中朝関係の動向

2014.07.31.

1.朝鮮による安保理批判に託した中国批判

中朝関係の動向は、朝鮮半島情勢の帰趨に影響するもっとも重要な要素として観察を怠るわけにはいきません。7月29日付の環球時報は、邢暁婧及び李梅両記者による「韓国メディアが朝鮮戦争停戦日に中国に言及せず 中朝『冷気流』と形容」と題する記事を掲載しました。内容は次のとおりです。

 一貫して中朝不和を騒ぎ立てるのが好きな韓国メディアが、「朝鮮の『戦争節』が意外にも中国に言及しなかった」という新発見をした。つまり、7月27日は朝鮮戦争休戦協定調印61周年の記念日だったのだが、朝鮮の当局もメディアも関連する記念活動の中で中国義勇軍の参戦に一言も触れなかったというのだ。韓国連合通信はこれを「朝中冷気流」と称した。
 28日付の同通信は、朝鮮戦争当時、中国は平均して毎年60万から70万人の規模の義勇軍を朝鮮の戦場に派遣していたし、中国の公式統計によれば、全部で18万人の中国軍人が朝鮮で戦死した。したがって、朝鮮は毎年「停戦記念日」関連の中央報告大会において、中国に対する感謝の気持ちを表明してきたし、朝鮮メディアも「中朝友好」を強調する関連文章を代わる代わる掲載してきた。
 同報道によれば、毎年の「停戦日」記念活動は中朝の伝統的友好さを示す重要な儀式と見なされている。特に昨年の「停戦記念日」60周年に際しては、中国国家副主席の李源潮が義勇軍老兵を率いて朝鮮を訪問し、金正恩は平安南道檜倉郡にある中国義勇軍烈士陵墓園に赴いて弔い、両国間の尋常ではない血盟関係を誇示した。しかるに今年の7月26日に朝鮮が行った「停戦日」にかかわる中央報告大会では、「中国」という言葉は一言も触れられなかった。
 7圧28日付の韓国『東亜日報』は、外部世界の「中朝関係悪化」に関するスペキュレーションに重点を置いた分析を行っている。同記事は韓国政府関係者の話として、中国は最近朝鮮に対する原油の供給を制限し、さらに国連安保理の行った朝鮮のミサイル発射を非難する決議にも積極的に加わり、中韓間のハイ・レベル相互訪問もするなど、朝鮮を刺激した可能性があると紹介した。この記事は、最近朝鮮が『労働新聞』及び国防委員会スポークスマンの発言を借りて、「いくつかの国家が主体的意見なく、米韓に追随し、アメリカの暴行を黙認した」ことを批判したが、分析によれば、これは「間接的な中国批判であり、かつて生死を共にした国家に対してこのような砲撃を行うことは極めて稀である」と述べている。
 しかし、「中朝関係悪化」という見方はすべてのものの同意を得ているというわけではない。韓国連合通信によれば、韓国朝鮮大学院の楊武鎮教授は、朝鮮の一連の核実験とミサイル発射、張成沢処刑などが中朝関係に影響しているが、中朝はともに関係悪化が双方にとって損失であることを明確に理解しており、したがって、10月6日の中朝国交樹立65周年記念日が一つの分水嶺になり、両国が「冷戦」のままでいくのかそれとも再度ハイ・レベルの交流を開始するかの分かれ目となるであろうと述べた。ほかの分析によれば、現在両国が陥っている冷却状態は両国関係が根本的に変化したことを表すものではなく、「一息つく」段階に入ったというに過ぎない。ある韓国政府関係者は、本年後半には中朝がハイ・レベルあるいは特使の派遣で雰囲気を改善する可能性は極めて高いと述べた。9月9日の朝鮮の建国記念日または10月6日の中朝国交樹立記念日がアイス・ブレイクのポイントとなるだろうというのだ。

上記東亜日報記事における「いくつかの国家が主体的意見なく、米韓に追随し、アメリカの暴行を黙認した」と朝鮮が批判したというくだりに関しては、実は私は朝鮮中央通信の二つの記事が気になっていました。
 一つは7月19日付の「朝鮮外務省が共和国の短距離ミサイル発射に対する国連安保理の「糾弾」劇を非難」と題する記事です。その内容は次のとおりでした(強調は浅井)。

