アメリカの対日本・対中国政策(政府高官発言)

2014.02.09

1.ローズ大統領副補佐官(1月29日 ワシントン・フォリン・プレス・センターでの対外政策の重点に関する対記者ブリーフィング)

ローズの発言全体から浮かび上がるのは、アメリカの対外政策における中国の比重の圧倒的な重みであり、それと対比した場合の日本の占める地位の低さということです。また、歴史問題及び領土問題にかかわる安倍首相の言動に対するオバマ政権の苛立ちも明らかに伝わって来ます。

◯(米中首脳会談に関する中国記者の質問に対する回答) 3月にハーグで開催される核サミットに両首脳が出席する場合には、両首脳が会談することは優先順位が高いだろう。米中関係を前進させるためには、首脳レベルを含めたハイレベルの定期的協議を行うことが重要だ。
両首脳は、2013年6月のサニーランドでの会談で広範なテーマを設定した。その中には、多くの共通の利益と時に相違を抱える経済問題に関する継続した対話が含まれる。同時に、両国が直面する挑戦については米中協力が不可欠だ。例えば、イラン交渉では中国はP5+1(5常任理事国+ドイツ)として我々と一緒だ。北朝鮮に関しては、半島の不安定化を回避し、非核化を追求するべく、中国との協力を増大しようとしている。そのほか、海洋安全保障、領土紛争にかかわって如何にして挑発的行動あるいは不注意によるエスカレーションを避けるかについて話し合ってきたし、アメリカがやろうとしてきたのはこれらの問題を解決するための明確な規則と平和的な対話を強化するということだ。両首脳が会うときにはこれらが当然に話題となるだろう。
◯(安倍首相の靖国参拝及びそれを受けた日本と近隣諸国との関係に関するオバマ大統領の関心の所在に関する香港記者の質問に対する回答) 当時我々は、靖国を参拝するという決定に対して失望を表明した。もちろん、いずれの国家のいずれの指導者も、何をするかについて独自に決定を行う。しかし、一般的にAPRにおいては、我々は日韓中に対してこれらの問題の根っこにある非常に重大な歴史的関心に対して一定の配慮を行うように勧告してきた。もちろん、誰もが自らの見解をもつのだが、歴史に対する尊重と取る行動に対する配慮は重要であり、我々のアプローチはそれらに基づいている
 特にこの地域において非常に難しい課題が起こっているときはなおさらだ。特に領土紛争に関して緊張が高まっている。最終的に、これらの問題は平和的な対話プロセスを通じてのみ解決されうる。そして平和的対話は指導者たちが緊張を軽減するための特別な動きを示すことによって可能となる
 我々の前では、緊張を軽減するのではなくて高める言辞がすべての関係者からなされている。尖閣をめぐる中日間の紛争にしても、韓日というアメリカの同盟国間にしても、対話を通じてこれらの紛争が扱われること、歴史的な関心が配慮を持って扱われること、そして地域がもっと安定し、エスカレーションや思いがけない衝突が起こらないことを望んでいる。
 ところがここでもこの原則に合致しない動きを取る指導者、国が時に現れるのだ。そういう時には我々は発言してきた。一般的に言えば、アメリカは同盟国を支持することがアメリカの対外政策において一貫した役割だと見做すとともに、同時に緊張を緩和するためにも努力するということだ。
◯(安倍外交とアメリカのアジア外交との矛盾に関する中国記者の質問に対する回答) 地域の多くの問題についてアメリカは日本と同じ立場だ。米日同盟はアメリカの対APR政策における礎石だ。米日同盟は地域の繁栄に役立っており、貿易及び商業に貢献している。同盟は中国を含む近隣全体に裨益している。
 安全保障に関して言えば、核拡散防止、朝鮮半島非核化、アフガニスタンにおける日本の支持などの中心的課題について、アメリカは日本と同盟しており、緊密に協力している。とは言え、状況に応じて喰い違いが時に生じないということではない。しかし、ゴールは同じだ。ゴールとは、安全な日本、安全で安定したAPR、日本と近隣諸国の良好な関係ということだ。ラッセル(国務次官補)、バーンズ(次官)その他が日本と議論した際のメッセージとはそういう内容だ。
◯(安倍首相の靖国参拝を受け入れるのか反対なのかという中国記者の質問に対する回答) これらの問題に対する我々の一般的な原則は、すべての指導者が歴史的な関心に対して一定の配慮を示すべきだということだ。
◯(オバマは4月に訪日するか、するとすれば会談のテーマは何かという質問(質問者不明)に対する回答)一般論として大統領は訪日にコミットしている。大統領として行くことは確かだ。
 テーマとしてはTPPが中心となることは明らかだ。安全保障も常に中心にある。地域の安全保障Ⅱ関しては、我々は北朝鮮の挑発的行動に共通の懸念があり、半島の非核化を共通の目標にしているので、北朝鮮もテーマになることは確かだ。地域の環境に関しては、アメリカは緊張を緩和し、対話を促進する努力を奨励してきた。もちろん我々は同盟国である日本の安全保障を支持する立場に立っているが、日本の安全保障上の努力が行われることを含め、これらの緊張を緩和するための措置が取られることで高められると確信している。

