中国の国際情勢認識
-ウクライナ問題における論点⑧-

2014.05.25.

ウクライナ情勢の混迷は、①ウクライナを西側陣営に引き込もう(NATOの東方拡大)とするアメリカの戦略が原因であり、②ソ連解体後、米欧との関係改善を通じて復興・再建を図ってきたロシアはアメリカのこの戦略をロシア封じ込めと見なし、ウクライナを対西側緩衝帯として確保することを至上課題として反撃に出た結果である、というのが中国におけるコンセンサス的見方だと思います。そして、ウクライナ情勢が今後どのように展開していくかは国際政治構造そのものを左右するマグニテュードを持つものとして、また、それゆえに中国の改革開放戦略そのものにも影響を及ぼす重大な問題として認識されるのです。それはある意味において、米ソ冷戦及びソ連解体に匹敵する、あるいは米ソ冷戦及びソ連解体後の最大級の国際的大事件として中国では捉えられているということです。私は、中国メディアにおいて発表されてきた数多くの文章を読むことを通じて、国際情勢認識を深めることができたとつくづく感じています。
 翻って、日本国内における受けとめ方を見るに、大事だという受けとめ方はあるにせよ、しょせんは野次馬的関心でしかないというのが正直なところではないでしょうか。せいぜい日本に引きつけてみることがあるとすれば、ロシアのクリミア併合の「暴挙」に対してなすすべがないオバマ政権の対応を見て、中国が尖閣に対して軍事力行使を強める可能性が高まってきたとする「中国脅威論」増幅、したがって集団的自衛権行使の主張正当化に利用するという低次元な「お話し」でしかありません。日本における国際情勢認識のレベルの低さを改めて痛感する次第です。  これまで「ウクライナ問題における論点」として7回にわたって「コラム」で取り上げてきましたが、今回は第8回(最終回)として、ウクライナ問題が国際情勢、国際政治構造に対して及ぼす影響について論じている中国専門家の文章をいくつか紹介したいと思います(紹介するのはすべて要旨です)。私が皆さんに読みとっていただきたいと希望するポイントは2点あります。  一つは、中国人の他者感覚の豊かさということです。ロシアを見るにせよ、アメリカを見るにせよ、相手(他者)の内側に入って、その内側から物事を見ることを心掛ける姿勢です。中国人研究者のなかにも他者感覚をわきまえないものは散見されますが、しかし自己中心主義、天動説が圧倒的に多い日本人と比べれば、中国人の物事に関する見方には学ぶべきものが多いことを分かっていただきたいのです。  もう一つは、国際情勢認識、国際政治構造について考える際に、中国自身を国際情勢及び国際政治構造の一つの重要なファクターとして客観的に見るという視点が貫かれているということです。丸山眞男流に言えば自己内対話ということです。日本人にとっての現実は往々にして所与のもの(丸山眞男のいう「可能性の束」ではない)であり、したがってその現実に対しては「どのように対応するか」という発想しか生まれがたいのです。しかし、中国人にとっての現実はあくまで「働きかけてよりよい方向に向けて変えていくもの」なのです。そういう時に、中国自身をも可変的ファクターとして正確かつ客観的に位置づけることが不可欠になります。
 あまり長くなると、皆さんが読む気が起こらなくなるとは思ったのですが、以上の二つの点について理解と認識を深めていただくために敢えて紹介させていただきます。

