ウクライナ情勢(中国政府の立場と見解)

2014.03.16

前のコラムでクリミア問題を取り上げましたが、ウクライナ情勢そのものに関しても、中国は重大な関心を持って見守っていますし、習近平政権になってから積極外交を推進する姿勢を鮮明にしていますが、そのことはウクライナ問題についても如実に示されています。このコラムでは、中国外交部HPが掲載した習近平主席、李克強首相、楊潔篪国務委員(外交問題担当)、王毅外交部長、程国平外務次官の各国カウンターパートとの会談における発言、王毅の記者会見発言及び外交部スポークスマンの定例記者会見での関連発言を紹介します。
 主権国家に対する内政不干渉及び領土保全という原則は国連憲章に規定されている国際法上の大原則です。他方、前回紹介しましたように、民族(人民)自決原則もまた国連憲章で確認された国際法上の大原則とされています。クリミア問題の難しさは、前者の原則を全面に押し出すウクライナ暫定政権及びこれを支持する米欧諸国と、後者の原則を押し出すクリミア自治共和国及びこれを支持するロシアとが真っ向からぶつかり合っていることです。しかも、それぞれが自らの立場を正当化する材料を持っていますから、黒白をつけることは至難です。
 中国政府は以上をふまえて、いずれか一方の側を支持するのではなく、対話と外交によるソフト・ランディングを主張しています。中国政府がこの立場を堅持するのは、史上最良レベルにある中露関係(後述の王毅発言)を背景に、クリミア問題の歴史的経緯(前回のコラムで一端を紹介)、米欧諸国の身勝手な二重基準(別の機会に紹介しますが、米欧はコソボの対セルビア独立を支持したのに、クリミアでは一方的にウクライナ暫定政権(コソボ問題におけるセルビアに当たる)を支持することに対する中国国内の批判は極めて強い)、ウクライナ暫定政権の正統性に関する疑義(中国国内では、2月21日のヤヌコビッチ大統領と反対派(現在の暫定政権)との合意直後に、反対派がクーデター的に大統領を罷免する行動に出たことは認められないというロシアの主張が正しいとするのが一般的)などの要素も働いているようです。したがって中国はウクライナ暫定政権とは接触していないようですが、他方で主権国家に対する内政不干渉及び領土保全の原則もまた中国が一貫して主張してきたことでもあり、それらの考慮の総合的結果がこれから紹介する中国側立場となっているのだと思います。
 なお、紹介文中の強調は、注目すべき発言内容として私がつけました。

1.習近平主席

<対ロシア>
3月4日、習近平は約束にしたがってプーチンと電話会談を行い、中露関係及びウクライナ情勢に関して意見を交換した。
習近平は次のように述べた。少し以前にソチで会談し、中露関係の本年の「幸先のよいスタート」を切った。我々の達成した共通認識に基づき、双方関係当局が戦略的大プロジェクトの協力を推進している。雲南省昆明における深刻なテロ事件の発生後プーチン大統領は発生直後に慰問の電報を送ってきて、中国に対する断固とした支持を表明した。中国はロシアとの反テロ協力を維持強化することを願っている。私は近い将来のあなたの中国訪問を歓迎し、中露関係が高い水準で引き続き発展するよう共同で推進していく。
プーチンは次のように述べた。露中双方は密接な交流と協力を維持している。私は、習近平主席と再会し、共通の関心がある重要問題について突っ込んだ意見交換をすることを期待している。
プーチンは、当面のウクライナ情勢の変化のプロセス及びロシアの立場と対応措置について通報した。
習近平は中国の原則的立場を詳しく述べ、ウクライナ情勢が今日まで発展したことについては偶然の中に必然があると指摘した。現在、情勢は極めて複雑かつセンシティヴであり、地域情勢及び国際情勢の全局に影響を及ぼしている。中国は、情勢緩和に向けた国際社会の提案及び仲裁努力を支持する。