2.ラッセル・国務省東アジア太平洋地域担当国務次官補(2月4日 2014年における東アジア及び太平洋政策に関する記者会見)

 ラッセルの発言の中でもっとも注目されることは、尖閣問題に対するアメリカの対応の出発点として世界経済をあげ、「世界経済は非常に重要かつ脆弱なので、世界第2位と第3位の中日が仲違いすることを見過ごす余裕はないし、日中、ましてや日中韓が異なる思惑で動くことを見過ごしている余裕もない」と二度にわたって強調したことです。安倍政権特に安保法制懇のメンバーの中には、日中の軍事衝突を平然と口にする手合いがいますが、そういう「勇ましい」人々は、日中の軍事衝突が世界経済を破滅的恐慌に陥れることについて考えたことすらないのだと思います。
 彼らに比較すれば、ラッセルをはじめとするアメリカの政策担当者の方がはるかにまともな感覚を持っていることが分かります。
ラッセルの発言でもう一つ重要な点は、日本の集団的自衛権行使を支持しつつ、「記憶に留めるべき重要な点は、地域の安定及び安全保障を維持するために日本が如何により積極的な役割を担うことができるかという、日本国内のそして日本との議論は、日米同盟という枠組みにおいて行われている」と強調していることです。つまり、日本の集団的自衛権行使はあくまでも日米同盟の枠組みのもとでのみ行使されうるし、そうでなければならないとしているのです。

