朝鮮半島情勢と米韓の狙い撃ち抑止(tailored deterrence)戦略合意

2013.10.11

*開城工業団地再開(9月16日)、離散家族再会及び金剛山観光計画の話し合い合意で朝鮮半島情勢が好転に向かうことが期待されていたのに、9月中旬以後急速に雲行きが怪しくなってきました。9月14日には、平壌で開催されていた重量挙げアジア杯で韓国の選手が優勝した際、韓国の国旗が掲揚され、韓国の国歌が演奏されました。翌15日の朝鮮中央テレビ局はその模様を放映したのです(15日付中国網)。そして16日付の朝鮮中央通信が出した「時事解説」では、「北南関係において、一連の結実が遂げられている。…朝鮮半島の平和を守り、平和的環境で北と南の若いと団結で自主的統一を成し遂げようとするわれわれの意志には変わりがない」と述べていました。
中国政府(正確には政府系シンク・タンクである中国国際問題研究所主催)は、9.19合意が成立した前日の18日に「6者協議開始10周年国際シンポジウム」を行い、6者協議再開に強い意思を示しました。米日韓はロー・キーな対応しか示しませんでしたが、朝鮮は金桂冠第一副首相が出席するとともに、16日には武大偉6者協議特別代表、17日には楊潔篪国務委員、王毅外交部長、張業遂外交部副部長と会見、会談しました。また、シンポジウムでは王毅外交部長が「6者協議を堅持して持続的平和をともに創造しよう」と題する挨拶を行いました(この中で王毅は、「各国の合理的な関心を考慮する」ことに言及しました)。中国政府としては数日後の事態暗転は寝耳に水だったと思われます。
以下においては、事態急転に至る経緯をまとめるとともに、朝鮮が朴槿恵大統領の名指し批判にまで踏み切った直接の原因と思われる米韓のtailored deterrence strategy(以下ではこの戦略の内容に即して「狙い撃ち抑止戦略」と訳します)に関する危険な本質について考え、最後に中国が事態をどのように見ているかについてもまとめておきます(10月11日記)。

1.朝鮮半島情勢の急激な悪化(経緯)

