米中戦略対話と米中関係の現段階

2014.07.15.

7月9-10日に第6回米中戦略経済対話(以下「対話」)と第5回中米人文交流ハイ・レベル協議(以下「協議」が行われました。習近平主席が9日及び10日の両日ケリー国務長官以下と会見するという異例な対応を行い、10日には李克強首相もケリー等と会見するなど、米中関係が微妙かつ複雑な様相を呈している中、中国側は今回の戦略対話を極めて重視しました。対話及び協議の成果は二つの「リスト」(量的には膨大ですが、大から小までかき集めた中身)として発表されました。
今回の対話に対する中国側の公式的評価は「積極的かつ重要な成果を挙げた」とするものでしたが、中国専門家の評価は概して厳しく、また、米中関係を新型大国関係として発展させていくために直視するべき課題を提起する内容の注目に値する文章がいくつか現れました。以下ではその大要を紹介します。

1.米中関係のあり方に関する習近平の発言

習近平は7月9日に対話及び協議の連合開幕式で「中米新型大国関係の構築に努力しよう」と題するスピーチを行い、次のように発言しました。米中関係に対する中国側の問題関心の所在が浮き彫りにされています。ちなみに、習近平は翌10日にケリー等と会見した際にも、同じ趣旨の発言を行いました(7月10日付中国外交部WSの発表文)。

 我々が今日会している釣魚対国賓館は中米関係の一連の重要な歴史的事件の証人である。キッシンジャーの隠密裏の訪中、ニクソンの歴史的な訪中、中米国交樹立交渉などはすべてここと密接な関係がある。1979年の中米外交関係樹立は当時世界を揺るがした大事件であり、国際関係の大構造を変えただけでなく、中米両国人民の交流協力の新しい時期を切りひらいた。…両国の間には90以上の政府間対話メカニズムが作られ、中米貿易額は200倍以上に増加し、2013年には5200億ドルに達した。双方の投資残高はすでに1000億ドルを超え、41の友好省州と202の友好都市がある。両国間の人員の往来は毎年400万人を超えている。今日、中米両国の経済総量は世界の1/3,人口は1/4,貿易総額は1/5をそれぞれ占めている。中米両国が仲良くすれば互いを利するが、闘えば共に傷つく。中米協力は両国及び世界にとって利益となる大きな事柄とすることができるが、中米対抗は両国及び世界にとって災難であることは間違いない。
 昨年オバマ大統領との間で合意した中米新型大国関係…を作り上げることは前人未踏の事業であり、参照するべき前例もモデルもなく、困難や波乱に見舞われるとしても怪しむに足りない。問題があることは恐れる必要はなく、カギとなるのは両国が共同で問題を解決することであり、問題によって引きずり回されてはならない。今後を展望して、いくつかの見方と主張を述べたい。
 第一に、相互信頼を増進し、方向性をがっちり握ること。中米両国が相手側の戦略的意図をどのように判断するかは、双方がいかなる政策をとるか、どのような関係を発展させるかに直接影響を与える。この根本問題において誤りを犯すことはできず、さもないと、一つ誤ればすべてに誤るということになりかねない。中国は、「2つの100年」(浅井注:中国共産党成立100周年の2021年に全面的な小康社会を実現し、新中国成立100周年の2049年に中華民族復興というドリームを実現する)という奮闘目標を提起し、中華民族復興というチャイナ・ドリームを実現するべく努力しているさなかであり、いかなる時にも増して平和で安定した外部環境を必要としている。また広大な太平洋は中米両大国を受け入れるだけの十分なスペースがある。中米双方は、対話を強化し、信頼を増して疑いを解き、協力を促進し、中米関係が新型大国関係構築の軌道から一貫して乖離しないことを確保すべきだ。
 第二に、互いを尊重し、同を集め、異を取り除くこと(聚同化異)。中米両国の歴史文化伝統、社会体制、イデオロギーは異なり、経済発展水準も異なり、双方が異なる見方をもっている以上、一定の問題において違いや摩擦があることは避けがたいことだ。中米はそれぞれが特色ある国家であり、多くの分野で違いがあるのは当然であり、違いがあるからこそ意思疎通と協力の必要があるのだ。両国は大所高所に着眼し、両国の共同の利益は違いよりもはるかに大きいことを正確に認識するべきであるし、互いを尊重し、平等的に相対し、互いの主張及び領土保全を尊重し、発展の道筋に関する互いの選択を尊重し、自国の意思及びモデルを相手に押しつけないようにするべきであり、矛盾及び摩擦をコントロールし、対話と協議を通じて建設的に理解を増進し、共通認識を拡大するべきだ。両国が相互尊重、聚同化異を堅持し、戦略的忍耐力を保持し、一事によって惑わされず、一言によって乱されることがなければ、中米関係の大局は、波風が起こってもしっかり支えることができる。
 第三に、平等互恵で、協力を深めること。中米は共に想像力豊かな民族であり、両国関係を推進する上では、時代の発展に応じて創新することがとりわけ必要だ。両国は新思考を創新し、不断に協力の潜在力を掘り起こし、協力の目玉を育むべきだ。両国は、投資協定交渉のスピードを速め、ハイ・レベルで双方にバランスが取れた協定を速やかに妥結するべきだ。両軍の対話を深め、意思疎通及び協力のメカニズムを改善し、中米軍事関係の建設を推進するべきだ。(テロリズム、地球温暖化についての協力にも言及した後)重大な国際問題及び地域問題にかかわる意思疎通と協調を強化し、世界の平和、安定、繁栄を維持し促進するためにさらなる貢献を行うべきだ。
 第四に、民衆に着眼して、友好を深めること。今日の時代は経済がグローバル化し、社会の情報化が急速に進行しているが、電話、ネットは、人と人が対面して意思疎通と交流を行うことに取って代わることは永遠にあり得ない。人の心に根ざした友情こそが確固不抜である。

