ウクライナの軍事情勢(解放軍報分析)

2014.09.06.

9月5日にウクライナ政府と東部反政府勢力との間で停戦合意が成立しましたが、その先行きについては不確定要因が多く、なお予断を許さないと見るべきでしょう。ただし、これまで東部反政府勢力をテロリストと決めつけて軍事掃討あるのみとしてきたウクライナ政府が停戦合意に応じざるを得なくなったこと自体、ウクライナ政府側の苦しい立場を示していることは間違いないと思います。また、両者の間での交渉による問題解決を主張してきたのがプーチン大統領であることを考えれば、西側とロシアとの間の代理戦争という性格を併せ持つウクライナ内戦におけるプーチンの存在感を再認識されるものであることも否みようがないでしょう。
  ウクライナ政府が停戦交渉及び合意に応じざるを得なかったことの直接的要因としては、反政府勢力の軍事力がウクライナ政府として到底無視できない実力を備えるに至っているということも間違いないところです。9月5日付の中国新聞網は、中国人民解放軍の機関紙『解放軍報』による「ウクライナ交戦双方の軍事力比較:民間武装力は烏合の衆に非ず」を掲載しています。ウクライナの軍事情勢について理解する上でとても興味深い内容ですし、中国の軍部筋のウクライナ情勢に対する見方を窺う上でも貴重だと思いますので、主な内容を紹介します。

この内戦における双方の軍事力の構成及び戦闘力はいかなるものか。背後における大国の駆け引きはいかなる役割を発揮しているのか。ウクライナ内戦の今後の見通しはどうか。

<反政府武装力は多元的ではあるが烏合の衆ではない>
  ウクライナ内戦が勃発して間もなく、反政府勢力は理念が一致しておらず、統一した組織も欠いており、重装備も不足しているなど多くの問題を抱えているので、ウクライナ政府軍の攻撃の前にはひとたまりもないとする分析が行われた。ところが事実は必ずしもそうなっていない。半年の時間が経ち、反政府勢力は都市における攻防戦でなかなかの戦いをしているだけではなく、政府軍の戦闘機、輸送機、タンクなどの装備を撃墜、破壊まで行っている。
  現在の反政府武装力は大体1万人から2万人の規模と見積もられている。その構成は多元的かつ複雑であり、主体は東南部ロシア人の退役したベテラン及び鉱山や軍需工場などで働いていた青年だ。ベテランの多くはアフガニスタン戦争や国内の対テロ作戦などに参加したことがあり、豊富な実戦経験を持っている。「ドネツク人民軍」第12連隊のユーリ指揮官は、かつてソ連の特殊部隊の指揮官としてアフガニスタンのカンダハルの戦闘に参加したことがある。彼が率いる連隊の戦闘員のほとんどは、ソ連またはウクライナの歩兵、パラシュート部隊、特殊部隊、防空部隊などで服役した経歴の持ち主だ。
  現地で寝返ったウクライナ政府軍及び警察官も反政府武装力の重要な構成要員だ。ウクライナの衝突が始まった当初、東南部の政府軍の少なくないものが親露的政治信念に基づいて反政府陣営に参加した。特に本年初にウクライナ当局によって解散が宣告されたイヌワシ特殊部隊は、大勢の隊員がロシアに忠誠を誓っただけでなく、少なくないものが反政府武装力に加わり、政府軍と対決する力となった。
  外部からの武装人員の参加もこの武装力に神秘的な色彩を加えている。早くも本年4月、反政府武装力の中に組織だった兵力が出現したことが確認されたが、その装備・武装は整然としたもので、高度にプロフェッショナルであり、とてもにわか作りの民間武装力とは見えないものだった。その発音、装備、技術力などから判断して、これらの部隊はロシアが直接ウクライナに送り込んだ特殊部隊である可能性が高いとする分析もある。反政府の関係者の一人は、「彼らはロシア、ベラルーシ、カザフスタン、モルドバから来ている」と述べた。ただしこれらの武装力は一貫して東部地区に駐留しているわけではないし、その本当のソースについては知りようがない。
  反政府武装力の兵器のソースとしては次のようなものがある。一つは猟銃その他の民間から調達したもの。もう一つはウクライナ政府軍から寝返った部隊が持ち込んだもので、例えば装甲部隊がもたらした10両以上のタンクや装甲車などの重装備が含まれる。三つ目のソースはウクライナの軍・警察から奪った武器。例えば、ドネツク警察署を占領する戦闘によって1000丁あまりの拳銃やライフルが反政府武装力の手に入った。このほか、ロシアなどの外国が大量の先進的な武器を反政府武装力に送っているという情報もあるが、ロシアなどは一貫して断固として否定している。
  以上のように一見するところ雑多な要素から成る武装力であるが、その戦闘力は外部が予想するよりはるかに強力なものだ。戦闘する意志という点に関しては、彼らのほとんどはロシア人であり、ウクライナ政府に対しては積年の恨みが強く、独立への意志は一朝一夕にしてなったものではなく、死をも厭わない意志は極めて固い。戦闘技術という点に関していえば、ベテラン及び寝返った兵士の作戦経験及び受けた訓練が高いのはもちろん、ウクライナの軍事工業の70%以上が東部に集中しており、そこで働いていたものが多く、戦闘に参加している青年にとって武器を扱うことに慣れているという事情もある。このほか、作戦環境に知悉していること、現地の人々が支援するなどの要因も反政府武装力の戦闘力を高める一因になっている。

