崔龍海訪露発表とこれまでの朝露関係(中国側報道)

2014.11.15.

11月14日付の朝鮮中央通信は、「共和国国防委員会の金正恩第1委員長の特使として、朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会委員である党中央委員会の崔龍海書記が近くロシア連邦を訪問する」という短い発表を行いました。同日、ロシア外務省も声明を発表し、朝鮮最高指導者・金正恩の特使として、崔龍海が11月17日から24日までロシアを訪問すること、訪露期間中にはロシアのハイ・レベルとの間で、双方の政治対話レベルの引き上げ、経済貿易関係の促進、朝鮮半島及び東北アジア地域の安全保障情勢及び双方が共通に関心を持つ国際問題島を含む露朝関係における緊急問題について討議すること、また、崔龍海はハバロフスク及びウラジオストック両都市も訪問することを明らかにしました。
  朝露関係の進展ぶりは、本年に入ってからの朝鮮中央通信の頻繁な報道(その頻度は朝中関係にかかわるものよりはるかに多い)においても明らかでしたので、崔龍海訪露の発表自体は「来るべきものがやって来た」という感じで、私には意外感はありません。韓国各紙の中には「金正恩訪露につながるもの」という受けとめ方が広く行われているようですが、私もそう思います。
これまで、朝鮮半島問題を考える上では、中国の動きが要注目だったのですが、プーチン大統領のロシアのこれからの動向は、中国に負けず劣らず重要になっていく可能性があります。というのも、中国の場合は、中米関係・中韓関係を重視する中で朝鮮半島問題を考える必要があるのに対して、ロシアの場合は、ウクライナ問題で露米関係が「冷戦」を彷彿させるほどに冷え切っている(しかも、重要なことは、ロシアからすれば、ウクライナ問題はアメリカから「喧嘩を売られた」ものという認識です)中で、対米関係上のバランスを考える必要はありません。むしろ、アメリカの厳しい対露政策が続くことは、イラン問題、朝鮮半島問題など、アメリカがロシアの協力を必要とする国際問題で、ロシアが外交上の独自性を発揮するという「しっぺ返し」を招くのだという警告になります。さらにロシアは、極東ロシアの経済発展における朝鮮の重要性にも着目していますから、露朝関係の発展は決して対米関係上の「コマ」にとどまらない重みを増しています。
ちなみに、崔龍海に関する朝鮮中央通信の報道については、10月後半になって注目すべき変化があります。つまり、11月7日付の中国新聞網が韓国メディアの報道として紹介していますように、崔龍海の名前が黃炳瑞の前に置かれるようになったのです。朝鮮中央通信の一連の記事を見ておきます。
10月7日付の「第17回アジア競技大会に参加した朝鮮選手らが平壌到着、平壌市民が沿道で歓迎」と題した報道では、黃炳瑞の名前はありませんが、「玄永哲、金己男、崔泰福、崔龍海」の順序で報道されていました。翌7日付の「朝鮮労働党中央委員会と共和国国防委員会が第17回アジア競技大会の参加者を歓迎して宴会催す」では、「黄炳瑞、玄永哲、金己男の各氏をはじめ党・国家・軍隊の責任幹部」が参加したとした後に、「崔龍海が宴会で演説を行った」としています。10月14日付の「金正恩元帥が新しく建設された衛星科学者住宅地区を現地指導」と題する記事でも、「黄炳瑞、崔泰福、崔龍海」等が同行したとなっていて、順序に変化はありません。10月19日付の「金正恩最高司令官が戦闘飛行士らの道路飛行場での離着陸飛行訓練を指導」と題する記事でも「朝鮮人民軍の黄炳瑞総政治局長(朝鮮人民軍次帥)、朝鮮労働党中央委員会の崔龍海書記」等が同行したとなっています。同日付の「金正恩元帥が金メダルを獲得した選手、監督と会見」でも「黄炳瑞、崔龍海」の順序でした。22日付の「金正恩元帥が完工した延豊科学者休養所を現地指導」でもやはり「黄炳瑞、崔龍海」の順序です。24日付の「金正恩最高司令官が大連合部隊間の双方実動訓練を指導」でも両者の名前が別々に出ていますが、順序が入れ替わった形跡はありません。
  ところが、10月29日付の「金正恩元帥が平壌市民と共に女子サッカー試合を観戦」では、「崔龍海、黄炳瑞、崔泰福、玄永哲」等の「党・国家・軍隊の責任幹部」という紹介が行われました。つまり、党が軍の先に挙げられ、党で金正恩に次ぐ地位にある崔龍海が軍で金正恩に次ぐ地位にある黄炳瑞より先に名前が挙げられるという形になっています。おそらく同じ配慮が示されたと思われますが、翌30日付の「金正恩最高司令官、朝鮮人民軍航空・対空軍戦闘飛行士たちの検閲飛行訓練を指導」では、「朝鮮労働党中央委員会の崔龍海書記、朝鮮人民軍の黄炳瑞総政治局長(朝鮮人民軍次帥)」等が同行した、と紹介されました。しかし、11月8日付の「金正恩元帥がチョンソン製薬総合工場を現地指導」では、なんの断りもなく「崔龍海、黄炳瑞」等が同行となっています。
  黄炳瑞が健在であることは、11月5日付の「金正恩最高司令官が朝鮮人民軍第3回大隊長・大隊政治指導員大会の参加者と共に記念写真を撮る」及び「金正恩最高司令官の指導の下で朝鮮人民軍第3回大隊長・大隊政治指導員大会が盛大に催される」、11月8日付の「朝鮮人民軍第3回大隊長、大隊政治指導員大会参加者の決議大会」で参加者の筆頭に彼の名前があることで確認できます(崔龍海の名前はなし)。また、「先軍政治」重視にも基本的に変化がないであろうことは、11月5日付の「「労働新聞」 先軍政治は自主時代を切り開いていく威力ある政治方式」、11月14日付の「「労働新聞」 金正日総書記の先軍革命業績を称賛」などの記事でも確認できるところです。
  以上から判断されることは、崔龍海が再び金正恩に次ぐNo.2の地位に復帰したということでしょう。そのことは、10月7日付の上記報道では崔龍海の前に名前が挙がっていた人民武装部の玄永哲部長が、ロシアの元国防相の「ヤゾフ元帥の誕生日を祝うためにロシアを訪問」中、11月8日にプーチン大統領と会見した(11月10日付朝鮮中央通信)後に、崔龍海が金正恩の特使としてロシアを訪問することが発表されたことからも窺われます。つまり、玄永哲は崔龍海訪露のための「お膳立て」をしたと見られます。2013年5月に金正恩の特使として訪中した際もNo.2だった崔龍海が今や再びNo.2の地位に就いたということでしょう。10月下旬の段階(22日から29日までの間)で朝鮮のトップ・レベルの順位の調整が行われたのだと思われます。
崔龍海に関する紹介が長くなってしまいましたが、話を元に戻します。中国が朝露関係の動向に無関心であるはずはありません。11月14日付の中国新聞網は早速、「背景資料:頻繁な朝露ハイ・レベル交流 両国関係は上昇傾向」と題して、次の記事を掲載しています。今年に入ってからの朝露間の主な動きをまとめたものとして、また、崔龍海訪露及び今後の朝露関係にかかわるこのコラムでの第一報として紹介します。

