金正恩特使の訪中

2013.05.27

*5月22日から24日、金正恩国防委員会第1書記の特使として、朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員会委員の崔龍海・朝鮮人民軍総政治局長(中国側報道では、崔龍海を朝鮮におけるNo.2として紹介しています)が中国を訪問し、習近平総書記以下と会談しました。中朝双方の発表文の比較検討、特使訪中前後の環球時報社説の内容紹介を中心にして、今回の特使訪中の意味及び中国の対朝鮮政策についてまとめてみました(5月27日記)。

1.崔龍海特使の訪中に関する中国及び朝鮮の発表内容

 崔龍海特使の中国訪問に関しては、朝鮮中央通信がなかばリアル・タイムで報道し、中国側要人との会見の内容についても詳しく報道するという異例な対応を行ったこと自体が注目されます(5月22日付の朝鮮中央通信は、中国訪問に出発と到着の模様を別々に報道する念の入れようでした)。ちなみに見送ったもののなかには、飯島参与の訪朝に対応した朝鮮労働党中央委員会の金英日書記の名前もありました。

<王家瑞・崔龍海会見>

 崔龍海が北京に到着した5月22日には、中国人民政治協商会議全国委員会副主席兼中国共産党対外連絡部長の王家瑞(金正日の信頼が厚かったとされる人物)が崔龍海とまず会見しました。23日付の朝鮮中央通信は、「 双方は、新たな高い段階で朝中友好関係をいっそう改善し、強化、発展させるための問題について意見を交換した」と述べただけでした。また中国側でも、22日付の中国新聞ネットが会見の事実について簡単に触れるに留まりました。したがって、朝鮮半島問題についての突っ込んだやりとりがあったようには窺えません。

<劉運山・崔龍海会見>

 5月23日には、中国共産党政治局常務委員兼中央書記処書記の劉運山と金正恩特使で朝鮮労働党中央政治局常務委員の崔龍海との会見が行われました(この肩書紹介から、両者の会見が党レベルのものとして双方において位置付けられていることが分かります)。両者の発言内容に関する中国外交部の発表文(5月23日付)と朝鮮中央通信記事(5月24日付)の内容は次のとおりでした。

(劉運山)
◯(中国側発表文)
 中朝関係を強固にし、発展させることは中国の党及び政府の一貫した立場だ。我々は、朝鮮とともに、意思疎通を強め、共通認識を拡大し、中朝関係の健康な安定的発展を推進することを願っている。
 朝鮮半島の平和と安定は、この地域における各国の共通の利益に合致する。各国が半島非核化の目標を堅持し、半島の平和と安定を守ることを堅持し、対話と協議を通じて問題を解決することを堅持し、適切な行動を取って緊張した情勢を緩和し、積極的に対話と協議を行い、可及的速やかに6者協議を再開し、半島非核化及び東北アジアの持続的な平和と安定を実現するために努力を怠らないことを希望する。
◯(朝鮮側発表文)
 中国共産党中央委員会を代表して金正恩第1書記同志が派遣した特使の中国訪問を熱烈に歓迎する。
また、中国の党と政府は終始一貫して戦略的境地と長期的見地から中朝友好関係を発展させることをきわめて重視している。
そして、特使の今回の訪問は中朝関係が伝統を継承し、未来を継承していく新しい時代に入った時期に行われたとても重要な訪問であり、両国人民の共同の貴重な富である中朝友好を代を継いで強化、発展させたい。
さらに、中国側は政治、経済、文化などの各分野で中朝友好・協力関係が新時代の要請に即して全面的に拡大、発展することを願う。

(崔龍海)
◯(中国側発表文)
 金正恩第1書記が私を特使として中国訪問に派遣した目的は、朝中関係を改善し、強固にし、発展させることにある。朝鮮は、中国と共同して努力し、朝中関係を不断に前向きに発展させることを推進することを願っている。
 朝鮮は、エネルギーを集中して経済を発展し、民生を改善し、平和な外部環境を創造することを希望している。朝鮮は、半島の平和及び安定を維持し、半島の問題を再び対話と協議の軌道に戻すために、中国が行っている巨大な努力を高く賞讃しており、中国の提案を受け入れ、関係国と対話を行うことを願っている。
◯(朝鮮側発表文)
 両党、両国の老世代指導者たちの心血と労苦が宿っている朝中友好を代を継いで強固にし、発展させようとするのは朝鮮労働党の変わらない立場である。
また、朝中両国での社会主義偉業を守り、朝中人民の友好と団結を強固にし、発展させるために中国同志たちといつも固く手を取り合って進むだろう。
そして、中国党と中国人民が習近平同志を総書記とする中国共産党の指導のもとに中国特色の社会主義建設でさらなる成果を収めることを願う。
 (最後に、「双方は、朝鮮半島の情勢と相互の関心事となる問題について意見を交換した」とつけ加えている。)

