韓国の対米中日・対朝鮮政策(中国側分析)

2014.01.30

*1月29日付の中国新聞網は、同日付で香港『大公報』が掲載した延静(中国の大使を務めた経歴の持ち主で『大公報』コラムニスト)署名の「韓国 中米間で慎重に位置取り」と題する文章の要旨を紹介しました(30日現在では、大公報HPに前文がアップされていません)。また、国務院傘下の中国網は「観点中国」(オピニオン)の「焦点」欄において、1月18日付で陳光文(軍事専門家)署名の「朝鮮半島情勢 甲午(きのうえま)の年は多事の年」と題する文章を掲載しました。朝鮮半島情勢にかかわる中国側の見方の一端を示すものとして興味深いので、訳出して紹介します。
ただし、二つの文章に関して若干のコメントをつけておきます。
まず延静文章に示されている韓国の対米中関係に関する見方については、私も基本的に同感です。韓国歴代政権を通じて中国に対する傾斜を強める流れが看取される、朴槿恵政権はその流れを受け継ぎながらも米中の狭間で「位置取り」について慎重な政策運営を心掛けているという延静の指摘は鋭いものがあると思います。また、こういう冷静な俯瞰図を示すところは中国側の他者感覚の豊かさをも示すものでしょう。
陳光文文章については特に2点指摘しておきたいことがあります。
一つは、1月16日付の朝鮮国防委員会の韓国に対する提案を非常に高く評価していること(また、さらっと書いていますが、こういう提案をするということは、金正恩が政権基盤を固めたからこそできるのだと指摘していることも重要なポイントだと思います)です。崔龍海特使訪中後の中国の対朝鮮半島政策の「激変」ぶりには私も目を見張った(そのことは前のコラムで書きました)のですが、中国の朝鮮問題研究者の朝鮮に対する見方は相変わらず様々で、むしろ朝鮮に対して批判的な見方がまだ多いという印象です。そういう中で、陳光文は朝鮮提案を高く評価し、韓国がむげに退けたことを残念がっていることが行間から読み取れます。
もう一つは、そういう「平和イニシアティヴ」が不発に終わった後、朝鮮は「新たな核実験またはミサイル発射の如き挑発を行う可能性が高まっている」という陳光文文章の指摘に対する疑問です。
過去3回の朝鮮の核実験には明確なパターンがあります。それは、「朝鮮の人工衛星打ち上げ→ミサイル発射とする「国際」的非難→朝鮮の核実験→安保理制裁決議」というものです。このパターンからは、朝鮮の重要なメッセージを引き出せます。それは、朝鮮の人工衛星打ち上げの権利を認めることによって、朝鮮の核実験を思いとどまらせることができるということです。
私は、朝鮮の人工衛星打ち上げは宇宙条約ですべての国家に認められた権利であり、朝鮮からその権利を奪おうとするアメリカ主導の「国際社会(=安保理)」の行動は正当化できないと判断しています。簡単に説明すれば、人工衛星打ち上げ用ロケットはミサイルにもなる典型的な汎用技術であり、それは朝鮮だけのことではありません(日本の種子島から打ち上げるロケットもいつでもミサイルに転用できます)。宇宙条約は、宇宙の軍事利用は禁止している(スパイ衛星打ち上げは宇宙条約違反です)けれども、軍事的要素を宇宙の平和利用の手段に供することは同条約で認められています。したがって、「朝鮮だけはダメ」という理屈は成り立たないのです。
この点を承認する限り、「国際」的非難はあり得ません。「国際」的非難が加えられなければ、朝鮮は「対抗措置」(朝鮮は「強硬には超強硬で対抗する」と言います)としての核実験を行わないということが期待できるのです(現実に朝鮮外務省は、昨年12月12日の人工衛星打ち上げ直後のスポークスマン声明でそのことを強くにじませましたが、そのメッセージをくみ取らなかったことが朝鮮の第3回核実験につながりました)。
逆に言うと、朝鮮に対する安保理の「強硬」な対応が朝鮮をして核実験継続を正当化する理屈に使われているのです。イソップの「北風と太陽」の寓話の典型例です。アメリカが朝鮮の核実験を思いとどまらせることに目的があるのであれば、朝鮮の人工衛星打ち上げをあげつらうことはやめることです。
もちろん、アメリカの核の脅威が存在し続ける限り、朝鮮は核開発をやめないし、核にこだわる政策を堅持するでしょう。また純軍事的に言う限り、朝鮮はさらに核実験を繰り返し、小型化その他の目的を追求したい動機はいっぱいです。しかし、朝鮮にはほかに「切れるカード」が今のところ(少なくとも経済困難から脱け出せるまでの今後数年間)ないので、核実験そのものをもカードに使わざるを得ないのです。アメリカが賢明であるのであれば、朝鮮の人工衛星に目くじらを立てない、朝鮮が核実験をも外交カードとして位置づけている間に朝鮮半島の非核化(朝鮮のみの非核化ではなく、アメリカの韓国に対する「核の傘」提供政策も取りやめることを含めた朝鮮半島の非核化でなければなりません)を目指した外交的取り組み(その一環として米朝休戦協定の平和協定への転換、米朝国交正常化があるし、そのためにも6者協議が有用です)へと舵を切り替えなければならないのです。
少し長くなってしまいましたが、以上のように判断する私からすると、陳光文文章が、朝鮮の核実験と人工衛星打ち上げ(彼はミサイル発射という)を分けないで扱うのは粗雑だと思いますし、朝鮮がそういう「挑発」を行うだろうとする彼の見方にも素直には従えないというわけです(1月30日記)。