<ウクライナ政府軍:実力は勝っているが、弱点は覆いがたい>
  組織、兵力規模、武器の装備、ロジスティックスのいずれにおいても、ウクライナ政府軍は反政府武装力をはるかに圧倒している。
  しかし、政治的信念や理念という問題、ロシアの巨大なウクライナに対する圧力などにより、政府軍における「戦いたくない、戦えない、戦いを恐れる」というムードは深刻であり、特に東南部の政府軍からは大量の寝返りも起こって、ウクライナ当局を震撼させたし、これによって政府と軍隊の間の相互不信も深刻となった。ウクライナ政府がイヌワシ部隊をわざわざ解散したのはこういう不信感の表れであった。この問題を解決するためにウクライナ当局がとったのは、反政府武装力に対決する軍事力を多元化、分散化することで、政府軍だけに頼らないということだった。
  本年4月、ウクライナ当局は反政府武装力を打ち破ることのみを任務とする新国民警備隊を創設した。この部隊はロシア人を敵視するウルトラ・ナショナリストが多く、ウクライナ当局に対する忠誠心も比較的高く、戦闘は勇猛であり、実戦でも優れた戦闘を行っている。
  また、ウクライナ当局のために戦う外国の軍事力が現れたという観測もある。分析によれば、ウクライナ当局は一定の作戦任務及び戦闘区域を外国の会社に請け負わせ、反政府武装力を叩こうとしている。これらの情報及び分析についてウクライナ当局は確認していないが、この可能性は排除できない。
  戦術面では、ウクライナ当局の戦略的アプローチは当初根こそぎにして禍根を断つというもので、殲滅戦を主体とする陣地戦を採用した。しかし、このやり方はかえって反政府武装力をして背水の陣を敷くという境地に追い込み、その抵抗は激烈で被害が巨大となった。これに懲りたウクライナ当局は、戦術を調整し、兵力規模及び実力の圧倒的優位を利用して、東部のいくつかの重要都市を包囲して陥落させる方式をとるようになった。
  ウクライナ政府軍の優勢は明らかだが、その弱点も覆い隠すことはできない。ロシアは国境沿いに大規模な軍事力を集結し、また、ロシアの特殊部隊とおぼしき戦力がしきりにウクライナ国境を越えて出現し、そのためウクライナ政府軍としてはロシアとの直接の軍事衝突が発生することを恐れ、思いきった軍事行動を取れない。また、もともと乏しい財政力であるため、長期にわたる消耗戦は維持できない。早くも7月、ウクライナ財政相は、資金不足により8月には軍人に対する給料の支払いができなくなる可能性があると発言した。給料支払いが滞れば、政府軍の作戦意志が深刻に損なわれる可能性がある。例えば、スラビヤンスクを包囲していたウクライナ軍第25空中機動旅団が、数日間にわたって十分な食糧を与えられず、一気に反政府武装力に寝返ったというケースもある。

