朝鮮の対外開放政策の新動向(中国側分析)

2014.07.26.

7月25日付の環球時報は、中国朝鮮史研究会前秘書長の李敦球署名文章「朝鮮経済の包囲突破 外部環境に苦しめられる」を掲載しました。私は朝鮮経済にはまったくの素人ですが、内容的に見逃せない文章ですので参考までに紹介します。

 近日、朝鮮は6経済開発区の新設を決定(注1)し、これで朝鮮の経済開発区は19となった。これは、金正恩のとった経済面での新しい行動であり、経済で新たな突破を図ろうとする彼の願望を鮮明にしている。
 経済政策における調整を図ろうとする朝鮮の力の入れ方は極めて大きい。2013年11月に朝鮮は13の経済開発区を新設することを決定(注2)するとともに、開発区の建設のために安全、法律的保障及び政策的な支持を提供した。朝鮮は新経済政策を実行しており、朝鮮との間で経済貿易関係を発展することを希望するすべての国家に対して門戸を開放すると表明している。朝鮮が取っている一連の措置は、経済特区及び経済技術開発区を先頭にして、全国経済の全面的発展を速めようとした中国の改革開放の初期段階のようである。それは即ち、事実上、朝鮮が中国の経済発展及び改革の成功経験を手本にしているということだ。
 本年6月、朝鮮は重要な経済3部門を合併(浅井注:7月25日付の中国新聞網によれば、合営投資委員会、国家経済開発委員会を貿易省に合併)して対外経済省を新設し、外資導入の窓口の一体化を実現し、政策の決定及び執行の効率を高め、経済開放のステップを速めようとした。そのほか、朝鮮はツアの窓口の建設も重視し、朝鮮文化体験ツア、労働体験ツア、自転車ツアなどの多様なツア商品で外国人を引き寄せようとしている。朝鮮としては、ツア資源の開発を通じて国家のイメージの改善、国際社会との交流強化、外貨獲得を希望しているのだ。  朝鮮メディアの報道からは、朝鮮当局が朝鮮に適合した経済発展モデルを求めて努力を怠っていないことが見て取れる。しかし、朝鮮の外資導入の動きは必ずしも順調ではなく、ほとんどの国々は相変わらず朝鮮を回避しており、朝鮮経済の世界に向けての足取りは緩慢かつ困難である。
 朝鮮が国際社会に参入することは何故かくも困難なのか。朝鮮経済が包囲を突破しようとする戦略は最終的に成功できるだろうか。それを決定するのは厳しい国際環境なのか、それとも朝鮮の発展戦略なのだろうか。筆者の見るところ、国際環境及び発展戦略のいずれも要素として存在しているが、朝鮮は畢竟するに小国であり、リスクに対する抵抗力は極めて脆弱であるから、朝鮮にとっては国際環境の方がさらに重要だろう。鄧小平が改革開放政策を実施した時、中国はすでにアメリカその他の西側諸国との政治関係を改善し、あるいは国交正常化を実現していたのだが、朝鮮はまだこの条件を備えていない。
 朝鮮と中国の国情はあまりにも違うから、中国の経済発展戦略は必ずしも朝鮮に適合していない。中国の改革開放初期に大陸に投資した外国資本は主に香港、台湾を含む海外華人だったが、朝鮮が頼れるのは韓国資本のみであり(浅井注:在日朝鮮・韓国人投資家を見逃しているようです)、しかも朝韓関係改善はアメリカの対朝鮮半島政策の制約を受ける。これに加え、朝鮮は中国のような巨大な労働力基盤も備えていないから、労働集約型産業に頼ることも難しい(浅井注:この点も開城工業団地のケースに鑑みるとどうなのかな、と思いますが)。ただし、朝鮮には豊富な鉱業、森林、海洋及びツアリズムの資源がある。朝鮮が如何にして様々な資源の整合を図り、その長所を発揮するかは、金正恩が直面する難題である。
 予見できる将来においてアメリカが既定の対朝鮮政策を改めることは難しい。朝鮮に対して実質的に協力できるのは主に中国と韓国であり、朝鮮経済が包囲突破に成功できるかどうかは、朝鮮当局の政策と外交的知恵にかかっている。

(注1)7月23日付の朝鮮中央通信は次のように報道しました。

 朝鮮で平壌市、黄海南道、南浦市、平安南道、平安北道の一部の地域に経済開発区を設けることを決定した。
平壌市恩情区域の衛星洞、科学1洞、科学2洞、裵山洞、乙密洞の一部の地域に恩情先端技術開発区を設ける。
黄海南道康翎郡康翎邑の一部の地域に康翎国際緑色モデル区を設ける。
南浦市臥牛島区域の進島洞、火島里の一部の地域に進島輸出加工区を設ける。
平安南道清南区龍北里の一部の地域に清南工業開発区を、粛川郡雲井里の一部の地域に粛川農業開発区を、平安北道朔州郡の清城労働者区、方山里の一部の地域に清水観光開発区を設ける。
各道に設ける経済開発区には、朝鮮民主主義人民共和国の主権が行使される。
これに関する共和国最高人民会議常任委員会の政令が、23日に発表された。

(注2)2013年11月22日付中国新聞網は、前日(21日)に朝鮮最高人民会議常任委員会が発表した政冷の内容として次の13を紹介していました(当時はまだ毎日朝鮮中央通信WSをチェックしていませんでしたので、中国メディアの報道に基づいて紹介します)。ちなみにこの報道においてはまた、2013年3月の朝鮮労働党中央全体会議の決定により、対外貿易の多元化及び多様化、朝鮮の多くの地域で旅遊区を開設してツアリズムを活性化し、各道は現地の状況に基づいて経済開発区を成立させることが定められたこと、並びに5月29日の朝鮮最高人民会議常任委員会の政令によって経済開発区法が公布され、朝鮮が特別に指定した法規に基づき、経済開発区は特殊な優遇を与える特別経済区になることを定めたことをも紹介していました。

 ◯平安北道義州郡于赤里の一部地域を龍雲里に編入し、龍雲里を新義州市の管轄下に置き、平安北道鴨緑江経済開発区とする。
◯慈江道満浦市美他里(原脊島を含む)の一部地域及び浦上里の一部地域に満浦経済開発区を設立。
◯渭原郡徳岩里の一部地域及び古城里の一部地域に渭原工業開発区を設立。
◯黄海北道新坪郡平和里の一部地域に新坪旅遊開発区を設立。
◯松林市西松里の一部地域に松林輸出加工区を設立。
◯江原道元山市峴洞里の一部地域に峴洞工業開発区を設立。
◯咸鏡南道咸興市海岸区の一部地域に興南工業開発区を設立。
◯北青郡文洞里、富洞里、鐘山里の一部地域に北青農業開発区を設立。
◯咸鏡北道清津市松坪区月浦里、輸城洞、南夕里の一部地域に清津経済開発区を設立。
◯漁郎郡龍田里の一部地域に漁郎農業開発区を設立。
◯穏城郡穏城邑の一部地域に穏城島旅遊開発区を設立。
◯両江道恵山市新長里の一部地域に恵山経済開発区を設立。
◯南浦市臥牛島区岭南里の一部地域に臥牛道輸出加工区を設立。