中国の防空識別圏設定

2013.12.09

*11月23日に中国政府が防空識別圏設定を発表してから、日本では中国バッシングの論調であふれかえる状況がまたもや社会全体を覆うことになりました。ちなみに、12月1日付の『しんぶん赤旗』を流し読みしていましたら、共産党の志位和夫委員長がBS日テレの番組で「これは許すわけにはいきません。日本が実効支配しているところを、中国が力で実効支配を弱めるということは、国際社会では絶対に許されないことです」と発言したことを知りました。感情に押し流されて判断を誤ることは厳禁です。特に中国の今回の行動に対しては冷静な判断が求められると思いますし、中国側の立場・主張もよくわきまえる必要があると思います。
 この問題についての私の基本的な認識・判断は以下の数点に要約できます。
◯中国の防空識別圏設定は、尖閣国有化に端を発する安倍政権の強硬な対中政策に対する対抗措置であること(安倍政権の対中政策が原因であること)
◯中国としては尖閣をカバーする日本の防空識別圏に対抗するために釣魚島を防空識別圏に含めることが目的だが、防空識別圏の性格上、広範な空域を対象にすることになり、しかも下記のとおり中国政府の発表内容が荒っぽいものだったために、安倍政権だけでなく、アメリカ政府も強硬に反発するなどの波紋を呼ぶ結果になってしまったこと(もっと周到な「根回し」をしていたならば、安倍政権の激しい反発は不可避でも、アメリカ政府をはじめとする国際的な反応はもっと穏当だっただろう)
◯一連の日米の対応から確認されるのは、今回の問題を「中国脅威」論の格好の材料として改憲(第9条の解釈改憲)・軍拡正当化を目指す安倍政権と、戦略的に米中関係を重視し、今回の問題を大事にしたくないオバマ政権との思惑・戦略の違いがますます浮き彫りになっていること
◯そういう意味では、外交的には中国の勝ちで、安倍政権は煮え湯を飲まされる結果になっていること
なお、長らく「コラム」をお休みしていましたが、集団的自衛権の単著原稿はなんとか脱稿し、今は書店の手に渡りました。順調にいけば2014年1月末には出版される予定で進んでいます。ということで、「コラム」執筆もボチボチ再開しますので、またごひいきにお願いいたします(12月9日記)。

1.中国政府発表内容

<中国政府発表と国防省スポークスマンの発言内容>
 11月23日の中国政府の防空識別圏設定に関する発表及びこのことに関する国防部の楊宇軍スポークスマンの対記者回答に接した時、私が注意を引きつけられたのは以下の2点でした。
○防空識別圏で飛行する航空機に対して、飛行計画等の識別を通報すべきであるとし、それらの識別に協力しないあるいは(中国側の)指令に従わない航空機に対しては、中国の武装力は防禦的緊急対処の措置を取るであろうとしたこと(発表)。
○海上方向から来る空中の脅威及び不明飛行物に対しては、中国はそれぞれの状況に応じて適時に識別、監視、管制及び対処などの措置によって対応するとし、関係方面が積極的に協力することによって飛行の安全を共同して守ることを希望するとしたこと(回答)。
 実は回答においては、その後も繰り返し強調される次の諸点もすでに明らかにされていましたが、私は上記2点に関心が奪われて見逃してしまったことを白状します。
◯防空識別圏は、沿海国が空中から来ることがあり得る脅威を防止するために、領空外に設定する空域の範囲であり、その目的は国家主権及び領土領空の安全を防衛し、空中の飛行秩序を守ることにあり、特定の国家及び対象を狙い撃ちするものではないこと
◯防空識別圏は、1950年以降、大国及び中国隣接国を含む20数カ国が設定しており、中国(の今回の措置)は、国連憲章その他の国際法及び国際慣行に従ったものであること
◯中国は各国が国際法上享有する飛行の自由を一貫して尊重しており、防空識別圏の設定は関係空域の法的性格を変更するものではなく、国際路線の識別圏での正常な飛行活動はいかなる影響も受けないこと(強調は浅井。以下同じ)
◯識別圏の範囲は、国家の防空上の必要及び空中の飛行秩序維持の必要に基づいて設定しており、その最東端(本土から130キロ)は、航空機の識別、意図及び属性について判断し、対応措置を取るために必要な時間を確保するという観点で決められていること(注)
(注)この点について12月5日付の新華社資料「防空識別圏秘密解明」は、「2010年5月に日本は防空識別圏を中国側に拡張し、中国大陸からわずか130キロまで押し広げた」と述べています。
防衛省HPをチェックしますと、平成22年(2010年)6月24日付で「与那国島上空の防空識別圏の見直しについて」が掲載されており、「与那国島上空の我が国の防空識別圏の見直しについて検討した結果、沖縄県民及び与那国町民の方々が安心して生活できるよう、今般見直しを行うこととした」として、同年6月25日施行で、「与那国島西側の我が国領空及びその外側2海里について、我が国の防空識別圏に含める」としています。

