安倍首相の靖国参拝(中国の主要論調-その1-)

2013.12.30

*安倍首相の靖国神社参拝に関しては、人民日報をはじめとする各メディアが競って社説等を発表しています。また、学者やコラムニストの文章も多数掲載されています。その主なものを紹介します。かなりおびただしい分量の文章が出ていますので、2回に分けて紹介します。今回は人民日報と環球時報の3つの文章を紹介します。(12月30日記)。

 12月27日付の人民日報は鐘声署名「歴史逆行に断じて未来はない」を掲げました。また、環球時報は27日及び28日連日で社評を掲載しました。鐘声文章は人民日報日本語版に掲載されたものをそのまま紹介します。環球時報の2つの社評については翻訳が見当たらないので拙訳を紹介します。

<鐘声署名文章>
 アジア近隣国を始めとする国際社会の警告を無視して、日本国首相の安倍晋三氏は頑として靖国神社を参拝し、過去1年間の執政に醜いピリオドを打った。
  亡霊参拝が何を意味するのか、日本の政治屋は腹ではよくわかっている。靖国神社には第2次大戦のA級戦犯14人の位牌が祀られている。まさに彼らが、アジアさらには世界の人々に空前の惨禍をもたらしたのだ。こうした戦犯にひれ伏して礼拝を捧げるのは、軍国主義の亡霊を呼び戻し、中国その他アジア諸国の人々の感情を荒々しく踏みにじるものであり、歴史の正義と人類の良識に対する公然たる挑戦であり、戦後国際秩序に対する公然たる蔑視である。
  安倍氏は公然たる亡霊参拝によって、誤った歴史観を再び大いに露呈した。安倍氏は早くも第1次安倍政権時に閣議決定した政府答弁書で、慰安婦問題について「強制性を証明する証拠はない」として、慰安婦問題が国家犯罪であることを否認しようと企てた。2012年の自民党総裁選では、首相在任中に靖国神社を参拝できなかったことを痛恨の極みと述べた。今年4月23日には「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」との謬論をぶち上げ、国際世論を騒然とさせた。今年9月25日には「もし皆様が私を右翼の軍国主義者とお呼びになりたいのであれば、どうぞそうお呼びいただきたい」とさらなる妄言を吐いた。このようにぬけぬけとずうずうしいことを言うとは、「右翼軍国主義」が人々から相手にされなくなるレッテルであることを安倍氏が全く顧みていないことをはっきりと示している。歴史問題において安倍氏は不行跡が多いと言える。
 安倍氏の公然たる亡霊参拝は、日本社会のさらなる右傾化の最新の例証だ。侵略の歴史の清算が徹底的でなかったために、日本の軍国主義思想は極めてしぶとい生存力を保っている。近年、経済的低迷を大きな背景に、日本の政治屋は国家の前進の方向性に対する理性的な設計を欠き、ひたすら右翼勢力に迎合し、強化し、政治の世界における右翼過激勢力の急速な台頭を招いている。政界要人は「靖国参拝は日本の内政」との誤った発言を度々行い、侵略の歴史を否定し、美化し、A級戦犯の罪を否定している。軍拡の加速、自衛隊の昇格、海兵隊の創設、憲法改正の推進、秘密保護法の可決といったアジア太平洋地域の安全と安定を脅かす安倍内閣の一連の挑発行為は、国際社会とアジア諸国の強い警戒を招いた。
 安倍氏の公然たる亡霊参拝は、国際社会にどんなメッセージを伝えようとするものなのか?安倍氏は声明で、参拝は日本が決して戦争を起こさないとの約束を新たにするためであり、「恒久平和」のためだと、もっともらしく述べた。なんという世界に対するでたらめなごまかしか。公然と軍国主義の侵略の歴史の亡霊を呼び戻す政治屋のどこに平和を大げさに語る資格があるのか?もし本心から世界平和の促進に貢献したいのなら、日本はまず歴史を否定し、侵略を美化する誤った歴史認識から抜け出し、被害国の人々に対して真摯に反省し、謝罪すべきだ。まさに韓国政府が指摘したように、安倍氏の行為は北東アジア全体の安定と協力を破壊し、時代の潮流に背くものであり、このような誤った歴史観を持つ日本が、平和の促進にどう貢献するというのだ?
 安倍氏の公然たる亡霊参拝は、その政権があくまでも誤った方向に引き続き進んでいくことを示している。英紙ガーディアン電子版はこのほど「安倍晋三:日本の首相は危険な軍国主義者か、それとも近代化の改革者か?」と題する記事を掲載した。今や、その答えは言わずとも明らかだ。安倍氏は歴史を否定する言動をすでに多くしており、これは彼の追い求める「普通の国」「強大な国」がどんな国なのかを人々にはっきりと悟らせるに十分だ。それは公然と侵略の歴史を美化し、世界反ファシズム戦争の勝利の成果を否定し、戦後国際秩序の取り決めに挑戦する国に他ならない。そのような国が国際関係システムに融け込むことは不可能だ。そのような国が世界にいかなる「積極的な平和」をもたらすことも絶対に不可能だ。
 歴史が告げるように、ファシズム戦争の邪悪さを正しく認識できず、戦争責任を反省できない国に真の復興はあり得ない。歴史を逆行させることに、活路と未来は断じてない。