<習近平・崔龍海会見>

 5月24日、習近平が崔龍海と会見しました。中国側発表文によれば、「金正恩第1書記が習近平総書記に当てた親書を手交した」とだけありますが、この点に関する朝鮮中央通信記事は、次のように念入りなものになっています。

朝鮮労働党第1書記の金正恩・共和国国防委員会第1委員長が習近平・国家主席に送るあいさつを崔龍海総政治局長が伝えた。
習近平主席はこれに深い謝意を表し、敬愛する金正恩同志に自分の温かいあいさつを伝えることを頼んだ。
金正恩国防第1委員長が習近平主席に送る親書を崔龍海総政治局長が丁重に伝達した。
習近平主席は、尊敬する金正恩同志が崔龍海同志を特使に派遣して親書を伝達するようにしたことに再び深い謝意を表した。

 両者の発言内容については次のとおりです。

(習近平)
◯(中国側発表文)
 朝鮮半島の非核化並びに持続的な平和及び安定は人心の向かうところ、大勢の赴くところだ。中国の立場はきわめて明確であり、情勢がいかに変化しようとも、関係各国はすべて、半島非核化の目標を堅持し、半島の平和及び安定を守ることを堅持し、対話と協議を通じて問題を解決することを堅持するべきだというものだ。中国は、関係各国が冷静と抑制を保ち、情勢の緩和を推進し、6者協議プロセスを再起動させ、半島非核化の実現、半島及び東北アジアの持続的な平和と安定のために努力を怠らないことを希望する。
◯(朝鮮側発表文)
 金正恩第1書記同志は親書で両国の老世代の革命家たちがもたらし、花咲かせた伝統的な朝中友好を継承し、強固にし、発展させることについて指摘した。中国の党と政府は戦略的な境地と長期的見地から中朝友好関係を発展させることをとても重視しており、伝統継承、未来志向、協力強化は中国の党と政府の一貫した方針である。
そして、中国の党と政府は朝鮮の党と政府と共に友好的な交流と協力を拡大することを願う。
さらに、中国の党と政府は終始一貫して朝鮮式社会主義強盛国家の建設を支持し、朝鮮が経済の発展と人民生活の向上において成果を収めることを願っている。

(崔龍海)
◯(中国側発表文)
 朝鮮は、朝中の伝統的友好を極めて重視しており、中国とともに、ハイ・レベルの交流と深い意思疎通を強化し、中朝友好関係を不断に強固にし、発展させることを願っている。
 朝鮮は経済を発展させ、民生を改善することを真剣に希望しており、平和な外部環境を創造することを必要としている。朝鮮は、関係各国と共同して努力し、6者協議などの様々な形式の対話と協議を通じて関連する問題を適切に解決して半島の平和と安定を維持することを願っており、朝鮮としてはそのために積極的な行動を取ることを願っている。
◯(朝鮮側発表文)
 朝中両国は山河が連なっている友好的な隣邦であり、朝中友好は長い歴史と伝統を有している。世紀と年代を継いできた伝統的な朝中友好を強化、発展させていくのは朝鮮労働党と政府の変わらない立場である。
また、両国の老世代の革命家たちの労苦と心血が宿っている朝中友好が何ものとも換えられない貴重なものであるということを朝中両国の軍隊と人民はよく 知っており、両党、両国の最高指導者の特別な関心の中で伝統的な朝中友好が今後、いっそう開花し、満開するだろうとの確信を表明する。
そして、中国人民が習近平同志を総書記とする中国共産党の指導のもとに「中国の夢」を実現し、中国特色の社会主義偉業の遂行においてさらなる成果を収めることを願う。

<範長龍・崔龍海会見>

 朝鮮中央通信はまた、中国共産党中央委員会政治局委員の範長龍・中央軍事委員会副主席が5月24日に崔龍海と会見したことも伝えています(私の見た限りでは中国側では報道されていません)。両者の発言内容は次のとおりでした。朝鮮中央通信記事は末尾で、「双方は、両国の軍隊間の友好関係をいっそう強化、発展させるための問題について意見を交換した」ともつけ加えています。

