オバマ政権の対APR軍事戦略

2014.05.11.

オバマ政権の軍事戦略に関しては、ブッシュ政権時代の「ブッシュ・ドクトリン」に対応する、定式化された「オバマ・ドクトリン」というものがあるわけではありません。しかし、シリア内戦におけるアサド政権に対する軍事力行使が不発に終わったこと、ロシアによるクリミア併合に対する軍事力行使忌避(もっぱら経済制裁に訴える)を経て、アメリカ国内ではオバマ政権の軍事戦略に対する疑問が共和党を中心にして吹き出しました。
 そういう中でオバマの東アジア4ヵ国訪問が行われました。その4ヵ国のいずれもが領土紛争を抱えており、特に日本とフィリピンは中国との間の緊張をことさらに高めています。したがって、オバマが行く先々で領土紛争に対するアメリカの対応、特に軍事的対応について鋭い質問を浴びせられたのは自然の成り行きでした。それらの質問に答えたオバマの発言(かなり本音を吐露したというのが私の受け止めです)は、同政権の軍事戦略に関心があるものにとっては極めて興味深い内容がつまっています。主要な発言内容については(付属1)として本文末尾に掲載しておきますので、興味ある方はそこまで読んでください。
 もう一点関心が集中したのは、オバマ政権の対中戦略特に対中軍事戦略とは何かという問題です。これもまた、ウクライナ・クリミア問題にかかわる米露関係に対するオバマ政権の経済制裁一本槍の対応に関する問題関心を背景として、東アジアの領土問題における米中関係に対するオバマ政権の対応に強い関心が集まったことによるものでした。
 オバマの発言内容を、軍事力使用に関する「オバマ・ドクトリン」、領土紛争に関する軍事力使用排除、対中戦略の3つに分類して、私の理解を交えて紹介します。オバマの発言によって、「アジア回帰」あるいは「リバランス」とオバマ政権が規定してきた対アジア(APR)政策の本質が露呈されたというのが私の実感です(朝鮮問題については、オバマは韓国で発言していますが、その内容には新しいものがないので、ここでは取り上げません)。
蛇足ですが、私の見落としがないとすれば、オバマは4ヵ国それぞれでの首脳共同記者会見の場で「アジア回帰」「リバランス」を口にしませんでした。相手国首脳が口にし、かつ評価していることとの対比においても興味深いことです。
 もう一つ、私が極めて関心があるのは、中国はオバマのこうした発言をどのように受けとめたかということです。中国のメディアでは数多くの文章が発表されてきました。実に様々な見方が示されています。その中でも、私がもっとも納得したのはやはり2つの環球時報社説でした。恐らく最高指導部の認識もこの辺りだろうと思います。両社説の内容は(付属2)として巻末に紹介しておきますが、重要なポイントについては、本文としてまとめて指摘します(項目としては、便宜上4.とします)。

1.軍事力使用に関する「オバマ・ドクトリン」

オバマは、米比両首脳による共同記者会見(4月28日)で、「オバマ・ドクトリンとは何か」と正面切って質問されたことに対して以下のように発言しました。
実はオバマは、日本でも、韓国でも同じような質問(その質問は、ロシアによるクリミア併合に対してオバマが「我々はウクライナ問題について軍事的解決はないということをきわめて明確にしている」と述べて、軍事力使用というオプションを排除したことに触れつつ、東アジアにおける領土紛争にかかわってオバマ政権は中国との間で軍事対決する意思があるのかを執拗に問うものでした)に直面したのですが、オバマは質問をはぐらかすか、中途半端な答で切り上げていました。しかし、訪問最後のフィリピンで記者が、「オバマ・ドクトリンとは何か」というストレートな質問をぶつけたので、オバマも正面から答えざるを得なくなったと思われます。質問した記者は恐らく「ブッシュ・ドクトリン」を念頭において、それに対応する「オバマ・ドクトリン」はどういう中身なのかについてオバマ自身が定義しろと迫ったので、オバマも逃げ切れないと観念したのかもしれません。

「我が対外政策に対する批判は軍事力を使用しないことに向けられている。私が尋ねたいのは、米軍と予算に途方もないコストをかけた10年間の戦争を経た後なのに、誰もが軍事力行使に熱心なのはなぜかということだ。これらの批判者はこの戦争で何が達成されたと考えているのだろうか。
 最高司令官としての私の任務は軍事力を最後の手段として使用すること、そして軍事力を賢明なやり方で使用するということだ。率直に言うが、我々の政策を疑問視する対外政策評論家がやりたがっているのは、アメリカ人がそうすることに興味を持っておらず、我が国の安全保障上の利益を促進しない軍事的冒険なのだ。
最高司令官としての私の仕事は、アメリカの安全保障上の利益を促進するものは何かを見極めること、絶対に必要とされるまではアメリカ軍を待機させておくことだ。世界には災難、困難、挑戦があるが、そのすべてをアメリカが解決できるというわけではない。
 しかし我々は、我々が正しいと信じることを明確に表明し続けることはできる。我々の手持ちの手段を全部使うことで変化をもたらすことができる場合は、そうするべきだ。そして、特定の行動によって変化を生む場合には、そういう行動を取るべきだ。そういうやり方は常に魅力的だとは限らない。しかし、そういうやり方で間違いを回避できる。」

