朝鮮内政(張成沢問題)と中国(その三)

2013.12.20

*12月19日には、朝鮮内政を窺う材料となる三つのニュースがありました。一つは、G-20の14ヵ国(トルコ、サウディアラビア、インド、カナダ、メキシコ、ロシア、ドイツ、インドネシア、スペイン、イギリス、フランス、スイス、コロンビア、ルクセンブルグ)の財政部・中央銀行の局長クラス15人と国際金融機関の4人さらに研究者3人プラスG-20メンバー国の在韓国大使館員9人から成る代表団が開城工業団地を視察したというものです。もう一つは、開城工業団地北南共同委員会第4回会議が開城で開催され、韓国側が同工業団地の国際化実現のために2014年1月に北南共同で投資説明会を開催することを提案したのに対し、朝鮮側は「協議を継続することを希望する」と回答したというものです。三つ目は、元NBAスター選手であるロドマンが5日間滞在の予定で3度目の訪朝を開始したというものです。
 中国の報道では、12月19日付環球時報社評「朝鮮の張成沢批判 中国に対する当てこすりとは限らず」、同17日付京華時報が紹介した朝鮮国家経済開発委員会高官がAP通信の取材に対して行った発言(15日)及び同17日の中国放送HPが報道した中国国際問題研究所の楊希雨研究員の分析が注目に値する内容がありました。ご参考までに紹介します(12月20日記)。

<環球時報社評>

 張成沢処刑が中朝経済協力に対して影響を及ぼすかどうかについて、国外世論では様々な憶測が入り乱れており、中国のネット上でもこの問題を盛んに取りざたしている。疑問が提起される原因はおおむね2点に集中している。第1点は、張成沢が元々中国と交流が密で、中朝経済貿易協力の「実際上の総責任者」であったということだ。第2点は、朝鮮が張成沢に対して国家の利益を売り渡したと非難する罪状の中に、石炭などの地下資源の売却及び羅先経済貿易区の土地売り渡しなどが含まれており、その買い方は「すぐさま中国と分かる」ということだ。
 朝鮮が張成沢を処刑したことは内政問題だが、中国の圧倒的に多くの人々がこのことに反感を抱いている。また人によっては、朝鮮が中朝間の羅津港2埠頭の50年間租借契約を破棄し、金正恩は「手続きを意に介さない」のではないかと心配するものもいる。
 しかし、長年にわたって朝鮮問題を研究している中国の学者(浅井注:後で紹介する楊希雨はその一人でしょう)は、物事は一部の人が心配するほどむちゃくちゃになることは多分なく、中朝経済貿易協力の変数は確定要素よりも小さいと考えている。これらの学者によれば、中朝経済貿易モデルは中朝政治関係という基本的要素によって規定されているのであり、これらの要素は変わっておらず、張成沢処刑によって変わるものでもない。朝鮮は北東アジアで韓米日と敵対しており、戦略的に動きうる余地はなく、中国に対する依存は代わりがきかない。中国が朝鮮の内政に干渉せず、平壌が政権に対する脅威を感じるようなことをしない限り、朝鮮が自ら中朝関係を悪化させ、両国の経済貿易協力の政治的動機を放棄することは予想しがたい。
 以上の分析には道理があるようだ。朝鮮の政権にとって、張成沢処刑の前後における最大の重要事は可能な限り多くの罪名を明らかにし、朝鮮社会全体に対して彼を徹底的に批判し尽くすことだ。この時に当たって、平壌としては中朝関係の枝葉末節にまで配慮する余裕がない可能性があり、中国人の感情を害することがあるにしても、それは朝鮮が張成沢事件を処理するに当たっての波及的なマイナス効果であって、平壌の本意であるとは限らない。
 朝鮮が内部の潜在的な政治的変数に直面しているその時に、同時に北京に対して強硬なシグナルを自ら送るという可能性は極めて小さく、それはもっとも単純な政治的謀略としても割が合わない。しかも金正恩は政権を取ってからのこの2年間に度々世の中を驚かすことを行ってきたとはいえ、新政権をうち固める政治的ロジックは明瞭なものだ。
 そうであるとは言っても、中国内外の議論がこもごも明らかにしているように、マイナス的影響、少なくとも信頼度が傷つけられたことは間違いない事実だ。平壌がこれらの影響やダメージを中国民間や世界世論に蔓延させたくないと思うのであれば、具体的な行動によって外部の疑問に応えるべきだろう。
 これまでに中国外交部はすでに「中朝関係を引き続き安定的に前進させることを希望する」旨正式に態度表明しているが、朝鮮側からはメディアを通じた、対応する態度表明に接していない。朝鮮の当局者は16日に、張成沢事件は朝鮮の経済発展計画に影響せず、朝鮮は計画どおり新経済特区を発展させ、外資を導入すると一般的に述べた(浅井注:下記の朝鮮国家経済開発委員会高官の発言は15日付ですが、内容的には符合します)。世論に対する朝鮮の反応の仕方が一般に遅くかつあいまいであることを考えれば、朝鮮の真意が奈辺にあるかを現在の段階で推測することはなお時期尚早である。
 しかし重要なことは、国家の利益にかかわるときには、中国が公式ルートで朝鮮に申し入れを行うに当たって、気兼ねしたり、頼み込んだり、機嫌をとったりすることがあってはならないということだ。仮に朝鮮が羅津港租借契約その他の大きい項目で契約破棄というような動きを示す場合には、中国としては断固として対応しなければならない。今の中国社会は、いかなる原因に基づくにしても、朝鮮が中国に対して前言を翻すようなことは受け付けられず、このようなニュースが流れるだけでも、現在の中国の対朝鮮政策に対する中国民衆の支持については深刻な打撃を受けることになるだろう。

