アメリカ・オバマ政権の対ウクライナ政策
-ウクライナ問題における争点⑤-

2014.04.18.

私は、アメリカ・オバマ政権の対外政策に対しては極めて批判的な見方であり、アジア回帰・リバランス戦略を含めて評価に値するものは何もないと見ています。ウクライナ政策に至っては、素人目ながら最悪だと考えています。中国の見方は私の素人としての見方を裏づけるものです。
 そういうものとして今回は三つの文章を紹介します。
 最初の劉治琳署名「オバマはウクライナで4つの大きな誤りを犯した」(3月19日付環球網掲載)は、オバマ政権のウクライナ政策の根本的な誤りを簡潔明瞭に指摘した、私もまったく同感の文章です。劉治琳は元外交官で、国際問題について健筆をふるっている人物です。
 次の文章は昨日(4月17日)付の環球時報社説「ウクライナ激動 民主か反逆かについては西側のツルの一声」です。ウクライナ東部の情勢が緊張の度を深め、内戦に陥る危険性を深刻に懸念しつつ、アメリカ・西側の対ウクライナ政策における二重基準を正面から糾弾しています。
 三つ目の文章は同じく昨日(4月17日)付の人民日報に掲載された「オバマのウクライナ問題に対する姿勢は国内の批判に晒されている」という短い文章(無署名)です。オバマ政権に対ウクライナ及び対ロシア政策の根本的変更を促す内容には私もまったく同感です。

1.劉治林文章

 世界的に公認されているとおり、クリミアの住民投票(3月16日)はオープンかつ透明性が確保されたものだった。ガラス製の投票箱、ビデオによる監視、23ヵ国から来た70人以上のオブザーバー(欧州議会や各国の議員、国際法問題専門家、著名な政治家等々)、さらに大勢のアメリカその他西側の記者が各投票所現場で取材した。何かあら探しをしなければ気が済まない西側の記者も満足を表明した。彼らはいかなる制限も受けずに好きなところで取材できた。
 国際観察団の団長(ポーランド人)は、クリミアで行われた住民投票がすべての国際的ルールに合致しており、民主的ルールに則って行われたと述べた。西側のオブザーバーは、ウクライナ及びクリミアの今日の局面はひとえにアメリカの一連の深刻な間違いによってつくり出されたものだと認識している。
 第一、タイミングを捉えて太っ腹に援助することによってウクライナの窮状を救うということをしなかった。ウクライナは経済困難で、対外債務は600億ドルにも達している。もともとヤヌケビッチ大統領はアメリカとEUが援助することを望んでいた。ところが西側は過酷な条件を突きつけ、政治及び経済の改革を行い、天然ガスに対する国家補助を引き下げ、反対派指導者のティモシェンコを釈放することを要求した。そこでヤヌケビッチはモスクワに援助を求めることとなり、150億ドルの援助と格安の天然ガスを手に入れたのだ。つまり、アメリカとEUが一向に援助の手を差し伸べなかったために、ヤヌケビッチをモスクワの懐に追いやったのだ。
 第二、「暴力行為」を煽動し支持した。アメリカと西側は前後の見境もなく、自らが一貫して唱えてきた平和及び民主的手段を公然とかなぐり捨て、最低最悪の手段を取ることをいとわず、キエフ独立広場で暴力的なデモ行動を煽動し、泳がせ、政府機関に対する攻撃及び占拠、破壊、放火をほしいままにやらせた。ところがアメリカは、これらの動きをウクライナ人が求める民主と自由の「革命」だと言い張った。アメリカは得意になったかもしれないが、実際にはウクライナにおける道義的管制高地を失ったのだ。それはまた、アメリカが口先で言うことと裏でやることとはまったく違うという偽善的本質を暴露した。
 第三、信義に背いた。アメリカが支持した反対派は、公然と信義に背き、仏独及びポーランドの大使が2月21日にヤヌケビッチ大統領との間でまとめた総選挙の前倒し実施、大統領権限の制限、広範な代表からなる政府の組織という協定を破り捨て、民選の合法的な大統領の職務を解除し、議会と政府を反対派で組織し、ヤヌケビッチの支持者を排除し、合法性が疑われる臨時政府を組織した。メディアの報じるところによれば、臨時政府のなかにはナチス系分子も含まれているという。アメリカと西側は、暴力で権力を奪った政府を全面的に支持した。
 第四、ロシア語を差別する法律の成立を阻止しなかった。ウクライナ臨時政府は、ロシア語を差別する法案を慌ただしく持ち出し、ロシア語を話す人々の間に恐怖と不満を引き起こした。しかしオバマは適時に阻止するということをしなかった。このことは、クリミアのロシア人からすれば、正に彼らを襲おうとする迫害以上の不幸の前触れだった。もし、臨時政府がそのようなことをせず、より大きな自治権を与え、クリミアのロシア人を尊重する態度を示していたならば、今日に至るような事態は避けられていただろう。その後間もなくキエフはこの誤りを認識し、ロシア語を差別する法律を取り消し、クリミアにより大きな自治権を与えたが、時はすでに遅すぎた。

