中露宇宙協力の新動向

2014.06.23.

私は以前から、宇宙開発分野で中国が独自路線を進み、国際協力に参加していないことに素朴な疑問を感じていました。しかし、中国は進んで独自路線を採用したわけではなく、国際協力への参加から排除されて、やむなく独自路線をとってきたのだということを指摘する中国専門家の文章に接しました。6月9日付中国網所掲の陳光文「中露宇宙協力 互恵互利の関係」がそれです。
表題どおり、文章全体の趣旨は、西側の圧力に対抗するための中露宇宙協力のメリットを説くことに主眼があります。また、宇宙分野の軍事利用は宇宙条約で禁止されていることですが、この文章は公然と宇宙軍事利用に関する中露協力に言及していることには、私としては到底看過できないところではあります。この文章はまた、ウクライナ情勢を受けた米露間の宇宙協力に関しても、私にとっては興味深い事実関係を指摘しています。ウクライナ情勢が宇宙分野での国際協力にまで波紋を広げていることを示すものとして、大要を紹介します。

最近、ロシア高官が中国との宇宙分野での協力の可能性に関して一連の声明を発表した。『ロシアの声』の報道によれば、その内容は次のとおりだ。

中露協力は1990年代末から2000年代初にかけてかなりの規模だったが、その後勢いが弱まっていた。しかし、新しい政治条件の下で、中国はアメリカに代わってロシアの主要なパートナーとなる可能性がある。ロシアには、中国と宇宙分野でより長期的な協力を進めるあらゆる理由があり、その中には有人飛行の分野も含まれる。この協力は、中露双方が各々の競争的優位を最大限に発揮することを可能にする。しかも、この協力は将来的には軍事研究方面にも及ぶかもしれない。基本的に、中国はロシアの宇宙原子炉技術に関心があり、この原子炉はレーダー偵察衛星に用いることが可能だ。ロシアはまた、地上基地建設及びロケット早期警報システム分野でも相当の経験を有しており、中国にとって有益であり得る。他方、中国は対衛星兵器の研究開発で先進国の仲間入りしており、ロシアにとって極めて関心があるものだ。