<対アメリカ>
 3月10日、習近平は約束にしたがってオバマと電話会談し、中米関係及びウクライナ情勢について意見交換した。
 オバマは当面のウクライナ情勢に関するアメリカの見解を紹介した。習近平は次のように強調した。中国はウクライナ問題に関して客観的かつ公正な態度を堅持している。ウクライナ情勢は極めて複雑であり、当面の急務は各国が冷静と自制を保ち、情勢がさらにエスカレートすることを回避することだ。政治及び外交ルートを通じて危機を解決することを堅持すべきだ。各国が意思疎通及び協力を通じて互いの相違を適切に処理し、ウクライナ問題の政治解決を推進するために努力を払うことを希望する。中国は、ウクライナ情勢の緩和に資する一切の提案及びプランに対してオープンな姿勢であり、アメリカ及び関係各国と引き続き意思疎通を維持することを希望する。

2.李克強首相

 3月13日、李克強は約束にしたがってポーランドのトゥスク首相と電話で会談した(マレーシア航空失踪事件及び中ポ関係が取り上げられた後のウクライナ部分)。
 トゥスクは、当面のウクライナ情勢に関する見解を紹介した。李克強は中国の原則的立場を詳しく説明し、ウクライナ情勢は極めてセンシティヴであり、政治解決が必要だと強調した。中国は一貫して公正かつ客観的態度を堅持し、積極的に平和を勧奨し、対話を促している。我々は関係各国が冷静と自制を保ち、法律と秩序の枠組みのもとで、対話及び交渉を通じて関連する対立点を政治解決することを追求するように呼びかけている。中国は国際社会とともに、ウクライナ危機の政治解決を推進するべく建設的な役割を発揮したい。

3.楊潔篪国務委員

 3月6日、楊潔篪は約束にしたがいアメリカのライス補佐官と電話で話し合った。
 ライスは当面のウクライナ情勢に関するアメリカの見解及び立場を紹介した。
 楊潔篪は中国の原則的立場を詳しく述べ、ウクライナ問題に対処する上ではウクライナの各民族人民の合法的な利益を十分に配慮すべきだと強調した。当面の急務は、各国が自制を保ち、政治及び外交ルートで危機を解決し、情勢がさらにエスカレートすることを回避することだ。

4.王毅外交部長

王毅については、ドイツ(3月4日)、フランス(同日及び8日)、ポーランド(5日)の外相と電話会談をしたことが紹介されています。

<対ドイツ外相>
 王毅は中国の立場を詳しく述べた。双方は、情勢がさらにエスカレートすることを回避し、政治的方途を通じて当面の危機を平和的に解決するべきだと認識した。

<対フランス外相-4日->
 それぞれは各々の立場を詳しく述べた。双方は、ウクライナ危機の政治解決に力を尽くし、地域の平和と安定を確実に維持するべきだと認識した。双方はまた意思疎通を維持することに同意した。

<対ポーランド外相>
 王毅は、中国の原則的立場を詳しく述べ、中国が国際社会の仲介努力を支持し、ウクライナ危機の政治解決の道筋をできる限り早く見つけ、ウクライナ各民族の合法的な権益を確実に守り、緊張した情勢がエスカレートすることを回避し、地域の平和と安定を維持することを希望していると述べた。
シコルスキは、ポーランドはウクライナ危機を政治的に解決すること及び中国と意思疎通を保つことを希望していると述べた。

<対フランス外相-8日->
 ファビウス外相が最新情勢に関する見解を紹介したのに対して、王毅は中国側立場を詳しく述べ、双方が冷静に対処し、協議を持続し、ウクライナ問題を政治解決の軌道に乗せることに力を尽くしたいと希望した。

5.程国平次官

程国平次官は3月6日にカザフスタンで同国の外務次官と協議し、ウクライナ問題については、双方が一致して次のように認識した。即ち、関係国は、ウクライナを含む各国の主権、独立及び領土の保全を尊重し、外部勢力が内政に干渉することに反対し、テロ行為に反対し、各国の憲法と国際法の枠組みのもとで、関係者の合法的利益と関心を十分に尊重する基礎の上で、対話と交渉を通じて相違を平和的に解決するべきである。