(範長龍)
 中朝両国の軍隊と人民は同じ塹壕で肩を組んで戦いながら戦闘的友好を結んだ。
そして、特使の今回の訪問は中朝両国の関係発展において重要な意義を持ち、これを契機に両党、両国、両軍隊間の友好・協力関係が新たな高い段階へと強化され、発展するものとの確信を表明する。
(崔龍海)
 朝中友好は抗日戦争と中国東北解放戦争、祖国解放戦争(朝鮮戦争)をはじめしゅん厳な戦場で血で結ばれた友好であり、朝中両国の軍隊が交流と協力を強化するのは両国の社会主義を守るうえで特別に重要な問題になる。
また、両国の軍隊が今後も朝中友好関係の発展において開拓者、先駆的な役割を果たすだろう。

 中国側の発表文からは、習近平及び劉運山と崔龍海との会見において朝鮮半島非核化を含む朝鮮半島問題についての突っ込んだ話し合いが行われたことが明らかに窺えます。朝鮮中央通信の記事は、朝中関係に関する内容紹介があるだけで、核問題を含む朝鮮半島情勢に関する言及は一切ありませんが、中国側の発表内容については朝鮮側も当然了知しているはずであり、紹介された崔龍海の発言には極めて注目すべき内容が含まれています。
 もう一度確認すれば、崔龍海は、劉運山との会見では、「朝鮮は、半島の平和及び安定を維持し、半島の問題を再び対話と協議の軌道に戻すために、中国が行っている巨大な努力を高く賞讃しており、中国の提案を受け入れ、関係国と対話を行うことを願っている」と述べました。また習近平との会見では、「朝鮮は経済を発展させ、民生を改善することを真剣に希望しており、平和な外部環境を創造することを必要としている。朝鮮は、関係各国と共同して努力し、6者協議などの様々な形式の対話と協議を通じて関連する問題を適切に解決して半島の平和と安定を維持することを願っており、朝鮮としてはそのために積極的な行動を取ることを願っている」と述べたのです。
 ポイントとしては次の諸点にまとめることが可能です。
 第一、経済発展・民生改善のために平和な外部環境を必要としているという姿勢(裏返せば、軍事的対決は望んでいないということ)の明確な表明。
第二、半島問題の平和的解決のための中国の外交努力に対する高い評価。
第三、中国の提案を受け入れて、関係国との対話希望。
第四、半島の平和及び安定実現のために朝鮮としても行動する用意があること。
他方で、次の3点において、曖昧に残された重要な部分があることも忘れるわけにはいきません。
第一、習近平も劉運山も明確に朝鮮半島の非核化を提起しているのに対して、崔龍海がこの問題についてどのように発言したかについては、中国側発表文でもまったく取り上げられてもいないこと。このことからも、中国側発表文の内容に対して朝鮮側が注文をつけ、中国としてもそれをのまざるを得なかったことを容易に推察することができます。それだけ、朝鮮としては核問題に関して言質をとられることを嫌った(言い換えれば、今後の行動の余地をできるだけ大きく確保することに固執した)ことが判断できます。
第二、中国側としては6者協議再開を目ざしていることは明らかですが、崔龍海は「6者協議などの様々な形式の対話と協議」という表現で幅を持たせようと努力した跡が窺えることです。朝鮮としては特に朝米直接交渉の可能性を念頭においていることは明確です(飯島参与訪朝を受け入れた朝鮮としては朝日交渉の可能性も考えているのではないか、ということも一応考えられますが、私としてはその可能性は低いと思います。飯島参与訪朝にかかわる日朝交渉、というより安倍政権の外交ハンドリングの問題点については、別途考えるつもりをしています)。もちろん、6者協議再開について朝鮮がコミットしたことの意義はいささかも損なわれるものではありません。
第三、核問題と並ぶ重要な争点であるミサイル問題(及び人工衛星打ち上げ問題)については、なんら言及がないことです。このことの含意については様々な解釈が可能ですが、判断材料がありませんので禁欲して指摘だけに留めます。