1.米露関係ひいては国際政治構造の本質

(1) 紀明葵「ロシアのクリミア編入後の世界政治構造」(4月3日付中国網)
*紀明葵は国防大学教授。

<クリミア問題に表れた米中露関係>
 (プーチンがクリミアをロシアに編入するに当たっては)中国の態度もプーチンに力を与えた。中国のウクライナ情勢に対する態度は明確かつ原則的なものだ。
第一、中国はウクライナ問題に干渉することはあり得ない。
第二、中露戦略的連携にプライオリティを与えている。世界戦略における中露戦略的連携パートナーシップは、経済的、地縁的のみならず政治的な利益にかかわる連携を目指すもので、西側の定義によれば準同盟関係である。これに対して、中米は建設的協力パートナーシップであり、その重点はグローバル戦略上の利益の合致点を追求するものであり、両者の間には巨大な違いがある。中露連携関係は中国の政策的方向を決定するのであり、ウクライナ情勢に関してロシアを直接かつ公然と支持することはないが、(国連安保理で)棄権票を投じることはある。棄権自体が米欧提案を取り合わないということ、ロシアの対応に対してはこれを問いたださないということだ。これが中国の取ったロシアに対する明確な態度であり、ロシアには以心伝心だ。
 第三、中国が国際原則を破壊することに賛成しない立場であることをロシアは理解している。現行の国際ルールで確認されている独立国家の態様は、①自然に存在している国家、②植民地統治に反対して独立解放闘争を経て成立した国家、③元来所属していた国家の議会の同意を経て独立した国家、④議会が国家解体に合意しかつ新しい行政区画(国境線)に基づいて独立した国家、である。 また、中国は完全に統一した国家ではなく、反分裂法は全国人民代表大会の同意を経ないいかなる地域の独立も認めないことを明定している。したがって、中国がクリミアの住民投票を支持することは中国国内法の立場と一致しないことをロシアは知悉している。中国は、コソボ、南オセチア、アブハジア問題でも同様の立場を取ったから、クリミア問題で中国が支持することはロシアも期待するはずはなかった。
 第四、中露貿易はロシアにさらに力を与えている。米欧の対露経済制裁は両刃の剣であり、米欧自身も影響を受ける。ロシアの輸出品の販路については心配なく、中国との経済貿易協力が維持できれば、制裁がロシア経済に対して甚大な影響を及ぼすことはなく、プーチンとしては成算を持って欧米の制裁を無視した。
 第五、NATOの東方拡大に反対する点で中国とロシアの利益は一致している。中国はEUとの間に全面的戦略協力パートナーシップ関係を持ち、国際政治経済秩序の改革を推進し、世界の多極化を推進しており、EUの東方拡大は支持しているが、NATOの東方拡大には反対だ。ウクライナの国内動乱の一因はNATOの東方拡大の意図にあるから、中国としてはウクライナ問題に関する欧州の立場を支持することはできない。中国が欧州を支持することは東西対決を加速するだけで、中国が国際情勢に対処する大局にとって不利であるのみならず、世界政治構造の安定にとっても不利であり、中国としては東西が対決する新冷戦を望まない。
 第六、中国が(安保理で)棄権したことは、柔よく剛を制すであり、アメリカをして中国の力を実感させたし、アメリカが東海及び南海で取っている立場に対するお返しでもあり、アメリカとしては苦々しくても表だって不満を言うことはできない。
<ウクライナのEU参加プロセスを巡る米中露EU関係>
 アメリカはウクライナができるだけ速やかにEUに加入し、NATOの東方拡大というアメリカの構想を実現させ、NATOの軍事基地をさらに前進させることを希望しているが、EUとアメリカの認識は必ずしも一致していない。
第一、EUの東方拡大が伴う経済問題の解決は難しい。現在のEU経済一体化政策は、規定はあるが監督がないという状態であり、ギリシャが引き起こした経済金融危機を経てEUの経済秩序は部分的に改善されたとは言え、最終的な監督メカニズムはまだ完全に作られたわけではない。
 第二、新欧州はまだ完全にEU貨幣システムの中に融合されたわけではなく、EU一体化の成果が具現しにくい。しかし、中東欧諸国がEUに加盟する目的はEUという経済上の急行列車に乗ることにあるから、長期にわたってこの急行列車に乗ることから除外され続ければEU加盟の意味が失われてしまう。現在においてもEUと中東欧諸国の間には矛盾があるのに、ウクライナという欧州の大国の受け入れを急ぐと消化不良は間違いないわけで、したがってEUとしてはさらに多くの面倒を背負い込もうとしないのだ。
 第三、ウクライナのEU加盟については、欧米間、欧米露間に長期にわたるせめぎ合いが続くだろう。アメリカは迅速な加盟を求めるが、EUは急ぎたくはなく、ロシアはウクライナがEUに加盟すること自体を望まない。ウクライナのEU加盟は中国にとってあまり関係ないが、NATOの東方拡大を望まないという点で中露の利益は一致する。
 アメリカが衰退することは中欧露三者の戦略にとって共通の利益であり、欧露間でウクライナ問題に関して妥協が実現しない場合には、対米駆け引き上問題が生まれ、三者が共同してアメリカに対処することができなくなる。
 第四、アメリカの影響力は明らかに下降しつつある。昨年、イギリス議会が対シリア出兵を拒否したことはアメリカの同盟国に対する影響力下降の幕開けとなった。EUの他の国々も逡巡し、ドイツとオーストリアは明確にアメリカの対シリア武力行使に反対した。元々は武力行使にもっとも積極的だったフランスも、国連の調査結果を待って考慮すると言いだした。
 トルコは元々アメリカの盟友であったが、エルドアン首相は昨年、イスラエルがエジプト問題の黒幕だと非難し、アメリカ政府は彼の反ユダヤ言論を非難した。また、オバマ政権の対中東政策はイスラエル及びサウジアラビアとの関係に深刻な影響を及ぼしている。これは、オバマ政権が両国のアメリカに対する不満感情を過小評価したことに基づく。即ち、オバマのパレスチナ・イスラエル和平工作の政策はアメリカとイスラエルの関係に矛盾を生んだ。また、アメリカがトルコとエジプトの同盟結成を通じてサウジアラビアをおろそかにした政策はサウジの反感を招いた。
 第五、ウクライナのEU加盟問題に関するアメリカの影響力はさらに面倒に直面している。アメリカの戦略重心はAPRであり、ウクライナ問題での相手はユーゴ、イラク、アフガニスタンではなくてロシアだから、新たな冷戦に入り込むだけの肝っ玉はなく、しかもアメリカにとっての最大の頭痛の種は目覚めつつあるアジアの大国・中国となればなおさらである。アメリカが仮に戦略的重心をウクライナに向かって動かせば、中国にさらに多くのチャンスを与え、中国が大きく羽を広げることに対して対処しようがない。
 第六、露米欧の矛盾の緩和は難しい。ロシアがシリアで得点を稼いだことは欧米にとって不満である。地中海は欧州にとっての玄関であり、ロシアが一歩一歩地中海に入り込むことは、欧州からすれば直接の脅威と受けとめられる。
 ドイツが欧州で重みを増そうとする意図は明確だ。ドイツは、アメリカの対日拘束力がまったく無力であることを見て、国家戦略を調整する足取りを速めている。黒海における地縁戦略もドイツが重視するところであり、ウクライナ情勢が安定するかどうかに関しては、露独間の協力がどうなるかをも見なければならない。以上のように、ウクライナ問題をめぐるEUとロシアとの間の駆け引きは長期的なものだ。
 第七、中国としては露欧との協力を強化し、ユーラシアの経済一体化を促す必要がある。シルクロード計画については、習近平訪欧によって欧州の認識が高まり、ドイツはその建設を積極的に推進すべきだと表明した。英独仏は人民元取引の中心になろうと争っており、人民元が国際通貨になるステップは早まっている。ロシアの極東開発も中露が協力を深めるチャンスとなっている。
 アジア情勢はウクライナ情勢のコントロールが失われることによって衝撃を受ける可能性がある。ミヤンマー情勢は悪化する可能性があるし、タイ情勢はウクライナ情勢の刺激を受けて再び悪化する可能性がある。西側は、様々な手段を使って中国周辺で情勢を複雑化しようとするから、中国としては警戒を高め、全力で対処する必要がある。
 ウクライナ問題は、中国にとって挑戦であると同時にチャンスでもある。中国は、大国間の駆け引きの空間を利用して自らの総合的国力を強め、周辺諸国との安全保障環境を改善する条件がある。同時に、西側が挑発する周辺の矛盾に積極的に対処し、欧露との協力を主動的に拡大してウクライナ問題に対する影響力を拡大し、さらに大きな利益を図る必要がある。