この発言から直ちに明らかになる「オバマ・ドクトリン」の主要なポイントは次のようにまとめることができるでしょう。
出発点は、イラク・アフガニスタン戦の負の教訓に学び、その愚を繰り返すことを回避するということです(「ブッシュ・ドクトリン」の否定)。また、(恐らくアメリカの経済財政力の衰えを踏まえた)世界のすべての問題にアメリカが首を突っ込むことへの懐疑的な姿勢です。オバマ自身の言葉としては、「アメリカが過去10年に経験してきたことを踏まえれば、決まった答(武力行使)があるという想定自体を考え直す必要がある」ということです。
次に、軍事力行使という手段そのものを放棄するわけでは毛頭ありません。しかし、その使用については慎重を期すべきであり、基本的には「最後の手段」という位置づけであることを強調する点に「オバマ・ドクトリン」の最大の特徴があると言えるでしょう。 しかし、「核のない世界」を標榜したことがあるオバマに対してはとかく好意的な見方が強い日本人にとっては、オバマがアメリカ流パワー・ポリティックスの枠組みから一歩も離れていないことを忘れてはならない点だと思います。
第三に、オバマは一連の発言の中で抑止力という表現は使っていませんが、「絶対に必要とされるまではアメリカ軍を待機させておくことだ」という言い方は、オバマが抑止力という考え方を対外国戦略の根底に据えていることを示します。
第四に、問題によっては軍事力行使のオプションを選択することも当然あるという考えです。そのことは、「軍事力を賢明なやり方で使用する」、「特定の行動によって変化を生む場合には、そういう行動を取るべきだ」と述べていることからも明らかです。
以上の原則的に考え方が具体的に適用されるのが領土問題であり、対中戦略となります。

2.領土紛争に関する軍事力使用排除

日本国内では、尖閣に対する日米安保条約の適用があることを、オバマ大統領が歴代大統領として始めて公に述べたことを大きく取り上げていますし、安倍政権はオバマ訪日の最大の成果としてはしゃいでいる感すらあります。そこには、日中間で軍事衝突となれば、アメリカは日本の側に立ってくれるだろうという期待感の膨らみすら見られます。中国国内の受けとめ方においてもそういう受けとめ方をし、この点を重大視し、警戒するものが少なくないのも事実です。
 しかし、オバマ発言の全体をよく読めば、オバマはまったくそういう意味で言っているのではないことが分かります。オバマは、「我々のポジションは新しいことではない」、「新しい立場ではなく、一貫したものだ」と繰り返し強調しているのです。
 オバマの気持ちを敢えて忖度すれば、彼が訪日する前から日本側からこの点について繰り返し要求が行われ、しかもオバマとしては難航している日米TPP交渉という問題もありましたから、日本側があくまで要求するならばそれに応じるのも仕方ないか、という程度のことだったと思われます。しかし、それは政策の変更などではあり得ず、あくまで従来の政策を確認したに過ぎないものなのです。
 そのことをさらにハッキリさせるため、オバマは、尖閣という領土問題についてはあくまでも非軍事的に解決する必要があるということをくどいほどに強調しました。そのことは、「この問題を平和的に解決すること、情勢をエスカレートしないこと、言葉遣いを抑制すること、挑発的な行動を取らないこと、そして日中がどのように協力し合えるかを決めるよう努力することの重要性」を「安倍首相との会談で強調した」とわざわざ指摘したことに示されています。
 オバマが尖閣問題を取るに足りない(およそアメリカの軍事力行使の対象になり得ない)と見なしていることは、「ちっぽけな土地あるいは岩(this piece of land or this rock)の主権については立場を取らず」という言い方からも伝わってきます。「岩」とは尖閣を指すことは改めて言うまでもないでしょう。
 ちなみに、フィリピンでの発言でも、オバマは「カナダとアメリカとの間にある島及び岩に関して1880年代まで遡る議論がある。しかし両国は艦船や人員を送ったりはしない」と述べています。ここまで来ると、オバマが小さな島嶼の帰属問題で血相を変える安倍政権と付き合う気持ちがさらさらないことが分かります。
 尖閣に日米安保条約の適用があると述べたことの軍事的含意(アメリカが軍事介入する可能性)を打ち消そうとするオバマの姿勢は、アメリカが軍事力行使に踏み切るレッド・ラインについて問われたのに対して、オバマが「日米安保条約は私が生まれる前にできたものだから、私が引いているレッド・ラインではない」と皮肉っぽく答え、さらに「引かれたレッド・ラインというものもない。我々は条約を適用しているだけだ」と再度強調したことからも明確に読み取れます。
 さらに安倍首相にとってもっとも痛かったこと(安倍首相が気づいたかどうかは知りませんが)は、オバマが「この問題についてエスカレートさせ続けようとするのは重大な誤りだ。我々は、外交的に扱うようにするためになし得るすべてのことをする」と明確に述べたことです。もちろん、この言葉はひとり安倍首相に向けられたものではなく、中国に対するメッセージでもありますが、安倍首相を前にして、オバマが尖閣問題をエスカレートさせるのは「重大な誤り」と断定したことは極めて重みがあります。
 ちなみに、領土問題に対して軍事力行使はあり得ないとするオバマの姿勢は一貫したものです。即ち、韓国では、「日本であれ、中国であれ、韓国であれ、南シナ海での紛争であれ、すべての当事国がこれらの紛争を解決するために法律と外交によることを勧奨していく」と述べ、フィリピンでは、「主要な関心は紛争の平和的解決、進歩と繁栄のもととなる航行の自由にある」と述べています。