2.環球時報社説

 環球時報は、5月23日及び25日に朝鮮にかかわる社説を発表しました。私は、その内容のあまりの激変ぶりに、正直目を疑いました。これは、崔龍海特使の発言(したがって金正恩指導部の対中アプローチ)が、5月23日付社説に反映されているような中国側の突き放した対朝政策に質的な転換を迫るだけの内容があったという可能性を強く示唆します。その内容がどのようなものであるかを判断するに足る材料は決定的に不足していますので、ここでは禁欲して、両社説の内容を紹介するに留めます。
 ただし、いくつかの点を指摘しておく必要はあります。
まず5月25日付社説から明らかなことは、来たるべき習近平のオバマ及び朴槿恵との会談において、中国はアメリカと韓国に対して、強硬一点ばりの対朝鮮政策を改めることを迫る姿勢を明確にしたということです。5月23日付社説では朝鮮の責任を問う姿勢が強かったのに、25日付社説では一転して米韓の政策転換を迫る姿勢を明確にしています。
また、朝鮮がこれまで「しばしば心変わりしてきた」という同社説の指摘については、1994年以来の朝米間のやりとり及び2003年以来の6者協議の経緯を詳しくフォローしてきたものとして強い異論があります(朝鮮の「態度変更」の原因とされるもののほとんどはアメリカの約束違反や「問題持ちだし」に起因する以上、「態度変更」の責任を問われるべきはアメリカであって朝鮮ではないというのが私の基本的判断です)。
もう一つ指摘しておきたいのは、2006年以来の朝鮮半島情勢における緊張激化の原因の少なからぬ部分が、中国の対米韓考慮に基づく安保理での行動にあることについて、環球時報社説に典型的に見られるように、中国側には十分な認識と反省が見られないことです。この点についての認識と反省がない限り、朝鮮の中国に対する不満と批判はくすぶり続けるのではないかと思います。

<5月23日付社説「金正恩特使来訪 中国は立場を堅持すべし」>

 中朝関係が朝鮮の核実験及び最近の中国漁船拿捕によって極めて不愉快な時に朝鮮の特使が訪れたことは、朝鮮が発した緩和のシグナルと見なされる。しかし、中国は特使が来ることでニコニコする必要はないし、ましてや譲歩してこのチャンスを高く評価する気持ちを表す必要もない。この一年来の朝鮮のやり方はやや度が過ぎており、中国に対する当然の尊重の気持ちも表してこなかった。中朝間の良好な雰囲気を回復することについて、朝鮮には回避できない責任がある。
 朝鮮半島の緊張の原因は極めて複雑であり、韓米日はそれなりの調整を行うべきだが、朝鮮の激越な核政策もまた半島が激動する根源の一つである。この数年、朝鮮は繰り返し核実験を行い、しかも繰り返し中国漁船を拿捕して、中国の人々の対朝観を激変させた。中国のまっさらな世論環境のもとで、朝鮮がこのような振る舞いをすることは、中国社会との対立面の側に立つに等しい。
 中国世論は今や朝鮮に対する不信で充ち満ちている。国際的にも中国国内においても、少なからぬものが中国は朝鮮を「甘やかしている」と考えており、朝鮮の挑発が「目に余る」と考えている。こういう世論は、中国政府が対朝政策を決める上でのスペースを深刻に狭めることになる。
 朝鮮の特使の訪中がいかなる目的によるものにせよ、中国は朝鮮に対する立場を後退させるべきではない。中国は、平壌に対する圧力を維持するべきであり、自らの行動に対して調整を行うことを真剣に考慮するよう促すべきだ。
 中国が韓米日のように朝鮮に対することは永久にあり得ないし、中朝友好は中国の対朝政策の基本的出発点だ。しかし、朝鮮の態度の大きな変化に鑑み、中国の対朝友好のあり方にも調整を行う必要がある。朝鮮があまりに「聞き分けがない」時には、中国は冷淡に対処し、更には制裁を加えるべきだ。これこそが中朝友好においてあるべきフレクシブルなスペースである。
 仮に朝鮮が中国の「顔色」に対して反発する場合には、我々は態度を堅持する自信を持つべきだ。中国には朝鮮を恐れるいかなる理由もなく、中国が決心さえある限り、自らの姿勢を維持するだけの能力がある。朝鮮はどのように動き回ろうとも、最終的には中国と交流する原点に戻らざるを得ないのだ。中国の対朝政策において180度転換という真新しい設計を行う必要はないが、中国としては朝鮮のやりたい放題に応じることはできない。朝鮮が分を守らなければならないことを要求し、しからざれば相応の代価を支払うこと、これは中国の人々が国家の対朝政策に寄せる普遍的な期待だ。
 我々は、朝鮮の利益と中国の利益との間には大きな共通性があると固く信じている。中国の朝鮮に対する提案はすべて善意に出るものであり、中朝が友好協力を強化することは朝鮮の核心的利益でもあることを、朝鮮が理解することを多くの中国人が望んでいる。朝鮮がこの道理について必ずしも十分に理解していないことは、我々にとって極めて遺憾なことだ。
 あるいは中朝間のハイ・レベルの往来が少なすぎるのかもしれない。金正恩が朝鮮の最高指導者になって1年以上だが、中国の指導者と会ったことがない。朝鮮の特殊な国情のため、中朝間のハイ・レベルな日常的な往来の重要性は中国と他の一般の国との間以上のものがある。このことの重要性は中国にとってよりも朝鮮にとっての方が高いものがある。
 朝鮮はまた、大いに中国社会と意思疎通をし、中国に起こりつつある深遠な変化を理解するべきだ。朝鮮が中国世論を無視するならば、中国の態度を間違って判断する大きな誤りを犯す可能性がある。したがって我々は、崔龍海が中国社会の重要な情報を平壌に持ち帰ることを希望する。

