参議院選挙と日中関係(環球時報社説)

2013.07.24

*7月23日付の環球時報は「中日は「冷たい対立」の時代に 緩和を急ぐ必要はなし」と題する社説を掲げ、参議院議員選挙における自民党の勝利を受けた安倍政権の下での日中関係に関して、「冷戦」には至らない「冷たい対立」という新しい概念で特徴づけました。中国としては、安倍首相の「任期中に中日関係の緩和を期待すべきではない」として同政権を完全に見限り、「大規模な軍事衝突さえ起きなければ、中国にとって両国が友好か否かの戦略的意義は小さくなりつつある」、「中日関係の戦略的重要性は中露関係や中米関係よりも低い」という冷め切った位置づけのもとで、「現段階で中日友好を語るのは自他共に欺く行為であり、…期待値を徹底的に下げて、「冷たい対立」を両国共に受け入れられる状態とし、それを両国各自の利益を取り決める新たな出発点と見なす」としたのです。
 環球時報は、参議院選挙期間中の7月17日に安倍首相が尖閣諸島(釣魚島)と目と鼻の先にある石垣島を訪れて領有権に関する不退転の決意を表明したこと、また、翌18日に菅官房長官が、中国国有大手の中国海洋石油などが東シナ海で7つのガス田開発を中国当局に申請する準備をしているとロイター通信が報道したことについて、「仮に中国が一方的に開発するのであれば、わが国として認められない」と述べた(18日付産経新聞)ことに対しても、それぞれ18日付社説「安倍は日本をますます「ならず者国家」如くならしめている」及び19日付社説「断固東海を開発し、日本の「中間線」の主張を打ち負かす」で厳しい論調を出しました。なお、7月18日付人民日報も、鐘声署名文章「日本よ、自ら求めて恥をかくことなかれ」で、安倍首相の尖閣問題での言動を厳しい口調で批判しています。
 また、私はこれまで、国営通信の新華社が日中関係に関して表立った論評を行ってこなかったことを不可思議に感じてきたのですが、最近になってがぜん論評記事が陸続と掲載されるに至りました。タイトルだけ紹介しておきます。
◯7月18日付新華国際時評「安倍が強硬でもどうにもならない」(安倍首相の石垣訪問を論評。徐剣梅署名文章)
◯7月18日付新華時評「安倍の言行は「面倒製造人」の面目を暴露」(劉華及び劉東凱連名文章)
◯7月22日付新華国際時評「日本参議院選挙:「羊頭狗肉」の勝利」(馮武勇署名文章)
◯7月22日付ニュース分析「「アベノミックス」いよいよ正念場」(馮武勇署名文章)
◯7月22日付国際観察「日本の動き、さらに警戒すべし」(参議院選挙結果分析。郭一娜署名文章)
◯7月22日付記事「「増強版」の安倍、何をしでかすか」(ねじれ国会を解消した安倍首相の今後の出方に関する予想記事)
◯7月22日付記事(タイトル不明。参議院選挙における自民党勝因と今後の日本政治への影響に関する分析。馮武勇署名文章)
◯7月23日付国際観察「安倍は正しい道にエネルギーを使うべし」(呉谷豊及び馮武勇連名文章
 以下では、環球時報の3社説の内容を紹介します。23日付の社説は、人民日報日本語版で紹介されているものです。他の2つについては日本語訳が見当たりませんので、要旨を拙訳します(7月24日記)。