◯(冒頭発言要旨) アメリカはAPRにおける関与と(2009年1月以来の)リバランス戦略に確固としてコミットしている。安全保障分野では、アメリカは同盟関係を現代化し、危機及び緊急事態に対して対応するように同盟国と切れ目なく協力できることを確保するべく動いている(浅井注:「切れ目なく」という表現は「平時から有事まで」という意味合いを表しています)。フィリピンを襲った超大型台風に対する対応は正にそういうケースだ(浅井注:フィリピンに出動した自衛隊が、東日本大震災の「救援」活動を行った米軍の「トモダチ作戦」にあやかって、「トモダチ作戦」と銘打ったのはいまだに記憶に新しいことです)。要するに、平和で安定したAPRは確かな米軍のプレゼンスに依拠してきたし、今後もそうだということだ。
 2013年12月のバイデン副大統領の韓中日訪問に際しては、北朝鮮の核開発による挑戦について話し合ったほか、中国の防空識別圏設定問題に関して、中国首脳に対してアメリカの関心を率直かつ直接に、そして建設的に伝えた。アメリカは東シナ海及び南シナ海の事態の展開、特に外交的、法的でないやり方で権利を挑発的に主張する一方的な行動に懸念をもっている。このような行動は法の支配へのコミットメントに対する懸念を引き起こす。それはいくつかの国々の長期的目的に対する懸念を引き起こしている。海洋に関するすべての主張は国際慣習法に則したものでなければならない。
◯(中国が南シナ海にも防空識別圏を設定するかもしれないという懸念の広がりに関する時事通信記者の質問に対する回答) 中国の東シナ海での防空識別圏設定の動きは、計算違い、対決、偶発的事態の危険性を減らすのではなく、増やすものだ。その公表は混乱を引き起こした。それは公空域での飛行の自由を脅かすものであり、とりわけ敏感な時期・地域における中国のやり方と意図について疑問を引き起こした。我々は中国が識別圏を実施しないようにという立場を明確にしてきたし、南シナ海を含む他の敏感な地域でそれを繰り返さないようにという立場を伝えてきた。
◯(東シナ海で最悪のシナリオが起こる可能性に対するアメリカの見方に関する中国記者の質問に対する回答) その質問に答える上での出発点は世界経済だ世界経済は非常に重要かつ脆弱なので、世界第2位と第3位の中日が仲違いすることを見過ごす余裕はないし、日中、ましてや日中韓が異なる思惑で動くことを見過ごしている余裕もない。日韓は主要な経済大国でありかつ主要な民主国家であって、広範囲の共通の利害を持っている。日中は、主要な経済大国であるとともにAPRでの重要なパートナーであり、それぞれの戦略的利益のため、自国民の最善の利益のため、そして地域の最善の利益のために協力できるし、しなければならない。
 アメリカは、この地域のいずれの国家とも同じく、緊張を緩和し、外交関係を改善し、北東アジアで緊密に協力することに強い利害関係を有する。自制、適切な判断、外交そして対話は、我々すべてが望んでいる地域のあり方をつくり出し、APRから利益を得るための不可欠な構成要素だ
 地域では緊張が不幸にも盛り上がっている。それはすべてのものにとっての関心事だ。しかし一つだけ確かなことがある。それは、これらの問題及び緊張のどれ一つも一方の側だけでは解決できないということだ。関係改善に向けた好循環をつくり出すためにどの国にも役割がある。我々は、APRの友人及びパートナー一人一人が良好な関係及び隣人づきあいのために貢献することを期待している。
◯(96条改憲に言及した安倍首相に対する見解を質問した中国記者に対する回答) 日本は成熟したかつ安定した民主国家であり、人民の声が決定権を持つ。日本政府の特定の決定及び自衛に関する日本のシステムという点に関しては、これらの決定は日本の人々の代表によるべきであり、また、集団的自衛権の原則は確立したものであるということを我々は受け入れる。記憶に留めるべき重要な点は、地域の安定及び安全保障を維持するために日本が如何により積極的な役割を担うことができるかという、日本国内のそして日本との議論は、日米同盟という枠組みにおいて行われているということだ。オバマ政権のこれまでの5年間に、日米同盟については巨大な進展が実現しているということだ。その進展は積極的な方向に向けてのものだと確信している。
 同時にこの地域においては、友人及びパートナーとして、日本が外交及び政治にかかわる発言を行うことへの期待がある。日本と近隣のすべての国々との良好な関係は不可欠なものだ。こういう良好な関係における一つの要素は、近隣諸国の危機、例えばフィリピンの巨大台風に際して日本が支援する能力を持っていることだ。そして、このことはアメリカとの間の強力なインタオペラビリティ及び軍隊間の協力によって可能となった。
◯(日中の緊張激化に対するアメリカの働きかけが奏功していないことに関する台湾記者の質問に対する回答) 日中両政府間の紛争や緊張に関して、アメリカは仲裁することはしないが、海洋問題及び歴史問題を含め、他の国々と同じく、外交手段による平和的解決及び緊張緩和に戦略的利益を有している。我々の主要な手段はハイレベルを含めた外交だ。アメリカの見解を知らしめ、アメリカの原則を繰り返し表明すること、そしてアドバイスと斡旋を行うことについて機会を逃すことはない。よい広く言えば、アメリカの持続的かつ積極的な関与、軍事的プレゼンス、条約に基づく同盟、マルチの機構及び努力への積極的参加、中国及び日本を含む地域のすべての国々との強力な二国間関係は重要な安定力として機能していると確信している。
 緊張から利益を得る国家はないすべての国々が世界第2位と第3位の経済大国が協力することに共通の利益を有する。アメリカは、その影響力、外交及び常識を働かせることで、すべての市民の生活に大きなかつ積極的な変化を生みだす戦略的協力の方向を推進していく。
 中国経済の発展にとって不可欠なステータス・クオ及び安定的環境を脅かす動きに対して反対するアメリカの姿勢は真剣であることについて、中国の指導者及び政策決定者は明確な認識を持っている。中国の指導者は、さらなる改革及び経済発展についての野心的計画を明らかにしている。中国の隣国との良好な関係はそういう重要な目的を実現することに貢献するだろうし、アメリカは中国が成功することを望んでいる。

3.ラッセル・国務省東アジア太平洋地域担当国務次官補(2月5日 米下院外交委員会アジア太平洋小委員会での証言要旨)

