署名文章)、朝鮮問題の根っこにあるのは朝鮮の核問題であり、朝鮮がこの問題に真剣に向きあってのみ外交的出口がでてくる(18日付の新京報所掲の和静鈞署名文章)、プーチンは西側との関係を最悪にする用意はなく、朝鮮と同盟関係に入って西側と完全に決裂するようなことをプーチンは絶対に望んでいないはずだ(22日付の解放日報所掲の孫長棟署名文章)等々、崔龍海特使訪露の成果については慎重な見方が目立っていました。
こうした中で、17日付の中国青年報が掲載した浙江大学韓国研究所客員研究員の李敦球署名文章「崔龍海の訪露から朝鮮の「二重の包囲突破」戦略を見る」(「二重の包囲突破」とは、政治的孤立の突破と経済制裁・封鎖突破を指す言葉として李敦球が使っています)だけは、「朝露の将来の協力は政治及び経済の双方で広々とした発展の将来性がある。金正恩の訪露が最終的に実現するかどうかはともかく、朝鮮はますます「二重の包囲突破」及び多元的外交戦略を推進するだろう。その効果如何は、朝鮮指導者の外交的知恵を試すものであるし、国際社会の朝鮮に対する態度を検証するものともなるだろう」という見通しを述べていました。
崔龍海特使の訪露結果を踏まえ、11月24日付の新京報は18日付と同じく和静鈞(チャハル学会研究員)署名文章「プーチンと金正恩は何を話し合うだろうか」を、また同日付の中国青年報も17日付と同じく李敦球署名文章「金正恩訪露の可能性は期待に値する」をそれぞれ掲載しています。和静鈞署名文章は慎重な見方から高い評価に変わったことが注目されますし、李敦球文章は当然ながら極めて高い評価を与えています(内容的にはついていけない部分もありますが)。二つの文章の内容(さわり部分)を以下に紹介します。

<和静鈞署名文章>
外国メディアの報道によれば、ラブロフ外相は、20日の崔龍海との会談の後、プーチン大統領が金正恩と首脳会談を準備していると発言したことが報道された(浅井注:ラブロフ発言は上に紹介したとおりで、「首脳会談を準備」というのは明らかに言いすぎです)。仮にプーチン・金正恩首脳会談が実現すれば、朝鮮最高指導者の就任以来の外遊初デビューとなる。あと1ヶ月過ぎれば、金正恩は金正日逝去3年の喪が明けるので、金正恩は「集中的外国訪問のピーク」を迎える可能性があるが、彼がどの国家を先に訪問するかは朝鮮の外交戦略上の優先方向を観察する材料となるだろう。朝鮮のNo.2である崔龍海がロシアを訪問したということは、金正恩訪露の道筋をつけた可能性がある。
ロシアも両国首脳会談に向けた世論情勢をつくろうとしている。ロシアは、朝鮮が無条件で6者協議再開に同意したという話題で国際的な政治協力の精神を見せつけた。朝鮮という東北アジアの地縁政治上の断裂地域を選択するというのは、相当に巧妙かつ費用対効果の高い選択である。

<李敦球署名文章>
崔龍海訪露は円満な成功を収めた。訪露の内容は豊富であり、使命に恥じなかった。ラブロフが明らかにした「朝鮮は前提条件なしで6者協議を回復する用意がある」というニュースは世界を驚かせた(浅井注:朝鮮は崔龍海特使訪中の際にすでに中国側に明らかにしたことですので、この指摘には首をかしげます)。ラブロフはまた、露朝韓の経済貿易関係が不断に強化され、見通しの明るい協力項目が並んでいることを指摘した。
特にラブロフはメディアに対して、「両国は最高レベルの交流を含めた各レベルでの接触を行う準備がある」という「重量級の爆弾」を投げつけた。報道が事実とすれば、崔龍海の今回の訪露は金正恩訪露の道を敷いたということになる。金正恩訪露は必然的で期待していい事柄となった。金正恩訪露の意義は並み大抵のものではない。
まず、金正恩の最初の訪問先がロシアとなれば、ロシアが朝鮮の対外関係における主要な戦略的協力の相手国となると考えるだけの理由があることになる。国際的孤立を脱するために、朝鮮は今年になってから連続的に外交的攻勢をかけてきたが、実質的な成果はほとんどなく、成果は乏しかった。しかし、朝露政治経済協力関係は成果いっぱいで、朝鮮の本年の対外関係で最大のハイライトとなっている。この調子でいけば、ロシアは朝鮮の国際関係における最重要な戦略的パートナーとなり(浅井注:そこまで言えるかどうかについては時期尚早ではないかと思いますが)、東北アジアの国際関係に対しても微妙な影響を与える可能性がある。
次に、金正恩が訪露を実現すれば、彼個人及び朝鮮の「閉鎖的」イメージをある程度改善するだろう。第三に、金正恩の訪露が実現すれば、朝露が連合してアメリカ及び西側の制裁と打撃に対抗する可能性も出てくる(浅井注:これは明らかに勇み足の評価でしょう)。金正恩が最初の訪問国という栄誉をロシアに贈れば、朝露関係が引き続き上り調子であることを表すだけにとどまらず、アメリカのアジア・リバランス戦略体制をも揺り動かし、また、朝鮮半島ひいては東北アジア情勢に対しても新たな変数を持ち込む可能性がある。