朝鮮内政(張成澤問題)と中国

2013.12.11

*12月8日の朝鮮中央通信が朝鮮国防委員会副委員長だった張成澤の役職解任と党除名に関する朝鮮労働党中央委員会政治局拡大会議の決定を発表したことに関し、翌日(9日)の定例記者会見で「この人事が北東アジア情勢にいかなる影響があるか」と記者に質問された中国外交部の洪磊スポークスマンは、「関係報道には留意している。これは朝鮮の内政事項だ。友好的隣国として、我々は朝鮮国家が安定し、経済発展し、人民が幸福であることを希望している。中国は今後も中朝の伝統的友好協力関係が前進するように力を尽くすだろう」と述べました。
 中国側の関心が高いことは、張成澤関連の報道が多いことに窺われます。特に12月10日付の新華社HPは、「朝鮮メディアにおける最近10年余の張成澤関連報道:かつては金正日に次ぐ地位だった」と題する記事を流し、朝鮮中央通信社、労働新聞などの記事に基づいて2000年以来の張成澤の動静を詳しく紹介しました。また同HPは同日付で、新華社の前平壌特派員で朝鮮問題専門家の高浩栄署名の「金正恩とりあえず勝利 闘争は終結からほど遠し」と題する文章を掲げました。同日付の中国新聞網は、開城工業団地における人員の出入管理をエレクトロニクス化する工事が予定どおり11日に起工することを報じ、「これまでのところ、朝鮮内部の状況は開城工業団地には及んでいない」とする韓国側関係者の発言を紹介しました。
 私が特に刮目したのは、同じく12月10日付の環球時報(人民日報系列)が「朝鮮の安定は中国の利益に合致する」と題する社評を掲げたことです。中国の関心の高さをこれ以上反映しているものはないと言えるでしょう。また、その内容もとても興味深いもので、中国の対朝鮮政策の所在を窺う上で示唆に富みます。人民日報日本語版では今のところ訳出していませんので、その内容を紹介します(強調は浅井)。
私がこの文章で特に注目したのは次の諸点です。
◯朝鮮のユニークな戦略的力(「少ない元手で大きな取引をする力」)を冷静に位置づけていること
◯中国外交の資産・テコとして朝鮮を重視しているという認識表明を明らかにしたこと
◯朝鮮の非核化と中朝友好とのバランス維持という立場を2度にわたって繰り返したこと(崔龍海特使訪中までは失われていたバランス感覚。非核化を至上課題とする米日韓に対する強烈な牽制が込められています。)
◯朝鮮内政に介入する能力も意思もないと明確にしたこと(これも、中国の対朝プレッシャーを要求するアメリカに対する強烈なメッセージ)
◯対朝援助は中国の国益に基づくものと明確に位置づけたこと(決して過去からの止むを得ない継続ということではなく、中国の国益に合致していると積極的に位置づけたということは、今後も対朝援助を行うという意思表明でもあります。)
◯金正恩が動きやすい国際環境・条件をつくり出す必要性を強調していること(これも朝鮮に対して強硬一点ばりである米日韓に対する強烈な牽制のメッセージ)
◯金正恩に対して早期の訪中を促したこと(このようなアケスケの対朝意思表示は管見では初めて)(12月11日記)。

 朝鮮労働党中央政治局は8日、張成澤のすべての職務を解き、彼を党から除名すると公表した。張成澤は「反党反革命の分派活動」を行ったと指摘されたが、朝鮮のNo.2と目され、金正恩の叔父であることから、朝鮮の8日の発表は朝鮮における重大な政治事件であると見なされる。
 最近においては中日間の争いが北東アジアの焦点となり、韓国は中米日の間で揺れ動いていることが明らか(浅井注:朴槿恵に対する期待が大きかった中国の失望感がにじみ出ています)で、中国メディアにおける朝鮮に関する報道は多くはなかった。しかし、北東アジア地縁政治における朝鮮の特別なステータスには変化がない。朝鮮はこの地域において相対的に弱小な国家であるが、同時に独特の戦略的な力、即ち少ない元手で大きな取引をする力を備えている。朝鮮はしばしばアジア太平洋(APR)において「姿を消す」が、また突然に、朝鮮を無視することは誤りであることを強力に証明するパワーでもある。
 中朝関係は朝鮮にとって極めて重要であるのみならず、中国にとっての戦略的資源でもある。中国が強大になるに従い、中国の外交的テコはますます多くなっているが、中朝友好がAPRにおいて有する力は、今日に至るもその代わりとなるものはない
 中朝友好関係を維持することは中国の対朝思考における主軸であるべきであり、朝鮮に非核化を促すことは両国友好と最大限にマッチさせるべきである中国の社会は、朝鮮が自分自身の方法で繁栄と安定に向かうことを願っており、中国人は中国が朝鮮の内政に介入する能力があるとは考えておらず、多くの人はそうする必要もないと考えている
 中国と朝鮮は、かなり前から異なる国家発展の道を歩むことになり、両国間には基本的に政治及び経済的な比較可能性はなく、世界的に見ても中朝両国をこのように比較するものはほとんどない。そのようなことをするのは恐らく中国のネットだけだ。彼らは朝鮮を罵ることを装いながら中国に対する鬱憤を晴らしている。しかし、これらの罵声は泡沫とも呼べない代物で、個別の泡であり、現れた次の瞬間には消えて失せる。
 中朝友好及び中国の対朝援助の出発点は中国の国益であり、これは中国とパキスタンの友好及び中国の対パキスタン援助と性格が似通っている面がある。中朝関係をイデオロギーの立場で理解するものがいるが、そういう人たちは古い時代に生きているのだ中国は朝鮮の内政問題に対して「道義的な責任」を負うべきだと考えるものもいるが、彼らは無知であるか、さもなければ確信犯的な普遍的価値の信奉者だ
 金正恩は年が若く、その若さは朝鮮にとって決定的な政治的資源としてこの国家を将来に向かって推し進める可能性がある外部世界は、朝鮮が東アジアに仲間入りするように発展するべく積極的に条件をつくり出し、朝鮮にとっての戦略的選択の余地を可能な限り広くするべきであり、依然として敏感な国家を対立の道に追いやるべきではない
 中国は朝鮮に対して特殊な影響力を持っている国家だが、朝鮮の核兵器開発は中国に対して大きな難題を提起している対朝友好とその核兵器開発に反対することとの間でいかにバランスを取るかということは、中国外交にとっての試練である。しかし、北東アジアの複雑な情勢における中国の全体としての主動性は増しつつあり、このことは朝鮮の非核化及び中朝関係の維持においても例外ではない
 中国及び朝鮮は、金正恩が早期に中国を訪問するための条件を積極的につくり出すべきであり、朝鮮側は特にそうする必要があるそのことは、朝鮮の長期的安定及び中朝が友好関係をいっそう発展する上でカギとなる意義を持つだろう

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