米軍2司令官の日中関係に関する発言

2014.02.21

1.事実関係の確認

2月11日付の環球時報の記事「米軍の2司令官 日本に対して挑発するなと戒め 中日の衝突に介入せずと表明」に釘付けになりました。在日米軍司令官が10日、米軍が日中の衝突に加入することはあり得ないと述べ、米太平洋空軍司令官が9日、「(日本は)他の国家に対して挑発を構成することはどういうことかについてよくよく考える必要がある」と述べたというのです。
 急いで関連記事をネットで調べました。すると、米太平洋空軍のカーライル司令官が9日に、また、在日米軍のアンジェレラ司令官が10日にそういう発言をしていることを確認しました。前者の発言については通信社の引用報道しか見つかりませんでしたが、後者の発言については、その発言が日本記者クラブとの電話インタビューでなされたものであり、日本記者クラブHPには同司令官の発言全文(英語)がリンクで張ってありました。また、11日付新華社電は、前日(10日)付のジャパン・タイムズ記事としてアンジェレラ司令官の発言要旨を紹介していることも確認しました(ジャパン・タイムズの記事内容はおおむね下記2.で紹介する本人の発言を伝えています)。
 しかし、米軍のトップ・クラスの重要人物による、しかも極めて重要な重みのある発言について、私が定期購読している朝日新聞(及び赤旗)は、私が読んだ範囲では何も伝えていないのです。2月11日付の中国網(チャイナ・ネット)日本語版の記事は、日本のメディアの報道姿勢について次のように書いていますが、残念ながらその指摘どおりだと思いました。

 大半の日本メディアは報道の中で、アンジェレラ氏の日中衝突に関する表明を取り上げなかった。共同通信社は、「アンジェレラ氏は10日のテレビ電話による記者会見で、日中の対立が東アジア情勢の緊張を招いている件について、日中の率直な対話を促すと述べ、両国の関係改善を呼びかけた」と報じるに留まった。
日本の輿論のこの反応はおかしなことではない。安倍晋三首相は靖国神社を参拝し、米国の不満を招いた。日本政府はその後、「米日間の誤解を解消する」ことに全力を尽くしており、メディアも米日関係の修復と改善を報じたがっている。しかし米日の不一致は依然として解消されていない。

私が調べた範囲で分かった2司令官の発言内容を以下で紹介しておきます。すでにアメリカ政府高官の日中関係にかかわる発言については前のコラムで紹介したことがありますので、今回の分と一緒に読み消していただきたいのですが、アメリカ世軍高官の発言における安倍政権に対するメッセージは次のようにまとめることができるでしょう。
① アメリカにとっての死活的関心は世界経済(つまりはアメリカ)に対する悪影響となる要素を排除し、ステータス・クオを維持することであり、安倍政権の「火遊び」に付き合う気持ちはさらさらないこと(「世界経済は非常に重要かつ脆弱なので、世界第2位と第3位の中日が仲違いすることを見過ごす余裕はない」)
② 安倍首相の靖国参拝をはじめとする言動はステータス・クオを壊す危険性をもつ容認しがたい行為であること(「緊張を軽減するのではなくて高める言辞がすべての関係者からなされている」)
③ 尖閣問題(海洋・領土問題)はあくまで平和的・外交的に対処するべきであり、軍事力行使はもってのほかであること(「ステータス・クオを乱し、平和と安全を損なうような挑発的で一方的な行動が起きたときは、我々は明確に発言し、必要に応じて行動を起こした」)
④ 日中艦船「衝突」の事態でもアメリカは軍事介入するつもりはないこと(「海洋において安全ではない行動を正当化するようなシナリオは存在しない」)

2.2司令官の発言内容(強調は浅井)

<カーライル・アメリカ太平洋軍司令部空軍司令官(2月9日 シンガポールでのインタビュー発言)>

-「ドイツの台頭および英独間をはじめとして欧州で起きたことについて、現在の情勢と類似点があるとは私はまったく考えていない。」(2月10日付ブルームバーグ通信 浅井注:安倍首相の発言に対する批判が込められていることは明らかです)
日本とフィリピンの首脳が中国の地域での影響力拡大について、世界大戦前の欧州情勢に例える発言を行ったことは「有益ではない」。(同上)
-「私がドイツの台頭、また欧州(特に英独間)で発生したことを、現在のアジア太平洋で起きていることと例えることはない。実際に、一部の出来事は日本によって生じている彼らはその他の国に対する挑発となっているものが何であるかをよく考えるべきだ。」(2月11日付チャイナネット)

<アンジェレラ・在日米軍司令官((2月10日 日本記者クラブとの電話インタビュー発言)>

-(中国が2013年11月に防空識別圏を設定したことについて、日米は両国の同盟に基づき如何に対応するべきかという質問に対する回答) 国際的な公海及び公空における自由航行は我々の目標だ。太平洋司令部及びその前線部隊としての在日米軍は、この防空識別圏を認めず、したがって運用手続きを改めたことはない。(中国の行動は)挑発的であり、ステータス・クオを一方的に変更しようとする試みだ。我々は、ステータス・クオを変更しようとするいかなる脅し、強圧及び力に対しても反対する
 以上を述べた上でのことだが、中国は責任ある行動主体でありうるし、安全保障の受益者であるだけではなく、その純提供者でもあり得ると私は考えている。したがって、我々は中国との関係を構築しているのであるし、日中両政府間のオープンな対話を奨励しているのだ
-(東シナ海で日中の海上保安庁船舶観の衝突が起こった場合の反応についての質問に対する回答) 我々にとって最善なことはそういう事件が起こらないことであり、そういう衝突は起こっていないし、関係者はすべて海洋に関する慣習国際法に従って行動している海洋において安全ではない行動を正当化するようなシナリオは存在しない
 もし衝突が起こったらという質問に関してだが、なにか起こった場合にもっとも重要なことは我々が即刻安全を高めるようにすること及び危険な状況にある者を救助するということだ政府の最高レベルでのコミュニケーションも非常に重要だ。最後に、両者がプロフェッショナルに行動することによって状況がエスカレートすることを防止するだろう
 この問題については多くの議論が行われているし、私自身もロックリア提督と話したことがある。彼は将来における安全を保障する二つのことがあると述べた。一つは日米同盟の力ということだ。もう一つは、自衛隊のプロフェッショナルな行動及び能力ということだ。私も同じ考えだ。
-(中国軍が尖閣に上陸し、自衛隊が中国軍を排除するべく行動するとき、米軍はその状況に対してどう行動するかという質問に対する回答) これは極めて挑発的な質問だ。しかしすでに述べたとおり、我々はいかなるステータス・クオを変更しようとするいかなる脅し、強圧及び力に対しても反対するということだ。我々としては、中国がそのようなことをしないことを奨励するだろう。