17日、国連安全保障理事会は非公開協議会で共和国の短距離ミサイル発射までいわゆる「決議違反」に仕立てて「糾弾」する発表劇を演じた
朝鮮外務省は19日、声明を発表して戦術ロケットの発射をはじめわが軍隊が取るすべての軍事的措置は徹頭徹尾、米国の核脅威と侵略策動に立ち向かって国の自主権と民族の安全を守るための自衛権の行使であると明らかにした。
声明は、今年、われわれは国防委員会の重大提案と特別提案から共和国政府声明に至るまで、いろいろと主動的な平和提案を打ち出してそれを裏付ける実践的な措置も取ったと指摘した。
また、しかし、米国は南朝鮮のかいらいと共に「キー・リゾルブ」「フォール・イーグル」合同軍事演習を次々と強行し、1993年以来の最大規模の連合上陸訓練に続き、史上最大規模の連合空中訓練を繰り広げたとし、次のように強調した。
国連安保理が米国のヒステリックな侵略戦争演習と核脅威には顔をそむけてそれに対処したわれわれの不可避な選択だけを問題視して言い掛かりをつけるのは絶対に許されない
国連安保理が世界の平和と安全保障という使命を果たすためには、米国と南朝鮮のかいらいの攻撃的かつ脅威的で、挑発的な合同軍事演習を問題視しなければならない
米国―南朝鮮合同軍事演習行為にどのように接するかによって、国連安保理の公正さが評価され、名実ともに世界の平和と安全保障に寄与することができるか、できないかが判明される
国連安保理が公正さを失って米国の対朝鮮敵視策動に踊らされている限り、われわれは自ら自分を守るための力をいっそううち固める方向に進まざるを得なくなっている
いくら善良かつ正当であっても、力が強くなければ大国のいけにえになってしまい、真の平和は誰も侵せないように自力を育む時にのみ守られるということは歴史の教訓、真理である。
米国の核脅威と恐喝が増大する限り、自衛的核抑止力を強固にするためのわれわれの努力にはいっそう拍車がかけられるであろうし、米国と南朝鮮のかいらいの侵略的な合同軍事演習が続く限り、それに対処するためのわれわれの対応行動も年次化、定例化するであろう。
米国が朝鮮半島とその周辺で侵略戦争演習を絶え間なく繰り広げ、それに対処してわれわれが戦術ロケットの発射を含む対応訓練をいっそう強化する過程に火花が散れば、それが即時に戦争に発展しかねない。
朝鮮半島で不測の事態が招かれる場合、その全責任はわれわれに不可避な選択を強要した米国と米国を庇護した国連安保理が負うことになるであろう

この記事の注目点は、「国連安保理が米国のヒステリックな侵略戦争演習と核脅威には顔をそむけて、それに対処したわれわれの不可避な選択だけを問題視して言い掛かりをつけるのは絶対に許されない」、「国連安保理が世界の平和と安全保障という使命を果たすためには、米国と南朝鮮のかいらいの攻撃的かつ脅威的で、挑発的な合同軍事演習を問題視しなければならない」、「米国―南朝鮮合同軍事演習行為にどのように接するかによって、国連安保理の公正さが評価され、名実ともに世界の平和と安全保障に寄与することができるか、できないかが判明される」、「国連安保理が公正さを失って米国の対朝鮮敵視策動に踊らされている限り、われわれは自ら自分を守るための力をいっそううち固める方向に進まざるを得なくなっている」として、正面から安保理がアメリカ寄りの姿勢に終始していることを厳しく批判し、「朝鮮半島で不測の事態が招かれる場合、その全責任はわれわれに不可避な選択を強要した米国と米国を庇護した国連安保理が負うことになる」として、アメリカのみならず国安保理も朝鮮半島の「不測の事態」に対する責任を負わなければならないと指摘したことです。
 以上には特定国に対する批判は控えられていますが、中国(及びロシア)が安保理の行動に同調していることに対して、朝鮮が強い怒りの感情を抱いていることを読みとることは難しいことではありません。
また、アメリカ(及び韓国)の対朝鮮敵視政策だけではなく、国連安保理の不公正な態度も朝鮮が「自分を守るための力をいっそううち固める方向に進まざるを得なくなっている」原因として指摘している点も重要です。逆に言えば、安保理がより公正な態度を心掛けることが朝鮮の政策のあり方に影響をもたらすことができることを朝鮮自身が示唆しているのです。
私はかねがね、朝鮮の人工衛星打ち上げは宇宙条約上非がなく、これを非難し、制裁を行う安保理決議こそ非がある(国連憲章が安保理に与えた権限を逸脱している)と指摘してきました。また、ミサイル発射を規制する国際的取り決めもなく、多くの国々がミサイル発射実験を行っている中で、朝鮮だけを狙い撃ちする安保理決議も不当であることを指摘してきました。このような安保理決議はもっぱらアメリカ(及び韓国)の意向によるものであり、中国(及びロシア)が同調することを朝鮮が批判するのは、朝鮮の立場からすれば至極当然なことです。

