朝鮮の核問題に対する中国の政策のあり方(中国専門家の提起)

2013.06.03

*金正恩特使の崔龍海の訪中結果を受けた環球時報社説の論調の大きな変化については既に紹介しました。中国専門家の見解にも注目しているのですが、私が特に注目したのは歴史学者の劉佳の文章です。
劉佳は中国社会科学院近代史所館員という肩書の人物で、昨年(2012年)12月の朝鮮の人工衛星打ち上げ以後、しばしば文章を発表しています。朝鮮の人工衛星打ち上げを契機に同国に対して厳しい論調が支配的になった中国の言論界において、劉佳は歴史学者としての視点から極めて冷静かつ公正な視点の提起を行ってきています。中国国内では決して主流とは言えない見解のようですが、人民日報系列の環球ネットが掲載しているということは、彼の発言が無視できない重みをもっていることを示すものだと思います。
今回は、上記5月31日付文章とそれに先立つ彼の2つの文章を紹介しておきたいと思います(ただし、2番目に紹介する文章は、彼と北京朝陽外国語学校教師である周晶晶の連名によるものです)。ある流れができたらみんなが一斉に足並みを揃えて走り出す日本の言論状況よりもはるかに多様な、個性ある中国の言論状況を理解することにもつながると思います(6月3日記)。

<4月11日付環球ネット掲載「朝鮮危機は中国にとって「危(クライシス)」か「機(チャンス)」か」>

 「(朝鮮危機が西側言論によって主導されている下で)中国国内でも対朝関係を「見直す」とか「調整する」とかの類の観点が日増しに高まっている。しかし、朝鮮危機は本当に中国にとって危機なのか。
 朝鮮は激しいことを言うが行動は抑制されており、米韓に対して心理作戦を行う意図は明らかだ。(ところが)国内では対朝批判及び対朝政策見直し要求の声が日増しに強まっている。まとめると2種類の意見がある。第一、朝鮮は中国の利益を拉致しており、中国は朝鮮を制止するべきだとするもの。第二、中朝友好関係はもはや時代遅れで、朝鮮を放棄すべきであり、甚だしきは半島統一を支持して見返りに米軍撤退を実現すべきだと主張する学者すらいる。
 意見には出入りがあるが、多くの見解では朝鮮は既に中国の「負担」になっているとされる。「負担」とする理由は2点だ。一つは中国が毎年朝鮮に大量の援助を与えていること、二つ目は朝鮮の挑発がアメリカの東北アジアでのプレゼンスを強化させ、中国に圧力を与えていることだ。
 しかし詳細に分析すると、この2つの理由とされる点については検討すべきことがある。まず、中朝往来は一方的に与えるということではなく、中国は朝鮮に大量の援助を与えているが、朝鮮からも多くの見返りを得ている。例えば、中国企業は朝鮮で多くの鉱山及び資源開発を行い、中国の経済建設に大いに貢献している。また、中国は羅津その他の朝鮮の港湾を租借しており、この100年ではじめて日本海における海の出口を獲得した戦略的意義は極めて大きい。朝鮮が中米間で担っている戦略的緩衝作用は言うまでもない。マクロ的に見ると、中朝交流において中国が損をしているかどうかの判断は極めて難しい。
 朝鮮の挑発がアメリカのプレゼンスを強化させたという説に至っては極めて牽強付会の嫌いがある。アメリカと日韓との同盟及び軍事演習は朝鮮の挑発とはあまり関係がないのであり、朝鮮が挑発しないとしても、アメリカはやはり東アジアにおける軍事プレゼンスを強化するのだ。アメリカが韓国と毎年行う共同軍事演習は、名目としては朝鮮に備えるとしているが、実際は中国を相手にしているのであって、この種の演習は既に長年にわたって行われてきた。朝鮮が衛星や核武装を行わないとしても、アメリカはやはり事件を引き起こすだろう。