9月15日付民主朝鮮は突然(と当時私は受けとめました)、署名入り論評で韓国の金寛鎮国防長官が行った一連の朝鮮批判の発言を厳しく糾弾しました。そして9月19日には祖国平和統一委員会書記局報道第1041号が発表され、「現南朝鮮当局が…金寛鎮のような逆徒をかばって「韓半島信頼プロセス」をけん伝するのは、民心と世論を惑わすための虚偽と欺まん」として朴槿恵大統領に対する間接的批判を行い、「われわれは、北南関係の改善と和合と統一のために可能な限りの努力をしているが、われわれの尊厳を愚弄し、挑発的に出る逆賊の群れを決して許さないであろう」と警告しました。9月20日付の労働新聞及び21日付の朝鮮中央通信も金寛鎮批判を展開しました。
9月21日には朝鮮祖国平和統一委員会が声明を発表し、4日後に控えていた離散家族再開活動と金剛山観光再開のための会談とを延期することを明らかにしました。この声明は、「せっかくもたらされたこのような(浅井注:改善された)北南関係が南朝鮮保守一味の無分別かつ悪らつな対決騒動によってまたもや看過できない危機へ突っ走っている」とし、韓国政府の行動について、「最近北南関係で収められている一連の成果が自分らのいわゆる「原則論」の結実であるかのようにけん伝している」、「金剛山観光については、誰それの「金づる」だの何のと中傷」、「われわれが国際競技大会を慣例と規定に従って催したことまで取り上げて「変化」だの何のという奇怪なほらを吹いている」とし、「我々の善意と雅量、誠意ある努力に対する許しがたい愚弄、冒とく」と断じました。そして、「かいらい好戦狂らのいささかの挑発企図に対しても絶対に黙過せず、強力な対応措置を取っていく」ことを明らかにしました。
以上は朝鮮中央通信日本語版に基づいて整理したのですが、中国側報道(9月23日付環球時報)は、韓国・朝鮮日報が8月29日に「金正恩のかつての恋人だった朝鮮歌手・玄松月及び銀河管弦楽団の8人が公開銃殺刑に処せられた」と報道し、この記事が各国メディアによって大々的に転載されたこと、また、9月21日には『朝日新聞』が「脱北した朝鮮高官」の話を引用する形で、逮捕された銀河管弦楽団の人間が金正恩夫人・李雪主もかかわっていたと述べたために銃殺刑になったと追いかけ報道をしたことが朝鮮の激怒を呼び起こしたと指摘しています。
この環球時報記事はさらに解説を加え、「韓日世論特に韓国メディアでは朝鮮に関するデマが絶えない」とし、朝鮮祖国平和統一委員会スポークスマンが関係報道について朝鮮中央通信を通じて「ねつ造」「でたらめ」と反駁したことを紹介しました(浅井注:私がチェックした限りでは、日本語版ではこのような記事を見た覚えはありません)。また同記事は、遼寧社会科学院朝鮮韓国研究センター主任・呂超のコメントとして、「大手を含めた韓国メディアの朝鮮問題に対する報道は猟奇的性格が強く、しかもその表現は極めていい加減だ」、「裏付けの取りようがない報道が出てしまうと朝鮮の激怒を引き起こしやすく、しかも朝韓関係がよくなりかけているときに朝鮮の最高指導者に関するマイナス報道がなされると朝鮮側の強烈な反応を引き起こすのだ」という発言を紹介しており、韓国側に非があるとし、朝鮮に理解を示しています。
さらに同記事は、匿名の韓国問題分析者の発言として、朝鮮に関するいわゆる内部情報の出所の多くは「政府関係者」か「脱北者」だとし、政府関係者とは韓国情報院か青瓦台だろうが、意識的にデマを飛ばすとか探りを入れるという類のものがあり、脱北者に至っては、平壌から来たものは全体の3%に満たず、こんな閉鎖的な社会でどうして朝鮮指導部の内情を知ることができるのか、という指摘も紹介しています。
9月23日付の朝鮮中央通信論評は、「去る21日、かいらい一味は御用メディア…を通じて日本の『朝日新聞』の報道を転載する形式でわれわれの最高の尊厳に言い掛かりをつけて何かの「処刑」「隠ぺい」という謀略説を流した」とするとともに、「われわれの最高の尊厳に対する許せない極悪な特大型挑発であり、規制の対決狂信者でなくては強行できない天人共に激怒する犯罪行為」と断じ、「いくら同族対決に狂っても、分別と超えてはいけない界線がある」、「人間としては到底想像できない野蛮行為」、「極刑に値する大逆罪」と口を極めて韓国政府を批判断罪しました。
以上のように見てきますと、朝鮮が激しい韓国政府批判を行う契機となったのは、韓国国防長官・金寛鎮の一連の発言であるよりもむしろ金正恩夫人・李雪主がらみの誹謗中傷報道ではなかったのかとも思われます。つまり、誹謗中傷報道に業を煮やしていた朝鮮が一連の韓国国防長官発言を捉え、一気に韓国政府批判に傾斜を強めたということではないでしょうか。ただし、こういう中でも開城工業区に関しては、9月30日に南北共同委員会事務所が正式に成立していることは見逃すことができません。
そして、10月に入ってからの韓国側の2つの行動が朝鮮の朴槿恵名指し批判に踏み切る大きな原因として働いたことは否定できないと思われます。
即ち、10月1日、朴槿恵大統領はソウルで行われた建軍65周年記念式に出席して、「現在の朝鮮半島及び東北アジア情勢は極めて厳しく、朝鮮は核開発をさらに進める態度を堅持している。韓国は強力な対朝抑止力を備えるべきだ」、「政府は今後も韓米共同の防衛システムを堅持し、できる限り速やかにキル・チェーン(kill chain)攻撃システム、韓国型ミサイル・防衛システム等の朝鮮に対抗する大量殺傷性武器による対応能力を増強し、朝鮮をして核兵器及びミサイルは役に立たないことを認識せしめる」と述べました(同日付中国新聞網)。また翌12日には、米韓国防長官が共同声明を出し、「朝鮮の脅威が日々増大している」状況の下で、米韓が新たに狙い撃ち抑止戦略に合意したことを発表しました。
これに対して10月4日付の朝鮮国防委員会政策局スポークスマン声明は、朴槿恵大統領を名指しし、その10月1日の演説について「いわゆる「国軍の日」行事を大げさに催して、つまらない「韓米連合作戦体制」と「キル・チェーン先制打撃システム」、古びた「韓国型ミサイル防御システム」などでわれわれの強大な核とミサイルがこれ以上有用でないということを自ら認識させると生意気に言い散らしている」と酷評しました。また翌5日付の祖国平和統一委員会スポークスマン声明は、上記国防委員会声明に対する韓国統一部の反論(10月4日)について、「朴槿恵に対して当然言うべきことを言ったことにかこつけて、「初歩的な礼儀も守らない非理性的な行為」「相互尊重の精神」「品格ある言行」などと言い散らした」、「朴槿恵が先頭に立って「自由民主主義体制による統一」をけん伝して尊厳高いわが体制と神聖なわが制度を誹謗、中傷し、手下と御用メディア、専門家、はては人間のくずまで駆り出してわが体制と制度を謀略にかけて害し、謗る怪異な「合唱」で世界を騒々しくしている」と厳しく批判するとともに、10月2日の米韓国防長官の共同声明について、「上司と手先が軍事的謀議をこらしてわれわれに対する核先制打撃を狙ったいわゆる「合わせ型抑止戦略」というものまで公式に確定、発表した」と指摘しました。この戦略を朝鮮は深刻な脅威として受けとめていますが、その点は2.で扱います。
ちなみに、「合わせ型抑止戦略」というのは、私の言う「狙い撃ち抑止戦略」に対する朝鮮中央通信日本語版の訳語です。ちなみに中国語では「針対性遏制戦略」、日本語にすれば「ピンポイント抑止戦略」と訳されています。
以上の推移をまとめる形で、国防委員会政策局スポークスマンは、10月8日に朝鮮中央通信社記者の質問に答える形で、「もし、朴槿恵とその一党が今までわれわれに対して常識外に意地悪く、汚らわしく行動しなかったならば、そして民族の天倫を汚す悪行を働かなかったならば、当初からこのようなことはなかったであろう」と述べました。これは朝鮮の偽りのない感慨であると思います。朴槿恵大統領にすれば、朝鮮日報以下のメディアによる朝鮮の中傷誹謗記事について責任を問われる筋はないと反論したいところでしょうが、そのような議論は朝鮮には通じないでしょう。

