アメリカの対中対露政策比較(中国側分析)

2014.11.21.

アメリカのオバマ大統領は最近、事あるごとにロシアをエボラ、イスラム国と並ぶ脅威と断じる発言を行うようになりました。きわめて異常なことであり、私のオバマの政治家としての資質に対する疑問は膨らむばかりです。もちろんオバマ政権は中国をも警戒していることは間違いありませんが、脅威呼ばわりすることはさすがに一貫して避けています。このようなオバマ政権の対露姿勢と対中姿勢の違いはいかなる認識に基づくものなのかはとても興味深い問題です。
  11月8日付の環球時報が掲載した鄭羽署名文章「米露の外交的対抗は何故に米中より尖鋭なのか」は、この問題に対する中国側の一つの見解を示すもので、私は興味津々で読みました。鄭羽は中国社会科学院ロシア研究所研究員という紹介があります。この問題には関心がある方は多いと思いますので、その内容を紹介します。

  表面的に見ると、オバマ政権のウクライナ危機における政策には二つの矛盾があるように見える。一つは、戦略的重心を東に移したのだが、アジア太平洋(APR)リバランス戦略はすでに気持ちはあっても実行がついていかない。10年以内に1兆ドルの軍事支出を削減するという法的拘束と中国の軍事力が急速に増大しているというオバマ政権の認識との間でバランスを取ることは難しく、また、APRで中国と経済分野で駆け引きを行うことも国内経済の低迷によって足を引っ張られている。このような背景のもとで、欧州東部でロシアと大規模な地政学的力比べをすることは、アメリカの重心を東に移すという戦略に打撃を与えている。
  第二に、金融危機の後、オバマ政権のロシアの国家的実力及び国際的役割に対する評価は大幅に引き下げられた。2009年7月にバイデン副大統領がウクライナを訪問したとき、ロシアの人口は減っており、経済は衰退しつつあり、銀行及び金融システムは今後15年も持たないだろうと述べた。ウクライナ危機が発生した後、本年3月の核安全保障サミットの席上でオバマは、ロシアは脆弱な地域大国でしかないと発言した。それにもかかわらず、ウクライナのEU加盟阻止を契機に、ロシアに対する大規模な地政学的封じ込めを開始したのはなぜなのか。
  実際において、アメリカがウクライナ危機の中でロシアに対する「リスタート」政策を放棄して抑止に戻ったのは、決して単純なご都合主義ではなく、ロシアの外交的カルチャ及び国際的ポジションに対する基本認識に基づいている。正にこの民族性あるいは国家的性格にかかわる根の深い要素という点で、アメリカの対ロ政策と対中政策とでは非常に大きな違いが現れている。
  第一に、アメリカ政府は、ロシア帝国及びソ連の継承国であるロシアは拡張主義と支配主義という国家的伝統を備えているが、中国にはこういった伝統はないと考えている。2009年にアメリカが「リスタート」の米露関係を開始する以前は、アメリカは一貫して、ロシア帝国及びソ連に対して行っていたやり方で、ロシアが独立国家共同体(CIS)を支配することを阻止していた。しかも2011年10月にプーチンがユーラシア連合(EAU)という構想を提起した後は、オバマ政権は、これをソ連復活計画であると見なして断固反対することを表明したのであり、ウクライナ危機においてさらに勢いを増し、ウクライナの親露政権を力尽くで倒し、ウクライナがEAUに加入する可能性を根こそぎにしたのだ。
  アメリカのこの問題におけるソ連と中国に対する立場の違いについては、2005年9月にアメリカ国務省のゼーリック副長官が述べた次の発言が典型的なものだ。「50年の長きにわたるアメリカの政策は、ソ連を隔絶し、内部矛盾によって消耗を導くというものだ。(米中国交樹立以来の)30年間、アメリカの政策は中国が歩み寄ってくることを促すことだった。」アメリカが東へのシフトという戦略を開始したときでも、中国の挑戦は拡張及び隣国支配の意図から来るものとは考えていなかった。アメリカの「2009年国家情報戦略」は、中国がアメリカの利益を損なう事例を列挙した際にも、「中米間には多くの共通の利益があるが、中国がさらに多くの天然資源を追求する外交と軍事現代化を行うことが一連のグローバルな挑戦を構成する重要な要素だ」と述べている。したがって、米露間の外交的対抗の尖鋭さは常に米中間以上のものがあり、しかも抑止という要素がさらに大きい。
  第二に、アメリカ政府は、ロシアは一貫して現行国際システムに挑戦し、これに取って代わろうとする政策を行っているのに対して、中国にはそのような意図はなく、中国自身も多くの場合において現行国際システムの受益者だと考えていると認識している。近年、米露関係がアメリカの「リスタート」政策によってかなり大きな変化が起きたとはいえ、2007年の「ロシア連邦の対外政策概要」にしても、2008年及び2013年の「ロシア連邦の対外政策構想」にしても、現行国際システムに挑戦し、これを改造しようとする意図があり、そのためにアメリカは、戦略の重心を東に移すと同時に、ロシアの動きに対しては引き続き警戒心に充ち満ちているのだ。
  中国に関しては、アメリカのアナリストの間では、中国が現行システムをひっくり返そうとしているのかどうかについて大きな議論がある。アメリカの歴代政権は、中国を現行国際システムに引き入れようとしてきたし、その可能性はあると認識している。そのために、戦略的重心が東に移っている時代においても、アメリカの対中政策には抑止のほかに協力という要素もある。
  第三に、ロシア及び中国の経済発展の現状、見通し及び潜在力に関するアメリカの評価の違いも極めて大きく、したがって、米露経済貿易協力と米中経済貿易協力がアメリカにとって持つ意義に対する評価にも大きな違いがある。しかも、2013年の米露貿易額が380億米ドルであるのに対して、同年の米中貿易額は5820億ドルである。したがって、米露のエネルギー協力がますます縮小しつつある状況のもと、アメリカは対露制裁が自国にもたらす損害に対してはあまり考慮する必要はないが、中国に対してはそういう状況はまったく当てはまらない。したがって、アメリカの対中政策の制定及び実行に当たっては、対露政策におけるよりもさらに複雑ということになるのだ。