 朝鮮が中国の「お荷物」になったという主張が成り立たないとすれば、対朝政策を調整すべしとする2つの意見もやはり検討の余地がある。
 まず、朝鮮半島と中国との間には自然なつながりがあり、豊臣秀吉の征韓から抗米援朝まで、朝鮮半島有事に対して中国は未だかつて無視することはできなかった。明朝は滅亡間近でも出兵して朝鮮の清に対する抵抗を支援したし、清国も国力が凋落したのに朝鮮の面倒を見ることを忘れずに、日本と一戦を構えたのであり、隆々と興起している現在の中国が半島情勢に対して消極的に振る舞うことができるはずはあるまい。韓国とアメリカが同盟を結び、朝鮮と中国は唇と歯とのように互いに関係が密接な折り、仮に中国が朝鮮を放棄し、朝鮮と「断絶」したならば、中国は一体いかなる資格で朝鮮半島情勢にかかわるというのか。このような行動は自分で自分の出番をなくすと同じで、下の下の策と言うべきだ。したがって、中国の対朝政策は調整することはあり得るとしても、参与ということであるべきで、「断絶」であってはならず、参与することによってのみ、より多くの発言権を勝ち取ることができるのだ。
 朝鮮が中国の利益を拉致したという主張に至っては、私は生まれてこの方、アリが巨象を拉致するということを見たことがない。仮にアリが巨象を本当に拉致したとすれば、それは巨象があまりにバカだということだ。
 アメリカが戦略的にアジア回帰し、中国周辺で矛盾を作り出し、軍事プレゼンスを強化するということは長年にわたっていることだ。朝鮮が挑発するしないにかかわらず、アメリカが米韓同盟を強化するのは既定方針だ。しかし、今回の事態がこれまでと違うのは、朝鮮が自ら事をしでかし、絶え間なくエスカレートしていることだ。これ以上失うものがない弱者が捨て身になって対抗しているということで、それにしては朝鮮は戦争劇を巧みに演じており、そのために各国は悲鳴を上げている。アメリカ以下の西側が何度も中国に「責任を担え」と要求する原因は簡単なことで、B52から空母、最先端の戦闘機、艦船、レーダーまで総動員したが事態を収められなかったということだ。当然中国が「責任を担う」べきだということになる。かつては米日韓が東北アジアで演習を行うと、中国は抗議するだけだった。今はミサイルを発射し、核実験を行ってやり返すものがいるわけで、悪いことではないではないか。偶発戦争の危険性に関して言えば、韓国の方が中国より恐れているわけで、中国は何故オタオタする必要があるのか。
 舞台の役者が歌いすぎていれば、誰かが出てきて場を収める必要があるのは当然だ。半島情勢から見て、場を収めることができるのは中国しかない。お客を招待したものはカネを払い、招待されたものは値段をつけるのであって、中国としては自らの影響力を利用して、この機会に朝鮮半島の新安全保障メカニズムをこしらえることを試みてもいいではないか。それにより、一方では朝鮮に対して信用できる安全保障を提供すると同時に、少しは抑制するように勧告し、さらに朝米のために対話のテーブルを作ってやることを試みる。他方では、米日韓に対して東北アジアにおける軍事活動に関する中国の要求を提起し、彼らの行動に拘束を加えるのだ。
 大国を治めるのは小魚を煮るのと同じであまり手をかけてはいけない。国際関係を扱うのも同じことだ。半島情勢は野菜を炒めるのと同じで、野菜を炒めるに当たってかき回さなければ頃合いにならず、誰かが絶え間なくかき回していれば、立派なおかずができないとも限らない。したがって、総体的に見れば、現在の朝鮮危機は中国にとって「危(クライシス)」よりも「機(チャンス)」のほうが大きいのであり、中国としては火加減だけを見計らい、料理が炒めすぎにならないようにさえすれば良いのであって、うろたえる必要はないのだ。