<18日付社説「安倍は日本をますます「ならず者国家」如くならしめている」>

 (安倍首相の石垣での発言に関して)日本の最高行政府の長でありながら、安倍は無駄口をまくし立てて日中間の緊張関係をさらに強めた。中日間の釣魚島の争いは膠着しており、日本の姿勢を中国は知悉しているし、中国の姿勢を日本も知悉している。中日双方が後戻りできないが、事を荒だてることに対しては双方ともに関心がない。中国の態度は言動において比較的確固としているが、日本の言動にはムラがあり、わざとらしさが目立つ。
 安倍の強硬姿勢は、中国の戦略家や軍関係者にとっては一顧だに値しないし、日本の外交及び軍事が分かっている人々にとっても「減らず口」でしかない。しかし、彼の言葉は日中両国の民衆に対しては十分に刺激的であり、日本では一定の投票を引き寄せるかもしれないが、中国の民間にとってはさらなる怒りを引き起こすものである。彼は、中日両国の民意をさらに深刻に対立するように仕向けている。
 このような「小物政治」が今の日本では流行っており、安倍は一方で中国との対話を公に求めながら、他方では釣魚島問題で「交渉の余地なし」と宣言しており、彼はこういう偽りの下劣な演技を正義で毅然としているかのように装っているが、中国人にとってはまったく情けないものだ。彼が政権にある限り、中日関係は「どうしようもない」ことを、我々は彼からハッキリと思い知らされている。  日本人としては次のことを想像してみてはどうか。仮に中国の高官がひっきりなしに日本に対する強硬な発言を公にし、…日本人が聞いたら「強硬」な決心を表明したならば、…日本の世論は我慢できるだろうか。
 中国側は「発言」において最大限の自制をしているのに、日本側の「発言」はますます聞くに堪えないものになっている。首相に至る高官たちはひっきりなしに中国社会を刺激する言論を発表しており、あたかも中国を挑発する競争をしているかの如くだ。彼らには中日関係に対して責任を負おうとする気持ちがまったくなく、彼らの私利私欲に走った行動は、中日関係のただでさえ少なくなっている拠りどころを壊すばかりだ。
 日本人が理解する必要があるのは、安倍の強硬な態度で「恐れをなす」中国人はあり得ないし、…彼の言動について「怒る」ことすら無意味だと我々が感じているということだ。我々はもはや安倍政権が指導する日本との間で関係を改善するという希望を抱いていないし、日本に対しては同じような強硬さと軽蔑でお返しするだろう。
 日本と話し合うことに望みはあり得ず、日本と政府間で空中戦よろしく罵り辱めるということは中国の沽券に関わることであるし、時間そして感情の無駄遣いだ。よって我々は、中国の責任者には、気持ちを落ちつかせ、安倍の類とやり合う羽目に陥らないことを希望する。外交部スポークスマが対応するだけで十分だ。
 中国にとって必要なことは、日本に対処する上での実質的なテコを積極的に伸ばし、…日本の強硬派が生きる社会的基盤に打撃を与えることだ。中国の総合国力が厚みを増せば増すほど、こういうテコを発揮し、育てる能力もますます強くなるだろう。  日本社会は、政治家によって普通の小国ならではの極端に引っ張られて、ますます「小日本」らしくなっており、極めて傲慢だが、ますます中国の戦略的ライバルにはふさわしくなくなってきている。日本は次第に「ならず者国家」という言葉を思い起こさせるようになっている。
 ならず者に対するに当たっては、時にはシカトし、時には厳しく責め、あまりに度が過ぎたときには一発噛まし、彼が長きにわたって忘れないようにさせることが必要だ。

<19日付社説「断固東海を開発し、日本の「中間線」の主張を打ち負かす」>

 (東シナ海でのガス田採掘問題に関する菅官房長官の「わが国として認められない」発言に対して)何と鼻息の荒いことか。我々は、中国がこの7つのガス田をやってのけて、日本が「認められない」とするだけの力が本当にあるかどうかを見てみることを主張する。
 東海線引きのいわゆる「中間線」は日本が一方的に主張しているもので、中国は未だかつて承認したことはない。(中国は大陸棚の自然延長の原則を堅持していること、仮に中間線に従うとしても、中国のこれまでの開発はその西側であって係争地域ではなく、日本にとやかく言われる筋合いではないことを指摘した上で)中国は過去において日本人の感情を考慮しすぎるあまり、東海大陸棚のガス田開発に対する姿勢において確固さが足りず、行ったり来たりしてきた。日本は世論の開放性を利用して、中国の東海政策を攻撃する言辞を振りまき、我々の戦術をかき乱してきた。我々の「共同開発」の主張も日本に利用されたのであり、我々の主張は係争地域における資源の共同開発ということなのに、日本は中国の非係争地域にまで「共同開発」を引っ張ってこようと妄想している。
 日本の主張は世界的に支持が得られようのないもので、日本国内のわけの分からない連中だけが中国に対して勝利を収めることができると考える類のものだ。中日間の様々な争いの中で、世界が日本には理がないことをもっとも容易に見届けるものが東海ガス田開発の争いだ。中国は、戦略的な勇気と決意をもって、新ガス田の開発という断固とした行動によって日本に完膚なきまでの教訓を与え、中国についての認識を改めさせるべきである。
 中国は今後東海の「共同開発」について二度と日本と交渉する必要はない。…日本の抗議は鼻であしらうべきであり、日本が敢えて挑発的な行動に訴えるならば、真っ向から対決する。我々は過去において中日間の平和的な雰囲気を重視しすぎたため、日本は雑音をつくり出して中国を脅迫する材料に使ってきた。東海ガス田を皮切りにして、我々は中日間のゲームのルールを改めるべきだ。…我々は大陸棚についての主張をもっと大声で主張し、実際の行動で日本の「中間線」の主張と断固闘争し、日本の東海での陰謀を挫折させるべきだ。
 中日が「入り交じって探査する」ことになれば、東海の局面は乱れるだろう。我々はその出現を恐れるべきではなく、それは日本の挑発でつくり出されるものであり、我々はそれを受けて立つべきで、そうしてのみ東海における戦略的大局を鎮め、ますます傲慢になる日本を抑えつけることができる。
 日本が今日の国力においてなお中国をして「中間線」の主張を強制的手段で受け入れさせようとするのは、敗戦国として数十年経ったいまもなお帝国主義的思想が惰性的に支配し、また、一世紀以上にわたる中国蔑視が惰性的に支配している表れである。日本の中国に対する傲慢を徹底的にへし折るときが来たのであり、我々はますます豊富な資源と力で日本をやっつけることができるし、中国の急速な経済発展という大勢を支えとすれば、極端な動員も必要ではなく、…自信を持って臨み、しずしずと進み、引き下がらなければ、この歴史的な宿敵を次第に圧倒することができる。
 東海においては中日間の実力的対決ということになる可能性があるし、日本がそれを望むのであれば、そうさせればいい。中国としては事を起こさないが、事を恐れることはあり得ない。