ウクライナ危機以後、ロシアは西側諸国の厳しい制裁に遭遇しているが、その制裁には宇宙分野も含まれており、特にアメリカは、ロシアの液体燃料ロケット・エンジンの購入を停止した(浅井注:別の中国側報道によれば、アメリカは液体燃料ロケット・エンジンの生産は止めており、今後如何に調達するかが大きな問題となっているともあります。そのこと自体も私には驚き)の事実でした)。しかし不思議なことに、アメリカはロシアの宇宙船を使用して国際宇宙ステーションに飛行士を送り込むことについては止めていない。ここからも明らかなとおり、アメリカのいわゆる制裁もムラがあり、アメリカにとって利益となることについては制裁を行わず、どうでも良いことに限って重点的にロシアを制裁しているということだ。
国際宇宙ステーションに関しては、これが中国人だけを排除していることに触れないわけにはいかない。一定の宇宙能力を持つ国々はすべてこの計画に参加しているのに、世界一級レベルの宇宙能力を有する中国だけは、「安全保障」を理由として西側から排除されている。したがって止むを得ず中国は巨額の投資を行って自前の宇宙ステーションを作ろうとしているのだ。国際宇宙ステーションの主体はアメリカ製だが、そのほかの国々もキャビンを持っており、宇宙飛行士及び物資の運搬についてはほとんどがロシアのロケット及び飛行船に頼っている。西側がロシアの宇宙産業に対して大々的に制裁を行いながらも、国際宇宙ステーションにかかわる制裁については提起しないのは、西側にとってロシアに代わる運搬システムがないからだ。
もっとも、国際宇宙ステーションについては、ロシアも受け身で、アメリカの言うがままにならざるを得ない面がある。というのは、ロシアが強硬姿勢をとれば、国際宇宙ステーションとしては中国という代替肢がないわけではないからだ。さらにロシアが独立したばかりの頃は、中露間には目を見張るほどの宇宙協力が行われ、中国の「神舟」飛行船さらには「天宮」実験室は濃厚なロシア・スタイルを漂わせている。聞くところによれば、中露間の宇宙協力が緊密な時期には、ロシアは中国に対して、有人飛行船の設計図、宇宙服、宇宙飛行士訓練その他関連の大量の材料及び技術を移転したという。しかし、中国の宇宙分野の急速な台頭及び猛烈な発展に伴い、ロシアは脅威を感じたのか、中国との宇宙協力を次第に弱め、国際宇宙ステーション建設の過程では、ロシアも中国を参加させる提案を堅持せず、これが現在の状況につながっている。
現在、ロシアは宇宙分野で再び西側の制裁に直面し、中国の参加を堅持しなかったことの報いを見届けることになった。一つにはアメリカの制裁決定に対する報復として、またもう一つには財政困難なロシアの宇宙分野での活動にとって日増しに力を蓄える中国の財政的支持を当てにする必要もあって、ロシアは再び中国との協力を重視するようになっている。中露両国の宇宙分野における協力は、有人飛行及び宇宙探査に加え、宇宙空間における原子力発電、宇宙ベースの早期警報、衛星ナビゲーション、宇宙偵察、海洋監視などの分野で双方が強い関心を共有している。特に宇宙空間における原子力発電はロシアが一貫して強みとしており、中国にとっては弱点であって、中国が将来的にさらに宇宙活動を拡大強化しようとすれば、衛星の動力源としての原子炉技術は欠かせないし、計画中の軍事用攻撃衛星にとっては特にそうだ。宇宙ベースの早期警報技術も中国が極めて必要としているもので、アメリカがミサイル防衛システムを中国に対して展開しつつある中で、中国が限定核反撃能力を保全するためには最低限の宇宙ベースの早期警戒能力を作り上げる必要がある。また中国は、「北斗」衛星ナビゲーション・システムを持っているが、その性能はアメリカの最新技術とは比べようがない。ロシアはすでに中露共同で新型衛星ナビゲーション・システムの建設を提案しており、これはアメリカに対抗した、独立の衛星ナビゲーション・システムの能力を高めることを目的としている。その他の多くの中露間の宇宙協力項目も、ロシアの強みでかつ中国の弱みであり、中国にとってもアメリカの宇宙における絶対的優勢に追いつくためには最良の技術的ソースを提供する。
もちろん、中露の宇宙協力は一方通行というわけではない。ロシアのメディアの分析によれば、中国の対衛星兵器の研究開発はすでに先進国の仲間入りしており、ロシアとしても非常に関心がある。中国が近年進歩を示している対衛星兵器の研究開発は、アメリカの警戒を引き起こす一方で、この分野で実績がないロシアの重視するところとなっている。また、日増しに衰えが目立つロシアの宇宙活動にとって、中国からの大量の資金が必要であり、中国と協力することでこれらの問題が解決できる。いずれにせよ、中露両国の宇宙協力は互いにとって利益であり、西側の圧力のもとでの戦略的協力でもある。
中露両国の国際的な協力と同じく、両国が合すれば米欧は恐れ、両国が分かれれば米欧は喜ぶ。中露が軍事上の同盟を結ぶということでは必ずしもないが、一歩進んで戦略分野での協力を強化することだけでも米欧の心胆を寒からしめることができる。中露両国が宇宙分野での協力で成果を挙げれば、西側諸国の羨みとねたみを呼び、それは正に両国が大いに提唱する戦略的連携の一つとなるのだ。この方法によってのみ、西側諸国が必死になって死地に陥れようとしている中露という二つの世界的大国が、西側諸国と戦って勝利を得るチャンスを得るのであり、中露両国にとって必須の選択である。