<外国勢力:軍事的駆け引きがウクライナの戦局に影響を与える>
  将来的には、両軍の背後にある大国の間の駆け引き、特に軍事手段における配置と運用が戦局の帰趨に重要な影響を及ぼすだろう。
  ロシアからすると、軍事的に取り得るオプションは3つある。一つは大量の兵力を国境沿いに展開して戦略的に威嚇すること。ロシアが国境沿いで頻繁に行う軍事的な動きや演習は反政府武装力にとっての大きな拠りどころであり、ウクライナ当局及び政府軍に対しては巨大な戦略的圧力となっている。さらに重要なことは、何か突発的な事態が起こった時にはロシアは瞬時に軍事的主導権を握ることができるということだ。ウクライナ側の研究結果によれば、現在ロシアがウクライナ周辺に配置している戦力は8万人に達し、軍事的装備としては戦車、装甲車、多連装ロケットシステム、大砲システム、戦闘機、武装ヘリ、海軍艦艇などほとんどすべての分野にわたっている。今後もロシアがウクライナ特に東部に対する軍事的高圧態勢を簡単に解除するとは思われない。
  二つ目は小規模かつ隠密裏の軍事浸透を行うこと。そうすることは比較的劣勢にある反政府武装力が政府軍に対してバランスを維持する上で重要なテコとなる。ウクライナと西側諸国は、ロシア軍がウクライナ領内に浸透している十分な証拠があるとしてロシアを非難し、ロシアはこれをすべて否定するとともに、世論戦でも反撃している。しかし、ロシアの国連代表は、ウクライナ領内には確かにロシア側の人員がいる、しかし彼らは「志願者」であり、「自分の時間を利用してウクライナに赴き」、民間武装力を支援しているのだという含みのある言い方をしている。
  三つ目は直接かつ強力な軍事干渉を行うこと。ウクライナ内戦において反政府勢力に不利な事態が突発し、ロシアの安全保障が脅かされるとなれば、プーチンの戦略スタイルからしても、ロシアが直接かつ強力な軍事干与を行う可能性は排除できない。しかし、このやり方は深刻な政治的軍事的リスクに直面するから、ロシアにとっての戦略的優先項目ではない。
  アメリカ及びEU諸国からすれば、ウクライナ問題における利害はロシアにとってのそれよりもはるかに低いので、戦略的中心は軍事的にロシアと直接対峙し、衝突することを回避するということだ。ただし、このことは西側が軍事的に何もしないということではなく、少なくとも2つの方面でロシアの戦略的攻勢を牽制し、あるいは報復するだろう。
  一つは、長期的に包囲を敷くことにより、東欧地域における全体としての軍事戦略上の優勢を推進し、ロシアの戦略スペースを圧迫し続けるということだ(NATOの動きを紹介)。
  もう一つは、ウクライナに対して間接的に軍事援助を行うことだ。ウクライナとNATOは、ウクライナ独立以来の23年間のタブーを破り、本年11月以前にウクライナ領内でかなりの規模の軍事共同演習を行うことで合意している。NATO軍はこの演習を通じてウクライナの後背地に深々と入り込み、ウクライナ軍の戦闘能力を高めることを助け、一連の協力メカニズムを構築してロシアに対抗するだろう。