2.環球時報社説

 注目すべきことは、キエフ新政権が軍隊を出動させて東部の反乱を鎮圧することは、2ヶ月前にヤヌケビッチが議会を占拠したデモ勢力に対して手を下したやり方と極めて似ているということだ。しかしまったく違うのは、ヤヌコビッチがやったことについては西側の一声砲火を浴び、「血なまぐさい」「反人道的」とレッテルを貼られたのに、今回の流血と衝突に対しては西側が同情と理解の声一色ということだ。2ヶ月前のヤヌコビッチの行動は「民主の弾圧」で、今回のキエフ政権の行動は「正当な権利」と見做されている。
 ウクライナ情勢は是非当否の角度から物事をハッキリさせることは極めて難しく、内政と地縁政治の現実的利害が複雑に絡まりあっている。何が民主で何が反民主か、何が鎮圧で何が秩序維持か、それを決定するのは客観的な基準ではなく、評価するものが十分な力と世界世論に対する影響力を持っているかどうかである。
 西側のソフト・パワーは、国際世論において、様々な衝突に対する政治的な定義づけを行う権限を我がものにしているが、その定義づけを行う第一義的な出発点は西側の利益であって、物事自身の是非曲直ではない。したがって、2ヶ月前と今回とでは、多くの人々の参加、武装勢力の参与、外部勢力の支持という点で同じなのに、西側の評価ではまったく異なってしまっている。
グローバルで見てみても、 この種の二重基準を西側は一貫して公然と用いている。同じ動乱であっても、西側との関係が緊張している国家で起これば「民主革命」であり、親西側国家で起これば「過激分子」によるものとされ、現地政府が鎮圧しても沈黙する。
西側の利益が国際的な言語システムの中に浸透しているため、「民主」「人権」などの言葉の中には西側がこの世界に押しつけようとしている内容がぎっしり詰め込まれている。広範な途上諸国は、これらの概念を「脱西側化」させ、その元々の含意を回復させるという巨大な任務に直面している。各国が国内でデモクラシーを実現し、人権を不断に発展させる必要があるのはもちろんだが、西側の影響力がもっとも大きい国際舞台でこれらの言葉にぶつかるときは、仔細にその純度を弁別する心眼を備える必要がある。
最近の20余年をとって見た場合、西側が支持した「民主革命」によって国家が繁栄し、安定した例はほとんどゼロであり、その未来がどうなるかについてはなお定かではない。しかし非常にハッキリしていることは、これらの「民主革命」は西側が実現しようとする地縁政治上の利益の障碍を掃き清めてきたということだ。これらの国家は大損し、未来がどうなるかは分からないのに、西側は丸儲けなのだ。
ウクライナ情勢が今日の段階まで至ったとき、民主か非民主であるかという視点で観察し、判断するすべはもはやない。実は、最初からこの視点は西側世論がつくり出した虚構であり、ソ連解体後から今日に至るまで、ウクライナは西側とロシアとの地縁政治上の駆け引きの最前線だったのだ。
 我々としては、地縁政治という冷徹な視点でのみ、今日のウクライナで一体何が起こっているのかを理解することができるし、さらには世界各地の似たような状況において、西側が時に「民主」を声高に唱え、時に言葉を濁すことの本当の原因の所在を悟ることができるのだ。

3.人民日報文章

 共和党のマケイン議員はテレビで、「アメリカ大統領はどこに行ったのだ」という表現で、オバマのウクライナ問題における軟弱姿勢をあざけった。かつてウクライナのカラー革命を策動したこの古強者が掲げる問題解決の策略とはロシアに対して強硬に出るということだ。
 対決とは「こわもて」ではあるが賢明であるとは言えない。ウクライナとEUとの連携協定及びロシアとの君子の争いに敗れたあと、アメリカと欧州はキエフの政変を公然と支持し、ロシアもあっさりとrule of gamesを拒絶してクリミアに出兵した。
 オバマは脅迫に訴えたが効果なく、次に経済制裁の実施を明らかにするとともに、欧州が行動を共にするように働きかけた。しかし、オバマがすぐに悟ったのはアメリカが少数派だということだった。EUはロシアとの経済関係の断絶を望まず、貿易制裁に参与することを断った。日本もロシアとの衝突を望まなかった。全世界がアメリカの立場を支持しているわけではないことは、国連総会のクリミア問題に関する表決結果で、クリミア住民投票は不法であると考える国の数が過半数そこそこだったことでも示された。
 経済制裁でロシアの軍事行動に対処するという方法の効果も大いに疑問視されている。ケリー国務長官、メルケル首相、アシュトン上級代表はロシアが深刻な経済的損失に見舞われると述べたが、これが虚勢を張っているに過ぎないことは誰もが知っている。確かに制裁は一定の傷を生むが、制裁が期待するような効果を生むという証拠はなく、むしろ逆に危機をますます解決しにくくさせるだけだということを多くの事例が証明している。政府は何かをするべきだという世論の圧力のもと、西側政府にとっては制裁が最善の選択であるというに過ぎない。
 軍事力でロシアに対抗するという選択は極めてばかげている。なぜならば、ウクライナを保護するために必要となる軍事力は西側の実力の範囲をはるかに越えているからだ。確かにNATOはかつて軍事力で対抗する面で赫々たる成果を挙げたことはある。しかし、その名声と現実とは甚だしく乖離してしまっている。NATOの実力について実事求是の評価を行ってみれば、ほとんどのメンバー国の軍隊が深刻な荒廃状態に陥っていることがすぐに分かる。
 マケインは、アメリカとしてはロシアと協力するべきであることを認識しなければならない。なぜならば、1990年代にはできたかもしれないが、最終的な答を一方的に相手側に押しつけるというやり方はもはや通用しないからだ。
 メンツを保ちながら現在の泥沼から脱し、米露関係を安定化させることこそがオバマ政権にとっての主要な任務となっている。ロシアもアメリカと争い続けることを望んではいない。これこそが賢明な策である。畢竟するに、ロシアと西側との関係を完全に敵対的なものとして扱うならば、米露両国の対外政策を深刻に歪め、双方に深刻な代償を支払わせることになるだけなのだ。