<京華時報所掲の朝鮮国家経済開発委員会高官発言>

 朝鮮国家経済開発委員会(浅井注:この記事には、「2011年1月に設立された朝鮮国家経済開発総局が本年10月に改名」という紹介がついています)の高官である尹永錫は15日、平壌でAP通信の取材に対して朝鮮の経済発展計画について次のように述べた。  「張成沢一派がわが国経済に対して深刻な損害を与えたとしても、朝鮮の全体としての経済政策には変化はあり得ず」、「今までどおりである」と尹永錫は述べた。
 張成沢と朝鮮の経済政策との関係について、尹永錫は、張成沢の朝鮮経済政策に対する影響はさして大きくなく、彼は政策決定者ではなかったと述べた。むしろ彼らは朝鮮人民の団結を妨げていたのだから、張成沢一派を粛清することによって、朝鮮経済の発展プロセスは早められるだろう。
 経済発展に関して尹永錫は、「朝鮮国家経済開発委員会は、いかなる国からの投資及び商売をも歓迎するし、彼らが新経済特区の事業に参加することを歓迎する」と述べた。尹永錫によれば、現在各地方でそれぞれの経済特区の建設プランを作成準備中であり、数カ月以内に同委員会の審査を受けることになっている。

<楊希雨の分析>

◯張成沢がNo.2であったとする説について
 中国のメディアにおいては「張成沢はNo.2」とする説があるが、これは明確に誤りだ。実際の序列から言っても肩書から言っても彼がNo.2であったことはなく、金正恩時代になってから彼は政治局候補委員の地位から政治局委員に抜擢されたのだ。現在の朝鮮における実際上のNo.2は崔龍海であり、彼は大抜擢されて政治局常務委員となった。他の二人の常務委員はそれぞれ84歳と85歳であり、すでに名誉職だから、真の常務委員は金正恩と崔龍海の二人だ。

◯張成沢の事案が朝鮮の経済路線に変化を及ぼす可能性
 朝鮮の経済政策、特に経済管理及び改善という調整は一人の高官の人事で変わるものではあり得ない。しかし、張成沢が経済分野を担当していたときに、いくつかの中朝間の経済協力案件を自ら担当していたことは事実で、張成沢の罪状に関する公の文書の中でもいくつかの事例に言及している。したがって、総じて言えば、対中経済協力関係を含む朝鮮の経済政策という大きな方向での政策が一人の人物が失脚することで変わることはあり得ないが、張成沢の罪状の中で触れられた個々の案件については政治的な不確実性が増すことは避けられないだろう。しかし、これらは個別の案件であり、大きな方向としては、朝鮮にとってよりよい選択があるわけではないと考える。つまり、さらに体制の改善と調整を進め、市場メカニズムをさらに導入し、対外開放を拡大することより優れた政策的選択肢はないので、経済政策の基本的方向性は変化がないだろう。

◯中朝関係の今後の方向性
 (本年1月から9月にかけての中朝貿易は約46.9億米ドルに達し、昨年同期比2億ドル増である、8月からは中国の対朝石油供給も再開された、本年2月から7月までは中国の対朝石油輸出はゼロだった、という紹介に対して)中朝関係は一人の人物が失脚したからとか、一人の人物が抜擢されたからとかによって影響を受けることはなく、中朝関係の発展にはその内在的な発展法則があり、朝鮮にとって中国は重要すぎる存在で、朝鮮としても中国との関係を良好に維持するために努力するという基本が影響を受けることはあり得ない。中朝関係にとっての目下の最大の障碍は朝鮮が核兵器を開発するという間違った政策を堅持していることだが、中国の朝鮮半島における2大戦略目標は、朝鮮半島の平和と安定を維持することと、朝鮮半島の非核化を絶対に実現するということだ。この2大目標はいわばコインの両面であり、いずれが欠けることがあってもならない。なぜならば、朝鮮半島の南北のいずれが核兵器を保有することがあっても、半島の真の平和と安定は実現しないからだ。逆に言うと、我々が朝鮮半島非核化の問題を実現するということは、朝鮮半島の平和と安定を実現するためであるのだ。
 以上の分析は若干悲観的だが、我々としては、平壌が中朝友好を維持することに十分な戦略的明晰さを持っていること、そして前の指導者である金正日の時代に確定した両国の経済貿易の配置を守ることが極めて重要であることを知っていることを願う。このほか、中国は中朝経済貿易協力において十分な主導権を持っているが、この点での振る舞いは抑制的であるべきで、原則堅持と朝鮮を尊重することとの間のバランスを注意深く図るべきである。
 中朝関係は安定的であるべきだ。なぜならば、北東アジアの戦略的配置は変わっておらず、中朝の利益関係も変わっていないからだ。張成沢処刑の影響の多くは朝鮮国内のものであるし、技術的なものだ。平壌がこの事件に伴う影響から如何に抜け出すかについては、畢竟するに、年若い指導者が向かい合うべき問題だ。

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