(2) 呉正龍「米露は「新冷戦」ではなく「冷平和」である」(4月9日付環球網)
*呉正龍は元大使で、現在は中国国際問題研究基金シニア・リサーチャー。

 ウクライナ危機以来、特にクリミアがロシアに編入されて以来、アメリカのメディアは軌を一にして露米間の緊張した関係を「新冷戦」と呼び表している。しかし筆者の見るところ、西側とロシアが「新冷戦」に向かうことはあり得ず、「冷平和」に入りつつあるのであって、このことは世界政治構造に重大な影響を及ぼすだろう。
 まず、冷戦の基本的要素はもはや存在しない。米露の力関係は根本的に逆転しており、軍事力及び経済力において、あるいは国家としての総合的なソフト・パワーにおいても、ロシアはアメリカとは比べものにならない。また、両者は完全に封鎖的な対立集団を形成しておらず、NATO及びECと対立していたワルシャワ条約機構及びコメコンは、ソ連解体とともに歴史の博物館入りした。さらに重要なことは、経済のグローバル化のもとで、各国経済は相互依存を深めており、経済戦争は両刃の刃となって、相手を1000傷つければ自らも800の傷を負うという状況だ。
 西側とロシアとは軍事演習で対抗しあい、制裁には反制裁というようにあたかも冷戦が一触即発の如き勢いだが、これらの動きを細かく見ればほとんどが牙に欠けており、ベルリン危機、キューバ・ミサイル危機などの冷戦時代に発生した重大事件とは比べものにならない。
 新冷戦こそ起こしようはないが、今回の危機を経て、西側とロシアとの関係は以前のままということにはなり得ず、「冷平和」に入ろうとしている。即ち、西側は全面的に対露政策を調整し、平和を維持し、ロシアと必要な協力をすると同時に、対抗及び対立の局面が今後大幅に増大するだろう。
 協力は必ずしも恩恵に基づくものではなく、双方の共通の利益という必要に基づくものであり、クリミアの住民投票という緊張したときになっても、宇宙及びイラン核問題における米露協力は影響を受けなかった(浅井注:宇宙協力に関しては影響が出始める兆しが5月中旬に報道されるようになっています)。同じように、シリア問題、朝鮮核問題、反テロリズム、核拡散防止などの重要な国際問題でも、米露は引き続き協力していくだろう。米露協力は依然としてロシアと西側との関係における重要な一面である。
 しかし、対抗と対立が今後のかなりの時間にわたってロシアと西側との関係における主要な局面となるだろう。すでに取った制裁のほかにも、アメリカ及び西側諸国はさらに(政治面、軍事面、エネルギー面など各分野で)措置を取ってロシアの孤立化という目的を達成しようとするだろう。

(3) 李海東「米露「新冷戦」 中国は戦略的精神力を強化すべし」(5月2日付環球時報)
*李海東は外交学院国際関係研究所教授。

 米露「新冷戦」は米ソ冷戦とは明確に異なる。
 まず、当時の冷戦は、政治及び経済体制がまったく異なり、イデオロギーにおいても鋭く対立していた米ソ両陣営の間でグローバルに展開された、直接的軍事衝突を回避しようとする深刻かつ全面的な対決だった。しかし、現在の米露関係においては構造的な矛盾が不断に深刻化しているとは言え、システム・体制の争いでもなければ、グローバルな角逐でもなく、ユーラシア大陸地縁政治における軍事衝突を除外した争いである。
 次に、第二次大戦で同盟国だった米ソがグローバル規模で争ったために起こった冷戦とは異なり、米露「新冷戦」は、冷戦の勝利者というメンタリティのアメリカがロシアを冷酷に罰し、駆逐しようとして引き起こされたものだ。第一次大戦後に戦勝国が敗戦国に対して無情に収奪したことが原因で起こった第二次大戦の歴史的教訓を、アメリカは学びとっていないことが事実で明らかになった。冷戦期の米ソの命がけの対決とは異なり、現在米露が陥っている対決は欧州の伝統的政治外交の実践の帰結である。アメリカの外交を指導する理念は相変わらず旧思考だ。アメリカが一貫してロシアをライバル視する考え方が米露対決を最終的に不可避とさせることになった。
 さらに、米ソは互いを敵と見なしていたために、冷戦構造は1946年から1949年にかけて急速に固定化したが、「新冷戦」の場合は、1997年にNATOが東方拡大を開始してから今日のウクライナ危機に至るまで約20年間を経ている。米露関係は蜜月、衝突、対決という過程を経ているのだ。しかし、米露の違いが調整不可能ということがハッキリしたとき、ロシアは欧州の安全保障構築に対する主導的立場を失い、欧州国家としての立場にも疑いを持たれることになり、アメリカも長年にわたるイラク・アフガニスタン戦争及び金融危機による打撃を被って国力及び影響力がともに衰えることになった。つまり、「新冷戦」構造のもとで、米露は「力が衰えた者同士」の競争という局面を呈している。
 「新冷戦」形成の重要な表れとして、米露のウクライナをめぐる争いは国際政治構造に対してグローバルな影響を持っている。NATOはこれまで繰り返して唱えてきた「ロシアとパートナーシップを構築する」というベールをかなぐり捨て、ロシアを明確に敵と見なし、長期にわたって冬眠状態だった軍事同盟という性格を再び露わにしている。オバマはアジア4ヵ国を訪問してアメリカ主導の軍事同盟政策及び欧州においてNATOを強化する行動を強調して、ユーラシアにおける同盟システムを基礎にしてグローバルな安全保障の枠組みを構築する意図を明らかにした。これは、グローバル規模の「新冷戦」の可能性が排除できないことを意味する。
 米露関係が悪化を続けること、アメリカが冷戦の世界にいるという自己イメージから脱け出せないということは、新型大国関係構築を目指す中国にとっての責任はさらに重いということを意味する。自己イメージの世界に浸りきっているアメリカをなんとかして覚醒させることは、中国などの平和愛好国家の切羽詰まった任務である。今日の時代においては、米露関係に現れている「旧外交」は国際構造の趨勢を主導することはあり得ない。中国その他の多くの新興経済諸国は今や凧のしっぽの如く米露関係の変化のままに揺れ動く存在ではなく、中国は自らの戦略的精神力を強化し、自らの知恵と中米露三角関係における戦略的弾力性を十分に利用して、過去指向ではなく未来志向の国際構造をつくり出そうとしている。