3.対中戦略

オバマがAPRにおける軍事プレゼンスを確保する狙いをもっとも端的に表明したのは、韓国において「我々は、航行の自由その他のAPRの繁栄を保証してきた諸原則並びにこの地域の貿易及び通商の成長が続くことを確保し、そのことを確実にするために太平洋に存在し続ける」と述べたくだりです。端的に言えば、オバマの「アジア回帰」「リバランス」戦略の根底にあるのは、「航行の自由」原則即ちアメリカのAPRにおける軍事プレゼンスを確保することです。それはちっぽけな領土問題とはいささかも関係ないことなのです。
 そしてオバマ政権は、このアメリカの軍事行動の自由に対して最大の障害となる要素が急速に軍事力(海空軍力)を強化しつつある中国だと認識しています。東シナ海及び南シナ海の領土紛争におけるあるいは東シナ海に防空識別圏を設定した中国の行動は、アメリカが重視する「航行の自由」、有り体にいえば米第7艦隊の行動に対する挑戦という意味を持つからこそ、その限りにおいて警戒するというわけです。
 アメリカにとっての関心事は「航行の自由」確保にあるということを踏まえれば、オバマが「中国は、この地域だけではなく世界にとっても重要な存在だ。巨大な人口と成長する経済を擁する中国が平和的に台頭することをアメリカが応援する」、「我々は中国を封じ込めることには関心がない」、「我々は中国の平和的な台頭を歓迎する」と述べているのは額面どおりに受けとめて良いと思います。また、「貿易、開発、気候変動などの課題について中国と協力する膨大なチャンスがある」、「国際レベルでは、米中協力が死活的に重要な課題ばかりだ」というオバマの発言も、誰もが認める客観的事実です。
 日本及びフィリピンが領土問題で中国と対立することは、アメリカからすれば、中国の軍事力伸張に対する牽制という意味を持つという意味において積極的意味があり、したがって日比の主張に肩入れするということになります。しかし、日比の軍事的暴走を認めるわけではないことは、上記2.で述べたとおりだというわけです。