もう一つの記事は、7月21日付で朝鮮中央通信が伝えた「朝鮮国防委員会政策局代弁人 米国と南朝鮮当局は共和国の正々堂々たる自衛力強化措置にむやみに言い掛かりをつけてはいけない」と題する文章です。その内容は次のとおりです(強調は浅井)。

共和国国防委員会政策局のスポークスマンは、共和国の正々堂々たる自衛力強化措置をめぐり米国とその追随勢力が反共和国騒動を起こしていることに関連して20日、談話を発表した。
談話は、次のように指摘した。
最近、われわれの戦略軍集団をはじめ朝鮮人民軍陸軍、海軍、航空・対空軍部隊は超精密化された戦術ロケットの発射と相異なる使命の砲撃訓練を含んで国の自衛力を強化するための各種の実戦訓練を連続行っている。(中略)
米国は、あたかもわれわれの戦術ロケットが米本土の打撃に進入したかのように「北朝鮮が米国に非常で特別な脅威」を与えていると唱えており、わが軍隊の定期的な訓練を「政治目的に重さを置いた低強度挑発」「地域同盟国に対する連続的な軍事的脅威」と罵倒している。
南朝鮮当局者らも、われわれの戦術ロケットの発射と砲撃訓練を「特別提案と政府声明拒否に対する反発」であり、「軍事的緊張の波高を高める危険な挑発」であり、自分らに対する「故意的な脅威」であると代わる代わる青筋を立てている。
はては、公正さを失って久しい国連安全保障理事会を推し立てて騒ぎ立てながら、世論をまどわして拡散させる境地に至った
このような奇怪な茶番劇に一部の定見のない国々も盲従して米国の鼻持ちならない行動に追従しながらわれ先に哀れな境遇に至った朴槿恵を抱いてみようとたわいなく気を使っている。(後略)

ここでも「公正さを失って久しい国連安全保障理事会」に対する朝鮮の厳しい姿勢が繰り返されています。しかし、それ以上に私が注目したのは、「一部の定見のない国々も盲従して米国の鼻持ちならない行動に追従しながらわれ先に哀れな境遇に至った朴槿恵を抱いてみようとたわいなく気を使っている」というくだりでした。これは名指しこそは避けたものの、中国(及びロシア)に対する批判であることは明らかです。上記東亜日報記事における「いくつかの国家が主体的意見なく、米韓に追随し、アメリカの暴行を黙認した」と朝鮮が批判したというくだりは、おそらくこの点に着目したものではないかと思われます。
 私は、アメリカ主導の安保理に対する危機感を強めた中国(及びロシア)が、最近は安保理において是々非々の態度で臨む姿勢を強めていることを当然だ(むしろ遅きに失した)と考えています。しかし、こと朝鮮にかかわることとなると、相変わらず中国(及びロシア)がアメリカ(というより韓国)に気を使って従来どおりの対応に終始していることには重大な問題があると判断しています。朝鮮外務省及び朝鮮国防委員会の上記見解表明を真摯に受けとめて、中国(及びロシア)が今後の安保理審議に臨むことが重要であることを強調せざるを得ません。