  朝鮮中央通信社の報道によれば、朝鮮労働党中央政治局常務委員、中央書記の崔龍海は、金正恩特使の身分で訪露する。朝鮮メディアは具体的な訪問スケジュールを明らかにしていないが、「近く」としている。韓国連合通信によれば、崔龍海がロシア訪問中にロシアのプーチン大統領と会見する可能性は高い。
  本年になってから、朝鮮は数多くロシアとハイ・レベルの交流を行ってきており、崔龍海の今回の訪問はことのほか注目されている。崔龍海の今回の訪問は金正恩のロシア訪問のための「つゆ払い」だろうとする観測もある。今回に先立ち、玄永哲人民武装部部長がヤゾフ元国防部長の90歳誕生祝賀活動に出席するために8日に訪露し、プーチン大統領と会見した。
  以下は、2014年に入ってからの朝露交流における重要な事件の整理である。
  2014年4月18日、ロシア議会は朝鮮のソ連時代の債務を調整する協定を批准し、100億米ドルの債務を免除し、残りの10億ドルの債務は20年で返済することとした。
  6月5日、ロシアが100億ドル近い債務を免除したのを継いで、露朝当局者が会合し、より多くの協力案について協議した。ロシア極東地域発展部長は朝鮮に対する物資の輸出を拡大し、対朝鮮投資を増大すると述べ、朝鮮側はロシア企業に対する鉱物資源開発の開放を許可し、ロシア側人員の入国ビザに便宜を供与することを希望した。
  8月13日、朝鮮の最高指導者・金正恩はプーチン大統領に祝電を送った。金正恩は祝電の中で、朝鮮解放69周年に際し、プーチン及びロシア人民に対して暖かい友好の挨拶の気持ちを表した。金正恩は、朝露友好協力関係が、最高レベルで達成された共同文書(浅井注:何を指すかは分かりません)の精神に基づき、各領域でさらに強化発展すると確信している。
  9月26日、ロシア外務省は、ロシアと朝鮮が「ハイ・レベル接触」の準備工作のために討議したことを明らかにした。双方は話し合いの中で二国間関係の広範な問題について意見を交換し、近い将来に行う「ハイ・レベル接触」のための準備工作を重点的に討議した。
  10月1日から11日の間、朝鮮の李洙墉外相が10日間のロシア訪問を行った。これは、2010年以来で初となる朝鮮外相の訪露である。李洙墉は、ラブロフ外相との間で「非常に成功した」会談を行い、ロシア当局者とエネルギー、文化、体育等の分野において広範な協力を行うことで共通認識を達成したと述べた。李洙墉はさらに、朝鮮が農業分野でロシアと協力を行うことを特別に言及した。
  10月12日、朝露国交樹立66周年に際し、朝露郵政当局は連合して2枚でセットとなる記念郵便切手を発行した。切手の図案は朝鮮や欧州などに住むハイタカ及びミサゴである。
  10月23日、朝鮮を訪問中のロシア極東地域発展部長は金正恩に対して贈り物を送った。
  同日、朝露政府間貿易経済科学技術協力委員会の朝鮮側委員長兼対外経済相の李龍男は、ロシア側委員長兼極東地域発展部長と会談を行った。双方は、両国の経済貿易協力をさらに発展させることについて意見を交換した。
  10月28日、朝鮮の鉄道の現代化項目に責任を負うロシア企業代表は、ロシア企業が12年以内に「勝利」鉄道現代化項目を完成させること、その項目には朝鮮にとって重要な意義がある3200キロの路線が含まれていることを表明した。
  10月末、2014年6月に朝露政府間委員会第6回会議で達成された合意に基づき、ロシアと朝鮮の銀行はルーブルによる決済を正式に開始した。ルーブル決済により、両国間の経済貿易協力は大幅に加速されることになる。