1.延静文章

 中米の間でいかに位置取りをするかということは、韓国外交が直面する、ますます突出する問題となってきている。特に韓日関係の発展が阻害され、アメリカがアジアの重要な二つの同盟国に対する考慮から仲を取りなそうと乗り出す中で、韓国としてはさらに慎重にこの問題に向きあうことが必要になっている。
 実は1992年に中韓が国交を樹立したときから、韓国は位置取りをはじめていた。盧泰愚大統領が中国人に忘れられていないのは、彼が将来に対する見通しが豊かで、様々な議論を力強く排し、中国との国交樹立という賢明な決断を行ったからだ。

<中国への政策的傾斜>
 筆者は、1993年に韓国の第2代駐中大使となった黃秉泰が着任前に行った発言を今でも記憶している。韓国では、米日中ロの4大国の大使に任命されたものは出発前に記者のインタビューを受け、赴任に当たっての感想を述べる習わしになっており、黃秉泰も例外ではなかった。
 黃秉泰は、任務に当たる使命の大きさについて述べたのに加え、中韓が国交樹立して間がなく、しかし両国関係は決壊したダムのように猛烈な勢いで発展していて、その流れは誰も食い止められないだろうと予測した。彼は、韓米関係は今後も引き続き発展するが、中韓関係も追い迫り、近い将来に韓米関係と肩を並べる勢いを形作る可能性が極めて高いという見通しを述べた。彼の発言はアメリカの影響が大きい韓国の政界及び言論界に大きな波紋を呼んだが、少なからぬ有識者の識見を代表するものだった。
 韓国大統領の訪中時期の選択時期からも韓国外交の対中傾斜について見て取ることが可能だ。一国の大統領の訪問先の順番は往々にしてその国の外交的方向性を示す指標である。韓国大統領が就任してから最初にアメリカを訪問することは長年にわたる慣例となっている。
 1993年に大統領に就任した金泳三は、その年にアメリカと中国を訪問し、中国には翌年3月に訪問した。1998年に就任した金大中はその年に米日を訪問したが、その年11月に中国を訪問した。2008年に就任した李明博は、米日訪問後のその年に中国を訪問しただけでなく、21世紀に向けた中国との協力パートナーシップをさらに一歩進め、戦略的協力パートナーシップを樹立した。2013年に就任した朴槿恵は、まずアメリカを訪問したが、6月には中国を訪問し、韓国外交にとって長年第2位だった日本に対する訪問は無期限に延期した。
 経済貿易関係においても韓国外交が次第に中国に傾斜していることを見て取ることができる。1992年の国交樹立当時の中韓貿易額は60億米ドルに達していなかったが、距離的に近く、歴史的に相通じ、貿易的に補完性があるなどのメリットが十二分に発揮され、貿易額は年年大幅に伸張し、1997年に200億ドルを突破し、2004年には1000億ドルを突破し、2010年には2000億ドルを突破し、中韓は互いに重要な貿易パートナーとなった。アメリカと日本は長年にわたって韓国にとっての第1及び第2の貿易パートナーだったが、現在では韓国の対中貿易額は対米及び対日貿易額を合わせたものより大きくなっている。2013年には中韓貿易額は2700億ドルに達し、貿易額が3000億ドルを突破するのも時間の問題である。
 朴槿恵大統領は就任後も基本的にアメリカを基軸とする外交政策を維持し、日本の右傾化傾向に対しては原則的立場を堅持してきたが、昨年10月にアメリカが公に日本の集団的自衛権行使を支持して以後、韓米日関係には微妙な変化が生まれ、中米の間でどのような位置取りをとるかに関して、韓国は慎重に対応するようになっている。