<12月27日付環球時報社評「安倍をペルソナ・ノン・グラータのリストに入れよう」>
 26日に安倍首相は強硬に靖国神社を参拝し、中韓などアジア近隣諸国に対して新たな挑発を行った。中国外交部、韓国外交部は昨日強硬な反応を示し、アメリカ駐日大使館も安倍の行動に対する「失望を表明」した。安倍が昨日靖国神社を参拝したとき、すでに道理で敗れていたことは疑いの余地のないことだ。
 中国が安倍政権を厳しく譴責することは必要であり、そうすることで世界世論が安倍が「何か悪いことをした」という印象を深めることを手助けする。しかし、中国の外交的譴責は日本にとって想定内のことで、とっくに織り込み済みであり、彼らに対して効果的ではないということを指摘しなければならない。
 中国社会について言えば、日本に対する「厳しい譴責」にはもう飽き飽きしている。人々は、中国政府が対日問題においてさらに実際的な意味のある行動をもっととることを希望している。
 安倍政権の今回の挑発は極めてハッキリしているので、中国は大国として、適切な、更にある程度は過剰なほどの対抗措置をとることによって国際世論の理解を獲得してはどうかと我々は考える。日本側もそのことを予期しているだろうが、中国の具体的な対抗措置が何であるかについては分かっていない。
 中国が抗議するだけとか、対抗措置が強力でないとすれば、我々は国際政治における権利を放棄したということになるし、そのことによって外部世界は中国が「張り子の虎」であると評価する根拠にもなるだろう。
 では、中国はいかなる措置をとることが対抗措置として妥当かつ効果的だろうか。日本とのハイレベルの会合を行わないというありきたりの措置のほかに、世人が目を見張りあるいは驚愕するような、我々が安倍の靖国参拝に断固として反対していることを表す真新しい行動が必要だ。
 我々は、安倍などを中国にとって「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからざる人物)であると宣言し、彼らの中国への入国を禁止することが、簡単で実行しやすく、しかも相当に相手を震い上がらせる行動であると考える。中国はブラック・リストを公表し、安倍及び今年になってから靖国神社参拝問題で言動が悪らつだった日本の高官及び著名な議員を載せ、5年間は中国を旅行または訪問することができないと定めるべきである。
 中国が一度このようにすると、安倍が任期中にハイレベルの相互訪問を行う可能性を排除するに等しく、安倍政権は対中関係を改善する能力をほとんど失うことになる。我々は、安倍政権及び彼本人に対して中国が公にこの姿勢を伝え、以後の日本の政治家についても、公然と靖国神社を参拝する者は誰であれ訪中を禁止されることを告げるべきだと考える。また、日本社会に対しても、このような政治家を首相に選ぶということは中国との間でハイレベルの往来関係がなくなるということを選択するということであることを知らしめる必要がある。
 中国がこのようなブラック・リストを公表することは必ずや国内社会の高い支持を得ることになるだろう。国際的には、これが安倍の挑発に対する反応であり、原因は日本が第二次大戦でアジアを侵略した罪行を反省することを拒否していることにあるのだから、同情と理解を得るだろう。靖国神社の争いは釣魚島の争いよりも国際社会にとってよりたやすく理解できるし、韓国社会が中国側に立つのは自然だから、中日のこの衝突において日本が外交上及び道徳上敗北することは決まっている。
 靖国神社問題の主導権は一貫して日本側にあった。というのは、参拝するかどうかということは日本の首相または高官が最終的に決定することで、中国としては阻止しようがないからだ。参拝者を公にブラック・リストに載せ、中国に入国することを禁止することで、中国としては大いに情勢を転換させ、守勢から攻勢に変えることができる。
 我々が対抗措置を考える際には、中日友好をもはや出発点にする必要はない。安倍が政権にある限り、中日関係はショック状態にあるということをハッキリさせるべきだ。彼を「ペルソナ・ノン・グラータ」であると宣言することで、我々はより地に足をつけることができるし、そのことによって安倍政権と応対する際の事柄の性質をより明確にすることができる。
 中日間のルール・オブ・ゲームはさらに明確にし、疑問の余地がないようにするべきだ。それは即ち、日本が挑発すれば、中国は必ず対抗するということだ。中国人は安倍が政治ごろの振る舞いをすることで頭にくる必要はなく、彼をブラック・リストに載せることで、我々のとるべき態度はすべて整うことになる。アメリカがブラック・リストに挙げる人物の中にはテロリストやファシストなどが少なくない。然り、我々にとっては、安倍はそういう連中と似たようなものだ。