4.中国の受けとめ

すでに述べたように、中国国内の受けとめ方は実に様々でした。しかし、私が考える最大の問題は、私が以上にまとめたオバマ発言を中国指導部がどのように受けとめたかということです。そして、私のこの関心の所在を正確に受けとめ、正面から反応したのは環球時報の4月24日付及び5月7日付の2つの社説でした。
 オバマの今回のアジア旅行の最大の目的が同盟国の対米信頼感のつなぎ止めにあるという認識は中国も完全に共有しています。そのことは、「オバマの最大の任務はアジア同盟国のアメリカに対する信頼の動揺を鎮めることにある。世界では「アメリカが没落しつつある」という議論が盛んで、オバマはクリミア問題で何もできなかったし、イラン及びシリア問題でも思い切りが悪く、アジアで「同盟国を防衛する」とすることの含意も曖昧模糊となっている」と指摘している点に明確です。
 そのためには、中国と領土問題で対立する日比に肩入れしつつ、しかし中国が必要以上に怒らないように周到に配慮することがオバマの意識したことだという点も、中国は正確に認識しています。社説は「同盟国の志気を高めると同時に中国の怒りを買わないようにし、巧妙なやり方で通商上の利益と政治的影響力との間のバランスを取ろうとしている」と述べています。
 オバマが中国と軍事的に対決する考えはないことについても、中国は今や自信を持って認識していることが窺えます。そのことは、社説が「オバマのAPR戦略のリバランスは、中国台頭を受け入れる前提のもとでアメリカの利益を最大にしようとする再布石以外のものではあり得ず、中国の台頭を圧殺することを最終目標とする抑止を行う能力も意思もない」、「アメリカはもっぱらアジアの島嶼紛争を利用としているだけであり、如何にけしかけ、どの程度顔出しするかは、中国とどのように戦略的に相処するかという打算によって大きく左右されるのだ」と指摘していることに明確に示されています。
 もちろん、日本とフィリピンがアメリカの軍事力を当てにして中国との間のことを荒だてようとしていることに対する中国の警戒感はホンモノです。しかし、日比とアメリカとの間の考え方の違いは歴然としており、その点について中国もハッキリと認識しています。社説はその点について、「アメリカとアジア同盟国の中国に対する考え方は矛盾しているのみならず、中国に対して相手が何をして欲しいかという問題でも、それぞれが困った問題を抱える」、「アメリカが南海及び東海に来れば、最終的に起こるのは中米の軍事的対決ということに決まっているのだろうか。物事は決してそれほど簡単ではない。…冷戦後の国際関係においてはそのようなあからさまなロジックは存在していない。…中米間の駆け引きは大国関係の歴史においては激しいものとは言えない」、「アメリカは中国を必要としており、中米関係を決裂させないことがアメリカの利益に合致する。ワシントンは米艦隊が中国海軍と尖鋭に対決することを望んでいない」と指摘しています。
 このように、オバマが今回の4ヵ国歴訪において明らかにした対中メッセージは、中国側において明確かつ正確に受けとめられたことが分かります。中国がこれほど自信及び確信を持って米中軍事衝突の危険性を否定したのは、管見では初めてのことです。そういう意味ではオバマの発言は中国にとっても評価しうるものだったのではないかと思われます。社説は「中国は、(島嶼問題で)アメリカとの駆け引きする自信を次第に培ってきているが、これは中米両国のAPRにおける総合的戦略態勢に関する評価に由来するものだ」としていますが、そういう総合評価を裏づけるオバマ発言があったからこそ、こういう指摘になったことは否めないところでしょう。
 中国からすれば、残された最大の懸念は日本あるいはフィリピンが暴走すること、そしてアメリカが不本意ながら巻き込まれて米中軍事衝突に至ってしまう可能性です。また中国は、オバマ政権が領土問題で日比に肩入れすることは両国の暴走する危険性を増やしてしまうという懸念と警戒を捨てていません。したがって中国としては日本とフィリピンに対して当てにならないアメリカ頼りの対中強硬姿勢を捨て、対話による問題解決の正道に戻れと促すことになります。社説は、「関係国はすべからく、アメリカが彼らを助けて中国と対抗するという幼稚な発想を捨てるべきであり、中国との争いはそれぞれが中国と交渉することにより二国間で解決するべきだ」、「フィリピンも日本もアメリカという虎の威を借りるのはもう止めて、中国に対する認識を全面的に改めるべきだ。アメリカを使って中国を脅かすことしか考えないのは小国の考えというものだ」と述べています。