2.中国側論評

今回の米中戦略対話の結果に関しては、7月11日付の人民日報の鐘声署名文章「中米新型大国関係構築のためのささやかな貢献」は、タイトルが示すように控えめな肯定的評価を行っています。しかし、専門家の評価はむしろ厳しく、中米両国が直面する問題の難しさを率直に指摘するものが目立ちました。
例えば、7月10日付環球網が掲載した王徳華「ケリーは「アメリカ陰謀論」を否定したが、行動で示していただきたい」は、ケリーが中国中央テレビの単独インタビューに答えた中で、「中国はいわゆるアメリカ陰謀論、すなわちアメリカのリバランス戦略は中国を標的にし、これを抑止しようとするものだという考えを放棄するべきだ」と述べた(ケリーは、米中戦略対話の席上でも「中国を抑止し、封じ込める意図はアメリカにはない」と2度にわたって発言したそうです)ことに対して、多くのネット・ユーザーが疑問を呈したことを紹介し、口先でいうだけでは意味がない。重要なのは行動であり、中国人が重視するのは言行一致である」と、突き放した見方を示しています。
 7月11日付の中国網が掲載した暁岸「積極的行動によって新型大国関係の認識上の誤りを取り除こう」は、習近平の上記発言中の「中米両国が相手側の戦略的意図をどのように判断するかは、双方がいかなる政策をとるか、どのような関係を発展させるかに直接影響を与える」及び「広大な太平洋は中米両大国を受け入れるだけの十分なスペースがある」という二つの部分こそが「中米関係を苦しめている2つの根本問題に関する中国側の基本的考え方を示している」と指摘した上で、次のように強調しました。