(注)12月27日に外交部の定例記者会見において、環球時報社評の提案(安倍首相などをブラック・リストに載せること)についてコメントを求められたとき、華春瑩スポークスマンは次のように答えました。
 「メディアの具体的な議論についてはコメントしない。しかし、日本の指導者の正義に悖る行動が中国人民の強烈な義憤と怒りを引き起こしていることについては、皆さんが見届けかつ十分に感じとっていることだと信じる。安倍は中国の断固たる反対を顧みず、天下の人が反対するのも顧みず公然と悪事を働き、歴史問題で時代に逆行し、深刻な事態をつくり出し、中日関係の改善及び発展に対して重大な政治的障碍をつくり出した。日本側はこのことに対して全責任を負うべきであり、これによってつくり出される一切の結果を引き受けなければならない。我々は日本側が実際の行動で誤りを正し、悪影響を除去することを要求する。そうでない限り、中日関係の改善を語りようがない。」

<12月28日付環球時評社評「中国は知恵とアイデアをもって日本の右翼に恥をかかせるべきだ」>
 安倍が靖国神社を参拝して中韓などを挑発したことに対して、中国が何の反応もしないというのは明らかにダメであり、そういうことでは外部からの対中挑発に対する放任ということになるだろう。しかし、大量の資源を使って安倍政権に対して報復を実施するというのもあまり価値がなく、そういうことは労が多すぎることになる。また、中国の対抗行動が原因となって内部で意見の大きな対立が起こり、「内ゲバ」でも起こってしまうというようなことは絶対にあってはならないことだ。なぜあってはならないかということについては多言を要しない。
 中国は必ず反応するべきであるし、その反応は口先の譴責だけではならない。しかし我々の反応は相対的に簡単に行い得るもので、自らに何の傷が伴わないものであるべきだ。例えば、安倍の参拝に対する対抗として大規模な対日経済制裁を発動し、それが原因で日本の対中制裁を引き起こし、それでも物足りずに釣魚島で戦火を交えるというようなことになるのはまったく必要もないことだ。なぜならば、それでは我々自身の損失が大きすぎるからだ。
 これまでは、日本の重大な挑発に出会うと、中国の民衆は非常に怒り、反日デモがしばしば行われた。このようなことは今後少なくするべきであり、こういうことは日本を持ち上げすぎていることになる。民衆による示威抗議は弱小国の強権に対するやりきれない反応ということが多いのであり、中国の現在の総合的な国力はすでに日本より上になったのだから、我々の怒りの表し方はもはや徒手空拳というようなことではなく、日本の右翼が大きなデモで我々に抗議するような方法を考えるべきである。
 靖国神社の争いの性格は変化しているが、中日間における完全な意味での「戦略的競争」と名づけるほどのものではない。日本は間違いなく中国と戦略的に力比べしているという気持ちがあるだろうが、中国としては日本をまともに見る気はなく、日本を本当の「戦略的ライバル」とは見なしていない。日本は確かに中国にとって大きな面倒ではあるが、その戦略的潜在力はロシアに及ばず、インドにも如かず、したがって、日本は靖国神社問題を「戦略的大事」と見なしているかもしれないが、中国はむしろ「事実に即して論じる」という心情だ。