<私のとっさの反応>
 正直言って、私が上記発表及び回答を読んだ時は、「識別に協力しないあるいは(中国側の)指令に従わない航空機に対しては、中国の武装力は防禦的緊急処置の措置を取る」というくだりに目が釘付けになりました。「特定の国家を狙い撃ちにするものではない」というくだりはあるにせよ、2010年以来の尖閣空海域での日中間の緊張の高まりを背景とする時、また特に、小野寺防衛相が中国の無人機撃墜などの無責任極まる発言を繰り返している状況を踏まえる時、中国の防空識別圏設定が日本に対する強硬な対抗措置であることは明らかだと思いました。
ちなみに、この判断が誤りではないことは、その後同スポークスマンが、識別圏撤廃を求める日本政府の要求に対して、まずは日本が撤廃しろ、そうしたら中国も44年後、つまり日本が識別圏を設定している期間を満たすのを待って撤廃してもいいとした発言で分かります。
また、12月4日に国防部の耿雁生スポークスマンは、東海識別圏公表以来、誤解誤読更には歪曲があるので若干の問題について説明すると前置きして談話を発表したのですが、その中で次のように述べて、今回の識別圏設定が日本の行動に対する対抗措置であることを事実上認めました。

「昨年(2012年)9月以来、日本は領土問題で不断に事件を引き起こし、いわゆる「島購入」という茶番を演じ、艦船や航空機を頻繁に出動させて中国の正常な演習訓練活動を妨害し、中国の無人機を撃墜するなどの言論を公にし、中国が脅威だとわめき散らし、地域の緊張を激化させ、改憲と軍拡のための口実とし、第二次世界大戦の成果を否定しようとし、カイロ宣言及びポツダム宣言の執行を拒否した。こうした行為は中国の合法的権益及び安全保障の利益を深刻に損ない、東アジアの平和と安定を損なったので、中国としては必要な反応をせざるを得なくなった。」

 私がとっさにヤバいと思ったのは、日中双方が互いにスクランブルをかけることになって軍事衝突の危険性が格段に高まるのではないかということ、そして日本の航空会社が日本政府の圧力を受けて中国に飛行計画を提出しないことによって緊張が高まるのではないかということでした。
 したがって私のとりあえずの判断は次の2点でした。
基本的には、中国防空識別圏を設定することについては、①国際法上の特段の制限はないこと、②アメリカや日本も先刻やっていること、③特に日本の場合は日中の中間線を大幅に超えて中国側に張り出して識別圏を設定しており、中国に対してのみその撤廃を要求する正当性は主張できないこと、また、④日本側の度重なる対中強硬言動が中国の今回の識別圏設定という政策を導いたこと(因果関係において日本が責任を負うべきこと)などに基づけば、中国の行動に非はない。
しかし、①中国の識別圏設定は必ず安倍政権によって悪用されること(「中国脅威」論、したがって中国叩きの格好の材料とされ、自らがエスカレートさせている軍事対決をますます正当化し、第9条の解釈改憲を正当化する材料に使われること)、②中国に対する対応において日米間に温度差がある状況のもとでの中国の識別圏設定はアメリカの対中姿勢を硬化させ、日本にとっては漁夫の利を得る結果となるから、今のタイミングでの識別圏設定発表は中国にとってお荷物になり、対外的に受け身的立場に立たされるのではないか。<

2.その後の事態の展開と推移

 私が憂慮した点をはじめとする問題点に関して、中国メディアの報道に基づいて現在までの事態の展開と推移を見てみますと、次のようになります。結論を先に言えば、私が憂慮した最初の点(安倍政権による悪用)は図星、しかし、後の点(アメリカを日本支持に追いやる)は外れでした。また、民間航空会社に対する飛行計画提出要求に関する中国政府の発表内容についての私の第一印象は的外れではなく、中国政府はその後対応・後始末に追われる結果になりました。この点では、中国政府のやり方は荒っぽすぎたという批判は免れないと思います。

<日中>
 中国の識別圏設定発表に対して日本政府が激しく反発したことについて質問された国防部の楊宇軍スポークスマンは11月24日、60年代に識別圏を設定している日本が中国の設定に対してあれこれ言える立場ではないと退けた上で、「近年日本は自国の識別圏に中国が侵入していることを理由にして、自衛隊機を頻繁に出動させて中国軍機の正常な訓練、巡邏活動を警戒監視し、その飛行の自由を深刻に妨害し、事故及び偶発事件が極めて引き起こされやすくなっているのみならず、メディアの悪意に満ちた報道を利用して日中間に対決感情を作っている。地域の緊張した情勢を作り出しているのは日本自身だ」と指摘しました。
 翌11月25日には、外交部部長助理の鄭澤光が木寺大使に対して日本の非難に対して厳重な抗議を提起するとともに、釣魚島は中国の領土である以上、中国の防空識別圏がこの地域をカバーするのは当然なことであり、日本側がシノコノ言う権利はないと指摘しました。また同日定例記者会見を行った秦剛スポークスマンは、中国の防空識別圏設定が中日間の緊張をさらにエスカレートさせるのではないか、という質問に答え、「この地域の緊張をつくり出したのは中国ではない」、「現在の釣魚島の緊張状態はひとえに日本側の間違った行動が引き起こした」と述べました。
 11月28日に国防部の楊宇軍スポークスマンは定例記者会見の席上、記者の質問に答えて、要旨次のように述べました。