 根本問題の一つは、アメリカは中国がアメリカのグローバルな覇権的地位を取って代わろうとしていると心配し、中国はアメリカの対中政策の基本は中国抑止であると確信していることであり、相互の戦略的疑心暗鬼は極めて根が深く、軍事領域においてそれが突出している。もう一つの根本問題は、中米が実際行動において太平洋地域における彼我の利益関係をうまく処理しない場合には、相互信頼を樹立しようとする双方の努力を無に帰せしめ、対立して互いを害するモデルをつくり出すということだ。この二つの根本問題の解決は数回の対話でできることではなく、率直な対話を持続し、具体的協力を不断に積み重ねることが不可欠である。こうしてのみ、戦略的相互信頼は口先のものから心からのものとなるだろう。
 現在、中米関係において優先的に処理するべきもっとも緊急を要するチャレンジは東アジアの海上問題だ。それらの問題は中米両国の核心的及び重大な利益にかかわるものであり、中国にとっては領土主権の保全であり、アメリカにとってはAPR同盟システムの保全ということで、どちらにとっても譲歩の余地はなく、矛盾を短期間で解消することは困難である。アメリカは、今回の戦略対話の中で、中国が南海地域での活動を停止し、国際仲裁を受け入れることを要求したと報道されている。しかし、双方は、互いの「保全」の間で緩衝地帯を編み出して「ゼロ・サム」を避けることが可能であるし、そうしなければならず、そのためには、戦略的意図にかかわる意思疎通及び艦船及び軍機の衝突を避けるためのルール作成が必要だ。
 同様に重要なことは、双方が率直に異なる意見を表明し合うと同時に、東アジアにおいて冒険的政策を控える意思と能力があることを互いに明確に示すことにより、第二次大戦後のAPR国際秩序を守ることであり、このこともまた中米が相互信頼を確立する上で欠くことのできないものである。もちろん、そのことはアメリカのAPR政策の連続性及び厳粛性にも関係している(浅井注:この指摘は、アメリカがポツダム宣言から乖離した対APR政策を行っていることに対する遠回しの批判です)。東アジアの地縁政治は極めて複雑であり、中米両国は共同で、第三国(浅井注:日本、ヴェトナム、フィリピンを指すことは明らか)が対立に紛れ込むこと、それによって戦争に引きずり込まれることを防止する措置を講じるべきである。

7月14日付の人民日報海外網は、張敬偉「アメリカは日本の武力行使というパンドラの蓋を開けた」を掲載しています。この文章は、中米戦略対話が行われた日に、ペンタゴンで日米防衛相が会談を行って「歴史的な共通認識、即ち安倍政権による集団的自衛権行使解禁を日米防衛協力の指針に組み込み、年内に作業を終えて日米同盟を強化する」ことを約束したことを取り上げて、アメリカの狙いを分析したものです。上記暁岸文章が「現在、中米関係において優先的に処理するべきもっとも緊急を要するチャレンジは東アジアの海上問題だ」と指摘していることと併せると、中国側の対米関心の所在は東アジア海上問題(尖閣、南沙、西沙など)に集中していること、そしてアメリカの政策には極めて不信感を持っていることが手に取るように分かります。主な内容は次のとおりです。