<外交方針はやはりアメリカ基軸>
 まず、アメリカに対しては、ソフトにもの申すが、関係が傷つくようなことは極力回避すること。昨年10月にアメリカの国防長官が訪韓して対日関係改善を勧告し、12月に訪韓したバイデン副大統領も対日関係改善のための措置をとることを勧告した。これに対して韓国は正面から立場を述べ、カギは日本が歴史を正視することであり、双方に相互信頼が生まれることが関係改善の基礎であるとした。
 次に、日本に対しては強硬だが、程合いに注意すること。韓日関係に関して、韓国は日本が歴史を正視することを何度も強調し、慰安婦問題に対して償いを行い、お詫びをし、傷口に塩を振りかけないように要求してきた。中国が防空識別圏を設定したとき、韓国は日本と立場が似てはいたが、中国が識別圏を撤回することを日本と一緒になって要求することは拒否した。韓日首脳会談については、韓国は何度もふさわしい雰囲気が必要だとは強調しながらも、扉を閉じることはせず、含みを残している。
 三つ目は中国(要素)を絡ませないことで誤解を避けること。日本が侵略の歴史を否認し、平和憲法を改正し、対外拡張を狙うことに対して、韓国は原則的立場を堅持し、その都度外務省スポークスマンが厳しく批判するが、中国の態度表明とは連携せず、韓国は中国の側に立っていると外部が考えることを防止している。
 四つ目は中国に対して好意を示すこと。朴槿恵は新年の記者会の席上で、韓中関係は過去のいずれの時よりも親密であり、戦略的パートナーシップは深まっていると述べた。韓国はまた韓国に埋葬されている中国義勇軍の遺骨を中国に返還するという初めての決定を行い、中韓はこの問題について協議を進めている。
 歴史及び現実を振り返れば、韓国の対外政策は徐々に中国に対する傾斜を増しているが、歴史的経緯及び政治・経済・軍事上の考慮から、韓国が対米関係を動揺させることはあり得ず、駐韓米軍の経費問題で妥協を行ったように、アメリカを基軸とする外交方針は予見できる将来において変化することはあり得ないだろう。