 日本側が中国の一方的な現状変更は「不測の事態」を招きかねない危険な行為だとしている点について:日本は一貫して他人ばかりを難詰し、泥を塗る国であり、自分の行いについては反省したことがない。現状を一方的に変更したのは誰だ。地域の緊張を激化させているのは誰だ。矛盾を不断に激化させているのは誰か。地域の安全を破壊しているのは誰なのか。(11月29日の中国外交部の定例記者会見で秦剛スポ-クスマンは、「日本は「自分は放火してもよいが、他人には火をともすことも許さない」だけでなく、至るところで放火を煽っているというのは明らかに下心あってのものだ」と同じ趣旨を述べました)。
◯日本側が識別圏を撤廃することを要求していることについて:撤廃しろというのであれば、まずは日本が防空識別圏を撤廃することを求め、中国としては44年後に(撤廃について)考慮してもいい。
◯日本と中国の防空識別圏が重なる部分についての扱いについて:双方が意思疎通を強化して飛行の安全を共同で守るべきだ(11月29日の中国外交部の定例記者会見で秦剛スポークスマンも同じ発言)。
◯日本が軍用機を飛ばす場合の対応について:防空識別圏内の脅威及び不明飛行物体に対しては、それぞれの状況に応じて適時に識別、監視、管制及び措置を取って対応する。具体的にいかなる措置を取るかに関しては、その時の具体的状況及び直面する脅威の程度に応じて決めることになる。強調する必要があることは、防空識別圏に進入する各国の航空機に対しては適時に識別を行い、その状況については全面的に把握しているということだ。

<米中>
 中国の識別圏設定に対してアメリカは、ホワイトハウス、国務省及び国防省がこもごも批判し、ヘーゲル国防長官は尖閣に日米安保条約が適用されるという立場を再確認しましたが、この点について質問された国防部の楊宇軍スポークスマンは11月24日、尖閣問題に関する中国の原則的立場を確認した上で、「現在の尖閣情勢はもっぱら日本側の間違った行動によってつくり出されたものであり、アメリカは尖閣主権問題ではいずれの立場にも立たず、不当な言論を二度と発表せず、日本の冒険主義を助長させる誤ったシグナルを出すべきではない」と警告しました。
 しかしアメリカは、11月26日に2機のB-52 を「中国の防空識別圏東端地域を南北に飛行」(中国国防部)させて、同識別圏設定を無視する姿勢を具体的行動で示しました。そしてヘーゲル国防長官は翌27日に小野寺五典防衛相と電話会談を行い、中国の防空識別圏設定によって米軍の行動に変化はあり得ないこと、米軍は飛行活動をルーティンどおりに行うこと、日米安保条約第5条は尖閣に適用があるという立場を堅持すること、日米が緊密に協議して思いがけない事件が発生することを回避することなどを明らかにしましたが、11月28日付の中国新聞網は以上の事実関係をそのまま伝えました。
 アメリカのこの「故意に中国の識別圏の存在を無視する」(11月28日付環球時報社評の表現)行動に対して中国国防部スポークスマンが11月27日に示した反応は、「中国がB-52の飛行をすべて把握し、米軍機の識別も機を逸せず行った」、したがって防空識別圏はすでに機能しているというものでした。
しかし、以下に述べる日本航空会社の対応(日本政府の働きかけで対中通報をやめたこと)と合わせ、中国外交部スポークスマンの定例記者会見では、中国は「張り子の虎ではないか」という冷やかしの発言が出る有様で、上記環球時報社評も「世界メディアの当初の報道ぶり及び中国国内のネット上の反応から見ると、アメリカは今回の行動で世論上優位に立ち、中国は受け身に回った」と認めざるを得ませんでした。また、中国戦略文化促進会常務副会長兼秘書長の羅援は、「識別圏設定の3日後にアメリカがB-52戦略爆撃機を飛ばせて「対抗」したということは「中国にとって屈辱であり、我々はこの事態を直視し、よく考えなければならない」と述べたほどです(11月30日付環球時報所掲文章)。
 しかし、バイデン副大統領が訪日中に取った言動は中国を安堵させるものでした。12月5日の中国新聞網は、要旨次のようにバイデン訪日について報道しました。

 「中国の防空識別圏の問題について、バイデンと安倍との「呼吸の不一致」及び日本政府の対米期待値との比較における(日米間の)落差は非常に大きかった。3日に行われた共同記者会見では、防空識別圏問題には一言の言及もなかった。共同記者会見の終わり近くになって、安倍がこの問題について「中国が一方的に現状を変更しようとするやり方は受け入れられない。日米同盟に基づいてこの問題に関する緊密な協力を行うことを希望する」と述べたが、バイデンは「現状を変更するやり方には同意せず、この問題では米日が同一歩調を取る」と繰り返しただけだった。ジャパン・タイムズによれば、バイデンとの会談後の安倍の表情は重々しいものだったという。安倍はこの問題で日米が(4つの)共通認識を達成したと誇らしげに述べたが、バイデンは安倍の提起した3つのカギとなる要求を拒絶した。
 まず、日本政府が提起した共同声明発表の要求を拒絶した。次に、日本が主張する「中国は識別圏を撤廃するべきだ」という要求にアメリカが賛同することを拒絶し、最終的には、あいまいな「黙認できない」という表現で日米の「一致した立場」を表明しただけだった。第三に、民間航空会社が中国政府に飛行計画を提出するという要求を阻止することについて、日米両政府が統一した立場を取ることを拒絶した。双方の折衝の結果、この問題については、「中国が民間航空機の飛行の安全に対して脅威となることを容認しない」という表現に留まった。
 バイデンと安倍との「呼吸の不一致」及び日本政府の対米期待値との比較における落差が非常に大きかったことは、日本政界の不安を引き越し、日本政府関係者は、「アメリカは中日間の調停者になることしか考えておらず、確固として日本と一緒に努力するという立場ではない」と述べた。バイデンが12月3日付の朝日新聞との書面インタビューで、日中間で早急に危機管理システムを作ることを希望した点について、日本のメディアは、バイデンの今回のアジア歴訪の重点は係争の仲裁人となることだと解釈している。」