 中国全体からすれば、靖国神社問題で日本に対抗する主眼は「気持ちを表す」ということで、日本に「猛々しく」させないということだ。したがって、我々がとる措置はこの目標に即して計画するべきであり、我々の行動は単純にしてさっぱりしたものであるべきで、日本とやり合って泥沼化し、「ますます頭にくる」というようなものにさせてはならない。
 もう一点非常に重要なことがある。それは簡単に気持ちによって動かされないようにするということだ。中日間では、どちらの方が強面で手数が多いかを競争するという一面もあるが、他方ではどちらが脆くないかを競争するという一面もある。我々が何かしても日本は痛くもかゆくもなく、日本が何かしたら我々は耐えられないということであれば、互いに技を繰り出す前に我々はすでに負けているということになる。
 安倍とのこの闘いに勝つに当たって、我々としては自分たちに不利な要素があることを見ておく必要がある。というのは、安倍の行動は非常に簡単で、靖国神社を一巡りするだけで「直接のコスト」はほぼゼロであり、これほど簡単なことはない。もしも我々が大がかりなシステムで彼に対応するとしても、彼はなんとも感じず、我々は次第にやりきれなくなる。
 したがって我々としては比較的簡単な対抗措置を追求するべきだ。
 まず、我々は全世界に対して安倍が悪事を行ったことを大いに宣伝する。これは根拠があることであり、韓国人は安倍を罵っているし、アメリカと欧州の世論も安倍に対して批判の態度をとっている。我々のやり方が適当で要所をついていれば、安倍及び日本全体に世界でポイントを失わせることができ、そうなれば、安倍はすでに半分闘いに負けたことになる。
 次に、我々はこの機会に、日本の右翼をいらつかせ、彼らが気焔をあげるのに打撃を与え、しかも国際的に理解もされ、中国人としてはやっていて気分がよくなるような、簡単に操作できる手段を精妙に設計するべきだ。こういう手段を編み出した後は、日本が逆に我々に抗議するようになるが、我々に対抗しようとしても難しくなるだろう。
 我々が昨日の社評で提起した、安倍などをブラック・リストに載せて訪中を禁止するという提案や、羅援将軍が行った南京大虐殺記念館に日本の戦犯のひざまずく像を作るという提案(浅井注:中国戦略文化促進会常務副会長兼秘書長の羅援が12月27日付人民日報所掲の文章で提案)は、簡単に実行できてしかも衝撃力がある措置である。
 もちろん、我々の提案は口火を切るというだけのことであり、外交当局及び関係部門更には人々が頭を働かせ、真剣に対策を協議することを呼びかける。中国はすでにかくも強大であり、安倍政権によって「振り回される」ことは絶対にあってはならず、とは言えなんの反応もしないということで中華の尊厳を失うようなことがあってもならない。我々は、靖国神社に関するルール・オブ・ゲームを変え、最終的に日本の右翼を意のままに操ることができるような知恵を持つべきである。

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