(付属1)オバマの発言

<日米両首脳による共同記者会見(4月24日)におけるオバマ発言>
◯(日米安保条約の尖閣への適用を米大統領として始めて明言したことの意味)
我々のポジションは新しいことではない(として、ヘーゲル国防長官及びケリー国務長官が訪日した際にも言及したことを挙げる)。我々は尖閣に関する最終的な主権決定については立場を取らないが、歴史的にはこれらの島々は日本の施政下にあり、一方的に変更されるべきではないと考えている。そして、条約は日本の施政下にあるすべての領土をカバーするというのが同盟の一貫した内容だ。したがって、これは新しい立場ではなく、一貫したものだ。
◯(領土問題の非軍事的解決強調)
 安倍首相との会談において、私はこの問題を平和的に解決すること、情勢をエスカレートしないこと、言葉遣いを抑制すること、挑発的な行動を取らないこと、そして日中がどのように協力し合えるかを決めるよう努力することの重要性を強調した。アメリカは中国と強い関係を持っている。中国は、この地域だけではなく世界にとっても重要な存在だ。
 巨大な人口と成長する経済を擁する中国が平和的に台頭することをアメリカが応援することは明確なことだ。貿易、開発、気候変動などの課題について中国と協力する膨大なチャンスがある。同時にしかし、我々が常に強調し、この旅行を通じても常に強調するのは、すべての国々が基本的ルールと国際秩序を維持する責任があり、そうすることにより、大国も小国も含めてすべての国々が正しく公正であると見なされていることを遵守し、紛争を平和的に解決するようにしなければならないということだ。私は以上のメッセージを中国側に直接伝えてきたし、そのことは中国が成功することとまったく矛盾しないと考えている。
 我々は国際秩序のもとにあるのであって、そのことは海洋問題を含むあらゆる問題に当てはまる。私が希望するのは、中国がアメリカ及びこの地域の他の国々とかかわり続けることであり、アメリカとしてはちっぽけな土地あるいは岩(this piece of land or this rock)の主権については立場を取らず、これらの問題の解決についてすべての国々が基本的な国際的手続きに従うことを確保するために立場を取るということだ。そうなれば、中国にとって良いだけでなく、中日間、中越間及び中比間の協力にとって大きな機会が出てくるだろうし、そうなればこの地域のすべての人々が裨益することになるだろう。
◯(中国が尖閣に軍事侵攻する場合にはアメリカは軍事力を行使するということか、シリア及びロシアのケースとのかかわりにおけるアメリカのクレディビリティという意味でのレッド・ラインをどこに引くのかという質問への回答)
日米安保条約は私が生まれる前にできたものだから、私が引いているレッド・ラインではない。日本の施政下にある領域は条約でカバーされるという解釈は、同盟関係に関する歴代政権の標準的解釈だ。立場の変更はない。引かれたレッド・ラインというものもない。我々は条約を適用しているだけだ。
 同時に、安倍首相に直接述べたとおり、日中間の対話及び信頼醸成措置(を考えるの)ではなく、この問題についてエスカレートさせ続けようとするのは重大な誤りだ。我々は、外交的に扱うようにするためになし得るすべてのことをする。
 アメリカの立場は、各国が国際法を遵守するべきだということだ。(シリアやロシアと関連づけた)質問の意味は、ある国が国際法に違反したときには、アメリカは戦争に訴えるべきだ、あるいは軍事的に対処する構えを取るべきだというものであり、アメリカがそうしないならば、アメリカは国際法の基準について真剣に考えていないということだということのようだが、問題はそういうことではない。ロシアとウクライナに関して言えば、我々はウクライナ問題について軍事的解決はないということをきわめて明確にしている。

<米韓両首脳による共同記者会見(4月25日)におけるオバマ発言>
◯(北東アジアの諸紛争、日本の政治家の歴史観についての質問)
これらの紛争の原因となった特定の主張についてはアメリカは関心がない。例えば、アメリカは尖閣紛争の当事者ではない。我々にとっての主要な関心事は、国際規範及び法の支配が支持され、この種の紛争が平和的、外交的手段で解決されることを確実にすることだ。日本であれ、中国であれ、韓国であれ、南シナ海での紛争であれ、すべての当事国がこれらの紛争を解決するために法律と外交によることを勧奨していく。
 中国に対する私のメッセージは、いくつかの問題について我々と中国との間には違いがあり続けるが、協力できる分野も極めて大きいということだ。我々は中国を封じ込めることには関心がなく、中国が平和的に台頭し並びに法の支配及び国際システムの責任あるかつ強力な推進者になることに関心がある。そういう役割において、中国は一定の規範を遵守しなければならない。大国は小国以上にルールを守らなければならない。我々は力のみが正義を作り出すシステムから離れなければならない。
 したがって、我々はすべての当事者が国際的規範及び法の支配に訴えるステップを取ることを勧奨し続けるだろう。例えば、ASEANと中国に対しては海洋紛争を解決できる行動規範によることを勧奨してきた。我々は、航行の自由その他のAPRの繁栄を保証してきた諸原則並びにこの地域の貿易及び通商の成長が続くことを確保し、そのことを確実にするために太平洋に存在し続けるだろう。
 韓国と日本との間の歴史にかかわる緊張に関しては、例えば韓国の従軍慰安婦に起こった歴史を振り返る誰もが人権に対する恐ろしい、目に余る侵害であったことを認めなければならないと考える。彼女たちは戦争のさなかであったにしてもショックな仕方で冒瀆された。彼女たちの訴えに耳を傾け、その尊厳を尊重すべきであり、起こったことに対しては正しくかつ明確な評価がなされるべきだ。
 過去は正直かつ公正に認めなければならないということを、安倍首相及び日本人は認識していると私は考える。同時に私は、過去と同じく未来を見ること及び過去の痛みが解決される方法を見つけることが日韓両国民の利益であるとも考える。なぜならば、韓国と日本の人々の利益は今日かくも収斂しているからだ。
◯(対ロシア制裁がロシアの態度変更を生まないことを認めるかという質問)
対外政策においては確実なことはない。この問題を含め、過去数年にわたる外交問題について見てきたことだが、難しい外交問題があるときに決まった答があると考える癖があり、決まった答があるとするものはその答として武力行使を持ち出す。アメリカが過去10年に経験してきたことを踏まえれば、決まった答(武力行使)があるという想定自体を考え直す必要がある。アメリカ大横領そして歴史に学ぶものとして、軍事力行使が決まった答であるということはほとんどなかった。
 したがって、道具箱にはいろいろな道具が入っているのであって、どれが一番有効でありうるかを考え出さなければならない。時には一定のアプローチが有効かどうかを考えるために時間がかかるだろう。結果が出るまで分からないこともある。しかし、制裁はロシアに対して効果があったし、プーチン大統領がロシアを強くて繁栄する国にしたいのであれば、ウクライナ情勢を平和的に解決し、ウクライナ人が自らの運命を自分で決めることを認めること…が利益になるだろうということについては私は確信を持っている。