 12月4日にアメリカ国務省スポークスマンは、バイデン訪中について、東海防空識別圏はバイデン訪中の議題の一つであるに過ぎず、米中は非常に多くのテーマで協力していると述べ、アメリカは米中関係の長期的見通しについて積極的である、双方は両国指導者が本年カリフォルニアで行った素晴らしい会談を基礎にして米中関係を推進すると述べました。
 アメリカがこのような態度であることの背景事情の一つとして、復旦大学国際問題研究員副院長の沈丁立は、2001年に南海(南シナ海)で起こった米中機空中衝突事件が米中間でも日中間でも再び起こることを望んでいないという事情があることを指摘しました(12月5日付新華社HP記事)。
同日付の中国新聞網記事はまた、アメリカがとらえどころのない対応を行って日本が落ち着かない境地に陥っている原因として、オバマ政権のアジアでのリバランスという戦略と安倍政権の普通の国家実現という戦略とが「相性が悪い」ことを挙げ、要旨次のように述べています。

まず、アメリカが日米安保条約第5条は釣魚島に適用があると繰り返し述べていることの意味を「日本支持」と解釈するとしたら間違っているのであって、アメリカの目的は「日中双方が強制的な行動ですでに確定した状況を変えることに反対する」ことにある。
次に、自衛隊を国防軍にし、平和憲法を改正することは安倍政権の政治的宿願であるにとどまらず、自民党の2013年行動計画でもあり、仮に東海情勢で波風が立たないとするといかなる理由をもってこの目標を実現できるだろうか。中国の防空識別圏設定に日本が強烈に反応しているのは正にこのためにほかならない(12月4日の定例記者会見で、中国外交部の洪磊スポークスマンは、中国脅威を宣伝して改憲軍拡の口実にしていると述べて、この記事の見方が公式見解でもあることを事実上確認)。
しかし、本年6月13日にオバマが安倍に電話した際、「東海の安定を確保し、対話を追求することの重要性」を強調し、7月25日にバイデンがシンガポールで安倍と会談した際に「関係国は緊張した情勢を緩和するために必要な措置を取るべきだ」と述べたのは同じメッセージであり、「APR情勢の安定維持」はアメリカの「リバランス戦略」の主要な目標であるということだ。

12月5日付の北京晨報で中国人民大学国際関係学院副院長の金燦栄は、日米の対処が違う原因について、要旨次のように分析しました。

「アメリカが(日本と違う)対処をするのは極めて自然なことだ。アメリカと日本とは立場が異なり、アメリカはグローバル的布石を考える必要から日本と中国との間でバランスを保とうとしており、日本がアメリカを縛ろうと考えてもできるはずがないのであって、アメリカは戦略的にやはり冷静だ。
アメリカは政治上、中国が東海に識別圏を設定することには反対だ。以前はアメリカが東アジアでルールを定めていたのが、今や中国がルールを定めはじめており、アメリカとしては(こういう新しい状況に)なじめず、頭に来ているのだ。
軍事的にもアメリカは(中国の識別圏設定を)承認しない。中国の行為はアメリカの軍事的な自由度を縮めるからだ。防空識別圏があることにより、アメリカが接近して行う偵察に対する中国の対抗措置は間違いなく強化されるから、アメリカは圧力を感じるだろう。
他方でアメリカが民間航空機の対中通報を認めるのは経済上の考慮によるもので、ここではアメリカは実利主義で、政治経済と軍事とを分けている。
日本が政治、経済、軍事を一括りにする「単細胞」なのに対して、アメリカは識別圏を「承認しない」と言い、「撤廃」しろと要求しないところが理性的なところだ。」

12月6日付の人民日報海外版で中国国際問題研究所の賈秀東特別研究員は、「日本は往々にして米中関係のことが理解できない」と題する文章の中で、米中関係の大枠のもとで識別圏問題を位置づけて次のように述べました。

「中米関係は世界でもっとも重要な二国間関係であると同時に、もっとも複雑な関係でもある。このような関係を安定的に発展させようとする時には万事めでたしめでたしということではないし、問題が山積みになったからといってもう手の打ちようがないということでもない。東海防空識別圏をめぐって波風が立つということは、中国にとっては理にかなった合法的なことであっても、アメリカはやはり一時的に適応できないということだ。しかし、一定の時間を経て意思疎通更には駆け引きが行われることにより、問題が解決しなくてもコントロールできるようになり、日本などの第三者によって左右されることはない。これこそが中米関係の成熟度を示すものなのだ。」