2.アメリカ・オバマ政権の対外戦略

(1) 鮑盛剛「リバランスが困難なアメリカのグローバル戦略」(4月22日付共識網)
*鮑盛剛については詳細不明。「共識網」は香港の雑誌『領導者』のウェブサイト。

 アメリカはどこへ回帰すべきか。過去数年、アメリカの戦略的重心はアジア回帰だったが、ウクライナ内戦のエスカレーション及びロシアの復帰に伴い、アメリカとしては欧州回帰を考慮するべきではないのか。地縁政治上も、歴史感情からいっても、アメリカにとって欧州の方が重要であり、安定した欧州こそがアメリカのグローバル戦略上の大本営である。
 アメリカのグローバル戦略の核心は「3点1線」であり続けてきた。3点とは欧州、中東及びアジアであり、1線とはこの3点を結ぶ西から東に至る分割線を指す。冷戦時代にはこの線が鉄のカーテンと呼ばれ、世界を二分し、一方はソ連主導の社会主義陣営、もう一方はアメリカが主導する資本主義陣営だった。冷戦後におけるアメリカの狙いは、この線を北上させることだ。 即ち、欧州ではロシア国境まで進めようとしている。中東ではシリア及びイラン問題で米露が力比べしている状況で、ロシアはアメリカがこの線をさらに北上させてロシアに肉迫することを恐れている。アジアでは、アメリカはすでに3つの島嶼線を配置し、中国を第1島嶼線の中に押し込めることを図っている。
では、アメリカのこういう行動を決定する根源にあるものは何か。簡単に言えば、アメリカの自己規定ということだ。アメリカは今日の世界で最強の国家であるとともに唯一のグローバル大国である。したがってアメリカの戦略もまたグローバルであり、その目的はアメリカのグローバルな主導的地位を守ることである。そのグローバルな主導的地位を守るためには、アメリカとしてはユーラシア大陸を支配しなければならない。なぜならば、ユーラシア大陸を支配することは世界を支配することだからだ。ユーラシア大陸を支配するためのカギは、この大陸においてアメリカの主導的地位に挑戦する主導的大国が出現することを絶対に許容しないことだ。そして、そういう大国の出現を阻止する最良の方法は地域的矛盾をつくり出し、地域大国同士を闘わせ、相互に牽制させ、必要に応じてアメリカが登場して関係する国家に外科手術的な打撃を加え、地域的な戦略バランスを確保することだ。
この点に関しては、我々としては中東でも欧州でも、事態の激動の背後にはすべてアメリカの見えない手が働いていることを見るし、その上でアジアを見直せば、アメリカがアジアで何をしようとしているかは一目瞭然となる。アメリカが自ら述べるように、アメリカのアジア回帰戦略には2大目的があり、一つはアジアの経済繁栄に与り、アメリカの輸出と就業を促進すること、もう一つはアジアの平和と安定を維持することである。
しかし事実上は、アメリカのアジア回帰は地域の平和と安全を促進しないどころか、激動と衝突を持ち込んでおり、アメリカの輸出と就業を引っ張るだけでなく、アジアの協力と経済発展を破壊している。アメリカは口先ではアジア回帰が中国の平和的台頭を抑えるためのものではないと言うが、事実としては、アメリカのやることなすことはすべて中国を狙ったものであり、アメリカの目的は、中国のアジアにおける影響力を第1島嶼線の中に押し込め、同時にTPPを通じて経済的に中国を排除することなのだ。
アメリカがアジアに回帰してからの最大の成果は何か。それは、アメリカが中日の不和を造り出したことだ。釣魚島紛争が勃発して以来、アメリカは常に陰に陽に日本が中国と対抗することを支持し、日米同盟に鑑み、アメリカとしては同盟国としてのコミットを履行しなければならず、この問題において劣勢にある日本が形勢を逆転することを援助することがアメリカのアジアにおける威信を打ち立てるために重要な措置であるとしている。
同時にアメリカは、安倍が平和憲法の解釈を変更することにも歓迎を表している。なぜならば、日本の平和憲法が交戦権及び集団的自衛権を制限していることが米日軍事協力の深化を妨げ、平和憲法の制約があるために日本は海外でアメリカと一緒に作戦行動が取れないからだ。アメリカが大目に見る状況のもとで、安倍政権は軍国主義を呼び戻し、釣魚島を占拠し、軍事強国への道を進もうとしている。 それでは、アメリカは本当に日本を野に放つだろうか。これについてはまず、中米の実力関係の今後の変化によって決まるだろう。中国に有利な方向に進むのであれば、アメリカは当然に日本に対する手綱を弛め、日本の力を借りて中国を牽制し、リバランスを求めるだろう。逆にアメリカに有利に進めば、アメリカは日本に対する手綱を引き締めるだろう。
次に、中日間の実力関係の変化によっても決まるだろう。中国に有利に変化すれば、アメリカは日本に対する手綱を弛めるし、逆になればアメリカは手綱を引き締める。
最後に、日本の動きに対する国際社会の反応如何によっても決まるだろう。日本軍国主義復活の動きが速すぎあるいは過激になって周辺諸国が強烈に反応することになれば、アメリカとしては日本に厳しく当たるだろう。結局、アメリカとしては、一方で日本を利用して中国を牽制したいし、他方では日本が走りすぎてしまうことも望んでいないということだ。
冷戦終結後、特に過去10年のユーラシア大陸の3点1線においてアメリカがもっとも安心してきたのは欧州だった。一つには、ロシアがショック療法で痛めつけられて、その力はロシア領域内に閉じこめられたことがある。もう一つには、経済が衰退し債務危機にも陥った欧州は内部の問題に忙しくて、アメリカのグローバルな覇権的地位に挑戦する力がまったくない。
中東では、アメリカはシリアとイランのことが心配だが、もっと心配なのはこの地域の混乱と長期にわたる激動である。なぜならば、アメリカとしては、戦略的リバランス戦略及びグローバルな覇権的地位を維持することに対して不利となるような主導的大国の出現も地域の混乱も望んでいないからだ。
アメリカがもっとも安心できず、心が穏やかではないのは明らかにアジアであり、その原因は中国の台頭にある。しかし、ウクライナ内乱のエスカレーションとロシアの軍事介入を目の前にして、こわもてのロシアが復活しつつある。それでは、アメリカのグローバル戦略の重心はアジア太平洋から西に移るのだろうか。これこそがアメリカと西側が直面しているきわめて厄介な問題である。