<米比両首脳による共同記者会見(4月28日)におけるオバマ発言>
◯(冒頭発言)
米比関係において重要な新しいページを始めようとしていることを喜ばしく思う。それは今日署名された新防衛協力協定だ。ハッキリさせておきたいことがある。アメリカは古い基地を回復したり、新しい基地を作ったりすることを求めているのではない。フィリピンの招きに応じて、アメリカの軍事要員がフィリピンの施設を周期的に訪れることになる。両国はともに訓練し、演習することによって、人道的危機や自然災害などの一連の挑戦に対して備えるようにする。フィリピンの防衛能力を高め、南シナ海などの地域的安定を促進するために他の国々とも協力するように米比協力を行っていく。
 我々は今日、地域の領土紛争を平和的に、脅迫や圧力なしに解決することの重要性を確認した。その立場から私は、南シナ海の領土紛争に関して国際仲裁に訴えるアキノ大統領の決定をアメリカが支持すると伝えた。
◯(南シナ海における中国との領土紛争が軍事衝突になった場合には、アメリカはフィリピンを防衛するかという質問)
私はアジア歴訪で一貫してきている。我々は中国の平和的な台頭を歓迎する。我々は中国と建設的な関係を有している。米中間には巨額の貿易、膨大なビジネスがある。国際レベルでは、米中協力が死活的に重要な課題ばかりだ。したがって我々のゴールは中国と対抗することではない。我々のゴールは中国を封じ込めることでもない。
 我々のゴールは、国際的ルール及び規範が守られることであり、その中には海洋紛争が含まれる。アメリカはこの地域において領土的な主張はない。アメリカはアジア太平洋国家であり、その主要な関心は紛争の平和的解決、進歩と繁栄のもととなる航行の自由にある。国家間の紛争に対しては特定の立場を取ることもしない。しかし、国際法及び国際規範という点に関しては、圧力及び脅迫はこれらの紛争を処理する方法であるとは考えない。それゆえに我々は、アキノ大統領の仲裁に訴えるアプローチを強く支持している。
 新防衛協力協定に関しては、この協定はアメリカがオーストラリアと結んでいる協定とも軌を一にするものだ。ASEAN諸国、日本、オーストラリアなどの国々とも協力して新しい脅威に対応できるように関係諸国の海空軍が協調できるようにするため、フィリピンと協力するための素晴らしい機会になると考えている。
◯(アメリカが中国とアメリカの同盟国との間でバランスを図る必要があることは理解するが、中国の拡張主義については脅威と考えているか、中国との領土紛争が軍事衝突にエスカレートした場合には、相互防衛条約は適用されるのかという質問)
アメリカはもっとも緊密な同盟国との間で領土紛争がある。カナダとアメリカとの間にある島及び岩に関して1880年代まで遡る議論がある。しかし両国は艦船や人員を送ったりはしない。我々がすることは座って交渉者を部屋の中においておくことであり、確かに退屈であり、エキサイティングではないが、この種の問題や課題を解決するには概して有効だ。
 今回の旅行で話し合ったすべての国々、日本、韓国、マレーシア及びフィリピンのメッセージはすべて同じで、問題を平和的及び外交的に解決したいというものだった。
◯(国際紛争・危機に関する指導原則という意味でのオバマ・ドクトリンは何か)
我が対外政策に対する批判は軍事力を使用しないことに向けられている。私が尋ねたいのは、米軍と予算に途方もないコストをかけた10年間の戦争を経た後で誰もが軍事力行使に熱心なのはなぜかということだ。これらの批判者はこの戦争で何が達成されたと考えているのだろうか。
 最高司令官としての私の任務は軍事力を最後の手段として使用すること、そして軍事力を賢明なやり方で使用するということだ。率直に言うが、我々の政策を疑問視する対外政策評論家がやりたがっているのは、アメリカ人がそうすることに興味を持っておらず、我が国の安全保障上の利益を促進しない軍事的冒険なのだ。
 例えばシリアだが、我々の関心はシリア人を助けることだが、アメリカがシリアにおいて地上戦を行うことでこの目標が達成されると言ったものはいない。我々の対外政策を批判したもの自身が軍隊を送り込むべきだといっているのではないと主張した。ウクライナについて我々がやっていることは国際共同体を動員することだ。ロシアはかつてないほどに孤立している。
 最高司令官としての私の仕事は、アメリカの安全保障上の利益を促進するものは何かを見極めること、絶対に必要とされるまではアメリカ軍を待機させておくことだ。世界には災難、困難、挑戦があるが、そのすべてをアメリカが解決できるというわけではない。
 しかし我々は、我々が正しいと信じることを明確に表明し続けることはできる。我々の手持ちの手段を全部使うことで変化をもたらすことができる場合は、そうするべきだ。そして、特定の行動によって変化を生む場合には、そういう行動を取るべきだ。そういうやり方は常に魅力的だとは限らない。しかし、そういうやり方で間違いを回避できる。