2.陳光文文章

(1月16日の朝鮮国防委員会の「重大提案」の内容を紹介した上で)朝鮮のこの重要な提案が実現できれば、韓国が提起している離散家族再会のみならず、韓朝関係における大小様々な問題もすべて解決できるだろう。これは朝鮮としては数少ない主動的かつ積極的な南北関係改善に関するアッピールであり、それだけに極めて意外ではあるが、韓国の反応にも大きな期待が寄せられる所以でもある。
 しかし、韓国統一部のスポークスマンは17日の記者会見の席上、相互の中傷を停止しようという前日(16日)の朝鮮の提案について、朝鮮は事実を歪曲し、でたらめな主張で世論を愚弄したとして、韓国政府としての遺憾の意を表明した。また同日行われた韓国国防部スポークスマンによる記者会見においても、「キー・リゾルブ」及び「フォール・イーグル」等の韓米軍事演習は2002年(ママ)以来の定期演習であり、防衛的なものであるとし、朝鮮がこれら演習を終始することを要求するのは事実を歪曲した、道理に悖る行為だとした。また、相互に中傷を停止するという朝鮮の提案については、韓国は朝鮮を誹謗する活動は行っておらず、したがって停止するべき誹謗活動は何もないと述べた。
 朝鮮の今回の「重大提案」は、韓国の厳しい言葉による拒絶に直面し、朝韓間の相互コミュニケーションは再び流産を迫られたと言うべきだろう。では、なぜ今回の朝鮮の友好姿勢を韓国は受け入れ不可能としたのだろうか。
 まず、朝鮮が言う「相互の誹謗及び中傷を停止する」は韓国の急所を突いたものであるということだ。最近の一時期、朝鮮国内は極めて揺れ動き、張成沢一派は粛清され、多くの朝鮮高官も消息不明になっている。このことについて韓国では推測が横行しており、その多くは金正恩自身に対するものであり、人身攻撃や政権非難も少なくなく、金正恩が政変で政権を降りることになるのではないかというスペキュレーションも非常に多い。したがって、朝鮮が朝韓双方は誹謗中傷を行わないようにしようと提起したことは韓国にとっては極めてばつが悪いことなのだ。したがって韓国としては絶対に承認できないわけだ。なぜならば、朝鮮の提案に同意するということは、これまで朝鮮について言ってきたことがデマや誹謗にほかならないことを黙認することと同義になってしまうからだ。しかも、新年を前にして朴槿恵は朝韓関係改善を呼びかけ、それを朝鮮が拒否したこともあるから、これで「おあいこ」ということにもなる。
 次に、朝鮮の「重大提案」中の韓米軍事演習をやめるということは韓国としては絶対に受け入れられないことだ。韓国側が言うとおり、この2つの軍事演習は現在に始まったことではなくて十数年続いて来たものであり、韓国の安全保障にとって死活的に重要であり、韓国が一方的にやめることはあり得ず、アメリカも同意するはずがない。誹謗中傷の中止については協議が可能としても、米観軍事演習中止については一歩も譲ることができない。
 第三に、米韓間では米軍駐留費用に関する新しい合意が達成され、アメリカ38度線沿いに軍を派遣しようとするときに当たっており、しかも米韓合同軍事演習が迫っているのであるから、このタイミングで韓国がとぼけてごまかすことはあり得ない。韓国は近ごろ朝鮮の脅威が増大していると考えていることで在韓米軍に対する依存度が高まり、そのことが韓国にとっての「安全保障上のコスト」の追加負担をもたらしている。そのために韓米両国は何度も交渉を重ね、最近になってやっと在韓米軍の費用負担問題について合意が成立した。それによれば、韓国の本年の防衛費総額は9200億ウォンであり、対前年比で5.8%増である。これほどの防衛費上昇は米軍の韓国駐留軍事力の強化とも関係している。報道によれば、アメリカは本年2月に800名からなる機械化部隊を韓国京畿道北部地域に駐留させるほか、昨年9月に撤去した12機からなるF-16戦闘機を朝鮮半島に再配備して朝鮮に対する抑止力を強化する計画であるという。したがってこの時期に朝鮮との間で何らかの和解が成立することは必ずやアメリカの不興を買うだろう。
 以上を総合してみると、今回の朝鮮の「重大提案」はまたもや朝韓関係改善における「ゴシップ」として、それぞれが自分の主張を述べるだけで、まっとうな平和の音色を奏でることは難しいという結果に終わりそうだ。現在の状況に基づいて分析すると、朝鮮では金正恩がすでに軍政の権力を掌握して国内情勢をうち固め、精力的にカードを切っているということであり、将来的には新たな核実験またはミサイル発射の如き挑発を行う可能性が高まっている。韓国としては、米軍の支援を受けてますます強気になっており、朝鮮に対して厳しい措置をとる可能性が大きい。したがって、2014年というこの甲午の年は、朝鮮半島に関して言えば多事の年である可能性があり、朝韓双方が世界を驚かすニュースをしでかすことは大した難事ではないと言うべきである。