同じ12月6日付の中国網で光潜署名文章は、アメリカが中国の識別圏設定を承認しないとしながら航空会社に対して中国の報告要求に従うよう希望したことは、アメリカが釣魚島問題で日本を支持する際のボトム・ラインについて、「アメリカは、中国と直接軍事対決する(日本の)戦車に引っ張り上げられることはあり得ない」ということについてさらに認識を深めることができた、と指摘しました。
少し時系列が乱れますが、12月4日にヘーゲル国防長官が記者会見で行った発言はさらに中国で好意的に受けとめられました。12月5日付中国日報HPによれば、ヘーゲルは、中国が設定した防空識別圏設定は別に「新しいこと」ではなく、緊張する必要はないのであって、日韓は自制してこの問題にこだわるべきではない、と述べました。
他方、12月7日付新華社HP記事において中国社会科学院日本研究所副所長の楊伯江は、次のように述べて、今回の日米の対応の違いへの楽観を戒め、今後の日本の動きに警戒する必要があることを次のように指摘しています。

「バイデンの態度表明から見れば、アメリカは東海識別圏の問題で基本的にバランス感覚を示しており、同盟国・日本を支持する姿勢を明確にするとともに、日本と実質的に統一歩調を取ることを回避した。日本としてはアメリカがここぞという時に頼りになるかということに疑心暗鬼だったわけで、防空識別圏問題で立場が食い違ったことは日本の危機感を強めるだろう日本としては今後戦略的に独立して行動する能力を強化しようとして、日米同盟を「口実」にして自国の軍事力を増強するだろう。」

<民間航空機>
中国国防部国際マスメディア局の孟彦及び周勇は11月25日付人民日報所掲「防ぐ相手は隙を窺う(連中)で、守るのは安全である」と題する文章で、次のように述べました。11月23日の当初の中国政府発表または国防部スポークスマンの回答において、民間航空機の飛行に関する以下の点がもっと明確かつ強調的に示されていたのであれば、外部の反響・反応はもっと冷静であっただろうと思われます。

 「防空識別圏内においては、航空機に対して国籍、方位、飛行計画等についての情報を要求することによって適時に識別、監視及び処置を行うだけであり、国際法に基づく飛行の自由を制限するものではない。わが国が設定する東シナ海に防空識別圏もこの原則を遵守し、識別圏に進入する航空機の飛行活動を誘導し、誤断を減らし、摩擦を避け、飛行の秩序及び安全をさらに確保しようとするものである。
 したがって、正常な飛行活動はこの識別圏の有無によって影響を受けない。しかし、わが国の領土に対して隙を窺う挑発的飛行、偵察活動及び危険な行動等に関しては話が別であり、今回の防空識別圏を設定することにより法に基づいて対処する。」

 11月25日付中国新聞網は、ジャパン・タイムズHPの報道として、日航及び全日空が同日、飛行計画書(日台間の路線を含む)を中国政府に提出することを決定したと報道しました。これに対して菅官房長官は翌11月26日に、日本の航空会社に対して、中国が設定した防空識別圏は「わが国に対していかなる効力もない」として、航空会社がこれまでの規則に基づいて対処するように要求しました(11月26日付人民日報HP)。また、自民党の外交防衛合同部会が同日開催され、日航と全日空が中国に飛行計画を提出したことに批判が相次ぎました(同日付環球時報HP)。その結果、日本の航空各社は、11月27日以降は中国に飛行計画を提出しないことを表明しました(11月27日付人民日報HP)。
 冒頭に私が述べた「とっさの反応」が私の誤った受けとめ方ではなかったことは、11月26日に中国外交部の秦剛スポークスマンと記者とのやりとりで確認できます。即ち、ある記者が「外国の民間航空機が中国の発表した規則を守らない場合に、中国が武力的対応をすることはないか」と質問したのです。これに対して秦剛は、「この数日来、我々は中国の立場を完全かつ全面的に明らかにしてきた。あなたが提起した具体的な問題に関しては「中華人民共和国東海防空識別圏航空機識別規則公告」に明確な規定がある。中国はまた、外国の国際フライトが東海識別圏を正常に飛行する活動についてはいかなる影響も受けないことを明確に明らかにしている」と回答しました。また、すでに紹介した11月28日の国防部定例記者会見でも同じ趣旨の質問が出され、楊宇軍スポークスマンは、「国際フライトの正常な飛行活動についてはいかなる影響も受けない」と答えました。
 こうした中国の後始末が功を奏したのでしょう。12月3日及び5日に中国外交部の洪磊スポークスマンは、記者の質問に答えて、19ヵ国及び3地域の55の航空会社が飛行計画を提出していると明らかにしました。
 前後しますが、局面は11月29日に大きく動きました。即ち国務省は同日、アメリカの航空会社に対して、中国の要求を尊重して中国の防空識別圏を経由する時に求められている通報を行うことを「提案」しました。アメリカ政府としては、外国政府が制定した飛行に関する政策に対しては「国際路線を運行するアメリカの航空会社が常に遵守することを期待する」というのです(12月2日付新華社電)。そしてユナイテッド、アメリカン及びデルタの3社は翌日(30日)、中国の要求に応じるようにという「アメリカ政府の提案に従い」、中国に対して飛行計画の通報を開始したことを明らかにしました(12月1日付中国新聞網)。
 12月2日に中国外交部の洪磊スポークスマンは、日本政府とアメリカ政府の異なる対応について聞かれ、「アメリカを含む関係国の航空会社は中国関係当局に対して飛行計画を通報し、中国側と共同して東海空域における航空秩序と安全を守る建設的態度と協力の意思を表しており、我々はこのことを評価している。他方で日本は故意に問題を政治化し、両国間の民間航空分野の正常な協力に不利なことをしている。日本が悪意に基づく騒ぎをやめ、責任ある態度で中国側と協力し、東海空域の飛行秩序と安全を共同で守ることを促す」と答えました。
 識別圏を飛行するけれども領空には進入しない民間機にも飛行計画の提出を求める中国政府の方針は妥当かという質問に対し、12月3日に洪磊スポークスマンは、「中国が事前に飛行計画の通報を求めるやり方はカナダ、インド、タイ、韓国の先例があり、中国だけではない。東海空域は非常に混み合っているので、飛行計画の提出を求めるのは中国の領土領空の安全を守るためであると同時に、同空域での飛行秩序と安全をよりよく守るためでもある」と答えました。