(付属2)環球時報社説

<4月24日付環球時報社説「中国囲い込み? 冗談も度が過ぎている」>
 オバマのアジア旅行は「中国を囲い込む旅」か? 日本及びフィリピンの一部にはそうであることを希望する向きがいるが、それは自らを慰めようとするフィクションだ。
 オバマの最大の任務はアジア同盟国のアメリカに対する信頼の動揺を鎮めることにある。世界では「アメリカが没落しつつある」という議論が盛んで、オバマはクリミア問題で何もできなかったし、イラン及びシリア問題でも思い切りが悪く、アジアで「同盟国を防衛する」とすることの含意も曖昧模糊となっている。
 アメリカは一方で中国と日本、フィリピンとの間の領土紛争について「立場を取らない」と言いつつ、もう一方では次第に東京とマニラの側につく姿勢を露骨にしている。アメリカは、同盟国の志気を高めると同時に中国の怒りを買わないようにし、巧妙なやり方で通商上の利益と政治的影響力との間のバランスを取ろうとしている。
 同時にロシア及び中国という二つの大国と対抗するということはアメリカにとってとりわけ支えきれない重さがある。中国の東海及び南海の領土紛争における行動は、ロシアのクリミアに対する態度と比較すればはるかに温和なものだ。中国のアジア政策における戦略的主動性は非常に確固としたものであるとともに自制の利いたものでもある。オバマが同盟国の志気を高めることは彼らの間の形式主義的な見せかけに過ぎず、いわゆる中国囲い込みという布石もエセ戦略家による地図上の空想に過ぎず、オバマの懐にはそんなに多くのカネはなく、彼が同盟国と中国をあれこれ目論むとき、どうしたら最大限に中国経済の繁栄のうまみに与るかということを気にかけているのだ。
 オバマがマニラで米軍が今後もっと自由にフィリピンの軍事基地を使用することを宣言するとき、真っ先に考えることは恐らく、南海で中国を抑止する上でどれほどの役割を担えるかということではなく、中国が正面切って報復行動に出てくることを避けるようにするための言葉遣いに誤りなきを期するということだろう(浅井注:社説が出されたのはオバマのフィリピン訪問前の段階ですが、オバマはマニラで正に社説が予想したとおりの発言を行いました)。
 中国の力の増大はAPR戦略構造における最大の変数であるが、中国がその力を行使することにおける穏健さと自制及びアメリカが中国の力の増大に対して現実主義的な態度を取ってきたことにより、中国台頭の時代におけるAPR情勢の基本的性格が形作られてきた。中米を含むAPR各国の対外行動はこの主軸から遠く逸脱することはできず、この戦略バランスを打破する力を持つものはない。オバマのAPR戦略のリバランスは、中国台頭を受け入れる前提のもとでアメリカの利益を最大にしようとする再布石以外のものではあり得ず、中国の台頭を圧殺することを最終目標とする抑止を行う能力も意思もない。
 中国囲い込みを考えるものもいるが、アメリカとアジア同盟国の中国に対する考え方は矛盾しているのみならず、中国に対して相手が何をして欲しいかという問題でも、それぞれが困った問題を抱える。例えば、日本とフィリピンはアメリカが中国に対して強硬であることを希望するが、中米が衝突して冷戦に陥りアジアに悪夢をもたらすことについては恐れてもいる。ワシントンは一方において領土問題で日本とフィリピンに肩入れしているが、日本とフィリピンが、アメリカが中国と軍事衝突するほどまでの支持を過大に期待することについては、アメリカとしては困惑するのだ。
 したがって、「中国囲い込み」は一見もっともに聞こえるが、アジアの地縁政治の現実に持ち込めば、一つにまとめようがない砂粒のように砕けてしまうのだ。我々としては、アジア旅行においてオバマが自分の言うことをよく管理し、各国の大騒ぎしたがる連中に対してオバマ自身及びアメリカが引き受けようのない虚像を宣伝する材料を探し当てることのないようにすることを願うものだ。