2.2つの関連報道への懸念

以上との関連で、7月30日付の中国新聞網の記事は懸念材料です。一つは「国連安保理、8月に朝鮮「ミサイル発射」問題で会合討論を予定」というもの、もう一つは、「外国メディア、朝鮮の衛星打ち上げ現場における活動の痕跡指摘 さらに大型ロケットを発射するか?」と題するものです。
 前者は、韓国連合通信の報道によるとして、安保理が8月5日(現地時間)に会議を開き、安保理下部機関の朝鮮制裁委員会(安保理決議1718に基づいて設置された組織)の報告を聴取し、朝鮮の「ミサイル」発射等について議論を行うことを紹介しました。中国新聞網記事はまた、同決議に基づき、朝鮮制裁委員会は90日ごとに安保理に対して対朝鮮制裁の実施状況について報告することになっており、同委員会は5月20日に前回の報告を行っているので、今回はそれ以後の実施状況について報告することになるとつけ加えています。
 同記事はさらに、韓国連合通信の報道内容として、本年になってから朝鮮は元山、開城などで相次いで各種の「弾道ミサイル」を発射し、安保理が定めた弾道ミサイル技術の使用禁止の決議に違反しており、韓国政府は朝鮮制裁委員会に何度も書簡を送り、安保理が直ちに行動をとって朝鮮の「ミサイル」発射問題を解決することを促してきたこと、韓国政府以外にも、アメリカ、イギリス、フランスなどの常任理事国も同委員会に対して提案していることを紹介しています。
 後者はアメリカのウェブ・サイト38。Northの同日付の報道を紹介したものです。それによれば、ジョンズ・ホプキンズ大学の研究者が衛星写真を解析した結果、朝鮮が西海の発射場で研究テストを行っているようだとしています。また、発射場の拡張工事は来年完成するとみられ、その時になると朝鮮はさらに大型ロケットを発射するかもしれないとしています。7月4日に撮影した衛星写真によれば、ロケット発射台は3段階に拡張され、完成の暁には50~55メートル(銀河3号より10メートル以上長い)の大型飛行体を搭載できるだろうといいます。また、7月6日に撮影した衛星写真によれば、西海発射場には火炎放出の痕跡があり、朝鮮は「KN-08移動式大陸弾道ミサイル」の研究開発テストを行っているとみられるとしています。
 朝鮮は、人工衛星の開発(それは軍事的には長距離弾道ミサイルの開発を意味します)は今後も続けることを繰り返し明らかにしています。そのことは、過去のパターンに基づけば、「朝鮮の人工衛星打ち上げ-安保理による非難・制裁-朝鮮による核実験」という連鎖につながります。短中距離弾道ミサイルの発射も、弾道ミサイル技術を使用した打ち上げに当たりますから、安保理決議違反を構成しますし、朝鮮制裁委員会の安保理への報告と安保理の審議はそれへの対応という意味を持ちます。しかし、これまでのところは、安保理が制裁措置を発動するまでには到っていないので、朝鮮の対抗措置としての核実験という事態を生むまでにはなっていません。
 38。Northの見方が正しいとすれば、朝鮮が人工衛星を打ち上げるのは早くても明年以後になると一応考えられます。また、朝鮮としては対外開放経済政策に力点を置いている(7月26日付のコラム参照)ことから言えば、国際環境悪化は避けたいところでもあるでしょう(在日朝鮮・韓国人の資本を呼び込むことにつながる日朝交渉を頓挫させることも避けたいところだと思います)。
私が重大な関心を持たざるをえないのは、安保理が過剰な行動をとって朝鮮が第4回核実験に踏み切るような事態を生みだしてしまうことです。この事態を回避するためには、中国(及びロシア)がこれまでの対米(対韓)同調姿勢をキッパリと見直すことが不可欠です。東亜日報が紹介したような、「9月9日の朝鮮の建国記念日または10月6日の中朝国交樹立記念日がアイス・ブレイクのポイントとなるだろう」という韓国政府関係者の発言が的中することが望ましいし、そのためにも中国としては朝鮮に対して明確かつ積極的なアプローチをとることが不可欠だと思います。