(2) 董春岭「米露対局 オバマは手を打ち返すだけの力をまだ持っているか」(5月13日付人民日報海外版網)
*董春岭は中国国際関係研究院中国现代国际关系研究院研究員補佐。

 (クリミア情勢に関する)米露の間の競技において、プーチンの振る舞いは意表を突くもので、強硬かつ果断であり、しかも演じ方はほれぼれするものであり、余裕を持って行動している。これと比べると、オバマ政権は明らかに腰が定まらず、「立ち会いこそしたけれども、打ち返す力はゼロ」というところだ。また過去1年を振り返っても、スノーデン事件及びシリア危機における処理においても、ロシアはアメリカよりも上手だった。「意外なプレゼント」とも称すべきスノーデンに対し、ロシアは法律及び国際世論を巧みに利用して彼を庇護し、アメリカは対ロシア圧力をかけたがどうしようもなく、最終的にはウヤムヤになった。シリアの化学兵器問題においては、アメリカはこぶしを振り上げたものの、ロシアの斡旋によってそのこぶしを収めることを強いられた。プーチンは国際舞台で「平和の使者」という名声を博し、アメリカはサウジアラビアやイスラエルといった同盟国に「優柔不断、言行不一致」というマイナス・イメージを残す結果になった。米露の数次にわたるゲームにおいて、アメリカは何故に常に敗れてきたのだろうか。少なくとも3つの原因があると思われる。
第一、ロシアの戦略的に目指すものが明確であったのに対して、アメリカの戦略にはほころびがあったこと。プーチンは就任以来一貫して強力に独立国家共同体(CIS)の一体化を推進し、かつてのソ連の範囲でユーラシア連合を作ろうとしてきたため、ウクライナ問題においてもロシアの目標は明確で、全局を見通していた。しかし、オバマの関心はアジア太平洋にある。アメリカのある学者が指摘したように、オバマのリバランス戦略は、イラク及びアフガニスタン戦争が終結に向かうこと、テロリズムに対して決定的な勝利を収めること及び米露関係が基本的に安定していること、以上3つが成り立つことを前提としている。ところがこの3つの条件はすべて満たされておらず、オバマ政権の戦略方向が偏っていたこともあって、危機の頻発を招き、戦略全体をコントロールできなくなった。
 第二、アメリカが一貫して戦線縮小と戦線拡大との矛盾を抱えていること。金融危機はアメリカ経済をひどく痛めつけ、その戦略的自信にも打撃を与えた。アメリカ国内には常に2つの異なる主張がある。一つは戦線を縮小して本国経済の振興を図るべきだとする。もう一つは戦線を拡大してグローバルな指導力を維持するべきだとする。オバマ政権としては明確な答を出すことを迫られている。
 第三、アメリカが一貫してロシアを軽視していること。冷戦終結後、アメリカは一貫して自分は勝利者だと考え、冷戦に勝利したと思っているが、事実はソ連が勝手に競争から降りたということだった。歴史に対する誤った認識に基づいて、アメリカは冷戦後一貫してロシアを敗北者扱いし、自分は勝利者気取りでポスト冷戦の国際秩序を支配しようとし、そのことが米露間の矛盾の種をまいた。ロシアは、広大な国土面積、突出した軍事力、巨大な経済的潜在力、大国としての経験と思いを持つ国家として、一貫して大国としての復活という夢を追求しており、国際舞台で一家を構え、重要な役割を担ってきたが、アメリカからはそれに見合う扱いを受けてこなかった。「己をわきまえず、彼をも知らぬ」アメリカだから、挫折するのは必然だった。
 中国には、一手に慎重を期せざれば、全局すべてこれを失うという諺がある。ウクライナ危機はグローバルな地縁政治の変化を引き起こしており、国際政治構造は変遷を遂げつつあるが、国際秩序はどうなるのだろうか。米露に切に望むことは、「冷戦」または「大国の覇権争い」という歴史の亡霊に再び迷い込まないことだ。