6.王毅外交部長の記者会見発言

王毅は3月8日、全国人民代表大会開催中の期間の定例となった外交部長による内外記者会見を行い、中露関係及びウクライナ情勢について発言しました。

<中露関係>
 現在の中露関係は歴史上最良の段階にある。双方が高度に信頼し、互いに断固支持し、様々な領域での協力は不断に深まっており、両国元首の間で作り上げられた深い友情は中露関係に対して重要な牽引的な役割を発揮している。
 本年の中露関係について言えば、中露の全面的な協力パートナーシップをハイ・レベルで進めることを引き続き維持し、政治的な相互信頼を不断に増進し、戦略的協力を深め、そういう基礎の上にいくつかの重要な任務を成し遂げることが中心だと考える。
一つは、具体的協力の「バージョンアップ」を全力で構築し、特に大型協力における新たなブレークスルーを推進することだ。二つ目は、青年友好交流年の一連の活動を進め、中露関係の社会的基礎を固め、深めることだ。三つ目は、第二次大戦の成果及び戦後国際秩序を共同で擁護し、2015年の世界反ファシズム戦争及び中国人民の抗日戦争勝利の70周年慶祝活動に関する準備を行うことだ。
(浅井注:本論とは関係ありませんが、三つ目の点は日中露関係の来年射かけての展開を見ていく上で目を離せないことです。)

<ウクライナ情勢>
 中国は、ウクライナ問題については公正かつ客観的な態度を堅持していることを繰り返し表明している。ウクライナ情勢が今日まで発展したのには原因があり、極めて遺憾であると同時に、この問題の背後には複雑な歴史的な経緯と利害の衝突があることを反映している。問題が複雑であればあるほど、その対応に当たってはますます慎重である必要がある。
 中国は、ウクライナ各民族人民の根本的な利益を擁護するという考慮に基づき、また、地域の平和と安定を維持するという大局から出発して、当面の急務は冷静と自制を保ち、情勢がさらにエスカレートすることを回避し、対話と協議を通じてウクライナ問題を政治解決の軌道に乗せることを呼びかけている。中国は目下関係者と意思疎通を続けており、ウクライナ問題の政治解決のために積極的な役割を発揮したいと考えている。

7.外交部スポークスマン定例記者会見発言

<3月4日>
 (中国が言う「歴史的経緯」とは何か、中国はロシアのクリミアにおける行動がウクライナ内政に対する干渉であることを否定するのか、という質問に対して)ウクライナ問題の「歴史的経緯」については、この地域の歴史を回顧するなり、調べるなりしてほしい。関係する歴史を理解すれば、我々の言っていることの含意が何であるかを理解するだろう。
 第二の問題については、中国の立場を全面的かつ系統的に理解してほしい。我々は内政不干渉原則を堅持し、国際法及び公認された国際関係の準則を尊重するとともに、ウクライナ問題の歴史的経緯と現実の複雑性とを考慮している。また、最近数カ月来の関係者の活動及び態度からウクライナ問題をどうして今日の状況にまで至ったかを分析することができる。

<3月6日>
 (アメリカ側がウクライナの主権保全について米中は同意したと述べているということは、中国はウクライナ問題でロシアの立場を支持しているのか、否定しているのかという質問に対して)ウクライナ問題については、我々は一貫した原則的立場を取るとともに、事態の原因と結果及び道理の有無に基づいて政策を決定している。現在の情勢の下では、関係者の関心に真剣な考慮を払い、ウクライナ国内の各民族の合法的な権益がすべからく尊重され、配慮されることを我々は希望する。我々は、政治及び外交ルートを通してウクライナ危機が適切に解決されることを支持する。

<3月7日>
 (アメリカとEUが対ロシア制裁を議論していることについて、中国は対ロシア制裁を支持するかどうかという質問に対して)中国は、国際関係において、何かというと制裁するとか、制裁で互いに威嚇し合うとかすることには一貫して反対だ。現在の情勢の下においては、関係国が情勢のさらなる緊張をもたらす行動を取ることを避け、共に努力して危機を政治的に解決する方法を探究するべきだ。これこそが根本的な出口だ。

<3月14日>
 (アメリカがクリミア問題について安保理に決議案を提出し、ロシアが拒否権行使を明言したことについて、中国の立場を問われたことに関し)現在の情勢の下では、関係国が冷静と自制を保ち、国際法と国際関係の準則の基礎の上に、対話と交渉を通じて相違を政治的に解決することを希望する(浅井注:実際の投票に際しては、中国は棄権した)。