<中韓防空識別圏の重複問題>
 韓国連合通信社によれば、中国の設定した防空識別圏は、済州島西側上空及び蘇岩礁(韓国名:於離島。国際的呼称:Socotra Rock)上空について韓国が設定した防空識別圏と重なるそうです。韓国国防部は11月24日に遺憾を表明し、韓国駐在の中国武官に対してその立場を伝えました。また韓国外交部も11月25日、中国大使館に対してその点について遺憾を表明しました。
 しかし同じく韓国連合通信社によれば、11月27日に韓国外交部の趙泰永スポークスマンは定例記者会見の席上、於離島の国際法上のステータスに関し、これは水中の暗礁であって領土ではなく、排他的経済水域(EEZ)にのみかかわる事項であり、中国による防空識別圏設定は韓国が於離島を利用することに対していかなる影響も及ぼさない、と述べました。
 以上を報道した11月27日付中国新聞網は、蘇岩礁が中韓の主張するEEZとして重なる地域内にあり、中国は、双方の交渉によってその帰属を解決するべきであり、解決するまでは双方が一方的な行動を取るべきではないという立場であることを紹介しています。同時に、同暗礁については領土問題は存在せず、中韓間に領土紛争は存在しないことについて中韓間で共通の認識があるとも紹介しています。
 韓国が防空識別圏の範囲を広げる動きがあるという報道について、中国外交部の洪磊スポークスマンは12月2日、「関連報道には留意しており、この問題については今後韓国側と意思疎通を図るつもりだ」と述べました。また同月6日にも、「韓国が防空識別圏を拡大するに当たっては国際法及び国際慣行に合致するべきであり、中国は平等及び相互尊重の原則に基づいて韓国と意思疎通を保つ」と述べました。
 韓国国防部は12月8日に、62年ぶり(1951年3月にアメリカ太平洋空軍が設定したもの)に防空識別圏を拡大すること(15日発効)を正式に発表しました。韓国国防部は事前に国防及び外交ルートを通じて米駐日等に詳細な説明を行ったと述べました。同日付の中国新聞網は、この識別圏の範囲は国際民間航空機関(ICAO)が定めている韓国の飛行情報区域(FIR)と完全に一致している(蘇岩礁、馬羅島、紅島を含む)ことを紹介しています。アメリカ国務省のプサキ(Psaki)スポークスマンは12月8日、アメリカは、あらかじめ米中日と協議した後に今回の決定を行った韓国の責任ある慎重なやり方を賞讃すると発言しました(浅井注:そういうやり方を踏まえなかった中国に関しては別の対応を行うという意味が込められています)。

3.中国の立場・主張・認識

<中国の防空識別圏設定は止むを得ざる措置である>
 中国の今回の防空識別圏設定が本質的に日本に対する対抗措置であることはすでに述べたとおりですが、11月26日付環球時報所掲の羅援(中国戦略文化促進会常務副会長兼秘書長)文章「識別圏は防火壁であり、免震ダンパーである」は、次のように指摘しています。

 「防空識別圏の設定は情勢に迫られた、実に止むを得ざる行動である。日本は自らの防空識別圏で警告弾を発射すると揚言し、日本領空(釣魚島を含むことに注意)に侵入する無人機を撃墜するとし、西太平洋に向けて航行する中国艦船に対して宮古海峡付近に対艦ミサイルを配置し、わが軍用機及び海上警備機に対して頻繁に戦闘機を出動させて妨害(今年度第2四半期だけでも、日本のF-15J戦闘機のスクランブル回数は去年同期の15回に対して69回に上る)するなど、わが国が防空識別圏を設定しなければ何時叩かれるかという受け身の状態になっていた。」