<5月7日付環球時報社説「アメリカ頼りで中国を脅かすとは南海上の笑い話だ」>
 (5月5日からの米比合同軍事演習が中国に矛先を向けたものであると冒頭に指摘した上で)アメリカが南海及び東海に来れば、最終的に起こるのは中米の軍事的対決ということに決まっているのだろうか。物事は決してそれほど簡単ではない。フィリピンや日本などは、中国との領土紛争を中米間の直接対決に転じることによって大いに楽をしたいところだろうが、冷戦後の国際関係においてはそのようなあからさまなロジックは存在していない。
 南海及び東海における島嶼をめぐる争いはまずもって国家利益の争いであり、利益は錯綜しているし性格も複雑だが、域内国家間の戦略的対決をもたらすようなものであるべきではない。ところが利益の衝突は関係国の駆け引きを引き起こし、アメリカも割り込んでくる。しかし、中米間の駆け引きは大国関係の歴史においては激しいものとは言えない。
 中米がどこまで闘うかについては、中米双方及び関係諸国の間の様々な動きの結果によって決まる。ワシントンの一存で決められないし、(南海については)フィリピンの願望は主動的要因ではあり得ない(浅井注:社説は述べていませんが、尖閣で事を起こそうとする安倍政権が主動的要因ではあり得ないという意味合いが込められていることは明らかです)。中国の力と態度は、この問題の帰趨に対してますます力を持つようになっており、結局のところ、誰かによってなんとでもなるようなヤワではない。
 中米は共に世界の大国であり、それぞれが大所高所に立った日々を過ごす必要がある。東アジアの島嶼問題は中米関係の中に入り込んできてしまったが、中国としてはアメリカが「中立」を維持するという幻想は捨てる必要があるし、日比などはアメリカがこれらの国々のために中米関係のあり方を改めるだろうという幻想を捨てるべきだ。アメリカはもっぱらアジアの島嶼紛争を利用としているだけであり、如何にけしかけ、どの程度顔出しするかは、中国とどのように戦略的に相処するかという打算によって大きく左右されるのだ。
 中国は、(島嶼問題で)アメリカとの駆け引きする自信を次第に培ってきているが、これは中米両国のAPRにおける総合的戦略態勢に関する評価に由来するものだ。アメリカは中国を必要としており、中米関係を決裂させないことがアメリカの利益に合致する。ワシントンは米艦隊が中国海軍と尖鋭に対決することを望んでいない。
 重要なことは中国がアメリカを本当に刺激しているわけではないことだ。南海の紛争の由来は長く、いささかでも見識のあるものであれば、中国の南海政策が自制の利いた慎重なものであることが分かる。中国は帝国主義国家ではない。最近の南海におけるごたごたにおいて、中国は軍事力を使用していないし、フィリピンなどに対して戦争の脅迫もしていない。
 関係国はすべからく、アメリカが彼らを助けて中国と対抗するという幼稚な発想を捨てるべきであり、中国との争いはそれぞれが中国と交渉することにより二国間で解決するべきだ。これら国々には中国と対決するだけの実力はないし、アメリカの実力を動員することはできっこない。アメリカを頼りにして中国にすごむよりは、事の是非を論じあう方が彼らの利益に合致するだろう。
 アメリカの第7艦隊が中国を震え上がらせることはできないし、グアムの米軍事力及びAPRにおける新たな軍事力配備も現実的な抑止力になることも難しく、したがって中国に対して大した役割を発揮することはあり得ない。アメリカの艦船が南海で巡航することが引き起こす心理的作用は、フィリピンに対するのと中国に対するのとではまったく違うのだ。
 中国はアメリカのアジアにおける軍事プレゼンスが優等生的だという幻想は持っていないが、そのさまざまな小手先の動きを無意味にする力と手段の持ち合わせがますます増えており、新型大国関係の枠組みのもとでアメリカと渡り合う経験と能力を不断に蓄積してきている。
 フィリピンも日本もアメリカという虎の威を借りるのはもう止めて、中国に対する認識を全面的に改めるべきだ。アメリカを使って中国を脅かすことしか考えないのは小国の考えというものだ。