<5月9日付環球ネット掲載「朝鮮の危機演出 誰との対話を狙っているか」>

 (朝鮮がミサイルを配備した後撤去した件について)この手の濡れ手に粟の恐喝で周辺諸国は肝を冷やされた。この我慢比べを通じて、朝鮮は対話しか望んでおらず、戦争したくないのだということが確信できる。しかし問題は、朝鮮は誰との対話を望んでいるかということだ。一般的な見方によれば、朝鮮は戦略的脅迫を通してアメリカに対話を迫っているとされ、その証拠として、金正恩がアメリカのバスケットボールのスターとの会話の中で、オバマが金正恩に電話するという要求を出したことがあげられる。
 朝鮮がアメリカと対話したいのは自明であるが、この目標は直ちに実現することは難しい。まず何と言っても、朝鮮は往年の中国ではないということだ。
 毛沢東時代の中国は貧しいとはいえ大国であり、アメリカは無視できなかった。朝鮮は小国であるし、長年にわたって国際社会の主流からはずれてさまよってきた。アメリカとしては朝鮮を完全にシカトできる。筆者は、朝鮮が対話したい相手は今やアメリカだけではなく、中国も念頭にあると考える。ある意味、朝鮮は中国と「対話」することにより傾いている。その原因を明らかにするには、まず周辺の情勢及び朝鮮の戦略目標から説き起こす必要がある。
 金正恩が政権に就いてから、経済改革が徐々にスケジュールに乗ってきた。しかし、朝鮮の経済建設は安全で開放的な国際環境を切実に必要としている。したがって、朝鮮外交の長期目標は孤立から脱却することであり、現下の情勢においてまず必要なのは安全保障である。
(金正日の緊迫感)
 長期にわたって海外に留学していた年若い指導者は朝鮮と世界とのギャップをハッキリ分かっているが、彼が直面している局面は楽観できるものではない。西側国家の朝鮮に対する軍事的政治的圧力は日増しに強まっており、国内では「社会主義強国建設」の扉はまだ開いておらず、金正恩が突破口を開こうとすれば経済分野で局面を打開することは不可欠であり、その前に朝鮮の安全環境を改善しなければならない。ということで金正恩の対話の視線はアメリカに向けられる。
 しかしアメリカは金正恩の(バスケットボールのスターに対する)談話にも反応せず、朝鮮に対する制裁を引き続き強化している。アメリカの強硬姿勢には金正恩の政権担当能力を見極めるという意味合いがある。アメリカが金正恩は相手として合格と判断しない限りは、彼との対話を考慮する余地はない。そこで朝鮮の対話の視線は中国に向けられるのだ。
 朝鮮は中国の反対を顧みないで半島情勢をエスカレートさせてきたが、その真の目的は中国との対話を求めることであり、それによって堅固な銃後を獲得するということだ。朝鮮が「中国にメンツを与えない」のも実は攻撃的防禦という外交的策略なのだ。
 鄧小平はかつて、「中国が60年代に核実験と人工衛星打ち上げを行っていなかったならば、西側列強が中国を正視することはあり得なかった」と語ったことがある。金正恩が提起している「片手で経済をつかみ、片手で核兵器をつかむ」も実際は中国に学んでいるのだ。「片手で経済をつかむ」は鄧小平に学んでいるのだし、「片手で核兵器をつかむ」は毛沢東に学んでいるのだ。朝鮮の目的は中国と突っ込んだ「対話」を行うことであり、中国が半島問題でより明確な態度を表明することを望んでいるのだ。
 筆者の見るところ、今回の半島危機における朝鮮の戦略目標は2段階に分けられる。最善の策は朝米対話を実現することだ。次善の策は、中国に態度表明させ、中国から安全保障のコミットメントを引き出すことだ。朝鮮のこの2段階の戦略目標はある程度達成された。アメリカは一時的にせよICBM発射実験をやめて朝鮮を「刺激」しないようにした。中国は、「いかなる国家が中国の玄関先で事をしでかすことも許さない」という「強硬」な態度表明を行った。しかし、半島危機が収束しないのは何故か。それは朝鮮のこの2段階の戦略目標が完全には達成されていないからだ。
(朝鮮は今後どう出るか)
 第一に、朝鮮は「核武装」を強化するだろう。
 まず、アメリカの朝鮮に対する軍事圧力は日増しに強まり、米韓連合軍事演習はますます実戦レベルに近づいているのだから、朝鮮が一定の反撃能力を持たなければ、アメリカの戦闘機がある日飛んでこないとも限らない。
 次に、中国の警告にもかかわらず、米韓は中国の玄関先で予定どおり軍事演習をはじめ、中国はそれを制止する力がなかった。朝鮮からすれば、中国の「強硬」さは朝鮮を安心させるには足りなかったのだ。
 第二に、朝鮮は経済建設を開始するだろう。
 朝鮮は既に「朝鮮は核兵器国である」という事実を造り出した。核兵器は万能ではないが、核兵器があれば、「帝国主義」が安易に朝鮮に攻め込むことはできないという基本的保証にはなる。核兵器は朝鮮が通常戦力を削減するための可能性もある程度生みだすし、朝鮮が経済建設を進める上での安全保障を確実にする。
(中国はいかに対処するべきか)
 まず、中国としては半島問題で何を得たいのかハッキリさせなければならない。
 次に、中国は自らの半島政策を明確にし、中国が容認するボトム・ラインはどこにあるかを米韓及び朝鮮にハッキリ言い渡す必要がある。レッド・ラインをハッキリと画することによってのみ、半島問題における中国の「曖昧戦術」は抑止力を持ちうる。