<防空識別圏の設定は国際慣行として認められている>

 11月25日付の環球時報及び12月1日付新華社HP記事は、防空識別圏に関する解説を行っています。すでに述べたことと重複する内容もありますが、両記事をまとめて紹介します。
◯アメリカの発明物であること
 世界で最初の防空識別圏は北米のものだ。最初の識別圏は、1950年12月にトルーマン大統領が署名した行政命令に基づいて設定された。1950年代にはソ連の戦略爆撃機による北米大陸に対する脅威が日増しに増大した。そこでアメリカとカナダは北米大陸に防空識別圏を設定した。その後、大陸間弾道ミサイルの突出及びソ連解体によって北米防空識別圏の重要性は顕著に薄れたが、9.11事件以後再び重視されるようになった。
 アメリカ連邦航空管理局によれば、防空識別圏に進入する航空機は必ず無線で航空管制者に対して飛行計画、目的等の飛行の詳細を通報しなければならないとされているが、アメリカ海軍指揮官のマニュアル上では、防空識別圏はアメリカ領空に進入するコマーシャル・フライトに対してのみ適用されるとのことだ。
 アメリカの防空識別圏としては、北米のほかアラスカ、ハワイ及びグアムの計4識別圏がある。北米識別圏はさらに太平洋沿岸、南部境界、メキシコ湾沿岸及び大西洋沿岸の4分区に分けられている。9.11事件以後ワシントン特別区にも設定された。
◯20ヵ国以上が設定していること
 アメリカとカナダが設定した後、オーストラリア、韓国、日本(注1)、インドなど20数カ国(注2)が防空識別圏を設定した。専門家によれば、識別圏設定の区域に関する国際的に統一された規定はなく、主として自国の必要及び能力に基づいて設定される。必要という観点からは、遠距離であればあるほどよく、それによって防空識別の時間がより多く確保される。しかし自国の能力も考える必要がある。遠距離にまで設定する結果コントロールできないとなれば設定する意味が失われるからだ。
(注1)11月26日付の人民日報HPの記事は、日本の防空識別圏について次のように指摘しました。
 「日本は早くも1960年代から防空識別圏の設定を開始し、そのカバーする空域は台湾地域を含む中国の広範な海域を含んでいる。防衛省は2011年6月24日(浅井注:冒頭で紹介したように、日付は2010年6月24日)に、翌25日以後、西南諸島の防空識別圏の西側境界線が東経123度から与那国島以西の日本領空外側2カイリまで拡大するとし、防空識別圏の境界を一方的にわが国の排他的経済水域(EEZ)まで拡張(浙江省海岸からわずか130キロ)し、わが国航空機が沿海及び東シナ海のEEZ上空を正常飛行していても「侵入」と見なし、絶え間なく嫌がらせを行い、わが国の国防を深刻に脅かすようになった。」
(注2)11月26日付の人民日報HPの別の記事は、アメリカ、カナダ、フランス、ドイツ、イギリス、オーストラリア、ミヤンマー、韓国、キューバ、フィンランド、ギリシャ、インド、アイスランド、イタリア、日本、リビア、パナマ、フィリピン、タイ、トルコ、ヴェトナムの21ヵ国を挙げています。
◯識別圏設定に関する国際基準
 国際法学界においては、「防空識別圏」と国際法とは「相容れる」関係であり、その設定には法律上の障碍はないと普遍的に見なされている。国際法の基本原則に違反せず、他国の領土主権を侵犯せず、国際的に公認された飛行の自由に対して影響しない限り、主権国家は(設定の)決定を行う完全な権利を有する。これまでのところ、「防空識別圏」設定に関する統一基準は国際的に存在しない。各国の設定状況から判断すれば、地理的条件、防衛上の重点及び警備能力に基づいて設定していると判断される。
 アメリカの識別圏には海岸線から200カイリまで及ぶものがあり、カナダの場合は大西洋の識別圏は250カイリにまで及ぶ。国によっては領空から800キロにまで設定し、中には他国の領空にまで入り込んで設定しているものもいる。
 識別圏を設定した国家は、航空機を識別できずかつ脅威を感じた時は、戦闘機のスクランブル発進によって飛行を監視することができるが、自国領空に進入する以前には当該航空機に対して着陸を迫り、あるいは撃墜するなどの措置を取ることはできない。そのような行為は深刻な国際法違反である。
 しかしアメリカ政府は、沿海国の領空に進入する意図のない外国の航空機に対して当該沿海国が防空識別手続きを起動することを承認せず、同時にアメリカ領空に進入する意図がない外国航空機に対しても自国の航空識別手続きを起動していない。したがって、他国領空に進入する意図のないアメリカの軍用機は、アメリカ政府による別段の指示がない限り、当該他国の防空識別圏にあって相手側に対して自らの身分を確認することはなく、その手続きに従うこともない。防空識別圏の法律的効力に対する各国の認識は様々であるが、ほとんどの国家は黙認し、遵守しており、国際法が黙認する事実上の国際慣行となっている。