3.中国人の対プーチン感情と中国外交

(1) 王元豊「中国人の対プーチン感情」(5月24日付シンガポール聯合早報掲載。同日付環球網)
*王元豊は北京交通大学教授。

 プーチンは西側では歓迎されていないが、中国では極めて人気があり、非常に多くの中国人が隣国指導者を好きだ。プライベートの会話の中で、多くの人がプーチンを讃美する言葉を口にする。『プーチンのような硬骨漢になろう』という題名の本が売れているが、この本の編集推薦の言葉には「嫁に行くならプーチンのような人、人間たるものはプーチンの如く」とある。中国国内の大規模なウェブサイトでは、2008年から2014年にかけてプーチン支持率の調査を行ってきているが、中国のネットユーザーの彼に対する支持率は毎年90%を超えて安定しており、しかもこの数字はプーチンがロシア国内で得た84.7%という歴史上最高の支持率をも超えている。
 中国人がほかの国の指導者がこれほど好きだというのはなぜか。オーストラリアのある雑誌の分析によれば、中国国内で高まりつつあるナショナリズム感情は中国の「軟弱」外交に対する不満のはけ口をプーチンに求めているとしている。それでは、中国の人々はなぜこのような不満感情を持っているのか。
 一つには、中国の人々が民族的屈辱の歴史に基づく心理的屈折感をいまだに持っているということがある(として、アヘン戦争、1949年以来の西側による竹のカーテン、中ソ対決、改革開放後の西側による包囲網や台湾問題やチベット問題での干渉などを列挙)。つまり、中国人の西側諸国に対する感情は今日なお平淡でも正常でもないのだ。したがって、中国に痛い目を合わせてきた西側諸国と闘う人物があれば、中国人は当然その人物を好きに感じる。中国人の中で毛沢東が相変わらず好きなものが少なくないが、それは以上の点で似通っているからだ。
 もう一つには、中国の人々における中国の外交戦略に対する認識度が高くないということがある。中国の改革開放後の外交上の指導理念は鄧小平が提起した「韜光養晦」だ。確かにこの戦略は1989年という特殊な歴史的状況下(浅井注:天安門事件後の国際的孤立化)で提起されたものではあるが、基本的に改革開放の30余年にわたる外交戦略の集中的表現である。中国の総合国力がまだ強大ではないところに西側の制裁に直面し、しかもその後も様々な事件に逢着する中で、中国の総体としての考え方は良好な国際環境を獲得することであり、西側諸国とはあまり対決しないようにし、周辺諸国との紛争についても外交的に解決を目指すことを心掛けてきた。  しかし、中国の総合的国力は急速に増大し、経済力は世界第2位、国防力も大幅に向上した。現在、中国が他国と矛盾が生じるとき、とりわけ近年になって東海、南海で日本、フィリピンなどとの間で領土紛争が起こると、中国指導者が提起する「平和的発展」戦略に対して、違った意見を持つ中国人がますます増えてきている。
中国はなぜロシアがクリミアを処理したように釣魚島を回復できないのか。中国はなぜしきりにいざこざを起こすフィリピンやヴェトナムを軍事力で教訓を与えられないのか。平和的発展ということは戦争できないということを意味するものではなく、戦争だけが平和的発展を可能にするのではないか。これが少なくない中国の人々の考え方だ。
 第三に、中国の世論環境も中国人の「プーチン感情」を生む重要な原因である。つまり、中国メディアがプーチンのイメージをあまりにも美化しているために、このような高い支持率を生んでいるのだ。もちろん、ほかにも要因がある。一つには、西側諸国による陰謀論や周辺諸国の非友好的行動に関する報道が氾濫しているということがある。これらの報道には一定の根拠はあるが、推測や憶測に基づく報道や分析が少なくないことも事実だ。例えば、オバマのアジア4ヵ国歴訪がこれらの国々の対中姿勢を大胆にさせているとか、日本の活動はすべて中国との戦争を準備するためのものだとかといった類の報道が多すぎる結果、中国の人々は西側諸国や周辺諸国に対して好感及び信頼感を持てなくなっている。もう一つの原因としては、中国外交上の問題に遭遇するとき、特に東海や南海で新しい紛争が起こるとき、メディア上で評論分析する専門家の多くが軍関係出身者であということがある。軍関係者の観点は当然ながら戦争による解決に傾く。
 以上のような世論による薫陶の結果、中国の人々がグルジア、ウクライナ紛争でプーチンが取ったやり方を肯定するのは当たり前ということになる。

(2) 王義桅「中国外交はロシアのように「スカッ」とはいかない」(4月23日付環球時報)
*王義桅は中国人民大学EU研究センター主任兼国際関係学院教授。

 ウクライナ危機はロシアの強硬な反発を引き起こした。プーチンは「迅雷耳をふさぐいとまを与えず」の勢いでクリミアをロシアの懐に取り戻し、中国人に大きな感銘を与えた。多くの中国人が振り返って考えたのは、中国外交は何故にロシアのようにスカッといかないのかということだった。
 事実問題としては、中国がまだその気持ちにもなっていないというのに、国際社会はすでに中国を警戒している。最近、習近平主席が訪独した際、メルケル首相から1735年にドイツで作成された精確な中国地図を寄贈された。その年は乾隆皇帝が即位し、清帝国が最強盛期に入るころだった。ロシアが同国とウクライナとの国境を実力で変えたことが、メルケルの中華民族大復興に対する懸念を引き起こしたとする分析もなされた。
 我々は欧州人の国境問題に対する敏感さをもちろん理解している。近代になってから、国境問題が度々欧州諸国を戦争に引きずり込んできたからだ。したがって、中国がロシアを真似ることはあり得ないということを明確にすることは中国のパブリック外交の重要な仕事になっている。もちろん、このことはことさらに中露を差別化するということではない。ロシアはロシアであり、中国は中国なのだから。しかしながら、中露に関するこの種のアナロジーを甘く見るわけにはいかない。以前にも欧州人は中国をロシアになぞらえることがあったからだ。
 歴史レベルから見れば、民族形成の文化的遺伝子により、中国は本質的にロシアとは違う。ロシアの歴史はキエフ・ルーシに発端があり、キエフ公国の不断な拡張は欧州からアジアに及び、ロシアはユーラシア大陸にまたがる世界最大の国家になった。中国の地理的特徴は、北は茫漠たる草原、南は朝貢諸国、東は広々とした大海、西はヒマラヤ山脈であり、このことが「中華帝国」意識を養い、「天下無外」観を育てた。中国の観念を支配したのは空間のロジックではなくて時間のロジックであり、地理的な拡張ではなく文化的な吸引力を重視するというのが中華民族の民族的遺伝子である。
 現実レベルから見れば、中露間の第二の根本的な違いは国際依存度だ。中国はすでに世界第2位の経済大国であり、グローバリゼーションの主要な参画者、受益者、建設者だ。経済発展におけるエネルギー及び資源輸入依存度は50%超であり、輸出及び投資は中国経済成長を引っ張る2大牽引力だ。対外依存度が高いことは中国が世界と協力することを選択させる。ロシアについて言うと、エネルギー及び軍事製品の輸出に頼り、経済構造は比較的独占かつ単一で、対外依存度は中国にはるかに及ばず、むしろ西側の方がロシアのエネルギーに求めることが大きい。
 将来というレベルで見れば、中露間の第3の違いは将来に対する期待感の違いということだ。ロシア人も将来に対して明るい展望を持ってはいるが、各種世論調査の結果によれば、中国人の方が将来に対してより楽観的であり、強がって国家発展の戦略的チャンスを棒に振るということはあり得ない。インド及びブータンを別として、中国は陸を接している14ヵ国との間で国境画定協定を結んでいる。
 結論として、中国としてはロシアを真似る必要性もなければ、そうするメリットもない。中国人が近代化から得たもっとも重要な啓示は平和、発展、協力、共嬴である。ロシアにはロシアの対外政策上のロジックがあり、中国には中国にふさわしい対外政策上のロジックがある。プーチンの気っぷの良さだけを持って中国外交はあまりにヤワだと非難するのは識者に笑われるだけだ。