 東アジア情勢はさらに複雑で解きほぐしがたい難局に陥っているが、それはアメリカ・ファクターによって地域の地縁政治上の駆け引きが危険で予想しがたいものとなっているためである。
 安倍政権の閣議決定による集団的自衛権解禁は日本国内で6割近い反対を招いているが、アメリカは、日本国内の反対に対しては、日本の内政だとしている。ところがアメリカは、集団的自衛権の解禁に対しては悠然と支持している。アメリカは現実主義の功利的打算に基づいて、日本がアメリカの手下として武装することを奨励せざるを得ないのだ。なぜならば、現在のアメリカの戦略的力は他の如何なる時期と比べても弱くなっているのに、その戦略的配置は縮小しておらす、より複雑で多岐にわたるチャレンジに直面しているからだ。
欧州では、ウクライナ危機における米露欧の駆け引きでは米欧間に矛盾があり、しかもアメリカ主導の対露制裁は力を欠いていてアメリカのメンツは丸つぶれだ。最近暴露された(アメリカによるドイツに対する)スパイ事件によって大西洋両岸の相互信頼はさらに低下している。
中東では、イラクの混乱が再び激化し、国家は「三者鼎立」の勢いであり、ブッシュの原罪及びオバマの無能さはともにアメリカ国民によって問いただされている。シリアもまた、アメリカとしては関与したいが挽回する力のない戦略的弱点である。さらにパレスチナ・イスラエル情勢も再び戦火に見舞われているが、アメリカとしてはなすすべがない。
 アジアも同様に太平ではない。東北アジアから東南アジアに至るまで、東海から南海に至るまで、アメリカのリバランスが引き起こしたのは西太平洋の「太平喪失」であり、日本、フィリピン及びヴェトナムが中国に楯をつく事態をもたらした。アメリカの戦略は各国の立場のバランスをとることができないだけでなく、逆に韓日という同盟国間の反目、中米関係の悪化、中日の一触即発などを招き、中米新型大国関係は、歴史的な新旧大国のゼロ・サム及び駆け引きの危険な元来た道に突き進もうとしているようだ。
 オバマがイラク及びアフガニスタンから撤退し、アジアに回帰するとしたことは、アメリカがアジアに対する指導力を再度固めようとした「スマート・パワー」の実践と見なされたこともある。しかし、今見るに、アメリカは中東に対する戦略的支配力を失い、欧州に対する影響力にも打撃を受け、西太平洋の矛盾を激化させ、中国の大国として取り組む決意を活発にさせてしまった。アメリカの戦略は手を広げすぎて、あまりに多くの混乱を招き、そのグローバルな指導力の欠陥をさらけ出した。
 日本は、アメリカの身勝手な要求の中身を的確につかみ取り、日米同盟のもたらす現実的なメリットを進んで受け取ろうとしている。小野寺防衛相は、ヘーゲル国防長官との会談において、「日米同盟関係を考慮し、日本政府は今後憲法の許す範囲でアメリカを保護する」と公然と述べた。「アメリカに保護される」から「アメリカを保護する」に転じたように、日本はアメリカの戦略的泣き所、即ち、APRにおいてアメリカは日本の軍事的後ろ盾なしでは居られないということを傲慢にも見せつけたのだ。ヘーゲルは、アメリカが日本の集団的自衛権行使解禁を「断固支持する」と述べるほかなかった。
 日米防衛相のロジックは別に目新しいことではない。オバマはすでに「日本を強く支持する」という基調を明確にしており、ヘーゲルが述べたことはアメリカ政府の立場を再度確認したに過ぎない。
 APRから中東、中東から欧州、太平洋両岸から大西洋両岸まで、アメリカの同盟国陣営の中で、断固として自らをアメリカの戦車に縛り付け、アメリカのために命を差し出すことを惜しまないのは日本だけである。しかも、アメリカは他のいずれの時期にも増して孤立無援であり、志はあっても力が伴わない。日本が集団的自衛権を解禁することを支持するというアメリカの行動は、飢えたものは食を選ばずの機会主義であり、戦略的かつ理性的な分析が欠落している。
 オバマがシリア及びイラクで簡単には軍事力を動かしたくない情勢の下で、日本がアメリカを手伝って戦争する地縁的空間はどこか。太平洋以外にない。太平洋において、誰がアメリカと争うのか。アメリカの潜在的な敵は誰か。中国であり、中国しかない。したがって、アメリカが日本の集団的自衛権行使解禁を支持するということの論理的結果とは、米日が中国と戦うことは避けがたいということになる。しかし、中米が「太平洋戦争」をやらかすことはアメリカ及び地域諸国の利益に合致するか。答は言わずとも明らかだ。  アメリカが日本の集団的自衛権行使解禁を支持することは、日本の戦略的地位を高めるだけでなく、日本の軍国主義復活という禍根の種をまくことでもある。これは、アメリカ、中国、東北アジアひいてはAPR全体にとってとんでもない決定なのだ。