<日米の対中批判論点に対する反論>
 日米等が中国の防空識別圏設定に対する批判の主要な論点は、「中国の設定は一方的であり、したがって不法だ」、「地域の緊張を激化させる行為だ」、「識別圏設定の背景にある中国の軍事力増強は地域のバランス・オブ・パワー(BOP)を崩す」にまとめられるのですが、12月3日付の環球時報HP所掲の李学江(同紙カナダ駐在首席記者)文章は中国側の反論の所在を示すものです。
◯「中国の設定は一方的で、不法」?
 一体どこの国がほかの国または国際社会の同意を得た後に識別区を設定したというのだろう。アメリカは識別区を設定した最初の国だが、1950年に設定するに当たって誰の意見を聞いただろうか。日本は1969年にアメリカから識別圏を受け継ぎ、1972年と2010年に一方的に識別区を広げたが、いずれかの国の意見を聴取しただろうか。中国はこうした先例に従って事を行ったのだが、どうして日米等の同意がなければいけないのだろう。これが覇道の論理でなくして何であろうか。これこそが、中国の俗語にいう「役人は放火してもいいが、民には火をともすことも許さない」ということだ。
◯「地域の緊張を激化させる行為」?
 東海の緊張は日本政府が不法に釣魚島を買い上げたことで引き起こされたものであるというのに、日本政府は今に至るも釣魚島に主権紛争があることを認めようとしない。(日本の振る舞いは)自分が他人のものを盗んでおきながら、その他人が取り返そうとすると「ケンカをふっかけている」と大騒ぎする強盗のようなものだ。
◯「地域のBOPを崩す」?
 中国の軍事の現代化は地域のBOPを崩そうとしており、アメリカはアジア太平洋(APR)に回帰して、APRのリバランスを図る必要があると言われる。指摘しておく必要があるのは、APRの軍事力は未だかつて均衡したことはなく、アメリカは一貫して軍事的覇者として君臨しているということだ。アメリカのAPRの海空戦力は東アジアのすべての国々の海空兵力を合わせたものより優っている。しかもアメリカはまだ満足せず、「リバランス」を口実としてアメリカの解空軍力の2/3を西太平洋地域に配置しようとしている。これはリバランスという代物ではなく、絶対的優位を維持しようとするものだ。

<日米のアプローチにおける「温度差」>
 中国は、中国の防空識別圏設定に対する日米両政府の対応の仕方に重要な違いがあることに注目しています。12月2日付で環球時報HPに掲載された中国国際問題研究基金会アメリカ研究センターの呉祖栄執行主任「アメリカは目を覚ます時 日本の悪だくみに引き込まれることなかれ」は、要旨次のように指摘しました。

 「安倍政権の危険な傾向は日米同盟の隠れた災いとしてアメリカに対しても及び始めている。
 まず、安倍政権は国家安全保障会議、特別秘密保護法などによって権力集中にとっての障碍をなくすという目的を進めようとし、対外的には、アメリカに行動を共にするように誘い、中国に対して識別圏を取り消すことを要求し、ASEANと欧州諸国に対して安倍政権の中国対決の仲間に加わるように号令し、中国の平和的発展にありとあらゆる難癖をつけており、アジアの平和と安定を破壊するその激しい言辞はアメリカをはるかに上廻っている。日米両国が協力を強め、中国に共同で対抗するというスローガンのもとで、事細かく見てみると、両国の戦略においてまったく異なる考慮(で動いていること)が露呈している。
第一、日米の軍用機が中国の識別圏に入っている点だが、日本の場合は徹頭徹尾中国を挑発しているのに対し、アメリカの場合は実にあいまいなやり方であり、中国の顔色を窺いつつ、日中双方に警告を与え、B-52の飛行はルーティンのものだと言う。
第二、日米両政府の民間航空機に対する通報の仕方だが、日本政府は民間航空会社がすでに中国に通報をしたのにこれを止めろと言ったのに対し、アメリカは中国の規定を遵守するように要求した。
第三、日米両政府の態度表明の仕方だが、安倍政権では足並みの乱れがないのに対して、アメリカの国防省と国務省は口裏を合わせてはいるものの、その違いは明らかで、メディアでは日本に引っ張られてアメリカが日中の衝突に巻き込まれることを憂慮しはじめている。
次に、日本は実際の行動によって中国と対抗するリーダーたらんとしている。日米の煽動のもと、オーストラリア、フィリピン及び韓国は、同盟国としての立場から中国の識別圏設定に対してシノコノ言い、特にオーストラリアの反応は度が過ぎており、自分のやっていることが日本に取り入っているのかアメリカを喜ばせるのかも分からないまま、中豪関係を傷つけている。日本はさらにASEANと欧州諸国を動員して中国に圧力をかけると公言している。
第三に、アメリカは第二次大戦戦勝国としての立場を堅持してのみアジアの平和と安定に対して建設的な役割を担うことができるのに、この60年間におけるアメリカの対アジア政策はますますその立場を離れ、冷戦思考、権力政治、日米軍事同盟で一貫しており、アジアの平和と安定に対して禍根の種を植えている。
釣魚島問題では、アメリカが紛争をつくり出した張本人なのに、乱行や悪事を働き、口で言っていることと内心とが異なり、悪人を助けて悪事を働いており、その結果自らに大きな災いを招き、アジア及び世界に災難をもたらす主要な責任者となる可能性がある。
アメリカが目を覚まし、安倍政権に対して、アジアのリーダーとなって中国と対抗し、独裁政権となって軍国主義を復活させる危険な道を歩むことがないように忠告するのに間に合わないと、後悔先に立たずで、日本の軍事力拡張、アジアの平和破壊を押さえ込むためのタイミングと能力とを失うことになるだろう。
中国を抑止するということは相変わらずアメリカにとって大きな誘惑だ。安倍政権は、アメリカとのこのいわゆる共通の立場及び目標を利用し、日米軍事同盟強化という口実のもと、アメリカを縛り付け、悪事の道へ誘い込もうとしている。今こそアメリカは目を覚ます時だ。安倍政権と一緒に危険な道を歩み続けるならば、中国との間で衝突せず、対抗せず、相互に尊重し合い、協力のウィン・ウィンの新型大国関係をどうやって築くことができるだろうか。」

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