<23日付社説「中日は「冷たい対立」の時代に 緩和を急ぐ必要はなし」>

 日本の参議院選挙で安倍氏の自民党は「大勝」し、連立政権を組む公明党と合わせて過半数の議席を確保したが、単独過半数の目標は達成できなかった。これによって安倍氏が力を入れる憲法改正の行方は不透明となったが、「長期政権」の条件は整った。
 安倍氏は対中「強硬姿勢」の勢いを増すだろうし、8月15日に靖国神社を参拝する可能性も高まった。中日関係の大幅な緩和は難しいが、安倍氏も極端な冒険的行動に出るには十分な拠り所を欠く。
  安倍氏は昨日、日中関係は双方にとって「最も重要な二国間関係の1つ」と語り、両国間の難題が両国関係全体に影響を与えないよう望むと表明した。だが彼のこうした発言は、むしろうわべだけの言葉に聞こえる。われわれは彼の任期中に中日関係の緩和を期待すべきではない。実は中国にとって中日関係の戦略的重要性は中露関係や中米関係よりも低い。日本にとっては「最も重要な二国間関係の1つ」だが、中国にとっては必ずしもそうではない。
 中日関係の緩和はもちろん良いことだ。だがこれは安倍政権が対中思考を大きく改めることが条件だ。そうでなければ、このまま膠着状態を続ければいい。大規模な軍事衝突さえ起きなければ、中国にとって両国が友好か否かの戦略的意義は小さくなりつつある。
 中国の国力はすでに中国と一戦を交えようとする日本の衝動を鎮めるに十分であり、中国との戦いは日本にとって耐えようのない災禍となるという現実が中国人に自信を与えている。中国は軍事的挑発をする日本に対して「十分に手痛い」教訓を与える能力を高めていく。
  中国が現在すべきは戦略上の不動性を保ち、ころころ変わる安倍政権からの呼びかけは取り合わないことだ。われわれはそれを冷遇し、見て見ぬふりをし、より大きなアジア太平洋戦略の構築、中国の内政により多くの力を投じるべきだ。安倍政権は安倍氏個人の靖国参拝を含め、より多くの極端な政治挑発行為に出るかもしれない。そうすれば中日間の対立はさらに激化するが、われわれはこうした状況を回避するために安倍氏をなだめる必要はない。
 中日両国関係は「冷たい対立」の状態に入った。この新しい概念を使用するのは、中日対立はすでに正常な国家間関係のレベルを超えたが、「冷戦」には及ばないからだ。中日間には大規模な経済貿易関係があるため、恐らく冷戦にはならないし、武力戦争はなおさらに考えにくい。だが両国が善隣の雰囲気に満ちた正常な国家間関係に戻るのもすでに困難だ。歴史に繰り返し錬磨された中日間の精神的対立、そして敵意までもがすでに呼び覚まされた。両国は各自の感情を克服する外部環境を欠き、内的原動力も不足している。このためもし 両国関係が「冷たい対立」の状態で安定できれば、北東アジア情勢にとって不幸中の幸いであるはずだ。
 現段階で中日友好を語るのは自他共に欺く行為であり、中日外交が共同で守るべき最後の一線を攪乱するだけだ。この最後の一線とは平和である。期待値を徹底的に下げて、「冷たい対立」を両国共に受け入れられる状態とし、それを両国各自の利益を取り決める新たな出発点と見なすことは、両国にとって必ずしも良くないことではない。
  指摘しておく必要があるのは、すでに歴史的に中国は中日関係をコントロールする戦略的主導者になったということだ。日本はつまらない策略を盛んに弄しているが、中国はアジア太平洋外交においてよりハイレベルにある。中国の総合的実力は実際、日本のごたごたした動きを次第に強く封じ込めている。
  われわれは中国の指導者に、安倍氏と長期間会わないよう提案する。中国高官も対日関係について談話を発表せず、日本に対する姿勢表明はできる限り外交部報道官のレベルに止めるべきだ。こうした「対等でない」扱いを貫いていけば、安倍氏ら日本高官の対中強硬パフォーマンスは辱めを受ける。安倍氏らは「パフォーマンスをすればするほど、辱めを多く受ける」という圧力に直面していることを、日本世論にはっきりと見せる必要がある。
 安倍氏らのサル同様のパフォーマンスには中国の力強い発展によって応え、彼らの「北東アジアに大騒ぎを起こす」衝動は強大な力で抑止する。ころころ変わる日本に、中国は不変をもって応じる。北東アジアの時も流れもわれわれの側にある。

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