2.狙い撃ち抑止戦略

<狙い撃ち抑止戦略の内容と特徴>
 アメリカ国防省(ペンタゴン)のHPには、10月2日付のカレン・パリッシュ(Karen Parrish)署名の記事及び同日行われたヘーゲルと金寛鎮との共同記者会見の内容が掲載されていましたので、それに基づいて狙い撃ち抑止戦略の内容と特徴を整理しておきます。
 パリッシュの紹介によれば、共同声明では、「アメリカの核の傘、通常打撃力及びミサイル防衛力を含むすべての種類の軍事能力を使った」韓国に対する抑止を提供し、強化するアメリカのコミットメント、及び、(金の言として)朝鮮の兵器による脅威を「発見し、防衛し、抑止し及び破壊する」ための「包括的なミサイル対抗戦略」が規定されています。
 共同記者会見において金国防長官は次の4点を指摘しました。
-韓国とアメリカは、朝鮮の核その他の大量破壊兵器に対抗する狙い撃ち抑止戦略を完成し、合意し、及びこれに署名した。これは、第3回核実験によって具体化した朝鮮の核の脅威を抑止するための朝鮮半島の安全保障情勢にマッチさせるためのものだ。狙い撃ち抑止戦略には、朝鮮の主要な核の脅威に関するシナリオに対する実効的な抑止の選択肢が含まれる。これにより、朝鮮に対する同盟の抑止力が大幅に高められる。
-アメリカから韓国に対する指揮権移譲(OPCON)に関する協議継続。
-朝鮮のミサイルの脅威を発見し、防衛し、かく乱し及び破壊するための包括的な同盟のミサイル対抗戦略の開発を継続することを決定。そのため韓国は、キル・チェーン及び防空及びミサイル防衛のシステムを含む、信頼性がありインタオペラブルな同盟の対応能力を建設して行く。
-サイバー及び宇宙を含む新しい安全保障分野における二国間協力のいっそうの推進に関する合意。

(浅井コメント)
 「第3回核実験によって具体化した朝鮮の核の脅威」という表現からは、朝鮮が第3回核実験によって核兵器の小型化したがってその実戦化に歩を進めたと米韓が認識していることを反映しています。また、サイバー及び宇宙の両分野は日米「2+2」においても協調された新しい領域です。

 ヘーゲルの発言では、「特に関心があるのは、朝鮮の核・弾道ミサイル計画、拡散活動及び化学兵器だ。朝鮮による化学兵器使用は絶対に許せない。これらの関心に基づき、朝鮮の核兵器その他の大量破壊兵器による脅威に対する朝鮮指向抑止の二国間戦略に署名した。これにより、これらの特定の脅威を抑止するための戦略的政策レベルの枠組みが同盟内に作られ、我々の抑止力の効力を切れ目なく最大限にするために我々が協力することを可能にする」というくだりが注目されます。