4.中国外交のあり方

(1) 暁岸「「東西ともに緊張」という局面に沈着かつ積極的に対処しよう」(5月12日付中国網)
*暁岸は中国政府系の中国網常連の国際問題コメンテーター。

現在、中国の戦略をかき乱す可能性がもっとも高い外部の隠患は「一東一西」、つまりアメリカのアジア太平洋戦略における新たな動きとウクライナ危機が醸成しつつあるユーラシア大陸地縁政治再編である。
東について見れば、アメリカ(オバマ大統領)の「アジア回帰」戦略堅持再表明は同盟国を刺激して中国との領土海洋問題でさらに対決的な態度を取らせるとともに、朝鮮の安全に対する不安感をも助長し、東アジアで衝突が勃発するリスクを強めた。西について見れば、ウクライナ問題におけるロシアとアメリカの代理戦争的な腹の探り合いは今に至るも交渉による妥協という見通しを引き出すには至っておらず、ウクライナはすでに準内戦状態に陥っており、新冷戦の暗雲が急速に覆っている。
 長期にわたる中国にとっての外部の戦略的安全保障環境は、東で急を告げるときには西の緊張が緩み、東がゆったりすれば西が緊張するという具合で、現在のように東西が同時にこれほど明確な圧力が集中するということは極めて少なかった。これは、中国がグローバル大国に向かうプロセスにおいて遅かれ早かれぶつかるターニング・ポイントであるかもしれないが、中国としては、国家の戦略的方向と命運をしっかりと自らの掌中に把握しなければならない。
 直接の圧力は間違いなく東の海上から来る。アメリカは欧州情勢で苦しんでいるとは言え、APR戦略のリバランスはいささかも弛めることなく推進する構えであり、中国が欧州の混乱に乗じて東アジアでうまい汁を吸うことがないように恫喝を惜しまず、中米、中日、中・ASEANの関係を複雑化させることによって中国の周辺情勢をさらに緊張に向かわせている。しかし、長期的に見れば、ウクライナ問題における露米対峙が破局となればグローバルな大事件となり、中国に対する影響はさらに重大かつ深刻なものとなるだろう。東西の戦略的安全保障環境が同時に悪化することは中国の国家利益にとって最悪であり、中国の改革発展のグランド・デザインに深刻な妨害及び阻止力をもたらすことになる。
 当面もっとも緊迫しているのは中国の周辺地域である。武力衝突に引き込まれないようにすることを前提として、個別の国家が主権問題で中国を挑発する行動が高まることを断固として抑止しなければならない。また、明確な政治姿勢及び経済的手段によって朝鮮が北東アジアでリスクを高めることを阻止し、中国の利益ががんじがらめに縛られることを防止するべきだ。
 建国以来、中米露三角関係において中国は常にもっとも弱い当事者だったが、その状況は旧ソ連が解体してから変化が生まれた。現在の中米露三角関係は三次元構造のようなものだ。軍事面では米露の実力は中国を上回り、経済面では中米がロシアを上回り、しかしロシアの外交手腕は敬服置く能わざるものがあって、国力の不足をうまくカバーしている。中米露三角関係はかつてない三等辺状態を呈しており、中国はかつてない重みをもち、今や米露の間でいずれかの側に立つ必要がなくなっている。
 露米関係が冷戦後もっとも重大な十字路に立っている今日、中国としては増大する影響力を巧みに運用して事態が中国の根本的利益に合致する方向に持っていく必要があり、超然とした態度を取ることも、米露の矛盾を挑発して漁夫の利を得ようとすることも、ともに理性的ではなく科学的でもない。中国は、ロシアともアメリカとも建設的な協力関係を保っており、中露戦略的協力パートナーシップは歴史上最良であり、このことは、アメリカの対中抑止政策が頭をもたげているときには、中露協力を通じて圧力を緩和させることができるし、米露が欧州で危険な状況になって中国の戦略をかき乱そうとするときには、両国をして自制するように働きかける資本となる。
 中米関係は現在極めて複雑で微妙な段階にあり、アメリカが南海及び東海で(日比に)肩入れしていることは中米間の相互信頼を深刻に損なっており、中国の周辺環境複雑化の根本原因だ。しかし、だからといって中米が必然的に対立対決に向かうということではない。中国自身の戦略的利益及び大局に立つとき、中米関係を安定化することについては国をあげての共通認識がある。南海及び東海の領土海洋紛争は畢竟するに中国と隣国との問題であり、中米がこの問題での意見の違いをコントロールし、問題を局部化することは必要かつ可能である。
 中米露の関係は世界レベルの関係であり、中米露三角関係は地上でもっとも重要な三角関係であり、その重みは露米欧関係及び中米日関係をしのぎ、三角関係中のいずれの一辺が全面的対決及び激しい衝突に陥ると、残された第三者は中立の立場を取りようがなくなってしまう。現在の露米対決の緊張度とリスクは中米対決以上のものがあり、しかも中露間の戦略的協力の傾向はますます明らかで、中米が協力して新型大国関係を構築するという共通認識には変わりがないのだから、中国としては冷静さを保ち、活動にゆとりを持たせ、いずれか一方に引っ張られて他の一方に対して同盟するというような策略にはまることを防止することだ。中国としては、チャンスをつかんで動き、世界をして中国の戦略的安定に対する決意と能力とを認識させる必要がある。新冷戦が勃発してしまえば米露間の次元にとどまり得ないし、新冷戦も米露の胸先三寸次第ということにさせてはならない。