朝日新聞は、ラッセル証言の中の一部(中国側の立場について具体的な事例を挙げて批判した部分)だけを大きく取り上げて報道しましたが、これは典型的な「偏向報道」です。
即ちラッセルは、ここでも日中が平和的に問題を解決することの重要性を繰り返し指摘しています。安倍首相が頑なに固執する「日中間に交渉すべき領土問題は存在しない」という主張に対して、ラッセルは「日本と中国が外交手段を使って問題を平和的に処理し、すぐに解決できない問題を棚上げすることが不可欠だ」、「領土及び海洋に関する紛争は平和的、外交的にそして国際法に従って扱われることが確保されることを求める」と強調しており、それは取りも直さず尖閣問題について日中が話し合うべきだし、すぐに解決できない場合は棚上げすべしとするのは中国の立場そのものであるのです。
また私たちは、ラッセルの部分的発言だけを抜き出すのではなく、例えばここで紹介したアメリカ側発言の全体的文脈の中で朝日新聞報道部分をも位置づけるべきでしょう。確かに議会証言におけるラッセル発言は明らかに日本を支持する姿勢を強調していますが、それは米下院の場においてであるという要素も考慮に入れる必要があります。むしろ私たちとしては、日本に肩入れしつつも、アメリカ政府がもっとも重視するのは軍事衝突を絶対に起こさせてはならない(アメリカが巻き込まれるのはまっぴら)ということであり、そのためには中国だけではなく、日本(安倍政権)も外交、話し合いに全力を注ぐべきだというメッセージを明確に発信しているということです。そういうメッセージをまったく紹介しない朝日新聞報道は「偏向報道」以外の何ものでもありません。

南シナ海及び東シナ海は世界的な商業及びエネルギーにとって死活的な通路である。単純な計算違いあるいは事故が事態のエスカレーションを引き起こしかねない。係争領土及びその周辺海域・空域において様々な国々が競いあう規則を定めることにより、緊張が高まり、対立のリスクが増大する。
 したがって我々は、地域外交及び公の態度表明において、自制し、対話のチャンネルを維持し、誇張した表現を抑え、空海で安全かつ責任ある行動を心掛け、国際法に従って領土及び海洋紛争を平和的に解決することの重要性を常に強調している。緊張を低め、紛争を平和的に処理するよう、外交その他の道筋をつけることにアメリカは努力している。ステータス・クオを乱し、平和と安全を損なうような挑発的で一方的な行動を抑えるように努力してきた。そういう行動が起きたときは、我々は明確に発言し、必要に応じて行動を起こした。
 南シナ海においては、ASEANと中国による行動憲章作成努力を支持している。
東シナ海においては、中日関係が深刻化していることに関心を抱いている。我々は、計算違いや危険な事件を回避するための日本の外交の呼びかけ及び危機管理の手続きを支持している。中国と日本は世界第2位と第3位の経済大国であり、経済成長を促す安定した環境には共通の利益を有する。日本と中国が外交手段を使って問題を平和的に処理し、すぐに解決できない問題を棚上げすることが不可欠だ
中国が東シナ海に防空識別圏を設定することを発表したのは挑発的行動であり、間違った方向での深刻な動きだった。尖閣は日本の支配のもとにあり、ステータス・クオを変更しようとする試みは緊張を高め、国際法の下で領土的主張を強化することになんの役にも立たない。アメリカは中国の識別圏を承認もしないし、受け入れることもしない。したがってこの地域での行動の運用を変化する意図もない。中国は識別圏を運用するべきではないし、他のところで同じような行動を取るべきでもない。
 東シナ海及び南シナ海における領土主権に関する異なる主張に対してアメリカが立場を取らないと言うとき、そのことの意味についてハッキリさせておくことが重要である。第一に、領土的主張を行うために脅迫、強圧あるいは力を行使することに対しては断固反対するということだ。第二に、海洋に関する主張は慣習国際法に従わなければならないということだ。ということは次のことを意味する。すべての海洋に関する主張は土地という形状に基づくか、海洋国際法に適合しなければならない。したがって、アメリカはいずれか一方の側には立たないとするが、土地という形状に基づいていない南シナ海における主張(浅井注:中国の主張)は根本的に成り立たないと考えている。以上の原則に基づき及びアメリカの確立した航行の自由プログラムにしたがって、アメリカは、すべての国々に属する海洋にかかわる権利、自由及び合法的使用を害する主張には反対する。
 また我々は、領土及び海洋に関する紛争は平和的、外交的にそして国際法に従って扱われることが確保されることを求める。火力が用いられてはならないことは当然のことだが、より広く、紛争に関しては脅迫、強圧、力なしに管理されることを確保するということだ
 バーンズ次官と私が北京で中国政府と定期協議を行った際、我々の関心について中国側と突っ込んだ意見交換を行った。スカボロ礁に対するアクセス制限、第二トーマス浅瀬におけるフィリピンの長期プレゼンスに対する圧力、尖閣諸島における中国の海上保安部の危険な活動のかつてない高まり、東シナ海における防空識別圏の突然の設定、南シナ海の紛争地域に対する最近の漁業規制更新等々、これらの行動は地域の緊張を高め、両海域における中国の目的に対する懸念を引き起こしている。