<狙い撃ち抑止戦略の由来と含意>
 私は2006年「4年ごとの防衛見直し」(QDR)については私なりに勉強した記憶はある(2006年の「コラム」でごく簡単に取り上げています)のですが、'tailored deterrence strategy'という言葉がペンタゴンの文書に最初に現れたのは、2006年QDRにおいてであるということを含め気がつきませんでした。米韓間だけではなく日米間でもこの抑止戦略の考え方が今後クローズ・アップされることがあると思いますので、これから勉強していきたいと思います。ここではとりあえず、ネット検索でヒットした文章の中で読み応えがあったDavid Yostの"NATO and Tailored Deterrence: Surveying the Challenge"(2009)から、朝鮮と関係すると思われる部分を抜き書きして紹介しておきます。
まず、狙い撃ち抑止戦略という言葉の最大の趣旨は、アメリカとして、「あらゆる事態に対応するお決まりの抑止」('one size fits all'deterrence)という考え方から、「ならず者国家、テロリストの組織及び潜在的競争国を個別に狙い撃ちした抑止力」(tailored deterrence for rogue powers, terrorist networks and near-peer competitors)に向けて転換するということでした。QDRはまた、「進んだ軍事力を持つ国家、地域的なWMD国家、あるいは非国家のテロリストを抑止するためのより狙い撃ちできる能力(more tailorable capabilities)」という表現も使っています。ただし、その時にはこの言葉についての定義は行われていませんでしたし、組織的及び運用上の問題点についても分析が行われたわけではありませんでした。
 NATOにおいては狙い撃ち抑止戦略について様々な議論が行われてきたようです。その中でも、朝鮮に関連する重要なポイントとして、「狙い撃ち抑止」という戦略が実行性を持ち得るためには、冷戦期の経験から引き出される抑止機能についての先験的な想定ではなく、特定の敵(ここでは朝鮮)についての詳細な知識及びその意思決定パターンと目的・政策の優先順位の理解・認識に基礎を置くことが必要です。即ち、挑戦者である朝鮮の政策決定過程の中に可能な限り入り込み、特定の状況に関する朝鮮の政策決定のあり方を可能な限り特定することが求められるのです。要するに、狙い撃ち抑止戦略に求められるのは、特定の敵に関する理解、具体的な脅威の内容及びその敵を動かす誘因に関する情報収集、そして敵が攻撃する誘惑に駆られないようにすることを確保するためのこちら側からの明確なメッセージの伝達、ということになるのです。もう一つ狙い撃ち抑止戦略にとって重要な要素は持つべき能力の決定という点です。この点で、核戦力だけではなく、通常戦力を含む様々な能力を活用するという課題が出てきます。狙い撃ち抑止戦略に関する両国防長官の発言を見ると、それらの点を明確に踏まえていることが窺われます。

<朝鮮の「合わせ型抑止戦略」の受けとめ>
 朝鮮中央通信日本語版で私が見た限りでは、「合わせ型抑止戦略」について性格規定を行ったのは、10月6日付民主朝鮮の署名入り論評が最初です。そこでは、「米国とかいらいが核兵器と先端ミサイル、在来式兵器を含むすべての軍事力を総動員してわれわれを先制打撃することを基本内容としている」、「「合わせ型抑止戦略」は先制打撃によって朝鮮半島で核戦争を挑発しようとする米国とかいらいの悪巧みの所産」としています。そして、「看過できないのは、米国とかいらいが「北の核兵器使用の徴候」というものをねつ造して「合わせ型抑止戦略」による北侵核戦争を挑発しかねないということである」と強調しています。
 10月7日付の朝鮮祖国平和統一委員会スポークスマン談話は、さらに具体的に、「「合わせ型抑止戦略」は、われわれが核やミサイルを使用する徴候が少しでも見えれば核兵器を含むすべての軍事的手段を動員して先制打撃するという危険極まりない核戦争シナリオ」と規定しています。そして米韓国防長官の間で達成された合意により、「朝鮮半島ではいかなる偶発的な事件や瞬間の誤判によっても核戦争が起きかねない一触即発の危機事態がより重大に生じている」と危機感を露わにしています。10月9日付の朝鮮外務省スポークスマン談話も、「世界最大の核兵器保有国である米国の核の傘提供にも満足せず、米国と南朝鮮のかいらいの通常武力とミサイル防衛(MD)システムなど、すべての軍事力を総動員してわが共和国を力で圧殺するという「合わせ型抑止戦略」は本質上、われわれに対する核戦争脅威の増大であり、核先制打撃計画の完成を意味する」と指摘しました。
 また、10月9日付の朝鮮中央通信論評は、「 朝鮮半島の核問題を解決するためには、われわれの核保有を生じさせた張本人である米国が敵視政策を放棄し、核脅威を完全に終息させなければならない。これは、朝鮮半島の核問題の解決において先決課題である」と指摘しつつ、「核兵器を21世紀の世界制覇戦略実現の主要手段としている米国が、現在のように3大核打撃武力を朝鮮半島に周期的に引き入れ、特に「合わせ型抑止戦略」のような対朝鮮核先制打撃計画まで確定しておいた状況で、朝鮮半島核問題の解決はいっそう遼遠になるようになっている」と朝鮮半島の非核化の展望に対する厳しい見解を示しました。