(2) 劉志勤「新冷戦の影響及び甲午敗戦の真原因」(5月3日付環球網)
*劉志勤は中国人民大学重陽金融研究所シニア・リサーチャー。

 ソ連解体後、西側の戦略家たちは平和的競争の時代に入ったと考えてきた。しかし、冷静な分析者は、東西冷戦が本当に終了したのか、それとも新たな形を取って引き続き存在しているのかについて一貫して考えてきた。
 旧冷戦の公然とした対決及び敵対という現象には巨大な変化が起こったし、協力及び発展が世界の主流になったとは言える。しかし、西側諸国の旧冷戦の思考は存在し、継続しており、惰性的認識、旧冷戦期に形成された偏見及び意のままに他国に干渉するという旧冷戦政策は陰に陽に行われている。それは現代社会に対する極めて大きな脅威であり、しかもますます勢いを増そうとしている。
 米欧はウクライナ危機において明確に新西側集団を形成した。この集団は早くもユーゴ解体及びコソボ紛争に際して姿を現したのだが、10年近い慣らし運転を経て冷戦的特性を次第に体現するようになってきた。今回のウクライナ危機においては、米欧集団は軍事面で干渉することに加えて、もっとも重要な戦場を金融領域に集中している。なぜなら、金融市場における主導権を握る者が長期的な勝利を勝ち取るのであって、兵力をまったく用いなくても完全に勝利するという戦略目標を実現できるからだ。中国にとって、米露対ロシアの対決が生みだす経験と教訓を真剣に研究することは極めて重要である。
 我々は、戦略的意義を持つ3つの問題に注目するべきだ。第一、世界経済の一体化の進展により、今後のいかなる些細な動きであっても対ロシア制裁類似の行動を引き起こすだろう。これは、我々の主観的願望によっては如何ともしがたい客観的事実だ。我々は平和的発展、平和的台頭を追求する。しかし、そのことを喜ばない者がいるというのは間違いない事実だ。
 第二、中国の経済発展が世界第2位、あるいは予見しうる将来に第1位の大国になることによって、米欧がその他の問題、特に政治体制、核心的価値、文化的伝統、宗教・信仰・自由における(中国に対する)認識が緩やかになると考えるべきではない。「樹静かならんと欲するも風止まず」は国際政治における永遠の法則であり、我々としては備えを行わなければならない。我々がやらないことは他人もやらない、とは絶対に考えてはならない。
 第三、「己の欲せざるところを他人に施すなかれ」は中国が国際問題に対処する上での最重要の理念だが、そのことは中国に多くの面倒をもたらしもする。なぜならば、中国が「人に施すなかれ」という道徳原則を信奉するとき、外国の二心ある勢力は、「己の欲するところを人に施す」という新干渉主義を実行し、主権、人権、政権をほしいままに変えようとするからだ。これこそが今日の国際秩序をかく乱する核心的問題の一つである。中国としては、「己の欲せざるところを他人に施すなかれ」と同時に、相手が「己の欲するところを人に施す」侵略手段を採用して中国の平和的台頭を阻止しようとすることに対して防備を怠ってはならない。
 中国の金融改革の長期計画は展開されつつあり、特に金融市場の対外開放は急速に進み始めており、資本勘定の開放を求める声も次第に高まっている。この分野はいずれの国家にとっても核心的な領域であり、もっとも脆弱でセンシティヴな産業でもあるから、いささかでも慎重さを欠くと、企業、貿易及びサービス業の混乱を生みだす。したがって我々は穏健なステップ及び計画で資本勘定の改革を進めるべきである。今日の複雑な国際情勢の下では、資本勘定開放はステップ・バイ・ステップで進めるべきであり、気ままに手綱を弛めるということであってはならず、西側諸国の「資本市場自由化」の道を歩むことがあってはならない。
 最近、甲午戦争(日清戦争)敗北の原因について、当時の政治制度に原因を求める者が少なくない。しかし、甲午戦争敗北の重要な原因は清政府の金融政策の失敗、金融における腐敗が引き起こした経済の全面的崩壊にあったことを多くの人が忘れている。アヘン戦争の敗北により、中国の金融収入のほとんどが外国に支配され、大部分の金銀が戦争賠償に当てられた。清政府の金融における無能、金融上の腐敗が国家の実力を自ら損なったという教訓は深刻であり、永遠に忘れてはならない。
 今回のウクライナ危機の結果、ロシアは軍事分野では勝利を収めたが、金融戦線においては敗北者になる可能性がある。新冷戦は続いていくであろうし、複雑かつ錯綜する環境のもとで、最小限の代価で最大限の国家的利益を獲得するにはどうするべきかという問題をみんなが常に考える必要がある。