<5月25日付社説「韓米日は積極的に朝鮮の変化に応えるべし」>

 金正恩特使の訪中は朝鮮半島の緊張をかなりの程度変化させた。朝鮮の態度の変化は外部世界にとっていささか驚きをもたらすものであったし、半島情勢は窮して新たな道が開ける局面を迎えている。
 中朝間には確かに相違があるが、中朝友好の基礎は外部世界が想像するよりもしっかりしたものがある。中朝関係は互いの意見表明を受け入れ、具体的問題における摩擦を耐えることができる。それらのことによって中朝両国が対立するに至ることはあり得ない。
 朝鮮側が朝中の伝統的友好を大切にすると表明するとき、この昔ながらの言い方には現在においては新しい内容と意義が込められている。半島問題が一連の波風を経た後、中朝両国における双方の特殊関係の持つ価値に関する認識はさらに深まった。
 朝鮮戦争以来、今日は中国がもっとも強大なときであり、朝鮮が中国を背にする戦略的な意義はますます突出している。逆に言うと、アメリカの「アジア回帰」が東北アジアに持ち込んだ複雑さ故に、朝鮮の独立した役割には他の何ものにも代えがたい価値がある。
 中朝関係に関しては、より長期的な視点に立つとより正確に見ることができる。道理から言って、両国が友好を保つことによって各々の力を増すことができるのであり、その反対はあり得ない。
 これまでの時期において、朝鮮は自らの利益と判断に基づいて東北アジア情勢を刺激する行動に出た。中国は大国として責任を負うという態度でこれに対応したが、このことは正しかった。中国がこのように行動することは朝鮮の長期的な利益に合致することを、朝鮮はついに理解した。
 朝鮮が「6者協議などの様々な形式を通じて」問題を解決するという積極的な変化に対して、世界はこれを励ますべきだ。朝鮮はかつてしばしば心変わりしたことがあるにせよ、今回の変化が持続するような条件を外部世界は創造するべきであり、朝鮮が後戻りすることに備えるという消極的な態度でこの良好な局面を台無しにするべきではない。各国が朝鮮半島の非核化を呼びかける以上、ますます席に着くべきであり、空鉄砲を打ち放って緊張を醸し出すべきではない。
 朝鮮は半島の様々な膠着に関して唯一の責任を負う側ではあり得ず、朝鮮と韓米日の力の差が際立っている以上、韓米日の負うべき責任は朝鮮よりも大きいはずだ。
 朝鮮が6者協議に復帰することを希望していることに対して、韓米日は積極的に応じるべきであり、特に韓国は、このチャンスを捉え、半島の緊張を除去するべきだ。韓国には、米日が態度を緩和することを促すために貢献する義務があるし、韓国は半島に位置し、朝鮮と直接対峙しているのだから、冷戦を半島から徹底的に除去することの最大の受益者の一人でもある。
 中国の指導者は遠からず米韓の指導者と個別に顔を合わせることになっている。中国は朝鮮の態度変化に重要な役割を果たしたのだから、米韓も中国の努力に歩調を合わせ、新たな問題を発生させることは避けるべきだ。みんなが力を合わせ、6者協議の可及的速やかな再起動を図るべきだ。
 朝鮮は畢竟するに東北アジアにおける最弱者であり、残存する冷戦構造の突出した被害者でもある。各国は朝鮮の置かれた境遇に同情すべきで、朝鮮を尊重するべきだ。これが半島問題解決の政治的前提であり、韓米日が本当に半島情勢の緩和を望んでいるかどうかについての一種の「試金石」でもある。
 もちろん、朝鮮が何度も態度を変えたことにより、外部の信任を改めて獲得するという巨大な仕事に直面している。朝鮮が確固とすることは外部が朝鮮と真剣に付き合う上でのカギとなる条件だ。朝鮮が行った最新の態度表明に関して確固として変わらない決心を表し、中国と手を携えて前進することを希望する。
 朝鮮半島の事態は積年の積み重ねによるものであって簡単には解決しないが、朝韓双方がまずもって平和的に問題を解決する決意を固めさえすれば、両者が対決し、更には戦争へと追い込まれることはない。また、中国はすでにするべきことをしたのであるから、アメリカもまた世界を失望させないことを希望する。

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