<中国の「ピンポイント抑止戦略」の受けとめ>
 10月3日付の新華網は、2日の米韓間で正式に合意された「ピンポイント抑止戦略」について、「朝鮮が核兵器を使用する兆候を発見した際に、米韓が合同で陸海空の軍事力を発動して機先を制する威嚇戦略を採用することを指す」と規定しました。「機先を制する威嚇戦略」とは、朝鮮が指摘し、警戒する「先制打撃」を指すものです。朝鮮の公式な見解が示される以前に、中国メディアはこの戦略の「先制自衛」としての本質を喝破しているのです。この本質規定は、10月9日付人民網-環球時報をソースとする文章でも行われています。

3.中国の対朝鮮半島政策

 中国の王毅外交部長は、9月18日に開催された「6者協議開始10周年国際シンポジウム」において「回顧と展望」と題する挨拶を行い、中国政府が6者協議再開に強い意欲を持っていることを強調しました。この中には必ずしも目新しい要素を看取することはできませんでしたが、9月19日付人民日報海外版に掲載された復旦大学国際問題研究院教授・副院長の沈丁立「6者協議なくしては、朝鮮半島情勢はさらに予想がつけがたい」は次のように述べています。

 「朝鮮が核兵器を開発するのには同国なりの理屈がある。しかし、他の国々は朝鮮が同様に国際的な言い分を尊重するように希望している。各国は朝鮮に対して期待すると同時に、朝鮮が核を放棄した後にはさらに安全になることを実感できる安全保障の代替モデルをつくり出さなければならない。それには、アメリカが書面で朝鮮に対して安全保障を提供すること、国連安保理が集団的で積極的な安全保障を朝鮮に対して提供することなどが含まれる。(中略)
 シリアの経験はまだ模索の過程にあり、必ずしも他のケースに適用できるとは限らないが、その協議・協力の精神は朝鮮半島の6者協議の趣旨と一致している。」

 また、9月24日付の中国網に掲載された紀明葵「中朝間に6者協議再開に関する立場の相違なし」もタイトルから分かるように、朝鮮に対する好意的な認識で貫かれていることが特徴です。特に次の指摘は重要だと思います。

「中露朝の態度及び米日韓の努力は等しく重要であり、朝鮮の安全保障及び経済的利益は満足させる必要があり、6者協議は制度化するべきであり、…6者協議の今後の目標は東北アジアのマルチの安全保障メカニズムである。中国の姿勢は朝鮮の承諾を得ており、双方の態度には小異を残して大同を求める類似性がある。ということは、中朝間には6者協議再開について本質的な立場の相違はないということであり、朝鮮も潮流に従ってタイミングを測り正確な選択を行うということだ。現在は米日韓が適切な態度を示すべき時であり、王毅外交部長のアメリカ訪問においてはこれが重要な話題である…。」

 果たして王毅外交部長は、国連総会に出席するために訪米した際、ケリー国務長官及び韓国の尹炳世外相と会談して、次のような発言を行ったのでした(前の「コラム」で既に紹介しましたが、もう一度掲載しておきます)。
 9月27日に中国外交部スポークスマンは定例記者会見で、9月26日に王毅がケリー国務長官と国連本部で会談した際の内容を紹介しました。それによると王毅は、「朝鮮半島の核問題に関し、米中双方は半島の非核化実現と半島の平和安定の維持に力を尽くすことを表明した。同時に中国側は、朝鮮の合理的な関心についても解決が得られるべきだ、アメリカ側が朝鮮側とさらに直接接触することを希望する。各国が9.19共同声明に戻り、それぞれが負っている責任と義務を履行してのみ、半島核問題は真の解決が得られる」と述べました。
 また、9月28日付の中国外交部HPは、前日(27日)に行われた国連本部における王毅外交部長と韓国の尹炳世外相との会談における王毅発言を紹介しています。王毅は「朝鮮半島核問題に関しては、中国は韓国とともに様々な働きを行い、共通認識を蓄積し、条件を創造し、6者協議再開につなげ、半島の非核化を実 現し、半島の平和安定を維持したい。この過程において、朝鮮の合理的な関心も解決したい」と発言したのです。

RSS