<5月31日付環球ネット掲載「中国は核保有の朝鮮を正視すべし」>

 朝鮮の特使が来て去ったが、相変わらず神秘のままだ。朝鮮中央通信社は自ら金正恩の親書について説明し、朝鮮が中朝関係を改善したい願望は極めて強いことが分かった。しかし「非核化」の問題にはひと言も触れておらず、半島非核化は相変わらず夢のまた夢だ。中国は核保有の朝鮮を正視するべきか否か。核保有の朝鮮は東北アジア情勢にいかなる影響をもたらすのか。
 朝鮮が核を放棄することは中国にいかなるメリットがあるか。2点ある。一つは東北アジアに核軍備競争が出現することをある程度避けることができる。もう一つは、半島における勢力範囲に激変が起きるときに、朝鮮の核技術が反中国家の手中に渡ることを防ぐことができる。このほか、朝鮮が経済困難な状況の下で、その核技術を他国に売ることで核技術の拡散が起きるかどうかということも注目すべき問題だ。
 これらの点を考慮すれば、半島非核化実現は中国にとって確かに非常に有利なことだ。しかし問題は、朝鮮が核を放棄するかということだ。この問題をハッキリさせるには、まず朝鮮が何故核兵器を研究開発しようとするのかを明らかにする必要がある。
 まず、アメリカの軍事圧力がますます強まってきていることが朝鮮の核兵器を研究開発する直接原因だ。
 この20来、アメリカは毎年朝鮮半島で何度も規模の異なる軍事演習を行ってきた。特に1年1回の「キー・リゾルヴ」陸海空軍事演習は、その前身を含めれば1994年に開始された。2009年の演習では、アメリカは原子力空母、原潜数艘、イージス艦8艘を出動させ、参加兵員はアメリカが2万6千人、韓国が5万人以上だった。この演習内容には極めて挑発的な行動が含まれており、米軍は大挙38度線に向かい、1万人に上る米軍が一挙に38度線近辺にまで押し寄せた。砲兵の実弾射撃場は38度線からわずか数キロだった。2012年2月27日の「キー・リゾルヴ」演習では、参加兵力は空前の規模の20万人に達した。
 アメリカの朝鮮半島における演習はますます実戦レベルに近づいており、日増しに攻撃的色彩が強まっている。弱国である朝鮮の不安は想像に難くない。
 次に、保護がないことも朝鮮が安全を求める視線を核兵器に向けさせている。中露両国は地理的に朝鮮に対する外的な防壁を形成してきたが、冷戦終結及び国際情勢の変化により、この外的な保護が日増しに弱体化した。
 第三、朝鮮が必死になって核兵器を開発するのは、多かれ少なかれ中国の歴史的経験に学んでいるのだ。カダフィ及びサダムのたどった命運は、朝鮮にとってはさらなる前轍の鑑だ。
 以上から、朝鮮は絶対に核兵器を放棄しない。核兵器を放棄することは、朝鮮にとってアメリカに対して武装解除することと同義だ。
 中国は核保有の朝鮮と向かい合わなければならない。朝鮮に核放棄を迫ることは中国にとって唯一の選択なのか。実は朝鮮の核保有は中国にとってそれほど大きなリスクではない。
 まず、朝鮮が核を保有するからといって、日本と韓国が核を保有することには直結しない。韓国軍の指揮権はアメリカの手中にあるし、韓国の実力ではまだ核兵器の開発はできない。日本は平和憲法と非核三原則の制約を受けており、独自に核兵器を研究開発するには長い道のりが必要だ。また、日韓が独自に核兵器を研究開発することはアメリカの利益に合致しないから、アメリカがそれを座視することもあり得ない。アメリカが東北アジアにおける軍事プレゼンスを強めることは既定路線であり、朝鮮が核兵器を開発するか否かに変わりなくアメリカはやってくる。
 次に、朝鮮の核兵器が外に流れることに対する懸念は畢竟するにまだ仮説の段階であり、朝鮮は弱小かつ戦略的縦深に欠ける国家として、核兵器は主に自衛用であって、利益目的ではない。
 朝鮮の核武装がもたらす中国に対するリスクは限定的なものだが、アメリカにとってのリスクははるかに大きい。現在の半島情勢の下で、中国がアメリカと協力しすぎて、朝鮮に核放棄を迫りすぎると、中国の利益を損なうことにもなる。第一、中国が朝鮮に核放棄を迫っても中米協力がもたらされる保証はない。第二、朝鮮が積極的に善意の友好を示すのであれば、中国としては妥協する必要はないが、それを拒否する必要もない。
 アメリカが撤兵し、朝鮮が核を放棄することが中国にとって最善だ。しかし現在の情勢の下では、朝鮮がどのように行動しても、アメリカが撤兵することはあり得ない。したがって、朝鮮の核保有のリスクは、中国にとってよりもアメリカにとっての方がはるかに大きいのであり、核を保有し、アメリカと距離を保つ朝鮮は、中国にとって悪くない選択でもある。朝鮮の今日の境遇は、米ソにはさまれて必死に核兵器を開発した1960年代の中国と極めて似通っている。したがって中国としては、政策及び意識の双方を調整し、半島の平和を保障するようにしなければならない。

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